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デジタル庁  “ITに抵抗を持つ職員”が半数

デジタル庁は前途多難な「自治体DX」を後押しできるのか

2021年09月06日  更新

[松岡功,ITmedia]

行政のDXを推進するデジタル庁が発足した。大いに期待したい。ただ、同庁の重要な仕事の1つである自治体のDXについては、前途多難を示す調査結果もある。果たして、その行方は――。 

 政府が鳴り物入りで設立の準備を進めてきたデジタル庁が、2021年9月1日に発足した。ネガティブな見方も少なくないし、発足前後にもけつまずくような出来事が相次いだが、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)、ひいては日本社会のDXに大きな影響を及ぼす取り組みなので、大いに期待したい。



*「誰一人取り残さない」と本気で言えるのか 自治体DXに立ちはだかる3つの課題

 その期待の中で、同庁の重要な仕事の1つに「自治体のDX」がある。

総務省と連携して自治体システムの仕様をそろえる作業だ。2021年5月に成立した「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」は、全国の市区町村が住民の情報を管理するシステムに関して政府が標準規格を作り、2025年度末までにこれに基づいたシステムに移行させる目標を掲げる。

 住民基本台帳や選挙人名簿の管理、年金や介護などの社会保険や税務について、各自治体はバラバラのシステムを使っている。政府は同法によって、システムの改修をはじめとした維持管理コストや職員の負担を減らせるメリットを強調する。

また、同法は自治体の情報を管理するクラウド環境を国が用意し、各自治体が使うよう促すようにも読み取れる。

そうすれば「国と自治体の情報連携が進み、セキュリティのレベルも高まる」と政府は主張する。

 ところが、この取り組みに対して前途多難を示す調査結果が出てきた。 

 それは、ベネッセコーポレーションが2021年7月29日に発表した「自治体のDX推進に関する調査レポート」だ。

全国31自治体の職員約1400人を対象に、2021年3~6月にWebアンケート形式で調査した。

調査からは、次の3つの課題が明らかになった。


図1 組織内のITプロジェクトでのDX推進における課題(出典:ベネッセコーポレーション「自治体のDX推進に関する調査レポート」)

 1つ目は、「組織内のITプロジェクトでのDX推進における課題」だ。

調査結果によると、ITプロジェクトを推進する職員の約9割が「部門や職員間でのIT知識の差」が原因でプロジェクトを進めにくいと感じている。 約6割が「取引先からIT関連の提案を受けても適切な判断をすることが難しい」と回答した。

DXを進めるに当たり、自組織内や関連先企業との調整、コミュニケーションが課題となっていることが分かった。

  加えて「今後の都市計画にどうITを組み込んでよいか分からない」といった、自治体が描くプランとITのマッチングを課題とする回答も見受けられた(図1)。


図2 職員のIT知識を巡るのDX推進上の課題1(出典:ベネッセコーポレーション「自治体のDX推進に関する調査レポート」)

図3 職員のIT知識を巡るDX推進上の課題2(出典:ベネッセコーポレーション「自治体のDX推進に関する調査レポート」)


*「ITそのものに抵抗を持つ職員」が半数 前途多難なDXを進める鍵は

 2つ目は職員のIT知識を巡るDX推進上の課題だ。

図2に示すように、「現在、活用可能なIT技術が分からない」が7割を超えた。

IT知識不足のため、ITそのものに抵抗を持つ職員も半数近くとなった。 

 3つ目も職員のIT知識に起因するDX推進上の課題だ。

図3に示すように、8割超が「DX推進のために何から着手すればよいか、学び方が分からない」と回答した。

 上記の2つの調査結果からは、DXを推進していく上でITに関する基本的な知識不足がネックとなっており、「何をどうやるべきか」「どのように学ぶか」について悩む職員が多いことが分かった。 

 通信教育大手のベネッセコーポレーションが今回の調査を実施したのは、同社が2021年5月にオンライン学習サービスを使った全国自治体との「DX人材育成に関する実証研究」をスタートさせ、今秋に研究成果を発表する予定だからだ。

