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カネ漬けで“中国依存症”国家を量産。習近平「武力を使わぬ」覇権拡大


中国製の最新世界地図2015

2021.07.19

 

元国連紛争調停官の島田久仁彦さんは、かつて中国政府の高官から直接聞いたという、習近平政権がASEAN諸国で行なっている「テスト」の存在を明らかにするとともに、着々と進む中国による世界覇権拡大戦略を分析・考察。その上で、築かれつつある新国際秩序の中心には、良くも悪くも強い中国が存在することになるとの考えを記しています。

 

* 中国は本当に名実ともに超大国になったのか?
ここ20年ほどで顕著に実力を伸ばし、覇権拡大への意欲を露わにしている中国。
そして【アメリカに追いつき追い越す】可能性について議論されるようになり、アメリカの政府内(議会を含む)では【中国脅威論】が高まる一方です。
トランプ政権時代には、トランプ氏が大統領就任時には蜜月の関係を演出していたようにも見えましたが、初の米中首脳会談の晩餐会時に、シリアに対してトマホーク巡航ミサイルを70発弱発射することで暗に脅しをかけ、実際には高まり続ける、国際情勢における中国のプレゼンスに激しく反応し、対中制裁を連発しました。
軍事的な衝突は起きませんでしたが、米中間の経済関係と信頼は大きく傷つけられたと言われています。
その後、アメリカサイドではバイデン政権が誕生し、大方の予想に反して、対中脅威論はさらに高まり、経済的な側面はもちろん、トランプ政権時には噂こそされても、実行に向けたプロセスは進めなかった軍事的な対峙の可能性もささやかれています。
国際協調への復帰を公言したバイデン大統領のアメリカ外交に引っ張られるように、欧州各国も「中国離れ・アジアシフト」を本格的に進め、日本は台湾へのコミットメントの強化の明言と、(軍事)防衛力の強化に向けた合意をアメリカ政府、そしてG7各国とかわすことになりました。
クアッド、平和で安定したインド太平洋戦略などと合わせ、対中包囲網の強化が進められました。
“世界”が中国を超大国と認識した証と言われます。
しかし、それまで世界を牛耳ってきた欧米社会に対する中国の軍事的・経済・社会的な挑戦と、それを支える戦略の背後にある“事実”を単純明快に説明することは容易ではありません。
それは、欧米社会や日本が辿ってきた発展のプロセスとは異なり、中国共産党による一党支配、イデオロギー、経済発展のための周到な戦略、軍事的な戦略と軍拡、科学技術の習得と応用のための官民一体となった徹底的な戦略、そして「中華民族の再興と統一」というわかりやすく、人心を掌握しやすい目的の設定…。
中国の力の根源は、さまざまな側面を同時に有しているからだと考えられます。
これまでは、日本という例外を除けば、「圧倒的な軍事力とそれに支えられる政治的影響力と外交力」、「圧倒的な経済力と技術力を通じた世界市場における支配力」、そして「文化・カルチャーの普及による思考への影響力」という、大きく分けて3つの力による覇権構造だったと考えますが、中国のそれは、各要素が補完的に作用しつつ、対象を使い分けている点が興味深く思います。
* 経済的な覇権を拡大し超大国になろうという戦略
総合的な軍事力(装備や性能というハードコアなものと、作戦立案と執行力というソフトな力)という観点では、中国はまだまだアメリカには及びません

 

