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日本型の「終身雇用」のほうが会社は強くなる

2021.12.15

東レ・日覺昭廣社長が語る終身雇用の可能性

日本企業に特有のメンバーシップ型雇用を続ける素材メーカー大手の東レ。

ジョブ型の本場、欧米での勤務も経験したうえで「終身雇用のほうが会社は成長できる」と主張する日覺昭廣社長に聞いた。



* ジョブ型という言葉が独り歩き

――日本でもメンバーシップ型雇用を見直し、ジョブ型に近い雇用制度を導入する動きが広がってきました。

        どうみていますか。

ジョブ型という言葉だけが独り歩きしてメンバーシップ型と比較されているが、本来は二律背反するものではないはずだ。

ジョブ型雇用では専門性とスキルさえあればいい手っ取り早く、中途採用で外から人材を連れてきてもいい。

われわれもそうだが、メンバーシップ型が中心の企業でも、職種や場合によってはそのようにしている。

いわばジョブ型とのハイブリッドだ。

企業の成熟度によっても判断は違ってくる。

新興企業では社員を一から教育しているようでは話にならないので、職務への適性を持つ人材を外部から集めるのが普通だ。

しかし、10年、15年経ってきてある程度成長してくると、新卒できちんと採用し、社内で人材を育成することが重要になってくる。会社でさまざまな経験を積んで、いろいろなことを理解し、専門的な知識を持った人がほしくなる。

つまり、(ジョブ型とメンバーシップ型の)どちらを採るのかは企業の背景によっても変わってくるだろう。

 

――東レの人事制度のベースはメンバーシップ型です。

 それは、会社というのは単にモノを作るだけでなく、ビジョンをしっかりと持つべきだからだ。

ジョブを中心に考えるのであれば、そういうもの(ビジョンに共感してくれるかどうか)は全部無視して、適性がある人を集めればいい。だが、それだけではしっかりした企業ブランドを確立できない。

こういうやり方では、会社に帰属意識を持ってもらい、会社のために頑張ろうという気持ちを持ってもらうのは難しい。

ジョブ型は決まった職務の内容に応じて報酬を支払うが、さらに「当社の理念までよく理解して働いてくれ」と言っても、「そんなことは契約には書いてない」と思われてしまうかもしれない。

 

* 終身雇用のほうが会社は強くなる

――東レでは終身雇用の維持も掲げています。

私は、終身雇用のほうが会社は強くなると思っている。

日本ではわれわれみたいな企業が10年先、20年先に向かって研究開発を続けている。東レの事業でいえば、例えば水処理膜は1968年から始まって、最初にきちんとしたものができたのは1980年。12年かかっている

どんどん改良して今がある。

今のアメリカのような短期の利潤を追求する金融資本主義のもとで、こんなことはできないだろう。

長期的な視野で事業をやるには会社や事業のベースを理解したうえで、さまざまな技術や知識を蓄積していることが必要だ。

そのためにも、人材の育成や終身雇用は非常に重要だと思っている。

 

――「年功序列」についてはどう思いますか。

単に年齢が上だからというだけではなく、年齢に応じて知識と経験が付き、仕事をするうえでの能力も上がっている場合が多いので、(結果的に)年齢が上の人の給料が高くなる場合が多い。

したがって、日本がいくら終身雇用で年功序列だと言っても、能力が上がらない人は職務も上がらず、給料もそこまでは上がらない。終身雇用は年功序列だから競争がないという人もいるが、実際にはそんなことはない。

ただし、人が成長をしていくには必要な時間というものがある。

若い時に伸びる人もいれば、中高年になってから伸びる人もいる。

ある程度時間も与えながら、人のモチベーションをうまく引き上げることが会社の強さになってくる。

 

――日本でジョブ型を導入したと称する企業では、ジョブローテーションをやめてポストを公募制にし、「自律的なキャリア形成を図れるようにした」という趣旨の説明をしています。メンバーシップ型では社員が意思を反映してもらうことは難しいのではないですか。

東レではまずキャリアシートをつくって社員を教育している。一人前になるには8年間かかるとみて、職種ごとに必要な技術や知識、経験を書き出し、それをしっかりマスターしてもらう。

シートを通じ、社員には将来像も明確にしてもらっている。

この職種で一人前になるにはこういう現場の経験もいるよ、という説明もしっかりやる。

いろいろな仕事を経験させるのはあくまでも育成に必要なためであり、育成に関係ないものを経験させるわけではない。

東レでは以前から、社内公募制度もある。

「この人にはこの仕事をやったほうがいいじゃないか」と上司らが思っていても、本人はどうしても別の仕事をやりたいと思っているかもしれない。そういう人が手を挙げて、希望する部署に行ける機会を設けている。

希望とのミスマッチを防ぐ意味がある。

こうしたことは、別にメンバーシップ型をやめないとやれない話ではない。

終身雇用のもとで、ジョブローテーションをしながらでもできることだ。

 

* 教えたメモがゴミ箱に

――ジョブ型で社員を育成していくのは難しいのでしょうか。

ジョブ型だと、社員は他の人に仕事を教えない。

私はアメリカとフランスに10年いて、それを嫌というほど経験している。

アメリカにいたとき、若い人たちにもこうやって教えたらいいよと仕事の仕方をメモに書いて社員に渡したら、後でそれがゴミ箱に捨てられていたこともあった。

ジョブ型では、若い人たちに自分が知っているやり方を教えて、彼らが同じレベルのことができるようになったら、いつか自分の椅子(職務)が奪われるかもしれないと考えてしまう。だから絶対に他の人に仕事は教えない。あれには驚いた。

 

* ジョブ型の能力発揮はよくて100%

――日本企業の間で雇用制度が見直されているのは、右肩上がりの経済がとっくに終わり、多くの日本企業が厳しい事業環境に直面しているからではないでしょうか。

日本企業の事業環境が厳しくなっていることは事実だろう。だから派遣社員を増やすなど、これまでも工夫や対策をしている。最近は日本企業も欧米のように金融資本主義的なことを外部から言われてしまうので、(雇用も含めた経営方針が)フラフラとしてしまっているのが現実なのではないか。

しかし、(メンバーシップ型とジョブ型のうち)どちらに競争力があるのか。

現実的に給料を下げられたり、首を切られたりして喜ぶ人はいないはず。

日本は現場と現実をきちんと理解して、何が本当にいいやり方なのかを考える必要がある。

日本企業には、日本の良さを見失わないようにする気骨を持ってほしい。

 

――昔と比べて事業の変革スピードが速くなっている中、事業環境が変わっても、メンバーシップ型では以前と同じ社員を残しながら対応していかなければなりません。

その点はみんな悩むところだと思う。

それでも、東レでは雇用をしっかり守って、人を大事にして、思う存分能力を発揮してもらうことを重視している。

そういう形なら本人の能力が100%、150%出る可能性がある。

しかし、(契約で決められた職務さえできればいい)ジョブ型だと、(本人が発揮する能力は)よくて100%。悪くすると70%や80%にとどまる。ジョブ型では会社のカルチャーとか方針に共感できるかどうかを考慮していない。

人間はモチベーションの有無で全然パフォーマンスが違ってくる。

ジョブ型というのは、その職務についての能力がある人を雇って力を発揮してもらう。

だが、会社も成長していくわけだから、われわれが期待するのは社員にはさらに上を目指してもらうこと。

そのためには、社員にも(メンバーシップ型で)基礎から時間をかけて成長してもらうことが大事なのではないか。

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『成しとげる力』@ 日本電産 永守重信



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