鈴木 博毅 : ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント
2021年12月09日
GAFAの強さの秘密を明かし、その危険性を警告した書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は日本だけで15万部のベストセラーになり、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 総合第1位」「ビジネス書大賞2019 読者賞」の2冠を達成、日本にGAFAという言葉を定着させた。
その著者スコット・ギャロウェイ教授の最新作『GAFA next stage 四騎士+Xの次なる支配戦略』がついに刊行され、発売3日で6万部のベストセラーになっている。本書では、コロナ禍でますます肥大化したGAFAと、この4社に匹敵する権威を持つようになる「+X」の巨大テック企業が再び、世界をどのように創り変えていくかを予言している。
いまやあらゆるビジネスが「GAFA+X」に直接、脅かされる時代に突入した。本書はすべてのビジネスパーソンに、明日の「生存戦略」を考えるヒントを提示している。
教訓1:「テックを取り入れる」のではなく「テック企業になれ」
教訓2:「ユーザーレビューが支配する時代」に対処せよ
教訓3:「ブランドの破壊者」というブランドはいまだ有効
教訓4:あらゆるものが分散化する時代の「中心点」を目指す
教訓5:「継続課金」によって強固な財務基盤を築く
教訓6:他社をコントロールするモデルを構築する
教訓7:消費者に直接販売できる仕組みを築く
* 2022年を読み解く「予言書」
パンデミックが起きたことで、本来なら10年かけて起きるデジタルへの変化が、1年で促進されました。
もちろんアメリカのほうが早いのですが、その流れは、日本にも襲い来るでしょう。
『GAFA next stage』は、2022年を読み解く「予言書」としての価値が高いですね。
前作は、GAFAが一方向に支配を強めていることが書かれていましたが、今作は、減っていく消費、増えていく消費、大学がディスラプターに侵食されていく現状など、複数の重要トレンドが示されています。
ここをきちんと理解すると利用価値が高くなります。
コロナが収束に向かえば、売り上げ増加に向けてマーケット研究は各社で急務になります。
2022年は新しいスタートとしての重要な年になるはずです。
自社がGAFA+Xに侵食される側なのか、そうでないのかは、本書を読めばわかります。昨日と今日は何も変わらない。
しかし、水面下では極めて大きな変化が起きており、強大な会社が多くを飲み込んでいる姿が描かれています。
自社に危機感を覚える方も多いかもしれません。
ただ、半年先に起きる危機がわかれば、対処方法がわかります。
マーケットが消滅してから気づくより、本書から予測することが極めて重要ですね。
そういった視点から、本書から読み取れる「日本企業がGAFA+Xに学ぶべき7つの教訓」を今日はご紹介したいと思います。
教訓1:「テックを取り入れる」のではなく「テック企業になれ」
GAFAがどんな足跡をたどったかを知ることで、自分たちもマーケットクリエイターになるチャンスが見つかると考えなければなりません。
なかでも、「あらゆる業界でテクノロジー企業が勝者になる」という考え方は、非常に重要だと思います。
老舗であっても、今後は、テクノロジーをベースにしたマーケティングを行うことが極めて強く求められます。
日本の老舗企業は、技術があり、間違いなく良いプロダクトはできると思います。しかし現代は、お店の前で「ここ美味しいのかな」とユーザーレビューを検索する人がいるという社会です。そこを想定して、テクノロジーとプロダクトをどう組み合わせるか、学ばなければなりません。
本書は、「テックを取り入れる」というよりは、「テック企業であれ」と提言しています。テック企業だからこそ見えるマーケットの獲得法があり、テック企業としての着眼点こそGAFAが成功した要因でもあるからです。
