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「破綻ルート」に入った中国経済

規制連発の習近平は何に焦っているか?労働力不足と中所得国の罠

2021年8月24日

勝又壽良

 高い経済成長率を続けてきた中国がここに来て大失速。GDP成長率は2030年までに2%と米国並みになると予測されており、米国を追い抜くという夢は儚く消えるであろう。

さらに「中所得国のワナ」という現実に直面して、中国共産党の政策に関する巧拙が問われる事態が起こりうる。



* 西側諸国の信用を完全に失った習近平

飛ぶ鳥を落とす勢いできた中国経済だが、ついにその成長源泉の底が見えた。

はっきり言えば、成長力の源であった労働力が枯渇化したのだ。

こうした欠陥の上に、計算外の要因としてパンデミック米中対立のデカップリングが加わった。

習近平氏の性格によるのだろうが、民族主義を前面に出してしまった結果、今さら他国との協力体制を築けない根本的な欠陥が、中国経済の前途を塞いでいる。

強烈な「戦狼外交」が、中国の対外的な信用を失墜させた。今後は、自ら選んだ「茨の道」を歩むほかない。

さらに悪いことには、習氏が「終身国家主席」を目指す体制を敷きつつあることだ。

西側諸国は、この狙いが世界覇権を目指すことにあると結びつけている。

習氏の存命中は、米中冷戦が不可避と、西側諸国を身構えさせているほどである。

これも、中国にとっては不幸な出来事である。

苦境に立つ中国経済は、技術・資本・貿易などの面で西側諸国の交流を得られないという決定的な事態になっている。

こうして、2030年までにGDP成長率は、2%まで低下するという予測が出るほどになっている。詳細は、後半で取り上げたい。

 

* 規制連発の裏にある焦り

私は、一貫して中国経済について冷静な見方に立ってきた。

この視点は、最近の中国における一連の「ドタバタ劇」によっても裏付けられるであろう。

中国は昨年11月以降、独占禁止・金融・データセキュリティー・社会的平等などの分野で、50件以上の措置を取ったと報道されている。7月末まで、週に1件以上のペースとされる。最近はもっぱら「社会的平等」が脚光を浴びている。

またの名は、「共同富裕」の実現である。

中国は建国以来、国家社会主義の立場を明らかにしてきた。それが突然に「共同富裕」実現というのである。

建国以降、この目標の実現を目指してきたはずだが、現実は全くそうでなかった。

所得格差の程度を示す「ジニ係数」は、2000年の0.599から2020年は0.704に大きく悪化している。

中国は主要国でも格差が最も著しい国である(クレディ・スイス調べ)。

「ジニ係数」は、所得分配の不平等を示すものである。

0~1の間で「ジニ係数」が算出され、1に近いほど不平等であることを示し、0に近いほど平等とされている。

通常は、0.4ぐらいである。中国は、2000年で0.599とすでに高く、2020年は0.704まで悪化している。

この間に、全く対策が取られなかったのは、すでに「社会主義の看板」が泣く事態に陥っていた証拠だ。

こうした「不平等の極致」に落込んだのは、不動産バブルによる値上り益が富裕階層へ転がり込んでいた結果である。

この富裕層は、多くが共産党幹部とされている。一般に一人で2~3軒の住宅を保有し、資産運用の実を上げてきた。

しかも、いまだに全土で固定資産税が実施されていないのだ。

全人代(国会)で、固定資産税採用の議論が出るものの、ことごとく闇に葬られ「検討課題」で先送りされてきた。

全人代に席を置く共産党員が、固定資産税の成立を妨害したと言える。

習氏は、この全人代で賛成を得られなければ「国家主席3選」が実現しないという事情にある。

そこで代わりとして、所得分配の不平等をもたらした「犯人」として、民間企業経営者を標的にしている。

政府の「共同富裕論」は、高額所得層に寄付金を迫っている。

 

