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「菅では無理」見切りをつけた二階幹事長が石破を担ぐ自民のカオス


2021.08.31 

 

菅首相を始め、現在4名が出馬を表明している自民党総裁選。

党最高権力者とも言われる二階俊博幹事長は「菅支持」を明言していますが、同氏が率いる派閥の若手議員たちから異論が噴出するなど、波乱含みの展開となっています。

いわゆる「フルスペック」で行われる今回の総裁選を、識者はどう見るのでしょうか。

ジャーナリストの高野孟さんが、菅首相の再選がほぼありえないどころか総裁選告示前の「退陣」の可能性すらあると指摘。さらに前回の総裁選で惨敗を喫した石破茂元幹事長を二階氏が担ぐ、との仰天情報を紹介。


 

* 菅義偉政権の終わりが「見えてきた」/自民党総裁選の意外な目は石破茂元幹事長か!?

菅義偉内閣の支持率は、毎日新聞が8月29日発表した調査で、前月より4ポイント下げて「26%」と最低を記録した。

医療崩壊の不安を感じる人が70%に達しており、同内閣のコロナ対応の失敗による感染爆発の拡大、それにもかかわらずオリ・パラを強行して国民の目をそちらに逸させて自分の政治生命を救おうという悪あがきが、国民からすっかりお見通しとなってしまったということだろう。

内閣支持率が30%を切り、しかも29とか28ではなく25%前後にまで下がるというのは、それ自体、内閣がいつ倒れてもおかしくない危険水域に完全に突入していることを意味する。

そればかりか、この調査のもう1つの注目点は自民党支持率が前回から2ポイント下げて26%にまで落ちたことである。

かつて“参院のドン”と呼ばれた青木幹雄=元自民党参議院議員会長が言う「青木方程式」というものがあり、それは「内閣支持率と自民党支持率を足して50%を切ると必ず内閣は倒れる」というもの。

別に理論的根拠のあることではなく、政局の直感的な読み筋としてその辺が判断の分かれ目だということなのだろうが、それが今回26+26=52で、すでにギリギリのところに来ていることが分かる。

 

*「菅プッツン」の可能性はあるのか?

自民党総裁選は9月17日告示、29日投開票で行われることが決まった。

ということは、菅が思い描いてきた政権延命策――ワクチン接種が進めば感染は鎮まり、その流れの中でオリ・パラを実施すれば国民は夢中になり、雰囲気が変わる。

そこで9月のパラ閉会式に踵を接して総選挙を打ち、現有276議席の自民党が30~40議席減らしても単独過半数233を割らないラインで止まれば、「健闘した」という話に収め、自民党総裁選は無投票再選、そこから先は長期政権を目指すという希望的観測だけで構築された夢が、粉々に砕け散ったということである。

そこで、これから9月17日までの間に起こりうることとして視野に入れておかなければならないのは、菅のプッツンの可能性である。彼の精神状態はすでに極限に達していて、官邸周辺から漏れ伝わる情報を総合すると……、

▼特に横浜市長選の惨敗が見えてきたことで逆上して、現地指揮官の坂井学官房副長官を「何で負けているんだ」「総理である俺が全面支援しているのになぜ票が逃げるんだ」と怒鳴り上げていた。周りからすれば「あなたが全面支援しているから負けるんですよ」と言いたいところだが、菅はそこがまるで分かっていない。

▼菅は、兄弟のような関係にある小此木が「IR反対」で出馬するという事態を巧く理解できず、とりあえず自分の地元である横浜市で自分の息のかからない市長が誕生することだけは避けようと小此木の背中にのし掛かった。が、その際まさか「私もIR反対だ」とは言えないので、それには触れないようにした。すると野党候補は当然、「小此木は隠れIR推進派で、もし当選したらコロリ転向するに決まっている」と攻撃する。だから票が離れていく。

▼ところが菅の“権力観”は幼稚極まりないもので、最高権力者である俺がこうしろと言っているのにそうならないのは世の中のほうが間違っていると考え、周りに「俺が言っているんだからその通りにしろ」「逆らう奴は異動だ」と怒鳴りまくるので、もう誰もついていけなくなっている。

▼どうして何もかもが思い通りにならないのか理解出来ないので、本人ももうヘトヘトで、執務室で一人になった途端に眠りこけてしまうこともある。

 

この有り様なので、9月5日にパラが閉会した直後のタイミングで「退陣」もしくは「総裁選不出馬」を表明する可能性もないとは言えないと、ベテラン政治記者は予測する。

 

* 菅再選があるとすれば派閥談合しかない

確かに、総裁選に出ても勝てないのであれば、出ても仕方がないということになる。

昨年の場合は、二階俊博幹事長の寝技によって二階派(47)、清和会(96)、麻生派(53)、平成研(52)が菅支持で談合し、それに石原派(10)も追随して5派体制が出来上がり、岸田派(46)、石破派(17)を難なく抑えて総裁選を制することができた。

