· 

安倍・麻生というゾンビに取り憑かれた自民党・岸田新政権の前途多難


 021.10.06

激戦の総裁選を制し、悲願であった総理の座を手にした岸田文雄氏。

しかし、自ら「新時代共創内閣」と呼ぶ人事は一部で「忖度人事」と酷評されるなど、早くも前途を危ぶむ声が聞かれる状況となっています。

果たして新内閣も前政権同様、短命に終わることになるのでしょうか。

 

* 断ち切られた自民「党風一新」の芽

客観的には、今回の自民党総裁選のテーマは明らかで、ただ長いだけが取り柄だった安倍晋三政権とその蛇足でしかなかった菅義偉政権の計8年10カ月の間に、ヘドロのように堆積した黒い沈澱物や茶褐色の老廃物をきれいサッパリ大掃除して、若々しく爽やかな保守政党として再生することが可能なのだという姿を国民に強烈に印象づけることにあった。

それには、何のかのと言ってもやはり河野太郎と小泉進次郎の、新鮮ではあるがやや危なっかっしい人気抜群のコンビを、政策通の苦労人である石破茂が下支えするという構図は悪くなかったのだが、それが奏功するにはいくつもの条件が欠けていた。

 

* 安倍に擦り寄るという河野の余りの政治音痴

まず第1に、河野自身が安倍・麻生に擦り寄って支持を得ようとして、森友疑惑について「再調査は必要ない」と言い、また持論である脱原発のトーンを弱めて「安全な原発は再稼働する」と言ったりした。これは決定的にまずかった。

特にモリカケサクラ疑惑に関しては、安倍・麻生が説明責任を回避し、国会も出来るだけ開かないようにして逃げまくってきたことが国民の政治不信の大きな要因となってきた訳で、ここは野田聖子のように「多くの国民が納得していないので支持率の低下は当然。信頼回復には、二度と起きないよう調査をする必要がある」と明解に言い放つことで対抗軸を形成しなければならなかった。

1年前に安倍・麻生は、「菅ならモリカケサクラ隠蔽の共犯者だからそこを暴くことはない」という理由で菅政権を支持したのだが、まさにその「説明責任拒絶」の隠蔽政治の業を背負わされたことが大きな要因となって菅は短命に終わった。

そして今また、もはやゾンビと化した安倍・麻生が「岸田ならそこに手を突っ込んでくることはない」という不純な動機で岸田政権を作ろうとしている時に、河野が「いや私も再調査はしませんから大丈夫、支持してくださいよ」とにじり寄って行くのは、馬鹿げているという以上に、この局面でどういう磁場を形成すべきなのかを理解できていない政治音痴である。

 

* 福田達夫をどうして味方につけなかったのか

河野に不足した条件の第2は、せっかく小泉が陣営に馳せ参じていながら、4回生(09年8月の民主党政権誕生の時に初当選)で自民党の若手の希望の星であるはずの彼が、3~1回生(12年12月の安倍第2次政権成立時以降に当選)を河野支持にまとめるだけの組織力を発揮できなかったことである。

今回の総裁選の最大特徴は、派閥の締め付けが全く効かなくなったことで、それはどうしてかと言えば、衆参を合わせてほぼ半数近い議員が安倍第2次政権時代に当選してきたいわゆる「安倍チルドレン」だからである。

この人たちは、“安倍ブーム”に乗って安易に上がってきて、もちろん安倍には多大なる恩義を感じているけども、反面、安倍がいなくなった後の菅の下では到底当選はおぼつかないという不安の真っ最中。

そこで、河野・小泉チームが「もう安倍さん頼りの時代ではないのだという覚悟を決めないと。我々と一緒に新しい自民党を作りましょうよ」と切り込んで行くべきだった。

素早く動いたのは福田達夫で、衆院の3~1回生90人を集めて「党風一新の会」を作り、代表世話人となって「派閥に囚われない総裁選を」などと訴えた。

彼は、福田赳夫首相、康夫官房長官の血筋を引く清和会そのものではあるけれども、そういう枠組みをブチ破ってこういう組織化ができるだけの力量があるのだろう。

そこで、河野・小泉チームとしては何としてもこの福田を味方に引き付けて、安倍チルドレンをごっそりと河野側に引きつけることが戦略的に鍵となるはずだったが、そういう努力を払ったのかどうか分からない。少なくとも結果から見れば、安倍側からの「お前ら、俺への恩義を忘れるな。今回は岸田だぞ」という恫喝的な刈り込みが成功したことは明らかで、それが岸田勝利の大きな要因となったはずである。

 

* 二階はボケッとして何もしなかったのか?