今回の調査はその実証研究開始前に、実証研究に参加する自治体に実施した調査結果である。

なお、今回の調査結果の発表資料には、調査に回答した一部の自治体のコメントやオンライン学習サービスについての説明もある。

 さて、3つの調査結果に目を向けると、何とも心もとない自治体のDX推進に向けた実態が明らかになった。

筆者もこれまで自治体のIT化やDXに向けた取り組みを取材してきた肌感覚として、ベネッセコーポレーションの調査結果は実態を表していると考える。もっと言えば、企業の実態も同様だと感じている。

 デジタル庁は「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をミッションに掲げ、「国民目線でのサービス改善、創出」などのスローガンを打ち出しているが、今回の調査結果を踏まえると、それらをやり遂げるには相当な覚悟で臨む必要がある。

その勘所となるのは「徹底した利用者感覚」だと筆者は考える。

デジタル庁の活動の成否を分けるのは、ユーザー目線の感覚を貫き、丁寧な仕事をすることで「国民の信頼を得られるか」にかかっていると断言する。そのためにも同庁のリーダーたちには言動に細心の注意を払っていただきたい。

 自治体DXについて筆者がこれまで取材してきた印象からすると、今回の調査結果とは別に、自らの地域の事情を踏まえて興味深い取り組みを始めている自治体も幾つかある。

彼らの取り組みが、他の自治体にとってもDXのモチベーションになっていると思える部分もある。

 デジタル庁は間違っても「システム仕様の統一」を振りかざして、そうした自治体DXの芽を摘み取らないようにしてもらいたい。逆に、自治体のそうした取り組みを後押しするような存在になってもらいたいものである。

そうした立場を貫くデジタル庁に、大いに期待したい。 

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今の日本に欠けているもの~日本の情報収集機関の現状

前回は、サイバー情報というものを日常的に収集していなければ、サイバー攻撃に対して極めて無力であり、いわば無法地帯に生活しているようなものであると書いた。

サイバー空間のセキュリティーを確保するためだけではなく、いざと言うときに、たとえ政府からの許可を得たとしても、攻撃をすることもできない。攻撃の前提として相手に関する情報が必要だからである。

今回、基本となる情報収集に関してもう少し書いてみよう。

人が、意思を決定する際、持っている知識をベースにし、得られた情報から判断することになる。それは国も同じはずだ。

だが、日本はどうか。

公式な情報機関としては内閣調査室の他にいくつかあるらしいということは、なんとなくご存知だろう。

が、正確な組織名、その実態や活動については良くわからないと言うのが正直なところであると思う。

情報組織にとって、よくわからないということは、大変、良いことである。

昔、筆者が自衛隊にいた時代にこんな話があった。

陸上自衛隊観閲式における部隊の先頭を、黒い戦闘服、黒覆面の謎の部隊が行進する。

外国の武官団が「あれは何だ?」自衛官「あれは陸自の特殊部隊で、スペシャルニンジャフォースS N Fというのだよ」「それはすごいね(ニンジャか、これはすぐに詳細を調べなければ)」と言うわけで列国はその正体を探ろうとするが、何もわからない。日本の忍者部隊の秘匿度の高さに感心する。

そのうち国外で日本に関係するなんらかの事件が起こると、その後、あれはS N Fが裏で活動してあの程度の被害に収めたのだという噂だけが流れる。

こうして、S N Fは、その評判が高まるとともに、ますますその神秘性が高まっていった。

列国の情報機関は謎を解明するためにさらに多大なリソースをつぎ込む。

しかし、一向に正体は掴めない。

それはそうだろう、そんな部隊は実際にはなくて、観閲式の時だけ臨時に編成し黒い服を着せて歩かせるだけなのだから。

しかし、これで列国の限られた情報収集能力を無駄に使わせ、もっと重要な他の仕事がその分できなくなる、というわけだ。

実は、この話は作り話であるが、このように情報機関にとって、その実態がわからないというのは良いことなのだ。

従って、我が国の情報機関も実際にそうであれば良いと思う。

情報機関にほんの少し関わった経験から、情報の重要性は人一倍感じている。皆さんにも知って欲しいと思う。

しかしながら立場上、私が言えることは、一般論として、我が国には諸外国のような情報を収集する専門かつ強力な機関が存在していない。していてもあまりに微力であるということだ。