しかし今年の総裁選が昨年と決定的に違うのは、10月に任期満了を迎える衆議院選挙が迫り、来年7月には参議院選挙も控える中、直接に「誰と一緒のポスターを作れば自分が当選できるか」の選択となることである。

しかも、長く続いた安倍政権の下で楽々と勝ち上がってきた3回生以下の“安倍チルドレン”が衆参とも約半分を占めていて、この人たちが直面する初めての逆風ということになるので、彼らも必死である。

さらに昨年は、安倍の任期途中での辞任を受けてのものであったことから、衆議院283+参議院111の国会議員票計394票と、都道府県各3票ずつの地方票141票の総計535票を争った。

それに対して今年は、いわゆるフルスケールで、衆議院276+参議院107=383の国会議員票に対して地方にも同じく383票が与えられ、その配分は114万人の党員・党友の投票をドント方式で配分する。

その分、一般選挙民に近い感覚が反映されやすい。

従って、派閥のボスがいくら上から締め付けても、国会議員も地方組織も素直に従わないため、昨年のような5派閥談合体制のようなものは実現しない。

ということは、菅の目はほとんどないということで、菅にとっては、それでも「めげずに頑張る菅」として討死覚悟で突き進むか、「もはやこれまで」と潔く事前に下りるかの選択となる。

 

*「横浜ショック」が余りにも大きくて

こんなことになったのは、やはり「横浜ショック」のせいである。

誰よりも、菅政権の生みの親である二階が、「菅総理を代える意義は見つからない」との公言は撤回していないものの、内心では「菅ではもう無理」と見切りをつけ、菅と心中しないで済む方策を考え始めたと言われる。

狸爺としては当然のことだろう。

安倍晋三前首相は、横浜ショック前は、ここは1つ早々に「菅続投」への流れを作って菅に恩を売り、総選挙でのほどほど敗北の責任は二階に押し付けて幹事長に盟友の甘利明=党税調会長を据え、自分は清和会の会長となって「キングメーカー」の地位を固めようという構想だったが、菅では衆院選は政権の維持もおぼつかないほどの大惨敗になりかねないということで、元々昨年は後継指名するはずだった岸田文雄支持に回帰すべきかどうか迷っているところだろう。

安倍がそうなら麻生も腰が座らない。そういう訳で、昨年談合で菅政権を生んだ5派のうち、派閥としてはっきりと菅支持を打ち出しているのは、今のところ最小派閥の石原派だけなのである。

二階派は、二階自身は上述のように公言しているが、派閥の会合では多くの若手から「勝手に決めるな」と異議が上がった。

清和会は細田博之会長が個人見解として菅支持を口にしたが、安倍はずる賢いことに明言を避けており、派閥としての議論もまだ行われていない。麻生派も幹部会で議論したものの結論を先延ばしした。

平成研は、体調不良の竹下亘会長の代行を務めている茂木敏充外相が「基本は菅支持で」と言ってはいるが、この言い方は「他の選択もある」と言っているようなもので、いずれにせよここも合議はない。

この状況では、安倍と麻生が「岸田で行こう」と踏み出し、「菅でなければ誰でもいい」と思っている者たちが追随するということはあり得ても、菅への流れが派閥次元から生じることはあり得ないのではないか。

 

* 石破の可能性もにわかに浮上するか?

こうした中で、「もう終わった」とまで評されてきた石破茂=元幹事長がにわかに浮上し、総裁選の目となる可能性が出てきた。菅が出馬しなければもちろん、出馬した場合でも石破が出れば、「岸田ではどうも頼りない」という気分を持つ人たちの票を掻っさらっていくかもしれない。

そうは言っても石破は昨年の惨敗の後、派閥の中心幹部3人が離れて行き、派閥そのものが解体状態ではないかと思うのだが、政治評論家の伊藤惇夫は、菅に見切りをつけた二階が石破を担ぐという「とてつもない隠し玉」を用意していて、何と、二階の宿敵である安倍も岸田を捨ててそれを容認する可能性があると指摘している(「週刊現代」9月4日号)。

ちょっと話を面白くしすぎているようにも思うが、要するにこのままでは自民党そのものが撃沈してしまうかもしれないという危機の中で、そこを突破できるのなら「何でもあり」ということなのだろう。

冒頭に引いた毎日調査では、次の総理に誰が相応しいかの問いに(1)石破13%、(2)河野11%、(3)菅、岸田10%と上位は接戦ながらやはり石破が頭少し抜けている。以下の高市、安倍、小泉はほぼ番外。下村は問題外である。


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