新型コロナウイルス対策にAIはどう貢献できるか


少し古い情報ですが、今後の政府の対応など、いろいろな情報の整理というコトで、皆さんにご紹介することにしました。

  2020/04/01 

edited by Security Online 

* AIをCOVID-19の対応に活用するには

 医療・ヘルスケア分野で成果をあげてきたAIが、COVID-19対策にどう適用できるか ?   COVID-19対策としては、図のように、患者数の増大の曲線を平らにすることが目標となります。拡大予防のための正確に診断すること、しかもそれを短い時間で行うことが鍵になります。それによって、オーバーシュートのシナリオを回避することができるからです。

  では、AIを使ってどのようにこのCOVID-19の治療法を見つけるのか。どのように回復させ、次の災いを防ぐことができるのでしょうか。


* 医療リソースの配分、地理空間データの活用

 まず予防についてについてお話しします。

アラバマの病院の例で、電子医療記録データを使ってハイリスクの患者を同定するという話をしました。 

COVID-19の対策においても、「医療リソースの配分」がまさに喫緊の課題です。

電子医療記録データを用いてのリスクを予測し、誰を検査(テスト)して、検疫する必要があるのかの判断が問われます。

 そして地理空間データの活用です。現在、中国、韓国、台湾では、陽性者の地理空間データを公開し、国民が検査を受けるために利用されています。

そしてまた地理的にどのスポットが発生し得るのか、陽性の患者がどこにいたのかを知ることです。 

 韓国、台湾においては、緊急措置法のようなものを通過させて、コロナウイルスの陽性の患者のいる場所の国民への公開を認めています。人々がこれを見ることで、陽性者と同じ時間、場所に自分がいたということに気づき、症状が少し出たらそのことをきちんと報告して、優先的に検査をしてもらうことができるからです。

 一般の市民がこの情報に目を向けることによって功を奏する対策です。

台湾の例で言えば唐鳳(オードリー・タン)が政府と協力して、国際クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客が、下船してから訪れた場所を地図上にプロットして公開しました。この試みによって、一般市民が情報に目を向け、感染者の急激な増加を防ぐことができたのです。

  将来もし状況が悪化した場合には、 AIを使ってこの地理空間情報と、EHRによる患者の医療情報をマッチングさせてどのような検査をするのか隔離するのか、どの地域にリソースを配分するのか、などを判断することも考えられます。 ※ EHRElectronic Health Record, 電子医療記録 

 このことがなぜ重要かと言うと、現時点では、国によっては都市のロックダウンや外出禁止令を出しており、そのことによる経済的な打撃が膨大になっているからです。

AIを使った正確な情報によるリソース配分や、地理空間情報やEHRによるパーソナライズした対応ができれば、経済的な悪影響を少しでも低減できるからです。

 

* プライバシーとコントロール

 もちろんこれに対しては、プライバシーの問題が出てきます。これには二つの対処法が考えられます。

  第一は、各個人から自身の空間地理情報の利用についての同意を得るということ。

  第二は、こうした個人の空間情報をクラウドにアップロードするのではなく、AIで検知するモデルを組み込んだアプリケーションなどを各自のスマートフォンの中にダウンロードさせて、診断できるようにすることです。 

  こうした取り組みで、予防とともに経済的な打撃を相当低減できると考えます。

しかしそれについては、まだまだ課題もあります。

これらを実行するために、国や政府の強大な権力と個人のプライバシーの間のバランスをどう取っていくか  ── これについての議論が、もう少し必要になるでしょう。

* 画像分析とAI

 予防のもう一つの方法としては、画像による分析があります。

現在、空港やビルの入り口には、ある一定の体温以上の人を検知できるサーモグラフィーが使われています。

以前は、熱いコーヒーカップを持っていても反応してしまうという問題がありました。

しかし現在のAIでは顔認証もできますし、顔の熱や体温だけを測ることができます。 

 もう一つの画像による予防の方法として病院の中の監視カメラなどがあります。

例えばスタンフォード大学で始まったAIケアというプロジェクトがあります。

病院内の医療従事者が手を洗っているかどうかを監視し、医療従事者が洗わずに患者の場所に近づかないように注意喚起をするというもの。例えば将来都市封鎖が起こった場合、一人で暮らしている高齢者の監視にもこれは使うことができます。

* AIによる診療

 予防を行うためには非常に短い時間で大量の患者を診断できることが重要です。

現在の問題はRT-PCRのテストに約4時間ぐらいかかるということです。これに加えて検体を送る時間などがかかります。 

中国のスタートアップ企業が始めたAIを使ってCTスキャンのデータを数秒で診断を行う事例があります。

CTスキャンは数百枚の写真によって構成されているので、医師が見るにはかなりの時間がかかります。

AIであれば数秒で見ることができるので、肺炎の診療を支援することができます

* AIによる治療

 これは、アメリカのgraphenという会社によるCOVID-19の変異のモニタリングによる遺伝的配列です。

COVID-19はRNAタイプのウイルスなので、非常に短い時間で変異することがわかっています。

この変異を知ることで、製薬会社が医薬品開発のターゲットを絞れ、ウイルスの拡散速度や特定の変異体がどれぐらい有害なのかを予測することができます。

 graphenが測定している変異種、亜種については、日本では11の症例がマッチしています。これをグラフでみると5つのクラスターに分類することができます。

 そのうちの3つは武漢で見つかった標準的なコロナウイルスであり、その他は、重慶やシンガポールで広まったタイプのもの。残りの部分はクラスタを作っていないということが分かります。