もしかすると自社が取り込める市場を、テック企業の発想を持てないために見過ごしてしまっている可能性があります。テック企業の基盤を持つことで、視点が変わり、見えなかったマーケットが見えてくる。自分たちのチャンスでなかったものが、絶好のチャンスになるわけです。
一方的に搾取される側になるのでなく、彼らと同じことを違う視点でやることが大切です。基本的に、アメリカの企業が強い力を持って世界を席巻しているとされていますが、例えば、中国企業は、彼らの影響を跳ねのけながら新しいベンチャーを生み出し、強い会社をつくっています。これは、学ぶべき点だと思います。
ほとんどの方は、GAFAのような企業には手も足も出ないと考えがちです。しかし「怖い」とアレルギーを起こして避けるよりは、積極的に学び、どうヒントを得るかを考えることがプラスを生み出します。
*「ブランド」が力を持った時代が終わった
教訓2:「ユーザーレビューが支配する時代」に対処せよ
本書では「『ブランド時代』が終わり、『プロダクト時代』がやってくる」と書かれていますが、ここもよく咀嚼する価値がある提言です。
ブランドというものは、期待感と品質保証、メッセージ性がある広告でした。しかし、プロダクト時代の現在は、ユーザーレビューがすぐ掲載され、実際に使った人のメッセージが、インターネット上に羅列されてしまう。
プロダクトだけではなく、ユーザーレビューが並行して存在していなければ、プロダクト時代の波には乗れません。プロダクト時代とは、ユーザーの体験談がすぐに広まる時代のことなのです。
ユーザーレビューの訴求力があまりにも強いため、広告によるブランドイメージはほとんど通用しなくなっています。ユーザーレビューが数百あれば、旧来の広告とは違う強力な販促になるからです。
マイナスのレビューがつくことの弊害はありますが、企業側の「学習の機会」と捉えるべき。マイナスの投稿は3カ月程度は掲載して、順次消えていくというような仕組みもレビュー活用には必要と思われます。
ユーザーレビュー活用をポジティブに捉え、研鑽する企業が今後ますます伸びていくはずです。
日本企業で言うと、「価格コム」や自動車レビューの「みんカラ」、就活の「ワンキャリ」などが注目すべきビジネスモデルを提供しています。
教訓3:「ブランドの破壊者」というブランドはいまだ有効
本書では「ブランド時代は終わる」とされていますが、一方で、「アップルには強力なブランド力がある」とも書かれています。この点は、丁寧に読み解く必要があります。
ジョブズのやったことは、間違いなくブランドをつくるということです。アップルは、巨大企業から個人を解放する道具としてパーソナルコンピューターを定義しました。その結果、人と違った自分でありたいと考える世界中の人々をファンにしたのです。消費者との心理的な結びつきは、その後のiPhoneから始まるプラットフォームビジネスに続きます。
ジョブズは、旧来のブランドを破壊したことで、アップルを新しいブランドとして輝かせたと言えるかもしれません。つまり、「ブランドを破壊する」という立ち位置の新ブランドですね。
ユーザーレビューの蓄積をしている会社は、ある種、ブランドを破壊しています。老舗ブランドでさえも、広告やメッセージではなく、ユーザーの体験談で判断・評価されてしまうからです。
「古いブランドを破壊する」という意味でのブランドが生まれているということは、極めて重要です。この構造がわかると、「何を破壊するとスターになれるか」を皆さんも考えるようになるでしょう。
*「時代の変わり目」に生まれるビッグチャンス
教訓4:あらゆるものが分散化する時代の「中心点」を目指す
コロナ禍で職場はリモートになり、飲食はテイクアウトに変わりました。本書ではこれを「あらゆるものが分散化する時代」と呼んでいます。
あらゆるものが分散化するのであれば、1つの場所に集まらないとできないことを、できるようにする必要があります。それが「分散化する時代の中心点を目指す」ということです。
いろいろな会社がこの「分散化」によって非常に大きな利益を得ていると本書は指摘します。動画のズームは非常に有名ですし、飲食なども、流通形態が変わり、新しい中心点ができています。
どこでも消費や学習ができるというのもそうですね。映画館に行かずとも、ネットフリックスで映画を楽しむことができますし、「スタディサプリ」のように、どこでも学習できるサービスもあります。
