「登る前に山を決めろ」


ソフトバンクにいた頃、孫正義社長から繰り返し言われたことがあります。

「登る前に山を決めろ」

孫社長いわく、多くの人は「どの山を登るか」を決めないまま、やみくもに歩き出す。

だが、自分がどの山を目指しているかわからないので、どんなに速く歩いても、山の裾野で同じ場所をぐるぐる回り続けるだけで、結局はどの山にも登ることができない。

「最初に『目指す山=ゴール』をはっきりさせろ。

そうすれば、頂上への最短ルートも見えてくるので、どの道をどう歩けば効率的かもわかる。

だからどれほど高い山でも、必ず最速で頂上に辿り着けるのだ」

・・・そう何度も聞かされたものです。

つまり孫社長は「まずゴールを設定しなければ、そこへ向かうための計画も立てられないし、結局は何も得られない」と教えてくれたのです。

孫社長が世界的な経営者になれたのは、単に頭が良かったからとか、行動力があったからではありません。

人生計画があり、自分が将来達成したいゴールから逆算して必要な学びを重ねたから、大きな成功を収めることができたのです。

この話からわかるとおり、人生計画と学習計画はセットであり、この両輪があるからこそ、学習のゴールも明確化します。

ところが日本人は、ゴールを設定するのが苦手です。

日本で学習のゴールといえば、高校や大学の入試に合格することです。

最近は就職活動で有利になるために勉強する大学生も増えていますが、いずれにしても、社会に出た後はゴールを見失ってしまう人がほとんどです。

(中略)

・・・お勧めしたいのが、「ロールモデル」を見つけることです。

皆さんにも「あんなふうになれたらいいな」と思う人がいるのではないでしょうか。

それは身近な上司や先輩かもしれないし、有名な経営者や起業家かもしれないし、ニュースや書籍でその活動や生き方を知って感銘を受けた人物かもしれません。

アメリカ留学前の孫社長にとってのロールモデルは、日本マクドナルド創業者の藤田 田氏でした。

英語が堪能で、アメリカからマクドナルドというビジネスモデルを日本に持ち込み、ビジネスの世界で大成功を収めた藤田氏の著書を読んだ孫社長は、「自分もあんなふうになりたい」と考えたのでしょう。

だから自分がこれから学ぶべきことについて、藤田氏に意見を求めに行ったのです。

高校時代に藤田氏の著書を読んで感動した孫社長は、16歳のときに上京して日本マクドナルド本社を訪ね、社長に会いたいと頼み込みました。藤田氏は時間がないと断ったものの、その少年1週間続けて毎日会社に通ってきたため、熱意にほだされて会うことにします。

どんな人でもいいので、具体的な対象として自分がお手本にしたいと思える相手がいたら、それがあなたのロールモデルです。ロールモデルが見つかれば、「その人が何を学んだのか」「どんな経験やキャリアを積んできたのか」を知ることで、人生計画や学習計画をどのように立てればいいかも見えてきます。


日本マクドナルド創業者はメモ魔だった

ハンバーガーショップ「マクドナルド」を知らない人は、まずいないでしょう。

ところが、日本マクドナルドの創業者である藤田田ふじたでんについては、とりわけ若い世代では、知らない人が多いかもしれません。藤田は同社を、日本を代表する外食企業に同社を育て上げただけではなく、日本の外食業界に科学的な経営理論を導入し、産業化を成し遂げた最大の功労者でもあります。

藤田には、幼い頃から「メモを取る」クセがあったそうです。

目で読んだり、耳で聞いたりした情報は、すぐに忘れがちですが、メモに残せば記憶されやすく、後で見直すこともできます。そのおかげか、藤田は「地頭のいい子ども」に育ち、全国有数の進学校だった旧制北野中学校(現在の大阪府立北野高校)、旧制松江高校を経て、東京大学法学部に進みました。 

藤田が「メモ魔」になるのを決定づけたのが、戦後の占領期にGHQで通訳のアルバイトをしていたときの、ユダヤ人との出会いでした。

 GHQで知り合ったユダヤ人の下士官は、サイドビジネスに高利貸しをしていたので羽振りがよく、上官であるアングロサクソンの将校も、実はユダヤ人に借金があるので、彼らに頭が上がらなかったのです。

藤田はユダヤ人に弟子入りしユダヤ商法を学び、「世の中を支配しているのはカネだ」という信念を抱くようになったのですが、彼がもう1つ、引きつけられたのが、ユダヤ人のメモの習慣でした。

 

商売上手なユダヤ人のメモ術

ユダヤ人は、交渉したり、商談したりするときに、必ずメモを取ります。

日時や金額といった重要事項が曖昧にならないように、記録するためです。

それが、ユダヤ人の正確かつ迅速な判断にもつながっています。

 しかし、市販のメモ帳を常に持ち歩いているわけではありません。

例えば、取っておいた紙切れタバコの空箱に、走り書きをするのです。

ICレコーダーを向けたり、ノートを広げたりすれば、相手も構えますが、物陰やトイレでメモを取るだけなら、警戒されにくく、秘密の話もできるからです。 

ユダヤ人は、後でそういう貴重なメモを集めて、手帳に書き写しまとめます。

こういう作業を行うことによって、記憶がより強化されるうえに、情報が整理でき、理解力や分析力は飛躍的に高まります。 

修羅場でのユダヤ人のメモ術を体得したことで、藤田のメモ術は格段に磨き上げられました。藤田は自宅のトイレや寝室、風呂場、食卓や会社などいたるところに、小さなメモ用紙と鉛筆を置いておき、アイデアを思いついたり、有益な情報を得たりしたとき、24時間どこでもメモを書きつけて、毎日見返していました。

 そして、1週間後にメモをまとめて整理・点検し、内容を忘れたメモは持ち歩き、覚えるまで毎日のように見直していたそうです。



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