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「大成建設ショック」襲来、ゼネコン決算に異変あり

首都圏の再開発工事は競争激化で採算が低下傾向にある。(撮影:今井康一)

梅咲 恵司:東洋経済 記者

2021.09.02

スーパーゼネコンの業績が急降下している。その筆頭が大成建設。

2021年4月~6月期の業績の落ち込みは業界関係者が驚くほどの大きさだった。

「大成さんはここまで悪いのか」

8月上旬、スーパーゼネコンのあるベテラン社員は、出そろった大手ゼネコンの決算資料を見比べて思わずうなった。スーパーゼネコンの一角、大成建設は8月5日、今2022年3月期第1四半期(2021年4月~6月期)決算を発表した。その内容は業界関係者が驚くほどのすさまじい落ち込みだった。第1四半期の売上高は前年同期比5.4%増の2832億円だったが、営業利益は同80.7%減33.8億円と大幅な減益だった。営業利益は通期計画に対する進捗率がわずか3.7%にすぎない。

同社にとっては、2015年3月期の第1四半期に営業利益15.8億円を計上して以来の低水準だった。



*「大成ショック」に株式市場も反応

「大成ショック」とも言える低調な決算内容に、株式市場もすぐさま反応した。

8月5日の同社株価は一時、前日終値比6.8%ダウンとなる3510円をつけた。その後も3500円前後で推移している。 

大成建設はもともと、今期については厳しい見通しを公表していた。

 

5月の期初時点で、今通期の売上高が1兆6400億円(前期比10.8%増)、営業利益は900億円(同31%減)と、2期連続で減益になる計画を示していた。 その理由は東京オリンピック関連の大型工事が前期までで一巡し、新規に獲得した案件も工事に着手したばかりのものが多く、利益寄与が少ないせいだ。

大成建設の経理担当者は「確かに今第1四半期は厳しかったが、これは当初から織り込んでいたこと。業績は(5月に見込んだ)想定線で推移している」と強調する。

ところが、決算内容をつぶさに見ると、同社が想定する以上に状況が悪化していることがわかる。それには競合他社と同様の環境の厳しさに加え、大成建設独自の事情が絡んでいる。 

 

今第1四半期の土木事業(単体)は売上高589億円(前年同期比12.4%増)、粗利率10.2%(前年同期の実績は17.7%)と利益率が大きく低下した。一部の大型工事で不採算工事が発生し、工事損失引当金の計上を強いられたという。

 経理担当者は「受注時の採算が低かったことに加えて、工事の進捗状況から赤字見込みとなる案件が出てきた」と説明する。 

この理由について、同社はこれ以上詳しく説明しようとしない。ただ、同社は工事の受注時点ではなく、直近の原価を反映させる会計基準を採用している。そのため、最近の資材価格の高騰の影響をもろに受けた 

大成建設は、大型工事であればあるほど、より直近の原価を反映させる保守的な企業会計を採用していることで知られる。

2020年12月時点で1トン当たり約7万円だった鉄筋価格が足元では9万円近くまで上昇するなど、資材価格が全般に上昇しているため、これが利益を押し下げる要因となったようだ。 

また、手持ちの東京外かく環状道路の本線トンネル工事も、調布市の住宅街で陥没や空洞が発生した問題を受けて工事が止まっており、こういった独自の事情がマイナス要因となっていることも考えられる。 

主力の建築事業(単体)についても、今第1四半期は売上高1501億円(前年同期比2.9%減)、粗利率は6.2%(前年同期実績は12%)と、利益率が大幅に下がった。

大成建設は詳細を明らかにしていないが、準大手ゼネコンのある幹部は「赤坂と虎ノ門の案件が足を引っ張っているのではないか」と推測する。 

 

大成建設が手がけた新国立競技場(2019年11月竣工)。これら東京五輪関連施設の建設は前期までで一巡した(撮影:今井康一) 

