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「半導体不足」は本当か?

クルマ大減産の怪

2021年11月26日 10時30分 公開

湯之上隆(微細加工研究所)

クルマ業界は予想以上に深刻な状況に陥っているらしい。11月2日付日経新聞によれば、今年10月の新車販売台数は27万9341台で、統計を取り始めた1968年の27万9643台を(2台)下回り、過去54年間で最低だったという。この記事には、半導体不足と東南アジアのコロナ感染拡大による部品不足がその原因であると記載されている。

しかしどうも、現在起きている現象は、それとは異なるように感じる。

そこで再度、クルマがつくれない原因を半導体の視点から考察する。

ただし、読者の皆さまをがっかりさせることになって申し訳ないが、その原因は「よく分からないという結論になった。

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。



  2020年4~6月頃に30万台以上減産になったのは、コロナ騒動でクルマ需要が消滅したことによる。

ところが、最新データの2021年9月の減産(40.3万台)は、コロナ騒動の最もひどいときの2020年5月(40.9万台)と同じレベル!

しかも、7月から9月にかけて状況は悪化し続けており、まだ発表されていない10月の生産台数は、もっと酷くなっているかもしれない(新車販売台数が史上最低だからきっとそうなるのでは?)。このような事態なら、新車の納期が半年~1年になっても仕方がない。しかし、それにしても、なぜそんなに半導体が不足しているのだろうか?

 

* 車載半導体の出荷個数の動向

 世界半導体市場統計(WSTS)では、毎月初めに2カ月前の半導体統計データが発表される。

例えば、2021年11月初旬には、2021年9月までの各種半導体統計データがリリースされた。

車用Logic、MCU、Analogの出荷個数(2016年1月~2021年9月)

そのWSTSの統計データで、クルマ用と明記されているものとして、ロジック、MCU(Micro Controller Unit、いわゆるマイコン)、アナログがある。この3種類の半導体について、2019年1月~2021年9月の出荷個数をグラフにしてみた。

最新のデータである2021年9月の出荷個数を見て頂きたい。

車載用の3種類とも、単月では過去最高の出荷個数を記録している。

特に、ロジック半導体の出荷個数は、とてつもない成長となっている!

 これで、どうして半導体不足ということになるのだろう?

 2020年3月から8月にかけて、3種類の半導体の出荷個数は大きく落ち込む。

この原因は、クルマ需要が消滅し、完成車メーカーが1次下請け経由で2次下請けの半導体メーカーへの発注をキャンセルしたことによる。

また、2次下請けの車載半導体メーカーは、40nm以降をTSMCに生産委託していたため、TSMCへの発注もキャンセルされた。


* 全ての半導体が大増産されている

四半期ごとの種類別半導体の出荷額を見ても、2021年Q3に、ロジックが395億米ドル、プロセッサやマイコンを含むMos Microが203億米ドル、アナログが190億米ドルと、いずれも過去最高を記録した。 

四半期ごとの種類別の半導体出荷額(~2021年Q3)

DRAMやNAND型フラッシュメモリなどのMos Memoryだけは、2018年Q3のピーク(441億米ドル)にわずかに及ばない424億米ドルだったが、この急峻な勾配からQ4にはメモリバブルのピークを超える過去最高の出荷額になるに違いない。

  このように、半導体全体も、各種半導体も、増産に次ぐ増産となっている。にもかかわらず、「半導体が足りない」と言われるのはなぜなんだ?

何用の、どの半導体が、どれだけ足りないのか?


* ネズミは続々と増えていく

 半導体の統計データを見る限り、各種半導体は大増産されており、不足しているとは思えない(少なくとも筆者はその兆候をつかめていない)。それなのに、これに輪をかけて、半導体メーカー各社はとてつもない設備投資を行おうとしている。

加熱する半導体の設備投資と各国・地域の補助金政策

加えて、各国・各地域も、半導体の生産能力を向上させるために、これまた尋常ではない助成金を支出しようとしている。  

 「半導体が足りないぞ!」というハーメルンの笛吹きに踊らされるネズミは、続々と増えていく。

世界78億人の人々は、そんなに半導体を必要としているのか? きちんとマーケティングをした上での意思決定なのか?

 筆者には、現在の半導体産業が、資本主義にのっとった健全な姿とは思えないのである。


後記:なぜ日本に半導体工場を作るのか

 2021年11月18日に中国の深センで、TrendForce主催の「Memory Trend Summit 2022」が開催された。

そこで、TrendForceのAnalystのJoanne Chiao氏が、“Wafer Shortages Drives the General Growth of Foundry Capacity in 2022”のタイトルで講演した。それによると、現在の半導体不足は28nmに大きな原因があるという。

 28nmの半導体は、PCやルーターのWi-Fi用SoC(System on Chip)、PCやテレビの液晶制御用LSI(Timing Controller、略称TCON)、NANDフラッシュ用コントローラー、タブレットやスマートフォン用SoCおよびRF、クルマや産業用MCU(マイコン)など、使用用途が多岐にわたる。

 そして28nmの半導体は、プレーナ型トランジスタとしては最も先端品の一つであり、コストの点からもスイートスポットとなっていて、垂直統合型(IDM)の多くがファウンドリーに生産委託しているという特徴がある

このような事情から、需要がファウンドリーのキャパシティーを大幅に上回ってしまったため、半導体不足の元凶になっているという。 

 もしこの分析が正しいのなら、どこかのファウンドリーが日本に、28~22nm用の月産4万5000枚の半導体工場を建設する理由が腑に落ちる。彼らは、日本のために半導体工場をつくるのではない。ちゃんと胸算用をしているのである。

それにまんまと乗ってしまって「世界最先端のファウンドリーを誘致した」などと得意がっている政治家や官僚は、どうかしているのではないか?

 そもそも、他国・他地域の一企業の利益のために、日本の税金を使うのは間違っているのではないか?

(出典 : EE Times Japan)


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