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アフターコロナの米国と日本


大崎 明子:東洋経済 解説部コラムニスト

2022.02.18

このところ米国経済の底力を再認識させられた。

米国で起きているのは好景気による高インフレで、供給制約だけでなく需要の大爆発にもよるものだ。

コロナ危機の前には、欧米経済の「日本化」がテーマだった。

低成長、低インフレが長期化して、低金利政策から容易に抜け出せず、拡張的な財政政策にも頼る結果、政府債務も膨らんでいくという姿だ。

欧州の日本化はかなり鮮明で、米国の仲間入りも懸念された。

 ところが、コロナ危機を通じて社会と人々の行動の日米間の違いが浮き彫りになった。

金融緩和策、財政のばらまきはいずれも行ったが、結果は異なる

米国は2021年4〜6月期に実質GDP(国内総生産)がコロナ前の水準に復帰したが、日本はまだだ。

決定的な違いは、米国ではコロナ危機を奇貨として新たなビジネスが生まれていることだ。

新規事業の申請件数は16〜19年には毎月10万〜11万件で推移していたが、20年夏以降は14万〜16万件に上り、リーマンショック前の04〜07年の好景気の数字を超える。米国のアニマルスピリットは健在だ。これが新たな雇用を生む。

求人数は18〜19年の700万人台前半からコロナ危機当初に500万人割れまで落ちたが、21年6月以降は1000万〜1100万人とコロナ前よりも高水準だ。

オミクロン株流行では強い活動制限を行わず、労働参加率も1月には上昇した。それでも人手不足は解消されず、賃金の上昇圧力が続く

 

消費はどうか。

日本はサービス消費のみならず財消費もコロナ前の水準を下回り続けた。

ところが、米国では財消費がコロナ前を大きく上回って伸びていた

米国の個人貯蓄率も21年春までは高かったが、秋以降はコロナ前の水準に下がった

賃金の上昇に自信を持ち、財からサービスへシフトしつつ旺盛な消費が続きそうだ

賃金上昇をテコにしたインフレを、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げやQT(量的引き締め)で抑制できるのか。

 みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「過去の統計分析ではインフレの金利感応度は極めて低い。1〜2%の利上げではインフレを抑止できず、より強い引き締めで需要と雇用を犠牲にし景気後退を甘受しないと、インフレ退治はできないおそれがある」と話す。

短期では景気後退が避けられないかもしれない。

 

* 中長期で生産性は向上か

しかし、アフターコロナを展望すると、米国の潜在成長率は高まるのではないか

新たなビジネスの成長、そうした分野への人の移動は、賃金の上昇を生産性の上昇で吸収していくことになるだろう。

小野氏は「1994〜95年に当時のグリーンスパンFRB議長がインフレ抑制へ利上げを行った。だが97年終盤にはインフレは沈静化し、後の ITブームにつながる構造変化が起きたとされる。その再来になるかもしれない」と話す。

 

日本はどうだろう。

賃上げ税制の恩恵を受けない赤字中小企業に対し、今般、賃上げを促す補助金が導入された。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、「コロナ禍の長期化で需要構造が大きく変わる中、むしろ成長分野への労働移動を阻害する弊害が大きい」と懸念。「日本は極めて強い安定ばかりを追求し、その代償として衰退に向かっているのではないか」と指摘する。

経済は活発だが、人々が競争にさらされ、社会の分断が問題になる米国。

社会は安定しているが、手を取り合い牽制し合って衰退に向かう日本。その中間にバランスのよい解を求められないか。


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