· 

定年後に備えて50代のうちにしておくべきこと


大塚 寿 : エマメイコーポレーション代表取締役

2021年08月12日

 定年後、まったく予定がなくなり、急速に老けてしまう……あなたの周りにもそんな人はいないだろうか。

実際、「予定のない定年後は拷問のように苦しい」と言う人もいる。だからこそ、50代のうちに「居場所」を作っておくべきだと主張するのは、『50歳からは、「これ」しかやらない』の著者、大塚寿氏だ。

大塚氏によれば、「出世街道をひた走ってきた人ほど、定年後に苦労する」というのだが……。

 

* 多くの男性が陥る「居場所がない症候群」

「定年後になって初めて、『居場所がある』ことの重要性に気づいた」。

会社員として勤め上げて定年を迎えた人から、このような話をよく聞きます。

「予定があることがいかに幸せか」。このような声もよく聞きます。「予定がないことは拷問のように辛い」と言う人すらいます。

離れてみて初めて、会社というコミュニティに所属していることの重要性に気づいたということでしょう。

ちなみにこうした悩みは、女性からはほとんど聞いたことがありません。

おそらく女性は職場以外にも友人や地域、趣味のコミュニティに属していることが多いため、仕事を離れても「居場所がなくなる」ということがあまりないからだと思います。

「出世街道をひた走ってきた人より、そこから早期に脱落した人のほうが、幸せな定年後を過ごしていることが多い」というのは不思議なことではありません。

おそらくその原因の1つはコミュニティだと思われます。

というのも、会社から期待されずに時間ができた50代は、定年前から外部にコミュニティを求めるケースが多いからです。

そして、妙なプライドを持った「出世組」に比べ、そうしたしがらみから解放されている「非出世組」のほうが、人間的に愛されてコミュニティに溶け込みやすいという側面もありそうです。そう考えると、定年後に急に「コミュニティ探し」をするより、50代のうちに別のコミュニティに属しておく必要があると言えるでしょう。

さらに言えば、そのコミュニティも1つだけではなく、できれば5つくらいのコミュニティの一員であるのが理想です。

しかも、それぞれのコミュニティで「違ったキャラクター」を演じることが重要です。

会社というコミュニティでは「厳格な上司」であったとしても、趣味のテニスのコミュニティでは「素直に教えを請う初心者」、地域のコミュニティでは「気軽に冗談を言う明るい人」などです。心理学者の植木理恵さんによれば、こうして複数の「ペルソナ」(仮面)を使い分けることは、心の健康のためにも必要なことだということです。

さて、あなたは今、どんなコミュニティに属しているでしょうか。

数えてみてください。ちなみに、「会社」以外のコミュニティとしては、以下のようなものが考えられます。

・地域のコミュニティ(町内会、同じマンション内でのつながりなど)

・ボランティア関連

・スポーツ関連(ゴルフスクール、テニススクールなど)

・スポーツクラブ

・趣味の仲間(ダンス、釣り、音楽、芸術系など)

・習い事

・学生時代からの友人

・前職の同僚や友人

50代最後の年を迎えている私が所属しているコミュニティを思いつくままに挙げると、

・仕事のコミュニティ

・ゴルフのコミュニティ

・元リクルートのコミュニティ

・ビジネス書作家、編集者のコミュニティ

・「朝礼だけの学校」のコミュニティ(オンラインサロン)

・実家、地元のコミュニティ

・地域のコミュニティ

ーーといったところでしょうか。

もし、あなたが属しているコミュニティが5つ未満、特に「会社しかない」ようでしたら、今すぐ行動を開始すべきです。

 

* コミュニティは「感覚」で選べばいい

ここで、「50代からのコミュニティ作り」において、重要なことを1つ。それは、「入るのも気軽に、出るのも気軽に」ということです。

人間関係ですから、合う・合わないは必ずあります。自分に合わない、あるいは何か違和感があると思ったら、フェイドアウトしてしまって結構です。

違和感を抱くようなコミュニティは、結局長続きしません

嫌な人間関係を引きずるのは会社だけで十分ですし、その会社ですら50代になったら人間関係を我慢する必要もないのです。

また、コミュニティには毎月のように会合を開くような強い結びつきを持つものも、年に一度会うかどうかのゆるいものも、どちらもあっていいと思います。

コミュニティなど探せばいくらでもあります。ここでもある程度「自分勝手」になって、本当に居心地のいい場所を探すべきでしょう。

ここまで「コミュニティ」について、すでにあるコミュニティにこちらから参加するという想定で話をしてきました。

しかし、実際には自分でコミュニティを作ってしまってもいいわけですし、実際、そうしている人も大勢います。

さらに言えば、いつのまにかコミュニティが自然発生してしまう場合も少なくありません。

メーカーに勤務していたDさんはあるテニスのコミュニティに入っているのですが、そのテニスのコミュニティができたきっかけは非常にユニークなものでした。

Dさんが住んでいる市では、テニスコートの人気が高く、ほぼネット抽選になるそうです。

そのため、抽選で当たった人同士がネットで「一緒にやりませんか」と相手を探し合うようになり、そこから自然発生的にテニスコミュニティが成立していったそうです。

こういうコミュニティのあり方もあるのかと思った次第です。

 さて、このDさんはテニスだけでなく囲碁のコミュニティにも入っており、それだけ聞くととても社交的な人物だと思われがちです。

ただ、実際に会ってみるとごく普通というか、むしろ内向的な性格で、率先して何かを始めるようなタイプの人では決してないのです。

私はそんなDさんのあり方に、「定年後のコミュニティ活動をうまくやっていくコツ」があるように思います。

私たちはついついコミュニティというと、人を引きつけるエネルギーを持ったリーダーがいて、そのコミュニティを運営しているように思いがちです。

いわゆる「オンラインサロン」のようなあり方をイメージするのですね。

ただ、「同じ興味や趣味でつながる集団」というのは、実はそういう類いのものではありません。

「高い実績を上げよう」とか、「テニスで全国大会に出よう」とかいう明確な目標を持つようなコミュニティは少なく(ないわけではありませんが)、「楽しくやれればいい」という人がほとんど。むしろ、「仕切りたがり屋」がいることを好ましく思わない人も多い のです。

 

* 「ゆるいコミュニティ感覚」に慣れておこう

「会社人生の常識から抜け出せない人」がやりがちなのは、ここで無用なリーダーシップを発揮したり、「そのコミュニティで一番になりたい」とマウンティングを始める、といったことです。何度も言っているように、出世街道をひた走ってきた人ほどこうしたワナに陥りがちです。そして、いつのまにか周囲から疎まれて、コミュニティから追い出されてしまうのです。

こうした「ゆるいコミュニティの感覚」をぜひ、50代のうちから培っておいてほしいと思います。

そして自分は「出世街道をひた走っている」という自覚がある人もぜひ、それとは別のペルソナを持つために、50代でなんらかの「趣味や興味でつながっているコミュニティ」に入ってみてもらいたいと思います。

「勝ち負け」にひたすらこだわるのが会社人生です。

だからこそ、「勝ち負け」にまったくこだわらないもう1つの世界を持っておくこと。

それが、厳しい競争社会を生き抜くための支えとなってくれるかもしれません。

Copyright©Toyo Keizai Inc.All Rights Reserved.


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。