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メタとグーグルで明暗、潮目変わったネット広告

メタのマーク・ザッカーバーグCEOは2021年10月に開催したコンファレンスで、社名変更の背景やメタバース領域への投資方針について語った(画像:Meta)

「フェイスブック」が苦戦強いられる2つの真因

中川 雅博 : 東洋経済 記者

2022年02月09日

SNSの世界最大手、アメリカのフェイスブック改め「メタ」の決算は、同社が直面するかつてない逆境を示すものとなった。

メタの2021年10~12月期決算は、売上高が前年同期比20%増の約336億ドル(約3兆8000億円)となったが、純利益は8%減の約102億ドルで着地した。



主力アプリ「フェイスブック」の1日当たりユーザー数は19億2900万人と、前四半期比で100万人減。創業以来初めての減少だ。

 「インスタグラム」や「メッセンジャー」、「ワッツアップ」も含めた同社アプリの1日当たり総ユーザー数は28億2000万人と同100万人増えている。が、過去2年は四半期ごとに500万~1000万人のペースで増えてきただけに、頭打ち感は否めない。

* 1日で約26兆円の時価総額が消えた

一方で2021年10月に発表した仮想空間「メタバース」へ積極投資する姿勢は崩さない。

主力のVR(仮想現実)ヘッドセット「メタクエスト2(旧オキュラスクエスト2)」に加え、今年後半には高価格帯の新型機の発売も予定する。

メタは今回の決算からVRやAR(拡張現実)の事業の業績を「リアリティーラボ」というセグメントで開示。

2021年10~12月期は33億ドルの営業赤字で、これが全社の減益要因となった。通年では101億ドルまで赤字が膨らんだ。

メタは2022年1~3月期の売上高について、前年同期比で3~11%増との予想を示したが、アナリスト予想の約15%増を下回る数字に株式市場は落胆。決算発表翌日の2月3日には同社の株価は前日比20%以上下落し、1日にして約26兆円もの時価総額が吹き飛んだ。これだけの時価総額消失は米国史上最大とみられる。 

メタは昨年6月にインスタグラムの短尺動画機能「リール」での広告配信を開始した(画像:Meta)

目下、メタを追い詰めているものは2つある。

1つが競合アプリへのユーザー流出だ。

マーク・ザッカーバーグCEOは決算説明の電話会議で、短尺動画共有アプリ「ティックトック」を競合として名指しした。

インスタグラムでは2020年にティックトックと同様の短尺動画機能「リール」を開始。

ザッカーバーグ氏はこの成長を「最優先事項」としており、ユーザーの利用も増えている。 

ただここでの広告出稿はまだ増えておらず、現状で広告の多い「ストーリーズ」など既存機能からユーザーが離れれば収益にはマイナスとなる。 


   そしてもう1つが、アメリカのアップルが2021年4月、スマートフォンOS「iOS」プライバシー保護の機能を強化したことだ。外部企業がiPhone上のアプリの利用状況データを取得する場合、ユーザーの同意を得ることを義務づけたものである。

アメリカの調査会社アップスフライヤーによれば、iOSユーザーのうち同意した人の比率は全世界で46%、日本では44%。別の調査会社からは全世界で24%という数値も発表されている(いずれも2021年12月時点)。

 

* グーグルの検索広告は破竹の勢い

こうなるとフェイスブックやインスタグラムにおける広告のターゲティングや効果測定の精度低下は避けられない。ユーザーの属性分析がしづらくなるうえ、ゲームや漫画などのアプリを運営する広告主が出稿しても、どれくらいのアプリインストールにつながったかといった計測ができなくなる。

メタは独自の計測手法を導入するなどして改善を図るものの、デイブ・ウェーナーCFO(最高財務責任者)は「2022年のiOSによるビジネスへの影響額は100億ドルになる」と電話会議で説明した。

ウェーナー氏は影響の大きい広告主の業界として、EC(ネット通販)やゲームを挙げつつ、「グーグルはEC(業界の広告出稿)が好調だと言うが、グーグルの検索広告はアップルの制限を受けているわれわれのようなサービスより有利だ」と吐露した。

その言葉どおり、グーグルを含むアメリカのアルファベットの決算は好調そのもの。

2021年10~12月期は売上高が前年同期比32%増、純利益は同35%増だった。

最大の稼ぎ頭である検索広告は、売上高4兆円を超える巨大事業ながら3割を優に超える驚異的な成長を見せた。

スンダー・ピチャイCEOは電話会議で、「広告事業にとって非常に力強い四半期だった」と語った。

メタのウェーナー氏はこうも指摘する。「アップルはグーグルから毎年何十億ドルも受け取っている。それが続く限り、この(アプリにばかり厳しい)ちぐはぐなポリシーも続くだろう」。

これは、アップルのブラウザー「サファリ」のデフォルトの検索エンジンをグーグルに設定する見返りに、グーグルがアップルに毎年100億ドル前後を支払っていることを指しているとみられる。

2020年にアメリカ司法省がグーグルを独占禁止法違反で訴えた際の訴状で明らかになった。

この支払いがあることにより、グーグルはアップルから優遇されている、というのがウェーナー氏の主張だ。

 

* アマゾンも広告事業が1兆円超え

真偽のほどは定かではないが、確かにグーグル検索の広告主にはアプリの運営会社ではなく、自社ウェブサイトに消費者を誘導したい企業が多い面はある。ただそもそも、グーグルの検索広告はユーザーが「知りたい」と思い検索した単語に基づき表示されるため、iOSの規制の影響は小さいといえる。

ここ日本でも検索広告の成長は目覚ましい。

「フェイスブックなどのインフィード広告投稿一覧内に表示される広告)が伸び悩む一方、検索広告動画広告が市場を牽引している」と国内広告大手の幹部は話す。

直近ではアメリカのアマゾンも広告事業に力を入れる

2月3日の決算発表では広告事業の売上高を初めて開示し、2021年10~12月期は前年同期比32%増の97億ドルだった。

膨大なユーザーの購買データを基にした、購入意欲の高い人へのターゲティングに強みを持つ。 

グーグルやアマゾンの好調ぶりを見れば、メタの力不足はいっそう際立つ。

メタバースへの投資がすぐに儲けにはつながらない中、苦しい時期がまだまだ続きそうだ。




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