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「新首相は河野太郎」バイデン政権から圧力

ジャパンハンドラーは対中強硬しか認めない

2021.9.12 

高島康司

自民党総裁選にバイデン政権から圧力がかかっているとの見方がある。

今のアメリカに「親中」を許す余裕はない。日本にも対中強硬路線を採るように圧力を強めてきていると見て間違いないだろう。ジャパンハンドラーが推すのは河野太郎氏だ。



* 総裁選は派閥結束なしの混戦模様

自民党総裁選における、バイデン政権の圧力について解説したい。

17日告示、29日投開票の自民党総裁選が過熱している。8日の記者会見で高市早苗前総務相は出馬を正式に表明した。

石破茂元幹事長は立候補を見送る方向で検討しており、総裁選は、すでに出馬表明している岸田文雄前政調会長、高市早苗氏、河野太郎行政・規制改革相の3氏が中心になる見込みだ。

高市氏に対しては、政治信条が近い安倍前首相が支援する意向を示している。

また石破派は国会内で会合を開き、石破氏に対応を一任した。

会合では、石破の出馬を求める声が出た一方、河野氏を支持すべきだとの意見もあった。

石破氏は出馬せず、河野氏を支持する方向だ。

一方、河野氏は7日、出身派閥である麻生派の支持固めに動いており、週内にも正式に出馬表明する方針だ(※編注:原稿執筆時点2021年9月9日。河野氏は10日に記者会見を開き、自民党総裁選への立候補を正式に表明しました)

また岸田氏は7日の岸田派の総会で、選挙戦を戦う決意を表明している。

野田聖子幹事長代行は、出馬に必要な推薦人20人確保のメドは立っていないものの、出馬には意欲的だ。

このように、今回の総裁選はすべての派閥が結束して支持できる統一候補が存在しないので、混戦状態になっている。

いまのところ、河野氏と岸田氏が一歩先んじているようだが、事態はまた流動的だ。

 

* CIA系シンクタンクは総裁選をどう読んでいる?

そのようなとき、CIA系のシンクタンク「ストラトフォー」は、総裁選の結果を予想する記事を出した。

ちなみに「ストラトフォー」は、CIAの元分析官のジョージ・フリードマンが1997年に設立したシンクタンクだ。

CIAほか、米政府機関やアメリカを代表する企業がクライアントになっている。

歴代の米政権の外交政策立案に、一定程度の影響がある。

そうした「ストラトフォー」だが、9月3日に「菅総理大臣が辞任。次は誰だ?」という記事を発表し、今後の動きを占った。

その見立てによると、すべての派閥が結束して支持できる統一候補がいるとすれば、それは前首相の安倍晋三だけであり、彼が出馬表明しない限り、日本は毎年首相が変わる回転ドア式首相の時代に逆戻りする可能性が高いとした。

いま自民党には安倍首相が率いる細田派(96名)、麻生太郎副総理の麻生派(53名)、二階俊博幹事長の二階派(47名)、そして岸田文雄の「宏池会」(46名)の4大派閥があるが、これらどれかの派閥の支持がないと、自民党総裁候補の勝ち目はほとんどない。

しかし誰が勝ったとしても、派閥を越えた支持がある安倍首相以外の自民党総裁は、内閣や派閥の調整に苦労することになるだろう。調整に手こずり、毎年首相が交替する可能性もある。

また、一部の自民党関係者が示唆するように、自民党が衆議院で絶対多数を失った場合、与党は公明党に頼って保守連合の多数派を形成することになる。

公明党の反核・反武力紛争の考え方は、台湾や米国との戦略的協力や、中国の海洋進出や台湾への物理的な安全保障上の脅威を回避するための日本の軍事的改革に対する姿勢を軟化させる可能性がある。

 

バイデン政権に「対中外交ハト派」を認める余裕はない

「ストラトフォー」はこのような予測であった。

つまり、派閥を越えた支持のある安倍元首相以外の候補が総裁になれば、自民党の結束は難しく、政権基盤の弱い首相しか誕生しない。

そのような状況では衆議院選挙で安定多数の獲得は難しいので、連立している公明党への依存度は高くなる

その結果、アメリカと中国をバランスさせるハト派的な方向に日本は軟化するのではないかという観測だ。

しかし、今回の総裁選が行われるタイミングを見ると、中国に対するハト派的な姿勢を容認する余地は、バイデン政権にはないことが分かる。

実は米軍のアフガニスタンからの撤退以後、世界の地政学的は転換が加速しているタイミングで、総裁選が実施されるのだ。

バイデン政権は「ISIS-K」などのテロ集団を利用してタリバン政権をとことん不安定化させ、アフガニスタンをテロの温床とすることで、中国やロシア国内にテロを引き起こし、国力を消耗させるという戦略に大きく舵を切った可能性がある。