何よりも、中国は、現時点では世界的な軍事プレセンスは目指しておらず、あくまでも中国の軍事的な関心はアジア太平洋地域とインド太平洋地域に焦点が当てられています。
言い換えると、香港・マカオ、南シナ海、尖閣諸島などの東シナ海海域、そして台湾が、フォーカス地域に含められ、中国はその地域での対米優位性の確立に動いているに“すぎない”と分析できます。
極超音速長距離弾道ミサイル(核弾頭付き)の開発と配備というように、確かにアメリカ本土や欧州各国を射程に含む装備もありますが、対米・対欧州先制攻撃は、今のところ想定されておらず、抑止力としての位置づけに留まっています。
戦略的な関心はアジアに限定されており、アジアにおける中国の権益(ただし、一方的に強引に主張されているもの)を脅かす対象に対しては、戦術的な優位性を確保し、徹底抗戦するという性格を持っています。
ゆえに、台湾などを舞台にした武力紛争に発展した際には、アメリカと雖(いえど)も容易に近づけない体制を確立しようとしています。
例えば、最近、イスラエルとパレスチナ(ハマス)との武力紛争がありましたが、その際に有名になったアイアンドームへの関心が中国政府内で急速に高まり、イスラエルとの戦略対話の際にその購入や導入指南を懇願しているという情報もあります。
イスラエルが、アメリカにとって特別な関心対象国であることも重々承知の上で、そのような動きを取るのが、あまり語られることのない、中国の戦略と言えるかもしれません。
アジアにおける自己の権益を守るためには手段は選ばないと言えますが、アジア外の地域に対しては、主に経済的な力で覇権拡大(影響力拡大)を目指すという戦略的な切り分けが行われています。
目的は、影響力拡大ですが、軍事的なプレゼンスによる支配・影響力拡大という“従来型”よりは、経済的な覇権を拡大し、対象国と地域の経済の首根っこをつかんでしまうことで、国際社会・情勢における外交的な支持基盤を確保して、“中国シンパ”の国と地域を拡大することで、超大国になろうという戦略であると考えます。
アフリカにある55か国、中東各国、一帯一路の対象国である南アジア諸国、中南米における“全体主義的な国々”が、国連や国際社会における対中批判をことごとく否決し、新疆ウイグル自治区における重大な人権蹂躙の案件や香港での民主派勢力の排除といった案件でも、中国政府の対応を評価する動きに出ています。
ゆえに人権委員会でも、対中制裁案は出ませんし、WHO総会への台湾の参加がブロックされることになっています。

* 欧米の手薄な地域を次々と赤く染める中国

中国は、アメリカや欧州各国、そして日本などと、実際に戦争をすることなく、代わりに政治・経済・外交・情報力と軍事的なプレゼンスを包括的に用いることで、国際社会における支持基盤を拡大しています。

ゆえに、アメリカをはじめ欧州各国は、中国封じ込めのために経済制裁を課すという手段を通じて、中国の拡大を防ごうとしていますが、実際にはあまり中国には効いていないという実情に繋がってしまいます。

私もその傾向がありますが、米中の軍事的な対峙、特にアジア太平洋地域における緊張の高まりにばかり目が行って、「これは戦争へ向けた動きだ」と大騒ぎしがちですが、中国には覚悟と準備はあるようですが、実際には対米戦争は、自身の生存を脅かすようなケース以外では想定していないようです。

代わりに、経済力、ハイテク技術と戦略物資の供給サイバー能力といった戦略的な経済・情報エリアでの能力を高めて、世界経済における影響力を高めつつ、抑止力として宇宙戦略武器特に弾道ミサイルの命中精度の向上、AIの軍事部門への転用核戦力の充実などのハードコアな戦略も、アジア太平洋地域限定で行っています

とはいえ、軍事技術についても、着々と能力は向上していますので、2030年代までアメリカなどとの戦争がなければ、どのような姿になるかはわかりませんが。

戦略的には、中国の軍事面でのアジア集中が功を奏しているかもしれません。

オバマ政権以降のアジアシフトは、確かにアジアを舞台にした米中の対峙をエスカレートさせていますが、それが中国にアジアの外での覇権拡大の道を開き、各国の本心は別にして、確実に国際社会における中国票を積み上げていますし、発展に飢える中国国民と国営企業、金融中国元)とチャイナマネーの行き先を作っているとも見ることが出来ます。

それが各地でチャイナ権益を増やし、軍港空港、高速道路といった戦略的なインフラ建設を次々とこなす中、中長期的には、中国の軍事・経済・政治・外交・価値観を統合した影響力拡大につながるベースを構築していると言えます。

アメリカとのその仲間たちが、台湾・香港という中国にとって“不可分の権益”での動向に向き、対中圧力を加える中、南シナ海周辺における支持取りのゲームを進めているように見えます。

