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日本の新たな「エネルギー基本計画」

今後の再エネ普及に必要な“3つのアクション”とは?

2021年10月28日  更新

馬上丈司 千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役,スマートジャパン

 ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)。今回は「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されたことを受け、今後の再生可能エネルギー普及に向けて求められるアクションを、ソーラーシェアリングを含む太陽光発電の視点から整理します。

ソーラーシェアリングとは、農地に支柱等を立てて、その上部に設置した太陽光パネルを使って日射量を調節し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組をいいます。

営農を続けながら、農地の上部空間を有効活用することにより電気を得ることができますので、農業経営をサポートするというメリットがあります。



 去る2021年10月22日、ついに「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。これによって、2050年のカーボンニュートラルと、2030年の新たな気候変動対策目標の達成に向けたエネルギー政策の方向性が示されたことになります。

 これは同時に、今後の日本のエネルギー政策は、この新たな脱炭素化目標を前提とした上で検討されることを意味します。

これからは、従来の“旧エネルギーミックス”を背景に漫然と続けられてきた低調な再生可能エネルギー政策を見直し、先進諸国と比肩するような取り組みに進化させる必要があるでしょう。

 本連載では7月に、当時発表された第6次エネルギー基本計画の素案について、その課題を指摘。

今回は、素案から正式な計画となったことを受けて、改めて今後の再生可能エネルギー普及に向けてのアクションを、ソーラーシェアリングを含む太陽光発電の視点から整理してみます。

 

単年度の定量的な導入目標を明らかにする

 第6次エネルギー基本計画と同時に示された「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」に記載された再生可能エネルギー導入目標を達成するためには、少なくとも 120GW程度の太陽光発電を導入していく必要があります。

 2022年度を政策立案など準備のための1年とすると、2023年度から2030年度末までの8年間で最低でも 60GW以上の太陽光発電設備の新設が必要となります。

単純計算で年間7.5GWという規模になりますが、資源エネルギー庁がエネルギー基本計画の議論の中で示した資料では、2030年度に向けて年間 6GWまで導入量を回復させていくというイメージが描かれていました。

こうしたイメージから現実へと意識を向けて数値を整理し直すと、2025年度頃には年間 8GWまで太陽光発電市場の規模を回復させた上で、2030年度までその市場規模を維持することが最低限必要なラインということになります。

もちろん、その先のカーボンニュートラルに向けた導入量を考えれば、それ以上の市場規模にしていくことも重要です。

 政府はここ数年にわたってFIT制度の事業計画認定数を抑制してきた中で、目先の国内の太陽光発電市場は年間3~4GWかそれ以下まで縮小すると予想されます。これを2倍以上まで早期に回復させる必要があるという点を、政策議論の基本的な条件として認識することが第一歩です。これを政策側と事業者側の共通認識として確立し、その実現のために既存施策がどの程度貢献し得るのかを評価し、新たにどんなことに取り組んでいくべきかを速やかに検討し始めなければなりません。

 

全国への導入に必要な投資額を算定し資金の確保を図る

 太陽光発電の導入はインフラ投資ですから、長期的な視点に立った資金の確保が必要となります。

それを一部の投資家に止まらず全国的な投資が進むようにしなければなりません。

 昨今、2050年のカーボンニュートラルに向けて、地方自治体によるゼロカーボンシティの表明が相次いでいます。

こうした形で今後の再生可能エネルギー大量導入が進む中では、洋上風力発電など大規模なプラントをポテンシャルの大きい地域に集中的に導入するだけでなく、あらゆる地域に満遍なく再生可能エネルギーを普及させていくことが必要です。

そして、さまざまな形態で設置が可能な太陽光発電は自然資源に乏しい都市部を中心に、多くの地方自治体で唯一の再生可能エネルギー電源の選択肢となり得ます。

住宅用を始めとする建物への設置は確実に進めていくとしても、その上で不足するエネルギー供給分を賄うための太陽光発電所の建設・投資・運営を各地で誰が担っていくのかも同時に整理していく必要があるでしょう。