しかし、日本にも昔は強力な情報機関があった。この話をしよう。

現在、情報機関として極めて有名なのが米国の国家安全保障局(N S A:National Security Agency)である。

ここでは主に無線・有線の通信情報を収集・分析している。その要員数は2万人とも言われる巨大組織だ。

それに対応する日本の機関となると、防衛省情報本部電波部と言うことになる。

規模は不明だがとりあえず数百人としておいて良いのではと思う。仮に200名とすれば米国の100分の1ということになる。

このN S Aと電波部は昔、太平洋戦争時代の電波傍受の機関をそれぞれの先祖としている。

一般的には日本軍は米軍の通信傍受や暗号解読で後れを取り、戦争に負けたということになっている。

ミッドウェー海戦での大敗北などがその有名な例だ。

米軍は日本の暗号を解読してほぼ内容を解明していた。しかし、その中で重要な地名であるAFというのがどこを指すのかの決め手がなく悩んでいた。

そこで、わざとミッドウェー島では水が足りないという情報を流したところ、日本軍が暗号で「A Fでは水が不足している」と電報を打ったので、A Fがミッドウェーであると確証を得たと言うものだ。

個人的な見解を言えば、あまりに話ができすぎているのでおかしいと思っている。

インテリジェンスの世界では、情報源を秘匿するために真実が表に出ることは少ない。

むしろ情報源の秘匿のためにそれらしい話を用意してわざと流したりするものなのだ。

最近になってこの件について、米国の公文書館の資料を調べた方がいて、通説よりもっと早く別の方法で、A Fがミッドウェーであると分かっていたということを見つけたそうだ。

ちなみに、これは気象通報を利用して解明したとのことである。

「A Fではいついつ雨になる」という気象通報から地名を割り出したという。

一方の日本も電波傍受はしていたし、暗号解読もしていた。

そして意外かもしれないが、かなりの成果を得ていたという。

2011年10月、NHKスペシャルは「原爆投下 活かされなかった極秘情報」というドキュメンタリーを放送している。

その内容は、広島と長崎の原爆投下直前に、テニアンを出撃するB−29のうち、異なるコールサインを持つ飛行機が活動中であることを確認し、これらを特殊任務機として注目していたというものである。だが、この情報が活かされることはなかった。

いくら重要な情報を入手しても、分析、評価し、使える情報としなければ意味がない事も同時に示す例である。

敗戦により、担当者たちは資料を焼き捨て機材を廃棄し、自分たちは地下に潜った。

そのため、戦争中に日本が行った電波傍受の成果、実態は闇に葬られ、活躍した話はほとんど伝えられていない。

ちなみにこの時の日本の情報関係者は500名程度だったという説もある。

戦後になり、米軍の傍受機関は一時的に仕事を失ったが、すぐにソ連という新しい敵を見つけ、今ではN S Aとなり、その規模も拡大された。

 一方、日本は米軍の圧倒的な情報収集能力に依存し、自ら情報を収集分析する能力を構築する努力を怠ったように見える。

言い換えると、米国は情報を重視しその勢力を拡大したが、日本は逆であるとも言えよう。

N S Aはその情報収集の矛先を先端的な通信技術であるインターネットに向け、現在、世界一の能力を有するに至っている。

 一方、日本は、憲法、通信事業者法などの縛りにより、その能力は皆無であると言ってよい。

さらに本当に大事なのは、得られた情報を集約し、分析し、結果を適切な利用者に配布することだが、日本はその点も極めて厳しい状況にあると思われる。

日本も情報の重要性に目覚め、強力な情報機関の設立が必要である。

情報軽視から情報重視の国家にならなければ、この厳しい安全保障環境の中で生き残っていけないであろう。

 

伊東 寛(工学博士)

1980年慶応義塾大学大学院(修士課程)修了。同年陸上自衛隊入隊。技術、情報及びシステム関係の指揮官・幕僚等を歴任。

陸自初のサイバー戦部隊であるシステム防護隊の初代隊長を務めた。2007年自衛隊退官後、官民のセキュリティー企業・組織で勤務。

2016年から2年間、経済産業省大臣官房サイバー・セキュリティ—・情報化審議官も務めた。

主な著書に「第5の戦場」、「サイバー戦の脅威」、「サイバー戦争論」その他、共著多数


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