南シナ海周辺、つまりASEANの国々は、時にはアメリカや欧州、日本のサイドに立ち、中国が強める圧力に抗するために、それらの国々の傘に入り、同時に経済的なつながりも強化しますが、地理的にどうしても隣接する中国の否めない経済力と影響力を上手に使って、自国及び地域の発展のブースターに用いるという周到さを持っています。

以前、中国政府の高官に話を聞いた際、中国は中長期的な世界戦略の進め方をASEANでテストしているのだとか。

軍事的な圧力を増大させて領土的な野心を満たすと同時に、経済的な恩恵を感じさせて、抜けることが出来ない依存体制に組み込んでいくのだとか。

今、その世界戦略が、南シナ海周辺はもちろんのことながら、中東・東アフリカ、そして北アフリカにまで及び、アジアに集中しがちな欧米の手薄なところで次々とオセロのコマをひっくり返すように、勢力圏を赤く染めているように見えます。

つまり、軍事的には押さえ込んでおらず、またその意図もないが、圧倒的な経済力と“サポーターはとことん守る”という姿勢により、国際社会におけるゆるぎない支持基盤を得ていることになります。

もちろん、China wayで行われる様々なプロジェクトや開発案件は、アフリカの国々では不評も買っていますが、中国は政府の支持を握っています。もちろん、孔子学院などを通じて、文化的・思想的な影響力拡大にも勤しんではいますが。

 

* 世界は真剣に中国との付き合い方および距離感を測らなければならない状況に

そして何よりも、今では経済力で凌駕してしまったかつての超大国ロシアを飲み込もうとしています。

しかし、ロシアはまだ、世界における2大核戦力の一翼を占めています。

これまでの冷戦期も含めた75年間は、核抑止の理念に基づいて、核戦争に発展することがないように様々なやり取りが行われてきました。

しかし、その枠組みにいない中国が日に日に核戦力を含めた総合力を高める中、バイデン大統領のアメリカとプーチン大統領のロシアの間で話し合われるSTART IIの延長が、実際の核戦力および戦略的な戦力のバランス状態を意味しないことは明らかです。

今後、中国を3つ目の柱として、戦略的核兵器・戦力の国際的なバランスの枠組みに入れて、互いに監視しあうシステムを確立しない限り、抑止論(deterrence)は机上の空論になり、今後、結論が予測できないような戦禍に導かれていく危険性をはらみます。

「一つの誤解・誤報が、世界全体を決して戻ることができない状態へ導く」

それをネガティブな意味で可能にする国が、これまでの2か国から3か国に増えた際、その分、相互抑止力とデリケートなコントロール・バランスの維持は限りなく困難な課題になるでしょう。

2021年時点での中国のステータスは、様々な表に出ていないclassified情報も含めて分析すると、まだアメリカと肩を並べるような総合力は持ち合わせていないとみています。

しかし、軍拡に待ったをかけてそのスピードを落とす方向に進むバイデン大統領のアメリカと、豊富なオイルマネーで最新鋭の兵器を開発することをためらわないロシア、そして、国際社会で無視できない勢力になっているが、国内での真の出来事は決して明かさない中国政府が進める軍事的な拡大近代化を急ピッチで進め、予定していたよりもはるかに早くアメリカと肩を並べる超大国になろうとする習近平の戦略が並立する現状は、このままでは持続不可能な状況へと導かれるような気がしてなりません。

コロナを機に、第2次世界大戦後から続いた旧国際秩序は崩れたとする見方が強くなる中、アフターコロナの時代に築かれ始めている新国際秩序の中心には、良くも悪くも強い中国が存在することになるでしょう。

もちろん、現在の中国政府の政策と戦略が実際には持続可能な、現実的な路線かどうかは、また別の評価が必要になりますが、若干の修正がなされるにせよ、世界はまじめに中国との付き合い方および距離感を測らないといけない状況になるものと考えます。

とはいえ、私個人としては、中国にはどこかまだ“自らが作り出したスピードについていけず、脱線する可能性“を否定できずにいるのですが…。

いろいろとご批判やコメントもあるかと思いますが、ぜひ皆さんのお考えもお聞かせいただければ嬉しいです。


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