医療関係では、「メドピア」という医師のコミュニケーションを図るためのサービスがあります。各地で活躍する医師、彼らの意見を集約することで、より良い治療法を模索していく仕組みです。
教訓5:「継続課金」によって強固な財務基盤を築く
継続課金で強固な基盤を築くこと、消費者が購入するか否かの意思決定をする機会をなるべく減らすことも、重要な点です。
アマゾンはプライムに、アプリはサブスクリプションへと変化しています。ビジネスを安定させる要素が強いですし、そのようなモデルは企業にとって魅力的です。
例えば、新築のマンションに浄水器が設置されており、使ってみて気に入れば、サブスクリプションに移行できるというサービスがあります。最初からプリインストールされているのはITでは常識ですが、今後はリアル製品でも多数出てくると思われます。
コーヒーのサブスクリプションも有名ですね。月額を支払うことで何杯でも飲めるコーヒースタンドや、自動販売機なども増えています。適用できるビジネス分野はさらに広がっていくでしょう。
*「踊る」のではなく「踊らせる」企業が力を高める
教訓6:他社をコントロールするモデルを構築する
GAFAのビジネスモデルの特徴は、消費者をコントロールするだけでなく、競合他社の行動原理をコントロールするところにあります。
フェイスブックはゲームのプラットフォームを提供しています。すでに月間ユーザーが何億人もいるプラットフォームを使ってゲームを出せるのなら、開発会社側も自然にフェイスブックのプラットフォームに頼ることになるでしょう。
こういった形では、強者が一層強者になるという面がありますが、新たな流れもつくれます。例えば、プロジェクトマネジメントに特化した、マネジメントソリューションズという会社があります。
本来、社内の担当者がやっていた一部プロセスに特化したサービスを立ち上げ、商品として提供する。これにより、外部リソースを使うことが定着していく流れは、これまで多くの大ヒット製品を生み出してきました。
フェイスブックのゲームプラットフォームであれば、ユーザーを獲得する作業の一部を、代行してやってくれる側面があります。
「ランサーズ」のように、フリーランサーに非常に簡単に仕事を発注できるという形式も、流れを変えました。それまで使っていなかった要件でも、スピーディーに外部の方に依頼する新たな仕事の流れができたわけです。
消費者を含めたプレイヤーの行動を変える仕組みが、多くのプラットフォームには組み込まれているのです。
教訓7:消費者に直接販売できる仕組みを築く
アップルは、高価で収益性の高い製品を顧客に直接販売しています。このように、消費者に直接アプローチできる仕組みは、継続課金モデルと並んでデータ時代の勝者を生み出すと言えます。
別の業界で直販に成功している有名なケースは、電気自動車のテスラと、ソニーのゲーム製品でしょう(ソニーはサブスクリプションの成功事例でもあります)。ほかにも、直販に変わったことで業態が急拡大した会社はいくつかあります。
消費者に直接アプローチできると、マーケティングのテストが簡単にできますし、広告とは違った形で消費者に対するフックをつくれます。
顧客の想いや反応を知らなかった会社が、顧客と接することで発見や学びを得る。顧客と接することでどんな学習ができるかは、この時代に決定的に重要になります。
自社サイトで買ってもらえるのであれば、どのキーワードにおいて注目が集まるのかなど、実験ができますよね。ドラッカーも言っていますが、買っていないお客様の情報をどう知るかも重要です。サイトにアクセスしたけど買っていない、キーワードに反応したけど見ずに帰ったという履歴は、価値あるヒントですね。
直接販売は、学習の機会と考えなければいけません。「仲介業者に払う手数料を抑えるために直販にする」などと考えると、おそらく失敗します。当初は手間もかかり、頭を使わなければならないからです。直販によってどういう学習が始まるかという捉え方は、もっとクローズアップされてもいいと思います。
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