これは1979年のアフガニスタン紛争の際、ソビエトに抵抗する「ムジャヘディーン」を資金的に、軍事的に支援して、ソビエトの弱体化を図ったと同じ戦略である。

いま米国務省や国防総省の政策立案者には、ブレジンスキーの弟子のような人々が多い。

ブレジンスキーの戦略はいまも生きている。

バイデン政権はアフガニスタン撤退後、中国、そしてロシアの拡大を本気で抑える方向に外交政策の舵を大きく切ったのだ。

 

*「親中は許さない」二階おろしもジャパンハンドラーの意思か

このような状況でバイデン政権は、日本にも対中強硬路線を採るように圧力を強めてきていると見て間違いないだろう。

菅政権はコロナ対策を始め内政を優先した政権で、4月に訪米した際、バイデン大統領との共同声明で台湾海峡における中国の進出を牽制したものの、実際の外交政策はアメリカと中国とのバランスを取るハト派的なものだった。

アフガニスタン撤退以後の状況では、中国に対してハト派的な姿勢の政権は許容できない。

特に、今年の7月に軍産系の「ジャパンハンドラー」が結集するシンクタンク、「CSIS」が出した報告書、「日本における中国の影響」で批判された親中派が実権を握る菅政権ではなおさらである。

ちなみにこの報告書のなかでは、二階幹事長は次のように批判されていた。

・二階は故郷である和歌山の動物園のためにパンダを5頭も中国から買った。

・2019年4月、安倍首相の特使として習近平と会談し、アメリカにはアメリカの方針があるにもかかわらず、

   それを無視して日本は「一帯一路」に協力すると提唱した。

・二階は習近平主席の国賓訪日を主張した。二階は日本の対中援助関係は、中国への影響力の始まりだと見ている。

また、安倍政権当時の今井尚哉首相補佐官に関しては、次のように批判されている。

・元首相補佐官で経済産業省官僚だった今井尚哉氏は、ビジネス的立場から、中国や中国のインフラプロジェクトに対する姿勢をより友好的にするよう、安倍元首相を説得してきた。

・今井は二階とともに強力なグループを形成していて「二階ー今井派(Nikai-Imai faction)」とも呼ばれている。

    今井は、日本の安全保障戦略の一環として経済問題を提起してきた重要人物である。

さて、これを見ると分かるが、「ジャパンハンドラー」は二階幹事長を引き下ろすことには強い意欲を持っていることが分かる。また、二階を許容し、ハト派的な外交を続ける菅政権も引き下ろす対象になった可能性がある。

少なくともそのような圧力が、バイデン政権から非公式にあった可能性は高い。

 

* 元首相補佐官・今井氏はアメリカ軍事投資会社のアドバイザーに

一方、このレポートのなかで親中派の代表として名指しされていた安倍政権当時の首相補佐官であった今井尚哉氏は、すでにその立場にはない。役職を辞している。

しかしながら、いまの今井氏が何をやっているのか調べると、興味深いことが分かった。

なんと「カーライル・グループ」のシニア・アドバイザーになっているのだ。以下がそのリンクだ。

参考:今井 尚哉The Carlyle Group

ちなみに「カーライル・グループ」は、米軍産複合体の中核になっている投資会社である。

ここは投資家から資金を集め、それにより企業を買収し、収益力を向上させて企業を転売し、売却益を出資者に配当するという、いわゆるプライベート・エクイティ・ファンドを運営している企業だ。

こうした投資会社は多いが、「カーライル・グループ」が突出しているのは、買収する企業の多くが軍事会社であるということである。

「カーライル・グループ」はブッシュ(父)元大統領、ベーカー元国務長官、カルーチ元国防長官、メジャー元英首相などの多くの政治家をアドバイザーとして抱え、彼らの人脈を生かして、政府の国防費の支出先を事前に把握する。

そして、支出対象になっている企業を事前に買収し、それが国防費の支出で大きくなると、高値で売却するという方法で巨額の利益を得ている。

2001年の「9.11」同時多発テロ以降、アメリカはアフガニスタンとイラクに侵攻したが、このとき国防総省が管理する多くのプロジェクトが民営化され、民間の軍事会社に委託された。

アフガニスタンやイラク政府軍の再構築、これらの国々におけるインフラ建設、治安維持部隊の結成などだ。

「カーライル・グループ」は、こうした軍事委託企業を手当たり次第に買収して後に転売し、巨額の利益を得た。

「ビン・ラディン一族」とも深い関係にある

また「ジャパン・ハンドラー」の牙城である「CSIS」の出資者は、「ノースロップ・グラマン」「ロッキード」「ボーイング」「ロッキード・マーチン」「レイセオン」などの軍事企業が中心だ。

