おがわの音♪ 第1138版の配信★


☆彡 幸せな組織をつくれる人と不幸にする人の決定差


面倒な仕事に挑み生産性高める為に必要なこと

矢野 和男 : 日立製作所フェロー

2021年05月15日

世界は、以前にも増して移ろいやすく、予測不能になった。企業は「いかに変化に適応するか」という競争にさらされている。

今後のマネジメントに重要となるのは、孤立やパワハラなどの「組織の病」を予防するために適切な介入・施策を行い、組織を幸せな状態に保つことだ。そのためにどうすればいいのか。人々の幸せを測定可能にする最新研究などを論じた『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』の一部を抜粋、再編集してお届けする。

 

* 幸せな人・幸せな組織は生産性が高い

われわれは、幸せと仕事や健康との関係について、「仕事がうまくいくと幸せになる」「健康だと幸せになりやすい」というふうに考えがちである。実は、20年間あまりのポジティブ心理学やポジティブな組織行動の研究が明らかにしたのは、因果関係はこれとは逆だということだった。

「幸せだから、仕事がうまくいく」、すなわち、幸せにより生産性や創造性が高くなり、「幸せだと、病気になりにくく、なっても治りやすい」のだ。

研究によると、主観的に幸せな人(幸せだと感じている人)は、仕事のパフォーマンスが高い。

具体的には、営業の生産性は30%程度高く、創造性では3倍も高い。

さらに、同じく幸せな人は、健康で長寿で、結婚の成功率も高く、離職もしにくい。

そして、幸せな人が多い会社は、そうでない会社よりも、1株あたりの利益が18%も高い。

このようなエビデンスに基づく知見が続々と得られたのである。

なぜ、幸せだと生産性が高まるのだろうか。

この疑問への答えを示唆する、スマートフォンを用いて行われた大規模な実験がある。

2万8000人の被験者がスマートフォンに実験用のアプリをインストールし、アプリからの指示に従うという実験を行ったのである。このアプリは、時折、「今、何をやっていますか」「今、どんなムードですか」という簡単な質問を被験者に聞いてくる。被験者は、約1カ月間、この質問に答えた。

この実験において、「ムードが低下している」と答えた人がそれから数時間の間に増やした行動が明らかになった。

それはスポーツや散歩などの気晴らしになるような活動だった。これは、ある意味でわかりやすい結果である。

ところが、「いいムードです」と答えた人が、それから数時間のうちに増やした行動は、意外であるとともに大変示唆に富んでいた。実は、いいムードで幸せな人は、面白くなくても、やらなければいけない活動を増やしたのだ。

しんどくても、面倒くさくても、やらなければいけないことを、より多く行うようになっていたのである。

仕事では、工夫をしたり、人に頭を下げたり、未経験のことに背伸びして挑戦できるかどうかで、結果は大きく異なってくる。主観的な幸福感やいいムードは、このような工夫や挑戦を行うための「原資」となる精神的なエネルギーを与えていたということだ。

逆に、幸福感が低くなって、このような精神的なエネルギーや精神的原資が低下すると、気晴らしなどに時間を使うようになる。この場合、必然的に、しんどくて面倒なことは、先送りされる。

この実験の結果を解釈すると、それ以前の研究で指摘されていた「主観的に幸せな人は、仕事のパフォーマンスが高い」「幸せな人が多い会社は、1株あたりの利益が高い」ということの理由が見えてくる。

幸せな人は、重要だが面倒で面白くない仕事を、労をいとわず行うことができる。

このような仕事は、行き詰まった局面を打開したり、変化する状況に適応したりするのに役立ち、成果は大きい。

一方、幸せでない人は、精神的な原資や精神的なエネルギーが足りないため、このような面倒な仕事になかなか手をつけられないのである。

そうなると次に湧いてくる疑問は、「では人々を幸せにし、生産性の高い組織をつくるには、どうしたらいいのか」というものだ。われわれはテクノロジーにより、それを明らかにしてきた。

 

* 技術が心理研究・人間行動研究を変える

先に述べたスマートフォンによる実験のように、人の心や行動を、学術的に明らかにする手法に、最新のテクノロジーが使われ始めている。

私は多くの仲間たちとともに、過去15年以上にわたり、テクノロジーを活用して人間行動に関する大量のデータを収集し解析する研究を行ってきた。結果としてみると、これは世界の先駆けとなるものになった。

その技術のひとつが、胸に装着する名札型のウエアラブル端末であった。  

この端末の画期的なところは、端末を装着している人どうしで、いつ誰と誰が面会したかのデータを収集できるようにした点だ。これにより、人と人とのつながりを表すネットワーク構造、すなわち「ソーシャルグラフ」(下図参照)が可視化できるようになった。 

約1500人分のソーシャルグラフ。○□△がそれぞれ人を表し、計測期間中に会話した人どうしが線で結ばれている


研究に使った名札型ウエアラブル端末 

(出所)『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』(草思社)

