メタバースの展開



 米国ラスベガスで開催されているテクノロジー見本市「CES」は、もともと家電見本市とされてきましたが、最近では自動車や産業向けなどさまざまな技術発表なども行われ、幅広い技術を取り上げるテクノロジー見本市としての位置付けに変わりつつあります。

1年の最初に米国での新技術の関心度合が分かるため、トレンドを捉える指標として位置付けられています。

 2022年のCESはオンラインとリアル会場のハイブリッド形式で開催されていますが、多くの企業が技術発表を行い、新たなテクノロジートレンドの中心に躍り出たのが「メタバース」だと考えます。

 メタバースは「高次の」などの意味を持つ「Meta」と「宇宙や世界」を意味する「Universe」を組み合わせた造語で、インターネット上に仮想上の空間を作り、その上でのコミュニケーションやビジネスを可能とする仕組みのことです。

このメタバースは、COVID-19などで注目を集めた製造現場のリモート化を進める中で障壁だった、「現地現物現実」の事象を捉える1つのピースになるのではないかと考えています。

 

 仮想空間サービスといえば2003年にサービスが開始された「Second Life」が有名ですが日本では一時的な盛り上がりを見せたものの、利用が定着することはありませんでした。当時と比べ、クラウドやVR(仮想現実)関連などデジタル技術が大幅に進化したことや、IoT(モノのインターネット)の普及により現実世界とのリンクをより簡単に行えるようになった点が違いとしてあります。

そのため、仮想空間であるシミュレーションなどの利点を生かしつつ、現実世界へのフィードバックを含めた新たなビジネス基盤として活用することが期待されているわけです。

 

 製造現場でもIoT活用の中で、現実世界のデータから仮想世界にこれらと同じ事象を再現するデジタルツインの活用が注目されています。しかし、主に設備や機械のデータを中心とした世界とは異なり、VRデバイスなどを通じて、人が仮想空間にジャンプインし、より直感的なかかわりを持てるようになるのが、メタバースで描かれた世界の進化です。

これが製造現場にとっての大きなポイントだと考えます。

 これにより、データ化できるポイントはデジタルプラットフォームで把握しつつ、人の感覚が必要な部分メタバース空間を活用するという形で「現地現物現実」をデジタル化していくことが可能となります。

 もちろん、既存技術ではこの「人の感覚」に正しくアプローチするインタフェース技術が未熟で、その領域での進化は欠かせません。だからこそ多くの企業が今新たに参入する動きを示しているのです。

 製造現場でメタバースを活用する場合、当面は「大型設備の配置などを現場の動線などを確認しながら行う」や「原因特定が難しいラインの歩留まり向上策を現地に関係者が集まり行う」というようなリアルで行っていたことの置き換えを既存技術の延長線上で行えないかを検討する動きが中心になると見ています。ただ、メタバース関連技術が進み、特に人の感覚に対して正しく伝える事象のデータ化やその再現方法、五感への正しいアプローチ方法、負担なく使用できるデバイス開発などが進んでくれば、使用できる領域は大きく広がってくると見ています。

 多くの製造現場の担当者は「メタバースは無縁のもの」だと捉えていると思いますが、移動の制限が続く中で製造現場のリモート化の課題を解決できる可能性があると考えれば、それまでの「無縁のもの」も身近な存在に感じられるようになるのではないでしょうか。

☞ 製造業こそ「メタバース」に真剣に向き合うべき

2022 年は「メタバース」に関するさまざまな技術やサービスが登場すると予想されます。単なるバズワードとして捉えている方も多いかと思いますが、ユースケースをひも解いてみると、モノづくりに携わる皆さんや設計者の方々にも深く関わっていることが見えてきます。

一体どんな世界をもたらしてくれるのでしょうか。



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