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「中国系」を否定する有力電池メーカーの腹づもり

2021年8月の記者会見で発表した茨城県内に新設する電池の新工場。2024年の稼働を予定。

投資額は合計1000億円で、生産能力を最大18GWhまで増やす方針(写真:エンビジョンAESCグループ)

2021.12.15

世界中で電池工場の大型投資が相次いで打ち出されている。

今後の競争で何がカギを握るのか。 

 日本に拠点を置いて世界中で工場投資を拡大する企業がある。エンビジョンAESCグループだ。

もともと日産自動車とNECの合弁だったが、2019年に再生可能エネルギー事業などを手がける中国エンビジョングループ(遠景科技集団)傘下となった。

目下、世界で激化する電気自動車(EV)の開発競争において、車載電池メーカーの動向が極めて重要になっている。なぜなら車載電池はEVの製造コストの約3~4割を占めるとされるからだ。

EVの心臓部ともいえる電池で優位に立とうと、スウェーデンのノースボルトなどの新興勢力に加えて、中国や韓国の電池メーカーがフォルクスワーゲンやゼネラル・モーターズと組んで大型の投資に踏み切っている。群雄割拠の中で投資を積極化するAESCはどんな成長戦略を描くのか。今後の展開を松本昌一CEOに聞いた。



 ――2021年6月にフランス、7月にイギリス、そして8月に茨城県に車載電池工場の建設を発表するなど、まさに投資ラッシュです。

EV向け電池は2030年に生産量世界で2000ギガワット時(GWh)を超えるとの予測もある。われわれとしては少なくとも200Gwh(現在は27.5GWh)を目標としたい。

この1年で市場の伸びが相当クリアになったと思う。アグレッシブな目標だが、それでも(拠点増設後の)シェア10%だ。

今回の日英仏の3拠点に加えて、中国の内モンゴルで商用車向けと定置向け電池の工場建設を決めており、2022年以降に稼働する。競争環境は厳しくても、投資は積極的に進めていく。

 

――日欧中で工場を建設する一方で、アメリカは米中デカップリングの影響が懸念されます。

  AESCは中国のエンビジョングループ傘下なので、テネシー州にある生産拠点の拡大投資などはやりにくいのでは。

確かに地政学的な問題はある。親会社が中国なので悩んでいるところもある。

ただ、アメリカでも(事業拡大は)検討しているし、積極的にやりたいと思っている。

欧州では2027年を節目に制度や規制が変わりはじめ、電池の材料の現地調達が求められるようになるだろう。

そうすると、カナダ、メキシコも含めたアメリカ圏だけが外部から材料を輸入すればいいとはならないはず。

われわれとしては、アメリカでも材料メーカーと連携しながらサプライチェーンを構築していきたい。

 

――車載電池は何が差別化要因になるでしょうか。

電池性能としては、エネルギー密度、電池の寿命、急速充電性、そして価格。もう1つ、品質と安全性非常に大事だ。

われわれは車載用電池を供給しはじめてから10年超、数にして60万台えている。

その中で発火事故や煙が出るといった事故は1件もない。こうした安全性を差別化要因として取引先に訴求していきたい。

ただ、差別化できたとしても高く売れるというわけでもない。

 

――どういうことですか?

われわれが安全性にこだわった製品を作って、それを他社の電池よりも10%高く買ってもらえるかというと、そうはいかない。

ほかの会社で過去に何か(事故などが)あっても、皆さん「頑張る」と自動車メーカーに言う。

だから、少々高くても安全面で実績があるエンビジョンAESCにしようとはならなない。

 

――価格競争が厳しいとなると、コスト削減が重要になります。何が必要でしょうか。

1つは全体の電池構造をシンプルにしていくこと。また、エネルギー密度を高めれば、重量単位のコストを下げられる。

あとは三元系と呼ばれるニッケル、マンガン、コバルトの材料のうち、(希少金属である)コバルト比率を引き下げられるとコストを低減できる。今後、グローバルでEVの台数が増えると量産効果も期待できるので、技術的な改良との組み合わせで全体の費用を下げていきたい。

 

*「中国傘下」で何が変わったか

――現状、元々の親会社である日産主な販売先です。日産以外に拡販する可能性は?

ベースとしては日産、そしてルノー、三菱自動車というアライアンス先とも非常に密なコミュニケーションをとっている。

それ以外の大手メーカーともかなりいい議論をしている。

中国では、工場を新設する内モンゴルのように、これまでと異なる市場で現地メーカーと組むこともある。

3社アライアンス(日産、ルノー、三菱)以外にも販売先を開拓していきたいし、当然目指しているところだ。

 

――EV投資が盛り上がってきたことで、AESCが再び日産の傘下に戻る可能性を指摘する声もあります

なるほど。ただ、エンビジョンAESCになってから、会社そのもの、開発、生産を含めたケイパビリティ(能力)が非常に高まっている。日産、NEC傘下のときよりも、開発や取引先への対応、工場投資も含めてよりアグレッシブになった。

会社全体のバリューは高まっている。(米中対立などの)地政学的な話が出てきているのは承知しているが、だから「(日産に)戻ればいいじゃない」という話でもないだろう。

 

――親会社が変わって新たな手応えを感じているわけですね。

われわれは “日本の会社” として頑張っているつもりだ。

記事で「中国系の」と書かれるが、技術もベースも日本の会社だ。もちろん中国のスピード感という部分でいい面を感じる。

そうした要素と日本の安全や品質といった技術の面でうまく融合させようと社内で言っており、少しずつ実現できているのではないか。

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