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引退後「一気に老ける人」「若さを保つ人」の差

一番の問題は「意欲の低下」が起きること

和田 秀樹 : 精神科医

2022年01月17日

70歳が人生の分かれ道! 引退後に一気に老ける人と若さを保ち続ける人は何が違うのか?

精神科医の和田秀樹氏による新刊『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)より一部抜粋・再構成してお届けします。

いまの70代は若々しくなってきたとはいえ、この年代ならではのリスクもたくさん抱えています。その最たるものが、「意欲の低下」です。

70歳が人生の分かれ道!
70歳を境に一気に衰えていくのか
それともこれまでの若さを持続できるのか、
人生100年時代を迎えたこれからは70代の生き方が、
その人の「老化の速さ」、「寿命」を決める!



 脳機能、運動機能の維持には、「使い続ける」ことが重要です。

たとえば、40代、50代の人が何もせずゴロゴロと生活したとしても、足腰や脳機能が衰えることはまずありませんが、70代の人がそれをやるとすぐに運動機能、脳機能は衰えてしまいます

 

なぜ70代になると「意欲の低下」が起きるのか?

70代というのは、意欲的に身体を動かしたり、頭を使ったりしないと、すぐに要介護になってしまうというリスクがあるのです。これは多くの高齢者自身もわかっていることではありますが、実際に、「使い続ける」ことを実践できる人はそう多くありません。

なぜなら、頭では理解していても、70代になってくると、意欲の低下が進み、活動のレベルが低下してくるからです。

何事にもやる気がわかず、興味がもてなくなって、人に会うこともおっくうになり、出不精になる傾向も出てきます。

こういった「意欲の低下」は、脳の前頭葉の老化と、男性ホルモンの減少が主な原因となって引き起こされます。

前頭葉の萎縮については、実は40代からすでに始まっていて、それが70代ともなると本格化してきます。

そこに男性の場合は、男性ホルモンの減少も進んできますので、それが行動意欲の低下となって現れてきます。

実は、この「意欲の低下」こそが、老化でいちばん怖いことなのです。

病気やケガをきっかけに老け込んでいくということもありますが、加齢とともに老け込んでいくというときは、意欲の減退が要因となって一気に年老いていくのです。結局、どんなに身体を動かそう、脳機能を使おうと思っても、意欲がついてこないから、いろいろな活動をすることがおっくうで不活発になり、もっている機能が維持できなくなってくるのです。

こうした「意欲の低下」が顕著となってくるのが、まさに70代と言えます。つまり、70代から80代に向けて元気に過ごすことができるかどうかは、70代においていかに「意欲の低下」を防ぐかにかかっています。

「意欲の低下」を防ぐには、日々の生活のなかで、前頭葉の機能と、男性ホルモンを活性化させることがとても重要になってきます。

前頭葉とは、大脳の前方部分のことで、意欲や思考、創造などにかかわっている部分です。

また、男性ホルモンも、性機能だけではなく、他者への関心や意欲にもかかわっています。

この2つの要素が、若いときのように維持できていると、日常の活動レベルを保つことができ、老化を遅らせて、若々しくいることができるのです。

 

* 病気やケガで老いることも

「意欲の低下」以外にも、70代を襲うリスクにはさまざまなものがあります。

もっともわかりやすいのは、病気やケガなどの健康上の問題です。

大きな病気や、転倒によるケガなどから、70代の人が一気に老け込んでしまうということはよくあることです。

がんや脳梗塞などの人もこの年代は増えてきますので、そういった病気にどう対処するかが重要になってきます。

手術をするか、しないか。どういった検査をするか、どういった治療をするかといった、医療とのかかわり方において、重大な決断を迫られることもでてきます。

意外に知られてはいませんが、うつ病70代の大きなリスクです。

うつになると、如実に身体を動かすことがおっくうになり、外にも出なくなります。

たとえば、以前は頻繁に参加していた趣味の集まりや、顔見知りが集まる高齢者の「いこいの家」のような場所にいくら誘っても、絶対に行かないというようなことも起こってきます。食欲も確実に落ちるので、みるみるやせてしまいます。

それも脂肪が落ちるのではなく、筋肉から落ちるという最悪の状況をたどるので、うつになると一気に老け込んでしまうのです。女性の場合は、女性ホルモンが減少してきますので、さらに骨粗しょう症の人も増えてきます。

なんらかの持病がある人が70代では増えてきますので、医療とのかかわり方がその後の70代を左右する大きなポイントとなってきます。

健康問題だけでなく、日々の生活面でも、70代は多くのリスクに囲まれています。

長寿社会が進んだことで、これまで60代で迎えていた仕事からのリタイアも、今後は70代でリタイアする人が増えてくるはずです。

介護についても、70代の子が親を介護するケースや、70歳を過ぎて、親との死別を経験するということも多くなるでしょう。

長寿化によって、これまでは60代で迎えていたような人生のさまざまな節目を、70代になってから経験するケースが増えるはずです。

これらの節目は、生活環境が一変する可能性があるという意味で、その後の老い方を大きく左右する危険性をはらんでいます。

人生の節目をどう乗り越えていくかという意味でも、70代をどのように過ごすかが大事になってきていると言えます。

 

