「世の中にない全く新しいモノを作る」とは・・・?


 「これまで世の中に存在しなかった、全く新しいモノを作る」という経験をお持ちの方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?

 新規設計する機会はほとんどなく、既存の設計資産を活用した、いわゆる流用設計が中心の現場も多いと聞きます。そんな現場にとって、世の中にまだ存在しない新しいモノを作るというチャンスは、ワクワクとした非常に魅力的なものであるのと同時に、「一体どのようなアプローチで製品企画や設計開発に取り組んだらいいのか?」と漠然とした不安も感じられるかもしれません。

 では、実際に世の中になかった“世界初”の製品開発はどのようにして行われているのでしょうか?

 


「世の中にない全く新しいモノを作る」とは、どういうことか?

 現在、「ITmedia Virtual EXPO 2022 春」(開幕は2022年2月15日)の「メカ設計EXPO」において、R2 代表の平田泰大氏が「世界初、移動遠隔自動運転“無人交番”の開発アプローチ」と題して講演を行います。講演テーマにある「移動遠隔自動運転“無人交番”」とは何か? ですが、こちらはドバイ警察と三笠製作所の共同プロジェクトによって開発が進められている「SPS-AMV(Smart Police Station-Autonomous Mobile Vehicle)」と呼ばれるモビリティで、一言でいうならば、自動運転可能な移動型の交番です。 そもそも、なぜ“移動する交番”が必要なのか? ですが、実はドバイの広さは、日本の埼玉県と同じくらいの面積であるにもかかわらず、交番の数が極端に少ないという事情を抱えており、治安維持や交通事故削減の観点からドバイ警察としてもこの課題を何とかして解決したいと考えていたそうです。

そこで考案されたのが、交番の数の問題を、交番そのものが移動することで解決するというアプローチです。 

 SPS-AMVはバッテリー駆動の無人電動カーで、バスのような構造の内部には警察行政サービス端末を搭載し、自動運転によって都市を移動しながら、移動先の住民に対して約30種類もの行政サービスを提供すると同時に、前後方向360度カメラによって犯罪や交通事故を検知、通報する機能などを搭載します。

また将来的には、不審者や不審車両の検出、火災判定、交通量調査、砂嵐予測監視といった機能拡張も予定しているといいます。 

 これまで、パーソナルモビリティ「WHILL」に代表される、さまざまな先進的なプロダクトを手掛けてきた平田氏は「2020年ドバイ国際博覧会(ドバイ万博)」への出展に向けて開発がスタートした“コンセプトモデル第2弾”から開発に携わり、ショーカーの意味合いが強かった第1弾モデル(2018年発表)から大きくブラッシュアップし、公道で走れることを前提にした見直しを図り、最終的に完成までこぎ着けました。 

 大変興味深かったのが、コンセプトモデル第2弾の着手に当たり、要求仕様自体はある程度固まっていたそうですが、それ自身がしっかりとシステムにまで落とし込まれていなかったため、設計に入る前に「システム概念図」から書き始めるアプローチをとったというお話です。「全く世の中にない=自由度が高過ぎる」が故に、実現可能性のあるシステムとして構成をしっかりと詰める/固めることから始め、さらに主要部品の確定やサプライヤーの選定まで行ってから、初めて設計に取り組んだとのことです。 

 1人のエンジニアとして、これら全てのプロセスに、主体的に携われるという機会そのものが“かなりレア”だとは思いますが、SPS-AMVの開発プロジェクトから分かることは「世の中にないもの=自由度が高いもの」だからこそ、しっかりと地に足のついたアプローチが重要であるということです。 

 あれもこれもと詰め込むのではなく、実現可能性を考慮した上で、どのように作り上げていくかという考え方は、世の中にない新しいモノだからといって何も特別なことではなく、実は、あらゆる製品開発に共通するモノづくりの本質そのものだといえます。

 

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