大成建設は目下、東京都内で赤坂ツインタワー跡地の高層オフィスビルや旧虎の門病院跡地の高層オフィスビルといった大型再開発案件を手がけている。

赤坂にはスーパーゼネコンの鹿島が、虎ノ門には準大手ゼネコンの西松建設本社を構えていることもあり、こういった地域での受注競争はとくに熾烈になり、採算が低下する傾向にある。 同社の内実をよく知る業界関係者は、「(大成建設は)原価低減などをかなり頑張らないと、不採算になる案件があるのは確か」と指摘する。大成建設の経理担当者も、「工事量の減少を受け、(営業担当者には)それを埋めにいきたい、量を取りに行きたいという意識がある」と、採算を落としてでも戦略的に受注獲得を目指すケースもあることを認める。 


* 他のスーパーゼネコンも業績が急速に悪化

もちろん、同社はこういった状況に無策のままでいるわけではない。

2020年11月に相川善郎社長の肝煎りで設立した「リニューアル本部」を軸に、需要が着実なオフィスビルなどの修繕・建て替え工事を取り込む算段だ。

また、政府による国土強靱化政策を背景に伸びが見込まれる、道路や橋梁などの補修・修繕工事の深耕にも力を注ぐ。

しかし、これらだけでは土木や建築事業の利益率急落を埋められず、当初の今通期業績計画は未達となる可能性が高まってきた。

業績が急悪化しているのは大成建設だけではない。

同じくスーパーゼネコンの清水建設は、今2022年3月期第1四半期決算が売上高3166億円(前年同期比0.8%増)、営業利益25.3億円(同81.2%減)と、大成建設に負けず劣らずの落ち込みだった。大林組も同様に、売上高4364億円(前年同期比5.1%増)、営業利益144.7億円(同26.6%減)と大幅減益だった。

「建築業界は潮目が変わった。今は工事の取り合いになっている」。前出とは別の中堅ゼネコンの幹部は、業界を取り巻く環境についてこう語る。

2年前まで潤沢だった東京オリンピック関連工事はもはや完全にピークアウトし、最近は新築工事が減っている。

国土交通省によると、建設投資に占める新築工事は2001年度には52.6兆円あったが、2018年度は43兆円にまで減少した。

また、大都市圏の再開発案件などは工事が大型化傾向にあるため、その「宝の山」をめぐり、どうしてもたたき合いの受注合戦になる。

工事量が減ったスーパーゼネコンは、これまで見向きもしなかった中小型工事に群がるようになった。

「今期に入って、東北の工場案件を2件失注した。それぞれ50億円ぐらいの規模の案件だが、スーパーゼネコンに持っていかれた。スーパーゼネコンはいままで100億円以下の物件にはエントリーしていなかったが、最近は果敢に取りに来ている」と、中堅ゼネコンの幹部は明かす。

環境変化による逆風が吹き付けるスーパーゼネコン。各社の今期業績が想定以上に落ち込むことは、もはや避けられない状況だ。 

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大林組、利益率急低下を招いた「ある特別な事情」

梅咲 恵司:東洋経済 記者

2021.09.03

スーパーゼネコンの業績が足もとで急激に落ち込んでいる。中でも大林組の利益急落の背景には「ある特別な事情」が絡んでいる。

「低利益、みんなで渡れば怖くない」

スーパーゼネコンのある広報担当者は8月上旬、ゼネコン大手各社の決算を見て、自虐気味にそうつぶやいた。上場するスーパーゼネコン4社の業績が落ち込んでいる。

大成建設は8月5日、今2022年3月期第1四半期(2021年4~6月期)の営業利益が前年同期比80.7%減の33.8億円になったことを公表した。

大林組、鹿島、清水建設もそれぞれ、前年同期に比べて大幅な減益になった。

 

各社の利益が急落した理由は、受注競争の激化により建築事業の採算性が下がったこと、さらに前期ほどの大型工事がなく、土木の利益率が低下したことなどだ。

ところが、大林組に関しては「ある特別な事情」が絡んでいる。


 