河野が勝てなかった条件の第3は、二階俊博幹事長の働きがなかったことである。

1年前には、それなりに見事と言っていい根回し能力を発揮し手品師のように菅政権を作った二階だが、その菅政権があっけなく崩壊していく中で、彼は一体何を考え何をしてきたのか。それが全く見えない。

二階の側から見れば、問題の焦点は、キングメーカーの座を安倍・麻生が確保するのか、それとも自分になるのかの一点にあったはずで、そうであれば河野・小泉・石破チームを勝たせるためにありとあらゆる手段を動員して戦うべきだが、そういう決然たる行動には出ていない。

むしろ逆で、派内をまとめることができず、そのために第1回投票も、決戦投票となった場合も自主投票とせざるを得なくなるという無様なことになった。

そこを記者から突かれ「派としてまとまった対応をしないのか」と質問されると、「(派の一員として)対応したくない人は、(派から)出て行ってもらうしかないね。ちょっと愚問なんじゃないか、こういうプロの世界では」と、ほとんど意味不明の答弁をした。

文言だけ聞けば、「今のところ一見バラバラに見えるかもしれないが、いざ決戦という時には、俺はプロの寝技師なんだから、決めるべきは決めて、従わない奴は叩き出してでもビシッとやる。君はそんなこともわからないのか」という意味にとれるが、もちろん実際にはそんなことは起きなかった。

この有様には、二階派の若手の間からも「何を言っているのか分からない」「ボケという言葉は使うべきでないが、ちょっと疲れてしまったのかなあという印象だ」といった声が聞かれた。

もう1つ付け加えれば、第4に、菅義偉首相の「河野支持」発言は全く余計で、何のプラスにもならないどころか、河野の足を引っ張ることになった。

こうして、河野の突破力、小泉の発信力、石破の安定力、二階の陰謀力をうまく噛み合わせれば、3A=ゾンビ3人組の権力への異常なまでの執念を打ち砕いて「党風を一新」することができる可能性は大いにあったのだが、実らなかった。

 

* それにしても露骨すぎるゾンビの跋扈

さて、岸田文雄にとっては、同じ勝つにしても別の勝ち方があったはずで、それは宏池会本来の穏健保守リベラルにしっかりと立ち戻って組み立て直した説得的な政策体系を柱に、そこへ向かって岸田派だけでなく谷垣グループ、変節者=麻生とその取り巻きを除く麻生派の大半など「大宏池会」勢力を結集し、同会にとっての宿敵である清和会の保守タカ派路線、その鬼っ子としての安倍・高市的な戦前回帰的な保守反動路線と対決しつつ、河野チームとは違って路線・政策面から「党風を一新」する道筋を示して戦うことだったろう。

しかし、現実の岸田が採ったのは、安倍・麻生に決して逆らわず、彼らの了解と支持を得て権力の座に手を届かせようとする擦り寄り路線でしかなかった。

宏池会の看板を引き継ぐ者が清和会と安倍に媚びてしまっては、すでにしてアイデンティティは崩壊していて、そうなると何としても権力を操作する側にいたい3A=ゾンビ3人組に足元を見透かされ、好きなようにいじくり回されてしまうという悲劇的な事態に陥る。

9月30日の党役員人事と一部閣僚の内定がまさにそれで、これほど酷い人事というのも滅多にお目にかからないと思うほどである。

今更繰り返すまでもないが……

▼ゾンビNo.2の麻生を、森友問題で真面目な末端職員を自殺に追い込んだ財務省の高級官僚らが説明責任を回避するのを擁護し続けてきた人物だというのに、副総裁に据え

▼それで9年ぶりに空くことになる財務相には、あくまで麻生に忖度したのだろう、義弟=鈴木俊一を当て

▼ゾンビNo.3の甘利明を、あろうことか党の最高ポストで金も握る幹事長に置いた。16年に建設会社から都市再生機構への口利きを頼まれ自らも秘書も現金を受け取っておきながら経済再生担当相を辞任することで説明責任から逃れた男である

▼安倍お気に入りの超タカ派=高市早苗を政調会長に遇した

 

福田達夫の総務会長は清新ではあるが、3回生に党内の古狸どもを取り纏めて何事も“満場一致”で党議を決定しなければならないこのポストに押し込むのは無茶というもので、彼が潰される結果にならないよう祈りたい。

これは福田が「党風一新の会」を引き連れて河野・小泉側に走らなかったことの論功行賞ポストが他になかったためで、どうもジグソーパズルがうまく行っていない。

ここまでの経緯で、すでに「岸田政権」の失敗は始まっていると言える。

総選挙まで約1カ月、看板の架け替えによる心理的効果が続いているのか、それとも、このゾンビ傀儡性が早々と露呈して失望が始まっているのかで、選挙結果は大きく異なり、従って政権の行方も今は予測の限りではないが、私の予感ではどうもこの政権は出発の時から無理を重ねていて、余り長く続かないように思えてならない。


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。