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政府が「脱石炭」に賛同できぬ深い闇

実は日本企業にとって大打撃

2021.11.17

10月31日から約2週間に渡り英国グラスゴーで開催されたCOP26において、前回に引き続き温暖化対策に消極的な国に贈られる「化石賞」に選ばれた日本。

なぜ我が国は、世界中からこれだけの非難を浴びながらも「脱石炭」へと舵を切ることを拒み続けるのでしょうか。米シアトル在住の中島聡さんが、その理由として日本の「周回遅れの国策」を挙げ、メディア等で語られることの少ない国策の内容を詳しく紹介。

さらに「もっと大きな問題」が存在することをも白日の下に晒しています。



 * 日本政府が「脱石炭」に賛同出来ない理由

イギリスで開かれた気候変動対策の国連の会議「COP26」で、温室効果ガスの排出削減対策がとられていない石炭火力発電所の新規建設中止などを盛り込んだ声明に、ヨーロッパ各国など40か国あまりが賛同しましたが、日本政府は賛同しませんでした(「COP26『脱石炭』の声明に40か国余が賛同 日米中は含まれず」)。その理由は、日本の「周回遅れの国策」にあります。

 平成27(2015)年に資源エネルギー庁により書かれた「火力発電の高効率化に向けた発電効率の基準等について」によれば、日本政府は2030年度の電源構成を「石炭26%程度」とする目標を立てています。 


日本政府は国策として、USC(Ultra Super Critical:超超臨界圧)と呼ばれる効率の良い石炭火力に力を入れており、二酸化炭素の排出量の多い旧来型の石炭火力を、排出量の少ない新設により置き換えることにより、二酸化炭素の総排出量を減らす、という計画を進めて来たのです。 

 しかし、世界の国々の多くは、一足飛びに「石炭火力の廃止」と「再生可能エネルギーへのシフト」を急速に進めようとしており、それが今回の声明に現れているのです。日本政府の計画は、それと比べると周回遅れですが、簡単に政策を変更出来ない日本政府が「石炭火力発電所の新規建設中止」という声明に賛同出来ないのは当然なのです。

しかし、もっと大きな問題は、日本政府が、アジアの国々に対して、日本の大型高効率石炭火力発電所を購入することを条件として、大量の円借款をJICA(国際協力機構)やJBIC(国際協力銀行)を通して行っている点です。

バングラデッシュの「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業」が典型的な例ですが、JICAから415億円を貸し出し、そのお金で、日本の技術を使って、600メガワットの高効率の超々臨界圧石炭火力発電所2基の建設を行わせたのです。

この石炭火力輸出の問題点に関しては、気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)などが共同で執筆した「石炭はクリーンではない」に厳しく批判されていますが、JBICだけで「2003年から2015年の間、新規の石炭火力発電設備に84.9億米ドル(約9,600億円)もの融資や保証を行っており、その設備容量の累計は23,933メガワット(MW)にも及んで」いる上に、実際には、JBICが支援する石炭火力発電設備の効率世界平均と比べても低く、最良の大気汚染対策技術を設置しているとは言えないそうです。

☞  「石炭火力輸出の問題点」の結言

日本政府が日本企業への支援を継続し、性能の劣った技術を世界の貧しい国々に展開させていくことは許しがたい行為である。日本は、現在普及している中で最も汚染が少なく、高効率な石炭火力発電技術を輸出しているとは、決して言えない。

他の発電方法と比較してはるかに多くの二酸化炭素を排出し、稼働し始めれば数十年も排出が続くことになる石炭火力発電への支援を続ける正当な理由はない。日本政府は、海外の石炭発電設備の新設や他の化石燃料に対して行われる支援を認めない方向に舵を切ろうとしているOECD輸出信用グループの動きを支持するべきである。さらに、将来、すべての人々にクリーンなエネルギーを確保するため、アジア太平洋地域で自然エネルギー事業を成長させるために公的資金を使うべきである。 

 日本政府による石炭火力の輸出は、実質的に税金を使った日本企業の支援であり、それをストップすることは、福島第一での過酷事故以来、原子力発電所の輸出が難しくなっている日本企業にとって、大きなダメージになるのです。

特に、超々臨界圧石炭火力発電に必須な技術に関しては、国策企業でもある三菱・日立・東芝が重要な役割を果たしており、日本政府としては、彼らに対する支援を辞めることはとても難しいのです。

 特に、ガスタービンのシェアが世界1位である三菱重工は、エネルギー関連の売り上げが41%(2020年度で1兆5,460億円)もあり、政府の支援を失うことは死活問題です。 三菱重工は、2021年株主向けの事業戦略説明資料(「三菱重工業の事業と戦略について」に、SDGsへの取り込みとして、二酸化炭素の回収技術、水素発電、アンモニア発電などに力を入れると宣言していますが、それらの試みが実際の売り上げに貢献するのはまだ先のことであり、急激な「脱石炭」の流れは、なんとか阻止したいと考えて当然です。地球温暖化対策、およびアジア諸国の支援を本気で考えるのであれば、本当に必要なのはODAを活用した再生可能エネルギー事業への投資ですが、国策に基づいて「原子力発電」「超々臨界圧石炭火力発電」に莫大な投資をし、再生可能エネルギー関連の技術(特に太陽光と風力)では中国や欧米に大きな遅れをとってしまった日本企業が、いまさらその市場で活躍することはとても難しいのが現状です。

ある意味、急激な電気自動車の台頭で、国策に乗じて水素自動車に力を入れていた日本の自動車業界周回遅れになってしまった構図と似ています。

「ビジョンのない政治家」「一度始めたことを辞めることが出来ない霞ヶ関の官僚」「冒険が出来ないサラリーマン経営者」の組み合わせ(つまり、リーダーシップの欠如)が、大きく世界が激しく変わりつつある中で、すばやい方向転換が出来ないのです。霞ヶ関の官僚も馬鹿ではないので、核のリサイクル計画からの撤退、EVシフト、脱石炭火力、などが必要なことを理解する人も数多くいるはずですが、日本の経済界で主要な役割を果たす、東京電力、トヨタ自動車、三菱重工などにとって大きな痛みを伴う改革を日本の政治家が出来るわけがなく、問題を先送りし続けた結果が、さまざまな分野で「周回遅れな日本」を作りだしてしまっているのです。




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