おがわの音♪ 第1172版の配信★


グーグル、社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え

 グーグルではコロナ禍で在宅勤務が原則となったが、コロナ後を見据えて今年5月にハイブリッドな働き方のモデルを発表。会議室の設計も、在社の人と在宅の人が等しく発言できるように配慮している(写真:グーグル)

古参幹部語る「それでもオフィスが重要」な理由

 中川 雅博 東洋経済 記者

2021年10月03日

 コロナ禍で入社した数千人の社員は、その多くがいまだオフィスに足を踏み入れていないというグーグル。社員14万人が在宅勤務を続ける中、コミュニケーション体制や生産性をどう維持しているのか。

1999年にグーグルに入社し人事部門を立ち上げ、現在は職場環境や社内文化の醸成を統括するチーフ・カルチャー・オフィサー(最高文化責任者)を務めるステイシー・サリバン氏に話を聞いた。



* 生産性だけを見れば機能しているが

――コロナ禍の在宅勤務でグーグル社員の働き方はどう変わりましたか。

このコロナ禍をうまく乗り切るために学んだことは多くあるが、その1つは、どんな場所で働くかではなく、どんな人と働くかが重要だということだ。グーグルでは日々の担当業務を超えてさまざまな取り組みをすることを社員に奨励している。

コロナ禍においても、オフィスと同様の生産性を保つためにどうすればいいか、チームを超えて皆が助け合っている。

 

――在宅勤務になったことで、生産性は実際にどう変化したのですか。

生産性やコラボレーションのしやすさに関しては、コロナ禍でさまざまな要因で上下したように思う。

もちろん社員が物理的に集まり、一つの部屋で対面でコミュニケーションしたほうが、意見交換したり理解し合ったりしやすく、仕事を簡単にこなせるのは間違いない。

ただ社内調査をすると、多くの社員が在宅勤務でもオフィスと同様の生産性を保てていることがわかった。

オフィスにいるときよりも気が散る原因となることが少ないからだ。

楽しさを感じることは減っているが、それでも以前と同じ量の仕事をこなしている。これは驚くべき発見だった。

コロナ禍で入社した数千人の社員は、その多くがいまだオフィスに足を踏み入れておらず、つながりを感じられないという声は多い。そのための環境やリソースの提供はしている。

生産性だけを見れば今の働き方も機能してはいるが、会社としては対面のコミュニケーションの重要性を信じている

 

* 1000人超の社員がつながり醸成のボランティア

――リモートの環境で社員同士のコミュニケーションやコラボレーションをどう促しているのですか。

例えば経営陣やマネージャーたちは、カジュアルに話せる時間を確保するためにチームのオンラインミーティングの回数を増やしている。私の部署でも話したいトピックをただ話すコーヒートークという時間を設けている。

会社全体でも「TGIF (Thank God, It's Friday)」という全社ミーティングを続けている。

出席率は過去最高レベルで、社員は皆オンラインでも集まりたい、経営陣の声を聞き質問したいと思っているのだと実感する。

 

――従業員同士のつながりの醸成は、どのように行っていますか。

コロナ禍以前は「ランチニンジャ」と呼ばれる、初対面のグーグル社員同士が1対1で交流する時間があったが、今はオンライン上で「バーチャルコーヒーニンジャ」を実施しており、話したいトピックを基に異なる国やチームの人とマッチングしてコミュニケーションを促している 

ステイシー・サリバン(Stacy Sullivan)/グーグルのチーフ・カルチャー・オフィサー(最高文化責任者)。カリフォルニア大学バークレー校(心理学)を卒業後、シリコン・グラフィックス社を経て、1999年グーグル入社。一貫して人事・採用や文化の醸成に携わる(写真:グーグル)

ほかにも、世界中のオフィスで1000人以上がボランティアとして参加している「カルチャークラブ」がある。さまざまなチームが社員同士のつながりを促し、コミュニティ作りに励んでいる。

日本ではカルチャークラブが率先し、オンライン音楽フェスやタレントショー(特技などを披露する会)、フィットネスのレッスンなど、社員とその家族が楽しみながらつながりを感じられるイベントを企画してくれた。

日本法人はこの9月で20周年を迎えたが、社員のエンゲージメントが非常に高く、自らの職務を超えて文化を浸透させる活動に積極的だ。

以前から実施している「Googler 2 Googler (G2G)」という社員同士がいろいろなことを教え合うプログラムも、オンラインで活発になっている。(プログラミング言語の)「パイソン」や子育て、マインドフルネスなどの講座がある。日本では3Dのラテアートの作り方や手話、プレゼンスキルなどの講座が開かれた。


* 社員にとって重要な”特典”は大きく変容

――グーグルといえば、健康志向の食べ物を無料で振る舞っているカフェテリアがよく話題に上ります。

ただ、在宅勤務ではそれがなくなりました。

それは確かに、グーグル社員にとっては在宅勤務のデメリットの一つだろう。

今は皆自分で買ったり調理したりして食事を摂っている。食べる量が減って痩せた人もいるかもしれない。

ただそれよりも課題なのは、(オフィスの各所にある)小さなキッチンで居合わせた人と話をしたり、デスクにいる人に話しかけたりする機会が減ってしまったこと。だからこそオンラインでも、ミーティングの終わりにちょっとしたおしゃべりを挟んだりするなど、お互いにより親身になろうとしている。