* 高収益の工事がなくなった

大林組の第1四半期業績は、売上高が前年同期比5.1%増の4364億円、営業利益は同26.6%減の144.7億円だった。

内訳をみると、建築事業の粗利率は前年同期9%に対し、今第1四半期は8%とやや下降した。

しかし、土木事業は前年同期に16%だった粗利率が今第1四半期は9.1%に大きく落ち込んだ(いずれも単体)。

土木不振の理由について、大林組のIR担当者は「設計変更により、一部大型工事の採算性が低下した」と説明する。このIR担当者によると、「工期が終盤に差しかかっている高採算の土木工事で数量が減ったために、儲けが削がれたような形になった。その結果、この土木工事全体の利益率が下がったために、過去に計上した利益を見直し、それが損失となって利益を圧迫した」という。

「工事の数量が減る」とは、請け負っていた工事の全区画のうち一部分が施工されないケースなどを指す。

同社は「個別プロジェクトの内容は話せない」(IR担当者)としているが、少し複雑なこの説明の意味を読み解くと、次のようになる。

この大型工事は環境省と2017年に契約した福島第1原発関連の除染廃棄物を保管する施設(「平成29年度中間貯蔵〈大熊3工区〉土壌貯蔵施設等工事」)とみられる。

準大手ゼネコンの幹部によると、「こういった1つの工事の中でも、高採算の工事部分と低採算の工事部分が混在している場合がある」という。ゼネコンが一般的に採用している会計基準である工事進行基準では、工事の進捗に応じて収益を案分計上していく。

順調に工事が進捗すればよいが、工事終盤にきて高採算の工事に取りかかる段階で、その部分の工事がなくなることがある。

そうなると、「高い利益率を見通して案分計上していた過去の利益を、当期に取り崩さなければならなくなり、一気に大きな損失を計上することになる」(準大手ゼネコン幹部)。福島第1原発の中間貯蔵施設の建設工事は比較的高収益な工事とされており、大林組の場合、何らかの事情でこの工事の一部がなくなった影響が第1四半期に出たとみられる。

大林組は今通期業績について、売上高1兆9100億円(前期比8.1%増)、営業利益950億円(同22.9%減)になるとしているが、今第1四半期の土木事業の利益率低下が尾を引き、減額修正されるおそれがある。

 

* 工事損失引当金が1~2年で急増

大林組の場合、さらに気がかりな点がある。同社決算書の貸借対照表に目を移すと、工事損失引当金がここ1~2年で急増しているのだ。

2021年3月期の工事損失引当金は135.5億円と、収益低下に苦しんだ2015年3月期前後の水準を超えている。同社は「工事損失引当金については個別開示をしていない。複数案件において着工後に損益が悪化した。予見していなかったコスト増の事由が判明した」(IR担当者)と説明している。

工事損失引当金は将来発生する可能性のある損失に備えたものであり、その分、将来への備えができているとも言える。ただ、工事損失引当金が右肩上がりのときは、採算性を軽視した無理な受注が増えていることを意味する。大林組がほかの工事でも損失の引き当てが増えれば、業績をさらに下方修正する一因になる。

 

なお、工事損失引当金については鹿島も2020年3月期の125億円から2021年3月期は141億円に、清水建設も同60億円から144億円に膨らんでいるため注視が必要だ。

 

 

ゼネコン業界を取り巻く環境は厳しさを増している。

1990年代のバブル崩壊や2008年に発生したリーマンショックを受け、建設不況に陥った。

それに対し、現在は新築工事そのものが減少基調にある。

また、首都圏の再開発工事などは大型化傾向にあり、数少ない工事をめぐり受注競争が熾烈になりがちだ。

大手ゼネコンの役員は「リーマンショックのときは受注が激減したが、資材価格も下がったのでそれが利益を底支えした。ところが、いまは受注競争が厳しいうえに、資材価格が上昇し、労務費も高止まり傾向にある」と嘆く。

鉄筋価格が2020年12月時点のおよそ1トンあたり7万円から、直近では同9万円近くまで上昇するなど、資材価格が全般に高騰しており、これがじわじわと利益を圧迫するリスクになるというわけだ。

これまで以上に険しい道が待ち受けるゼネコン各社。

変革はまったなしの状況で、M&A(企業の合併と買収)による業界再編や建設請負事業以外の領域の拡大など、大胆な経営戦略を打ち出していくことが求められる。

 

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