* 高額所得層を叩く理由は

高額所得層の経営している「テック企業」が、当局の規制対象になってきた。

具体的には、フィンテック(ITを利用した金融事業)、インターネット・ゲーム、教育塾の非営利化である。

こうして、高額所得者の経営基盤を突き崩せば、高額所得をうることもないという判断であり、大局的な視点を失った短兵急な決定である。

これらの規制が、そこで働いてきた人々を失業させていることに気付かないのだ。

これが、新たな雇用問題を発生させている。同時にテック企業という付加価値の高い産業を抑圧することで、GDP成長率を低下させるのである。

産業発展の歴史は、第1次産業 → 第2次産業 → 第3次産業という発展コースを辿っている。

テック産業は、最大の付加価値を生む第3次産業である。ここを叩いてどうするのか。

「金のなる木」を枯らすようなものである。

習政権は、GDPで米国を抜き「世界一」になることが目標のはずである。

現在、それと逆行する道を選択していることは、あまりにも場当たり的な政策である。

「モグラ叩き」で夢中になっているが、その後に何も残らないという不毛の戦術を採用しているのだ。

習氏は、テック産業を叩いて製造業へ回帰する意向である。

自動的に、GDPの伸び率を抑えるが、米中対立のデカップリング(分離)に備える対策だ。

国内で製造業の自立化を目指すが、肝心の技術と資本を所有するのは西側諸国である。

この西側諸国と断絶しては、製造業の発展は覚束ないのである。

この苦難の道について、習氏は「新長征」と粋がっている。

新長征とは、毛沢東の指揮した共産軍の逃避行である「長征」(1934~35年)を再び実行する気迫で、製造業の自立化を図るというのだ。

製造業の自立化は、基礎技術の成立していた戦後日本で成功したが、中国では不可能である。

時間のロスは明らかであって、その間に人口の超高齢化が進行して「中所得国のワナ」にはまりこむであろう。

「中所得国のワナ」とは、1人当たり名目GDPが1万5,000ドル見当(現在は約1万ドル)で足踏みして、先進国の証である高所得国へ発展できない事態を指す。

第2次世界大戦後、「中所得国のワナ」を突破したのは、日本、韓国、香港、台湾、シンガポールなど限られている。

韓国・台湾は日本の植民地であった。香港・シンガポールは英国の植民地だ。

日英の植民地政策が、収奪型でなかったことの証明であろう。 

 

* 「中所得国の罠」が現実に

冒頭で、2030年までに中国のGDP成長率が2%へ低下する危険性を指摘した。

これは、最終的に「中所得国のワナ」に陥る危険性を示している。

まず、2%へ低下する過程から見ていきたい。

1)コロナの「デルタ株」の蔓延によって、感染防止に時間がかかる。

 有効なワクチンを欠いており、パンデミックからの 本格的回復に時間がかかること。

2)不動産バブルの影響で、信用不安が高まっている。これが、経済成長の抑制要因に働く。  

 金融は経済の血液である点を無視してはならないこと。

3)経済成長基盤の脆弱性が明らかになって、ここ数四半期はGDP成長率で米国に抜かれる公算が強く、テック産業抑制のマイナスが表面化すること。

 

前記の3点について、コメントを付したい。 

(1)中国は、パンデミックからはいち早く回復し、習氏は昨年9月に「終息宣言」を出したほどである。

その後に、「デルタ株」という感染力が強力なコロナの感染に見舞われている。

中国のワクチンは、この「デルタ株」への予防効果が低いとされている。

他国の例では、中国製ワクチン接種後に再感染して死者まで出ている。

こうして、米英製のワクチンを再接種する事態を迎えている。

中国は、あくまでも自国製ワクチンに拘っているので、再感染防止には「ロックダウン」しか方法がなくなっている

この点が、米国や西側諸国と大きな差だ。

米国は、自国製ワクチンの3回目接種に動いており、中国のようなロックダウンを取るわけでない。

「コロナと共存」スタイルである。

欧米は、「コロナと共存」であるので、個人消費は活発になっている。

感染初期では、「巣ごもり需要」で消費財需要が高まり、中国の輸出需要を盛上げた。

現在は、サービス需要に切り替わっており、中国の輸出需要が一巡して下降に向かっている。

中国の個人消費は、ロックダウンの影響を強く受けている。これだけではない。

不動産バブルに伴う家計負債の増加から、構造的に消費を抑制しなければならない局面である。

習政権は、これに驚いてテック企業虐めを始めているが、見当違いも甚だしい。

不動産バブルこそ、個人消費抑制の原因である。

 

(2)信用不安も経済活動を抑制している。金融機関は、貸出先の返済に疑問点があれば貸出を抑制する。

これは、信用創造の不活発化を表し、景気下降の大きな要因になる。

この信用創造とGDPとの関係は、クレジットインパルスという指標で判断できる。

これは、新規貸出の増加率と経済成長率を対比して拡大か縮小かを見るもの。

投資・消費が促されるか、縮小するかが明らかになる。

このクレジットインパルスは、2020年10月にピークアウトした。その後もほぼ一貫して低下し、この4月以降はマイナス圏で推移している。クレジットインパルスは、上昇と下降にそれぞれ2~3年のサイクルとされている。

このことから判断すれば、23年秋ぐらいまでは下降するだろう。

製造業PMI(購買担当者景気指数)の好転に繋がるのは、その後(約12ヶ月の遅れ)となる。

 

* 米中のGDPが逆転へ

(3)今年4~6月期の米国GDPの伸び率は、前年同期比12.2%である。中国の7.9%を上回ることになった。

これは、珍しいことと注目されている。

多くの米国エコノミストによれば、米国優位の状況は少なくとも、あと数四半期続くとしている。

米国の経済成長率が一定期間継続して中国を上回るのは、少なくとも1990年以降では初めてだ。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月19日付)が報じた。