いずれにせよ、社員にとって今何が重要なのかをきちんと理解しようとしている。

それが(無料の食べ物のような)グーグルで働く特典的なものであれ、在宅でバーンアウトしてしまわないようにするサポートであれ、社員の声を聞くことに多くの時間を割いている。

グーグルの社員たちはシャイではないので、必要な物を率直に伝えてくれている。

 

――実際に社員からはどんなニーズが寄せられ、どう対応しましたか。

例えば学校が閉鎖された際は、家で仕事をしながら子どもの面倒も見なければならない状況になった。

そこでグーグルでは6週間の「Carer’s Leave」という子育てをする親などに向けた有給休暇を設定した。

休校が長引いた際には8週間増やし、合計14週間とした。

一日中パソコンの画面を見続けることなどで精神的に参るという声も多く寄せられ、スンダー・ピチャイCEO自ら、創業来初めて「Global Day Off」という全世界の社員の一斉休暇を打ち出した。

この日はいっさいのメールが入ってこない。今後は10月22日と12月17日に実施される予定だ。

さらに、これまでほとんどの社員がオフィスで働いていたので、自宅で仕事をしやすくする設備が整っていなかった。

そこで在宅勤務手当として昨年1000ドル(約11万円)を全社員に支給している。

このように、社員にとって重要な“特典”はこのコロナ禍で大きく変わった。

以前は無料のお菓子などが置いてあるマイクロキッチンや、オフィスの常駐医師などがそうだったが、今は優先されるものではない。 

 

* 成長の”ひずみ”とどう向き合うか

――この5月には在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせるハイブリッドな働き方を進めていくと発表しました。

会議室の設計も、オフィスにいる人とオンラインで参加する人が交ざっても会議をしやすいように変えていきます。

具体的にどのような働き方になるのですか。

未来永劫そうなるかはわからないが、週のうち何日かは在宅で仕事をし、ほかの日はオフィスに来るというスタイルになるだろう。オフィスでさまざまな人と触れ合える賑やかさを大事にしつつ、(オフィスに来る必要のない)会議がない日も設ける。

もちろん国によって状況は変わると思うが。 

ハイブリッドな働き方を進める中で、チームとして働くスペースも再設計。集中して仕事をすることも、コラボレーションを進めることもできるようにした(写真:グーグル)

バーチャルな体験をどう設計していくかには、慎重になる必要がある。

会議においては、オフィスにいる人もビデオ参加している人も、等しく発言でき、意見を聞いてもらっていると感じられるように注意しなければならない。

(在宅勤務者は)会議などにグーグルミートで参加しているが、会話に入り込むのが難しいと感じる人も多いようだ。会議や共同作業においてオンラインの人も等しく参加できるよう、研修を重ねつつ、テクノロジーの開発も進めていきたい。  

グーグルでは従来、オフィスにいっさい来ずに在宅勤務をすることは非常に珍しかった。オフィスで勤務しないことをどこか軽視していた。最終的には皆がオフィスに戻ることが目標だが、他社と同様にコロナ禍で多くを学び、ハイブリッドな働き方を進めていきたいと思っている。


 ――この数年でグーグルでは成長のひずみともいえる出来事も起こりました。

アメリカの国防総省との取引や中国での検索ビジネスの再参入が報道された際には社員から強い反発が生まれたり、幹部のセクハラ事件が明るみになったりしました。社員が安心して働ける環境をどう整備しますか。 

特定の事案にはコメントできない。ただ過去数年間では、人事プロセスや社内のコミュニケーション、文化醸成のプログラムなど、あらゆる部分で社員の多様性を受け入れ、社員一人ひとりが「会社に居場所がある」と感じられるように、以前にも増して意識的に設計してきた。

そして経営陣や幹部が自らの言葉で、多様性を重視していることや、社員に不安があるときに声を上げる方法など、安全な職場環境を確保するうえで必要なコミットメントを伝えるようにしてきた。その際、彼らに自らの経験を話してもらうようにも促している。

幹部陣にとっては自らの職務以上のことを求めたため、大きなチャレンジだった。だが“人間味のあるリーダーシップ”が重要だ。彼らが自らの言葉で話すことで、皆にとってグーグルが安全で心地のよい職場になることを目指す。

 

――とはいえグーグルはすでに14万人の社員を抱える巨大企業です。

例えば先に述べた「TGIF」では社内での大きな問題が話題に上る。そこでスンダー(CEO)が自ら意思決定の過程を説明する。

もちろんときには(全社員が知ることが)適切でなかったり、機密事項があったりするため、詳細を話せないこともある。

ただできるだけ明確に伝えることは社員から期待されていることだし、一種の契約ともいえることだ。

TGIFのようなコミュニケーションの機会を頻繁に設け、社員が質問をし、懸念を示す場を確保しようと最善を尽くしているつもりだ。双方向のコミュニケーションと信頼関係は創業以来重視している。  

Copyright©Toyo Keizai Inc.All Rights Reserved.




メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。