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2030年代に中国は分裂する


不動産バブル崩壊・電力不足・統制経済の三重苦で習近平体制は「終わりの始まり」へ

澤田聖陽

2021年10月21日

7-9月の中国GDPは想定以上に悪い数字となりました。

このまま中国は沈むのか、また日本や世界経済にどう影響するのでしょうか。習近平政権は大きく分けて3つの問題点を抱えており、2030年代には中国が分裂する可能性もあります。



 * 想定以上に悪かった中国GDP

中国国家統計局は10月18日、7~9月のGDP成長率(速報値)が物価変動の影響を除く実質で前年同期比4.9%増となったと発表しました。

ずっと言い続けていることですが、中国ほどの広大な国土と経済規模を有する国で、9月末で〆てから3週間弱でGDPの速報値が発表されるということについては、驚き以外にありません。

もちろん皮肉であり、中国の経済統計がまったく信用できないものだということを言っています。

直近の中国では、以下の3つ大きな問題が発生しています。

1. 恒大問題と不動産バブル崩壊の懸念

2. 電力不足問題

3. 民間企業への締め付け強化(統制経済への移行)

いずれも大きな問題ですが、それぞれ状況を解説していきます。

 

☞ 問題その1:恒大問題と不動産バブル崩壊の懸念

恒大集団の経営危機問題は、今のところ経済危機のような問題には発展していませんが、鎮火したわけではなく、燻り続けています。そもそも鎮火しようがなく、表に出ている情報や伝わってくる情報等から判断すると、恒大集団は解体や倒産しかないという結論になります。

すでに中国政府も、いかに経済に悪影響を及ぼさずに破綻処理を行えるかということを考えているでしょう。

最悪のシナリオは、恒大の経営破綻が他のデベロッパーにも波及し、それが不動産バブルの崩壊を引き起こすというものです。

習近平主席は、自身が主張する「共同富裕」のためには、デベロッパーの野放図な開発が崩壊し、不動産価格が下がることで大衆が住宅購入できるようになる方が良いと考えていると言われています。

しかしあまりに楽観的すぎて、膨らむだけ膨らんだ中国の不動産バブル崩壊の影響を甘く見過ぎているように思えます。

中国は、日本のバブル崩壊を研究しているので、同じ轍は踏まないということを言う人がいます。

しかし、いくら全体主義国家でも、経済はそんなに都合よくコントロールできるものではないと思います。

仮に目先の事象をコントロールできたとしても、他の部分で重大な副作用が出てきます。

中国政府は、都合の良い時は不動産バブルをGDP成長率のために利用し、バブル崩壊したらうまく抑え込めるなどという都合の良い話があるわけがありません。

 

* もう中国の高成長は戻らない

恒大の問題については、リーマン・ショックのような「短期的な金融危機にはならない」という考えを私は持っていて、以前にお話しした通りで変わっていません。

しかし、短期的な金融危機にはならないが、日本のバブル崩壊後のような、長期の「バランスシート不況」に陥るだろうと考えています。

おそらく今後は10年単位の不況になり、中国が以前のような高成長に戻ることは、少なくとも短期的には難しいでしょう。

中国にとって不幸なのは、不況に突入すると同時に、急速に高齢化社会が到来し、人口オーナス期(子ども・高齢者に比べて、労働力人口が少ない状態)に入っていくという点です。

しかも日本のように十分に国民全体が富んだ後の高齢化社会の到来ではなく、まだ約6億人もの貧困層がおり、社会保障も十分ではないなかで高齢化に突入します。

不況が社会不安に繋がることを、中国政府と中国共産党は一番恐れていると思います。

 