これらの企業に「カーライル・グループ」も出資している。

その意味では「カーライル・グループ」は、米軍産複合体という巨大コミュニティーの中核であり、「CSIS」とも深くつながっていると見てよい。

なぜ今井氏がこのような「カーライル・グループ」にシニア・アドバイザーになったのかは分からない。

「カーライル・グループ」は、各国の元政府関係者を積極的に雇って要人にアクセスし、いざというときには政府や議会を動かして投資による利益獲得を狙う企業である。

そうした手法を見ると、今井氏は自民党の要人や官僚に深い人脈を持ち、それを利用して「カーライル・グループ」の利害の実現に手を貸す立場にいる。一時は親中派として批判されていた今井氏だが、いまは米軍産複合体の側にいるのだ。

 

* バイデン政権を支える軍事産業とウォール街

ところで、以前の記事にも書いたが、バイデン政権を支えているのは、「外交問題評議会(CFR)」に結集している勢力だ。

これは、トランプを支えた「リバタリアン」とは異なる勢力だ。

バイデン政権の主要な閣僚を調べると簡単に分かることだ。

以下が「CFR」に所属している閣僚だ。

・ジャネット・イエレン財務長官

・アントニー・ブリンケン国務長官

・トム・ヴィサック農務長官

・ジナ・レイモンドー商務長官

・アレジャンドロ・マヨルカス国土安全保障省長官

・サルマン・アハメド国務省政策企画部部長

バイデン政権の主要閣僚は16人だ。そのなかで「CFR」の正式メンバーが6人というのは少ないとの印象も持つかもしれないが、それは違う。トランプ政権で「CFR」のメンバーは実質的にゼロであったのだ。

このことから、やはり「CFR」のバイデン政権に対する影響力は大きいと見なければならない。

特に、上記のもっとも重要な閣僚のポストが「CFR」のメンバーで固められているのは注目に値する。

バイデン政権は「CFR」の影響下にある政権だ。

いま「CFR」は、5,000人のメンバーと企業が参加し、50人の専門研究員を抱える巨大なシンクタンクになっている。

いま、バラック・オバマ、ビル・クリントン、ヒラリー・クリントン、チェルシー・クリントン、ジョン・マケイン、ジョン・エドワーズ、ミット・ロムニーなどの著名な政治家とその子息もメンバーだ。

そして、大口に資金提供者だが、「ロックフェラー」のほか、ウォールストリートの名だたる金融資本、さらにはアメリカを代表する軍事企業が出資者のリストに名前を連ねている。

「CFR」は、軍事産業、ならびにウォールストリートの金融資本の経済的な利害を、アメリカの外交政策に反映させるためのシンクタンクだと言ってよい。

 

* 次期政権は対中強硬路線以外にあり得ない

もちろん、今回の撤退によってアフガニスタンを再度テロの温床にして不安定化し、中国とロシアを地域紛争に引き込んで中ロの拡大を抑止するというブレジンスキーばりのバイデン政権の戦略は、「CFR」の意向を強く反映したものであろう。

バイデン政権は、中国とロシアを徹底して抑えるための強硬路線に、大きく舵を切ったのだ。

そのようなタイミングで日本では、二階幹事長が切られ、菅首相は総裁選の立候補を断念した。

「CFR」にバックアップされたバイデン政権は、対中強硬路線の内閣しか許さないはずだ。

米メディアのさまざまな記事を読むと、有力候補の岸田氏は、米中のバランスをとるハト派として見られている。

 一方、河野氏だが、以外にもウォールストリートの金融産業の受けがよいように見える。

名だたる投資家が、河野氏が首相になることを歓迎している。

理由は、比較的に若く、英語が堪能で、アメリカの利害をよく理解する能力があるということだ。

また、岸田氏のようなハト派とは見られていない。必要によっては、対中強硬路線をとることができる人物と見ている。

いま、「カーライル・グループ」の今井氏がどのような動きをしているのかは分からない。

だが、今井氏が政界に持つ太い人脈を徹底して使い、バイデン政権が望む対中強硬路線の政権樹立に向けて、動いている可能性は否定できない。

 

* 注意しなければならないアメリカ

おそらくいまアメリカは、特に中国の拡大を抑止するためなら、なりふりかまわずあらゆることを行う状況に追い込まれているように見える。これがアフガニスタン撤退以後の状況だ。

ということでは、アメリカがアフガニスタンをテロの温床としてあえて混乱させ、中ロの拡大を抑止するように、台湾海峡であえて紛争を引き起こして、中国の国力を消耗させる戦略さえ実施しかけない。

これは、常識の限度を越えたあまりにぶっ飛んだ見方のように思える。

トンデモ系陰謀論を代表するような仮説だ。驚くのも無理もない。

しかしいま我々は、多数のブラックスワンが舞い降り、何が起こってもおかしくない世界に生きている。

日本がオリンピック景気に期待していた2019年12月頃、誰が現在のような状況を想像できたであろうか?

バイデン政権が同盟国であるアフガニスタンを見捨て、自らの戦略の実現に利用したように、中国の国力を徹底して消耗させるために、同盟国である日本や台湾を利用する可能性がゼロではないはずだ。

日本の次の対中強硬路線の内閣には要注意だ。


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