この時点では日本においてはいわゆるコミュニティ感染というほど大型のものは起きていませんでした。

ただこのグラフは先週の段階のもので、現在の状況ではないことを申し上げておきます。状況はすぐに変わります。重要なことは一番最初の標準的なウイルスというものを同定するということです。

* 3Dモデルによる可視化

 この図はAIでタンパク質(ウイルスの一部)の形成状況を3Dモデル化したものです。こうしたタンパク質の構造を無害化するためには、3Dの構造そのものを知る必要があります。この3Dの構造はこのウイルスの遺伝的配列から予測することができます。

予測するためには、一番最初にそのウイルスの標準的な遺伝的配列がわかっていなければなりません。 

 DeepMindの発表したタンパク質の3Dモデルの見るためのツール、AlphaFoldにより、コロナウイルスの標準的なタンパク質モデルを見ることが出来ます。AlphaFoldはDeepMindのWebからダウンロードすることができます。 

 AIを使って、化合物の組み合わせをシミュレーションする例があります。

IBMのスーパーコンピューター「サミット」は、77の候補となりうる化合物を既に特定しています。

AIによって、短時間で想定化合物を同定することができるということです。

これらの候補化合物はもともとコロナウイルススパイクの3Dモデルに依存しており、現実世界の研究者によってテストされる必要があります。   

 とはいえ、これも大きな可能性につながるといえます。

77の候補の化合物というのはまだまだラボで検証しているだけでまだ人の治験までには至っていません。

この化合物が人の治験にまで使える段階に行くかどうかはまだわかりません。

* データセットで点と点を結ぶ

 現時点においては各国で、COVID-19の克服をめざしてこのような研究が別々に行われているのです。

COVID-19 、SARS-CoV-2 、コロナウイルス関連の29,000以上の文書を含む、44,000以上の学術文献のデータセットがすでにあるのです。これらの文献を、人間の研究者が全て読むことは非常に時間がかかります。

  そこで、これらの文献をAIに読み込ませ、それぞれの項目の関連性が見いだされ、そこから新しい洞察(インサイト)が生まれてくることも期待できます。

例えば今のウイルスというものがどういった形で伝播していくのか、この疾病の潜伏期間は平均でどのぐらいか──こうした優先度の高い科学的な質問の手がかりを得ようとしているのです。

* 政府と市民の理解

 これまで見てきたようにAIは、医師、政府、研究者など様々な方面の支援ができます。

ではCOVID-19の予防において今後、AIに何が期待できるのか。

まず予防としては正確なデータを収集し、既存のAI技術を活用して優先的に医療リソースを配分することです。 

 政府に対して申し上げたいのは、AIによる防止ソリューションで、感染者の増大の曲線を平坦化し、長期的な経済的損失を減らすことができること。

この感染の曲線をなるべく平坦にすることで、長期的な経済的な損失を減らすことができるということです。

各国の経済は長期的なロックダウンの中で生き延びていくことはできません。だからこそ効率効率的にこのような疾病を封印して方法を考えなければならないのです。

   市民にとっては、今後、重要な選択が迫られるということです。すなわち、これまでの状況と違って自分たちの行動をきちんと制御していくのか、そうでなければ政府に、私たちをよりコントロールする力を与えるかということ ── これらはトレードオフであるといえます。

 検査・診断に関しては、短い時間で大量に診断することが、リソースの配分や順位付けのために重要です。

まず簡単にできる方法としては、AIを活用したCT診断です。

なぜならば病院にはすでにそのCTのハードウェアは設置されており、AIはそのソフトウェアのアップデートで済むからです。 

 ただし、病院でこれをやろうとすると 膨大な承認の手続きが必要になります。

政府に期待するのは、これらの早期のトライアルを認めて実行に移す支援を迅速に行うことです。  

 COVID-19については現在、臨床試験中の様々な化合物の候補があります。

既存の薬剤の中で効果があるものを見つけることができればラッキーですが、そうでなければ、臨床試験中の既存の薬剤の中で候補となりうるものを迅速に検証しなければなりません。そしてもしそこから効果があるものが見つかれば、それらを大量生産する方法を考えなければならないのです。

これまでのあらゆる方法を総動員して、短い時間で取り組まなければいけません。

  そのために、まず政府に対しては積極的な投資をすることをお願いしたいと思います。

なぜなら今の危機的状況を抜け出すためにはそれが必要だからです。そして一般の人々に対しては、AIはプロセスの速度をアップさせるために利用できるが、不確実性は非常に大きいということ、楽観的でも悲観的にもなってはいけないということを理解いただきたいと思います。  

 例えばある薬品が、治療薬になるかもしれないという話が流れても、それに対してすぐに飛びついてすぐに楽観的になるにはいけない。

また同時に悲観的になりすぎてもいけないのです。なぜなら10年前に比べて私たちのテクノロジーは非常に進んでいるし、AI を使ってそのテクノロジーをさらに加速化することができるからです。


2020年4月21日

理化学研究所理事長 松本紘

人類はこれまで、科学技術を駆使して不可能を可能とし、多くの困難を乗り越えてきました。

人類生存の危機に瀕した今、まさに科学技術の真価が問われています。

理研は、国内外の研究機関や大学、企業とも力を合わせ、新型コロナウイルスの克服に貢献します。


リンク AI ネットワーク社会推進会議 2020報告書


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