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「コロナ向け飲み薬」塩野義の開発薬に2つの焦点

塩野義製薬は治験中のコロナ向け飲み薬について治験の「結果速報」を公表した(編集部撮影)

海外メーカーの飲み薬は日本で承認が相次ぐ

石阪 友貴 : 東洋経済 記者

2022年02月23日

年明け以降に急増した新型コロナウイルスの感染者数はまだ落ち着く様子が見えない。そうした中、感染者には「飲み薬」の選択肢が広がってきた。厚生労働省は2月10日、アメリカのファイザーのコロナ向け飲み薬を特例承認。2021年12月にはアメリカのメルクの飲み薬が承認されている。政府は、ファイザーとは2022年中に200万人分、メルクとは160万人分の飲み薬を購入する契約を結んでいる。ただ、ファイザー製は先進国間での獲得競争が激しく、2月に日本に納入されたのは4万人分にとどまる。こうした海外勢に一歩遅れる形で、塩野義製薬の飲み薬(開発コード「S-217622」)も続く。同社は現在最終段階の治験を進めており、その結果がよければ2月中にも承認申請を行う見込みだ。承認されればファイザー、メルクに続く3剤目、国内メーカーとしては初のコロナ向け飲み薬となる。 



 * 海外の薬と塩野義の違い

だが、同じ飲み薬でも、海外メーカーと塩野義のものでは、対象者や治療の目的は大きく違うものとなりそうだ。 

ファイザーが行った治験の被験者になっていたのは、ワクチンを接種しておらず、かつ重症化因子(60歳以上であることや肥満、高血圧などの基礎疾患など)が1つ以上ある人だった。こうした基準はメルクでも同様だ。

 そのため、基本的には実用化後の投与対象者も同じ。承認された際の添付文書には、「臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による感染症の重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること」と記載されている。 

ファイザーとメルクは、特に重症化しやすい感染者だけを対象に薬を開発しているといえる。

飲み薬の効果も、そうした感染者の入院や死亡をどれだけ抑えられるかを指標にしていた。

ファイザーは89%、メルクでは30%入院・死亡を抑制する効果があった

一方、塩野義が行っている治験では、対象者がワクチンを接種しているかどうかや重症化リスクの高さは関係がない。

「すでに日本のワクチン接種率は全人口の8割。ワクチン接種済みで、重症化因子がなく隔離されている多くの感染者から、症状をいかに速やかになくして安心につなげられるか」(塩野義製薬の上原健城臨床開発部長)という観点で開発を行っている。

そのため、コロナ感染に伴う「症状の改善効果」を治験の目的に据えている。 

具体的には、頭痛や発熱、喉の痛みなど12の症状をその度合いによってスコアリングし、服薬後の数値の改善度合いを測る。

多くの感染者で症状は自然に改善していくが、薬の服用でその改善スピードがどれだけ早まるかを重視している。

塩野義は2月7日、現在行っている治験のごく初期に集まったデータを公表した。

対象人数が少ないため統計学的に有効なデータではないが、投与群の症状は偽薬群(効き目のない薬を服用した人)に比べて早く改善する傾向であることを確認している。

「次に行っている(より大規模な)治験でこの結果を再確認することができれば、速やかに(厚労省への承認を)申請する」(手代木功社長)という位置づけのものだ。

ファイザーも現在、ワクチン接種者や重症化リスクの低い感染者を対象に、症状の改善効果を評価する治験を追加で実施中

最終的な結果は2022年後半に出る見込みだが、2021年12月には中間解析の結果として、偽薬群と投与群では差がなく有効性を確認できなかったことを公表している。それだけに、塩野義が行う大規模な治験で明確な症状改善効果を示せれば、大きな特長となるだろう。

* 隔離期間の短縮も狙う

もちろん、抗ウイルス飲み薬の直接的な効果であるウイルスをどれだけ減らせたかについても評価している。

その目的はファイザー、メルクと塩野義とでは異なる。ファイザーとメルクの場合、死骸も含めたウイルス量をどれだけ減らせたかを測定している。感染力があるかどうかにかかわらず体内のウイルス量を感染初期にとにかく減らせれば、重症化するのを防げるだろうという観点からだ。

一方、塩野義が測定するのは、感染力がある「生きたウイルス」の変化量だ。

この指標が一定量を下回る「陰性」となれば、もう他人へは感染させないことを意味する

薬の服用で陰性になるまでの日数を早めることができれば、その分だけ感染者の隔離期間も短くできる。

海外勢と塩野義の違いはもう1つある。治験の内容とは関係ないが、ファイザー、メルクが治験を行っていたのは デルタ株の流行時期

塩野義の治験は初期にはデルタ株、より大規模な治験はオミクロン株の流行時期に行われている点だ。

オミクロン株はデルタ株よりも比較的症状は軽く、重症化もしにくくなっている。

治験においては偽薬群でも症状は軽く、より早く改善することになるため、統計学的にはっきりとした効果を示すハードルはより高くなっているともいえるが、塩野義は「今の日本でこの薬を使えばこういう効果になりますよ、という現実に近い評価ができる」と説明する。

 塩野義の飲み薬の注目点は、症状の改善度合いとオミクロン株に対する効果をどれだけ示せるかにある。

治験結果が出るのはもうすぐ。新たな飲み薬の選択肢が広がれば、「アフターコロナ」にも一歩近づくことになるだろう。 

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