 例えば、人口3万人程度の自治体の場合、民生用(家庭用+業務用)の電力需要は年間120GWh程度になります。これに相当する太陽光発電設備は概算で115MW程度になり、その投資額は発電設備だけで200~230億円近くになります。

この人口規模の自治体の予算を見ると、200億円という金額は一般会計予算の1年分以上に相当する規模です。

さらに、産業部門での電力需要を賄うとなれば再生可能エネルギーへの投資額はより大きくなります。

これだけの投資を喚起し、資金を確保するための仕組みをどの地域でも活用できるように整えなければなりません。

まずは地域ごとに必要な投資額を明らかにした上で、その資金の確保に向けた政策の検討が必要です。

 

太陽光発電所の資材は戦略物資、国内の再エネ産業の育成を

 新型コロナウイルス感染症が世界的な流行を見せ始めてから、太陽光発電関連資材は値上がりを続けています。

当初は太陽光パネルの最大の生産国である中国国内の製造や物流の停滞から始まり、国際物流の混乱によるコンテナ価格の上昇、そしてグリーンリカバリーによる再生可能エネルギーへの投資拡大と続き、昨今では中国国内のエネルギー需給ひっ迫による太陽光パネルの生産低下が起きています。

 これによって、本稿執筆時点では2019年の冬と比べて、太陽光パネルの価格1.5~2倍まで値上がりしています。

この状況が続けば、FIT/FIP制度の前提となっている太陽光発電設備の導入コストの段階的低減どころか、目先の急激なコスト上昇が引き起こされてしまい、その状況下で導入量を増やしていくためには調達価格の引き上げに向かう必要が出てきます。

しかし、現在の経済産業省・資源エネルギー庁の姿勢では、そうした外的要因による調達価格の引き上げは到底実施できないでしょう。

 それでもなお、2030年に向けた再生可能エネルギー導入ペースを上げていかねばならないとするなら、そうした引き上げ措置を行うに足る理由が必要になります。その一つが、太陽光発電関連資材の国内での確保です。

 かつて世界を席巻した日本の太陽光パネルメーカーが没落して久しいですが、ここから本格的に太陽光発電の普及拡大が始まるというタイミングで、残された国内メーカーが青息吐息という状況を放置して良いとは思えません。

先ほど挙げたように、2030年までに60GW以上の太陽光発電を導入していくとなれば、その投資額は少なく見積もっても12兆円以上になります。単年度8GWの市場になれば1.6兆円以上の規模となり、そのうち半分程度が資材コストですから、それが延々と国外に流出していくことを座視すべきではありません。

洋上風力発電などは国内産業の育成が図られていますが、今回の第6次エネルギー基本計画と新たなエネルギー需給見通しの策定を契機に、太陽光発電を含む全ての再生可能エネルギー電源種で国内産業の育成方針を示すべきです。

 

日本の再エネ産業の未来に向けて

 ここまで、大きく3つのアクションを整理してきました。

基本計画が決まった以上、これから考えるべきはその内容をいかにして実行に移していくかですが、太陽光発電を含む過去10年間の我が国における再生可能エネルギー政策を振り返ると、ここまでに挙げたような具体的な数字の議論が不足していたように感じます。

 経済産業省・資源エネルギー庁がFIT制度による事業者の動きに委ねるままに普及の様子を眺め、問題が生じた部分にだけ事後的に「事業規律強化」の対応を図ってきた結果、太陽光発電はバブル的に伸びたものの国内産業としては定着せず、膨大な再エネ賦課金を投じたに値するだけの成果が得られていません。

まずは、目指すべき市場規模、それを実現していく投資資金、その資金を国内にとどめるための産業育成という観点から政策議論を速やかに実施して、2030年に向けた再生可能エネルギー導入のスタートを切っていきましょう。

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