* どうすれば「老い」を遠ざけられるのか

 これまで述べてきたとおり、70代にとって重要なのは、身体機能も脳機能もいまもっているものを使い続けることです。

70代の時期に意図的に使い続けていれば、80代、90代になって要介護となる時期を遅らせることができます。

まずは、活動レベルを落とさないよう、「意欲の低下」を避け、前頭葉と男性ホルモンの活性化を促す必要があります。

そして、意欲レベルの維持と同時に、70代にとっては、使い続ける「習慣づくり」が大切になります。

なぜ70代にとって「習慣づくり」が大事かというと、多くの人が70代前後で仕事からリタイアするからです。

働いているときであれば、ルーティンがあるので、必然的に活動せざるを得ませんが、リタイアをしてしまうと、これといって身体を動かしたり、頭を使ったりする理由がなくなってしまいます。つまり、この時期から、意図的に身体を動かそう、脳を使おうと習慣化しないと、運動機能も脳機能も使い続けることはできないということです。

また、もう1つ、70代の習慣づくりが大事な理由があります。それは、70代で始めた習慣は80代以降も生涯にわたって続くということです。

たとえば、70代で日ごろから歩こうと心がけて、散歩の習慣がついた人は、それを80歳になっても続けるものです。

水泳をしよう、山登りをしようと70代のときに決めて習慣化した人は、80歳になっても、体力のある限りは続けるでしょう。

山登りができなくなっても、それに代わる何かをやって、身体を動かそうという心がけだけは生涯続くに違いありません。

運動だけでなく、観劇や絵画、囲碁将棋、俳句などの趣味の活動でも、70代で習慣化しているものは、80代になってそれをやめるということはなかなかありません。つまり、70代でつくった運動機能や脳機能を維持することに役立つ習慣は、一生涯にわたって続くことが多いのです。

だから、70代で意図的によい習慣をつけることが大事なのです。

もし、70代のうちに何もしなかったら、80代になってから新たな習慣をつくることは、かなり難しいと思います。

身体機能は70代のころよりも落ちていますし、新しいことを始めようという意欲の面でも減退しているからです。

だからこそ、現役時代に近い身体機能や意欲のある70代のうちに、よい習慣をつけることが大切なのです。

 

* 80代でも元気さを保つために

よく、会社勤めをしていたときはゴルフをしていたが、定年になったら自腹では行けないのでやめようと考えている人もいますが、そういった身体を動かすよい習慣がすでにあるのなら、それは70代になってもできるだけ続けたほうがいいのです。

いまならゴルフ場でも価格破壊が起こっていますから、平日であれば、かなり安くプレーすることもできるでしょう。

70代の人たちは、放っておけば何もせず、すぐに老け込んでいく危険性をもっています。

だからこそ、機能維持のために意図的に振る舞うことが大切になってきます。

このタイミングで、意識してよい習慣をつけることで、80代も元気さを保つことができるのです。

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団塊の世代もみな、2020年には70代となっている。

現在の70代の日本人は、これまでの70代とはまったく違う。
格段に若々しく、健康になった70代の10年間は、人生における「最後の活動期」となった。
この時期の過ごし方が、その後、その人がいかに老いていくかを決めるようになったのだ。
70代に努力することで、要介護になる時期をできるだけ遅らせ、晩年も若々しさを保つことができる。
ただ、70代には特有の脆弱さがあることも事実。
寿命の延びに、健康寿命の延びはいまだ追いついていない。
70代をうまく乗り切らないと、よぼよぼとした状態で長い老いの期間を過ごすことになってしまう。
70代の人は、無自覚に過ごしていると、自然と老いは加速していく。
だからこそ、老いを遠ざけようと意図的に生活することが求められる。
老いを遅らせる70代の生き方とはいかなるものか。


☞ 目次

「まえがき」70歳は人生の分かれ道
第1章 健康長寿のカギは「70代」にある

・いまの70代は、かつての70代とはまったく違う
・もはや70代は現役時代の延長でいられる期間となった
・一気に老け込まないために、いちばん必要なもの
70代に身につける「習慣」が、その後の人生を救う ・・・など


第2章 老いを遅らせる70代の生活

・働くことは、老化防止の最高の薬
・運転免許は返納してはいけない
肉を食べる習慣が「老い」を遠ざける
・インプットからアウトプットに行動を変える効果
70代の運動習慣のつくり方
・寝たきりにならない転倒リスクの減らし方
・長生きしたければダイエットをしてはいけない
70代になったら、人づき合いを見直そう ・・・など


第3章 知らないと寿命を縮める70代の医療とのつき合い方

・いま飲んでいる薬を見直してみよう
・70代になったら注意すべき医師の言葉
・70代の人のかしこい医師の選び方
・70代のための「がん」とのつき合い方
70代は「うつ」のリスクが高くなる
認知症は病気ではなく、老化現象の1つだ ・・・など


第4章 退職、介護、死別、うつ……「70代の危機」を乗り越える

・定年後の喪失感をどう克服するか
・介護を生きがいにしない
・在宅介護より在宅看取りという選択肢
・配偶者や親との死別を乗り越えて生きるには
・高齢者のうつのサインを見逃さない ・・・など




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