これは、私が(2)で取り上げた中国のクレジットインパルス動向と、完全に一致していることに注意していただきたい。

中国経済は、不動産バブルによる過剰貸付が信用不安を引き起しており、信用創造が機能しない状況にあるのだ。

金融という「血液」の循環が滞れば、経済活動は停滞して当然である。

「少なくともあと数四半期」は、米国のGDP成長率が中国を上回る事態になれば、世界の中国経済を見る目はがらりと変わるだろう。これまで、「中国経済万歳」を叫んでいた向きには、とんだ逆風が吹き付けるはずだ。

来年一杯の中国GDPが、米国を下回る状態が続けば、習近平氏の面目は丸潰れとなる。

習氏は、すでにこの事態が起ることを察知しているに違いない。

こういう前提で、矢継ぎ早に出された企業規制や「共同富裕論」は、火の粉を振り払う予防策と見える。

高額所得者を狙い撃ちして、景気低迷の責任を被せようという動きは、共産党独特の責任回避の嗅覚を表している感じだ。

 

* 生産年齢人口の減少

15歳から59歳までの中国の生産年齢人口は、2014年に絶対数でピークを迎え、その後は縮小に転じている。

下記のデータのように、生産年齢人口は2020年に0.5%減である。

 

米中の生産年齢人口増減率

   中国(15~59歳)   米国(15~64歳)

1960年: 9.83%       8.84%

1970年:23.92%      15.87%

1980年:28.08%      21.44%

1990年:30.87%      11.52%

2000年:13.60%      12.00%

2010年:11.16%      11.17%

2020年:  4.82%         3.31%

※出所:国連(1970~2000年), 米国勢調査局, 米労働統計局, 中国国家統計局(2010~20年)

キャピタル・エコノミクスによると、中国のGDP成長率が2030年までに2%に減速すると予想している。

これは、米国の潜在成長率にほぼ等しい水準だ。

中国の生産年齢人口(15~59歳)と、米国の産年齢人口(15~64歳)の基準が異なることについて説明したい。

中国は、定年制が男子で60歳である。こういう事情で、中国だけ国際標準の15~64歳よりも5年短い。

中国の生産年齢人口は、世界標準よりも約10%少ないことに留意されたい。

中国の労働力は、それだけ有効活用されていないのだ。

米国は労働力不足になれば、移民で補える便宜性があるから柔軟である。

その点で、中国は深刻である。

GDP成長率が2030年までに2%と米国並みとなれば、米国を追い抜くいう夢は、儚く消えるであろう。

それよりも、「中所得国のワナ」という現実に直面して、中国共産党の政策に関する巧拙が問われる事態になるに違いない。

そのとき、どのように説明するかだ。例によって、「新時代の到来」という逃げ口上を利用するであろう。

「一人っ子政策」の継続が、生産年齢人口を縮小させた最大の要因である。


「適合的期待」に注意せよ



異物混入、日本向けのみ モデルナワクチン委託先

(2021/08/27-07:36)時事通信

【ニューヨーク時事】

米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチンで異物混入が確認された問題で、製造工程の一部を委託されたスペインの製薬会社が26日、声明を発表し、混入が見つかったのは日本向けの特定の製造ロット番号のワクチンのみであると明らかにした。

原因については調査中で、モデルナや日本での流通を担う武田薬品工業とともに、関係当局と協力して究明に当たっていると表明した。声明を出したのは、マドリードに本社がある製薬会社ロビ。

モデルナによると、ロビは米国以外に供給するワクチンの瓶への充填などの最終工程を担当している。

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ワクチン異物はステンレス 機器破片、製造過程で混入―モデルナ製・厚労省

(2021/09/01-23:37)時事通信

 

 厚生労働省は1日、使用を見合わせていた米モデルナ社製の新型コロナウイルスワクチンに混入していた異物について、製造機器の破片でステンレスだったと発表した。同社などが詳しい成分と混入の経緯を調べていた。

ステンレスは心臓の人工弁などに使用されており、厚労省は「健康や安全に過度のリスクをもたらすことはない」とし、ワクチンの有効性にも問題はないとしている。

 同省は同じ製造番号など計約163万回分の使用を見合わせているが、政府はこのうち50万回分強が接種済みと明らかにしている。

 同省や国内でモデルナ製の流通を担う武田薬品工業によると、日本向けワクチンを製造するスペインのロビ社が調べた結果、製造ラインで瓶に栓をする過程で、機器に取り付けられた金属部品同士がぶつかり合う不具合で摩擦が発生。混入につながった可能性が高いと判明したという。

 調査結果を受け武田薬品は、使用を見合わせている三つの製造番号のワクチンの自主回収を決めた。

これらは全国計901会場に納入されていた。同社は、この不具合は使用見合わせ中の製品に限られるとしている。

 これまでに明らかな健康被害は確認されていないが、対象ワクチンを接種された男性2人が死亡したことが分かっている。

厚労省は、現時点での接種との因果関係は不明としており、引き続き情報収集を続ける。

 

 異物は8月26日までに、東京都と埼玉、茨城、愛知、岐阜各県にある計8カ所の接種会場で見つかった。

いずれも製造番号が「3004667」の製品で、厚労省は同時期に同工場で製造された「3004734」「3004956」と合わせて使用を見合わせていた。


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