☞ 問題その2:電力不足問題 

ここにきて、中国の電力不足が深刻な状況に陥っています。

日本のマスコミは、脱炭素の流れのなかで、中国政府が石炭産出や石炭火力発電を抑制していることが原因という報道がされているが、それは一要素でしかありません。

冬場には数万人の死亡者が出る中国の電力不足は、以下の要素によって起こります。

1. 政府による地方政府への石炭産出、石炭火力発電抑制の要請

2. オーストラリアとの関係悪化による石炭輸入の減少

3. 水害により国内の複数の炭鉱が水没して稼働停止

中国は脱炭素に舵を切り始めたと言われているが、比率が下がってきているとはいえ、足元では石炭火力が未だ総発電量の約半分を占めています。

そのようななかで、(1)~(3)のような要素が重なり、石炭価格の急上昇と供給不足が生じました。

結果として、一部地域では計画停電まで行わなければいけないような事態になっています。

そしてこの電力不足は、大方の見方では長期化すると見られています。

 

* 中国経済へのダメージ大。電気不足で成長が止まる

中国経済への悪影響は甚大で、既に中国経済の成長率を大きく引き下げる投資銀行による予想も出ています。

中国が停電を引き起こしてでも脱炭素に向けて本気で取り組んでいるという、日本のマスコミで見られる好意的な見方は、半分は合っているが、半分は間違っています。

上海などの大都市だけ見ていると、中国全体をみていることにはなりません。

日本のマスコミに出てくるのは上海のような大都市ばかりで、いわば「表中国」。

それ以外の「裏中国」も見ないと、中国の本質を見誤ります。

私は、このままでは冬場に万人単位の死者を出す惨事になる可能性が高いと考えています。

もちろん、その場合でも、中国政府は正式な死者数を開示することはないでしょう。

 

* 中国から外資が逃げ出す「チャイナフライト」が加速

もう1つ深刻なのは、世界の工場である中国から外国企業が撤退し始めている「チャイナフライト」と言われる現象です。

特に今度の電力不足問題は、「チャイフライト」をさらに加速させるでしょう。

半導体産業のような精密部品の製造には安定的な電力供給は欠かせません。

仮に急にブラックアウトするような環境であれば、製造ライン自体が駄目になってしまいます。

政治リスクが高く、且つ電力供給も安定しないということになれば、企業はリスクヘッジのために「チャイナフライト」を加速させるのは当然でしょう。

 

☞ 問題その3:民間企業への締め付け(統制経済への移行)

政府や共産党の都合で法律が決められ、ある日、民間企業がいろいろな面で迫害を受けるという現象が中国では当たり前になっています。

直近では、学習塾のような教育産業が規制の対象にされ、突然幼稚園児から高校生を対象とした民間企業によるサービス提供が禁止されました。

また大手ネット企業であるアリババやテンセントは力を持ちすぎたため、共産党統治体制に対して危険な存在になると目の敵にされており、いろいろな面で政府による抑圧を受けるようになっています。

すでに中国は「政治は共産主義、経済は資本主義」という体制から、経済も国家による統制を行う「統制経済」へ舵を切り始めているように映ります。

別の言い方をすれば「第2文革」が始まったということもかもしれません。

 

* 内部崩壊するくらいなら習近平は台湾制圧に乗り出す

中国は今後、鎖国のような状態になることをある程度は覚悟しているのではないかと感じます。

2010年代半ばまでの比較的自由であった中国とは明らかに変わりました。

対外的には「世界は中国抜きでは回らない」傲慢さが透けて見え、まさしく中華思想ですが、一方の国内は一枚岩ではなく、不況が長引いたり、社会不安が高まってくれば、内部崩壊する可能性もあります。

その場合は、習近平主席が権力基盤を維持するために、外部への軍事行動など危険な動きに出てくる可能性があります。

特に台湾海峡は最も危険な状態にあり、国内が苦しくなれば苦しくなるほど、台湾への軍事行動など、国内問題から目を逸らし、国威発揚するような行動に出てくる危険性が高まります。 

ここまで中国の足元の3大問題について解説してきました。

結論としては、中国経済は今後、比較的長い停滞の時期に入るだろうということ。

そのなかで、外部への軍事行動など暴発しないか、内部の争いで分裂しないかという点が焦点になってきます。

個人的には、これだけの国土と人口を1つの国家として運営していくのは、限界が来ると思っています。

2030年代には中国は分裂するのではないかと予想しています。


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