拙著『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』において詳細を解説しているが、ウエアラブル端末から得られた大量データと、質問紙による主観的幸福度の指標を解析すると、意外なことが次々に明らかになった。

以前から、組織にとってコミュニケーションが大事、とよくいわれてきた。

このウエアラブル端末を使えば、誰と誰がどれだけ対面でコミュニケーションを取っているかが客観的に数値化できた。

意外なことに、コミュニケーションの量(時間や頻度)やコミュニケーション相手の人数に、組織の幸せとの関係はまったく見出せなかった。

これらと幸せとの間には、ごく弱い相関さえもなかった。

このことが表しているのは、一般論として、「コミュニケーションが多ければよい組織になるわけではない」ということである。 

コミュニケーションの量は、状況によって、ちょうどよいレベルがあるので、一律に増やせばよいわけではない、ということがわかったのだ。

たとえば、プロジェクトの開始時に、新しく人が集められた状況を考えよう。

仕事上、同僚になった人がどんな人で、どんなことが得意で、質問に対しどんな反応をしがちか、などは、最初はわからない。

このようなときには、コミュニケーションを大いに増やすべきであるし、それができるかどうかで、仕事の進み方も大いに変わるであろう。

一方、プロジェクトが終盤で、すでに決まった仕様に沿って、各人が実装やテストに集中すべきときには、むしろコミュニケーションを減らすべきだろう。

そこで無理にコミュニケーションを増やせば、集中すべき作業への時間が取れなくなり、幸せではなくなるであろう。 

このような例を考えれば、一律にコミュニケーションは増やせばよいものではないことがわかる。


 ところが、データを詳しくみると、ポジティブで幸せな組織に普遍的にみられる特徴があることが明らかになったのである。

これは裏返せば、ネガティブで幸せでない組織には、逆の特徴が見られるということでもある。

ここではそのひとつを紹介することにしよう。

* 幸せな組織は人どうしのつながりが均等

その特徴は、人と人とのつながりのパターンに現れた。

前述のように名札型ウエアラブル端末を使うと、誰と誰が対面による面会によってつながっているかがわかる。

この人と人とのつながりを使って、ソーシャルグラフが描ける。

実は、幸せな組織では、人と人とのつながりの網目が、組織内で均等に近く、フラットにいろいろなところがつながりあっているのだ。

逆にいうと、幸せでない組織では、特定の人につながりが集中し、それ以外の人のつながりが少なくなっている。

すなわち、つながりの数に関して「格差」が生じていた。

先に述べたように、コミュニケーションの相手の多寡は幸せとは関係ない。

しかし、つながりの総量が多い組織でも、総量が少ない組織でも、つながりが人によって偏っているかどうかが組織の幸せに決定的な影響を与えるのだ。

つながりに格差のある組織では、「情報の格差」が生じる。

つながりの少ない人は、つながりが少ないゆえに全体の情報をあまり持っていない。

このために、確認したいこと、質問したいことが頻繁に生じる。

そして、つながりの少ない人が、少ないながらつながっている先は、上司ということになる。

ところが上司とのつながりは、上下の関係であり、常に評価される関係でもある。

このため、確認や質問を行うと「そんなことも知らないのか」「それくらい自分で考えろよ」という低い評価を得るリスクが常にあることになる。

そこで、リスクを避けるために、確認や質問をしないという選択をしがちになる。

このほかにも、つながりを特定の人が独占すると、必然的に起きる好ましくない現象がある。

それが「孤立」である。孤立した人が増えると、孤立した人だけではなく、集団全体のムードが悪くなる。

        全体の生産性や幸福度を下げるのである。

組織図に沿ったつながりだけだと、上司につながりが集中し、不幸な組織が出来上がる(左)。幸せな組織には組織図を越えたつながりが必須(右)(出所)『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』(草思社)

このような話を聞いても、つながりの独占は自分には関係ないと思う人もいるかもしれない。

しかし、これはよほど意識しない限り容易に生じる。

上司と部下を線で結んだ組織図(あるいはレポートライン)を思い浮かべていただきたい(左図参照)。

組織図とは、そもそも、上司が独占的に部下の全員とつながり、部下は上司とだけつながる形になっている。いわば上司がつながりを独占し、部下が孤立する構造である。

従って、組織図通りのレポートラインに沿ったコミュニケーションを取ると、「データで証明された不幸な組織」ができあがる。


* 組織図を越えてコミュニケーションをとることの大切さ

マネジャーが仕事をするためには、何らかの形で権力が必要である。マネジャーの権力の源泉の1つが、組織図に沿った人事・予算・情報に関するレポートライン上の統制である。

しかし、データは突きつける。この権力構造だけに頼った組織は、必ず不幸で生産的でない組織になるということを。従って、マネジャーは組織図やレポートラインに過度に頼ってはならない。「組織図を越えろ」とデータは突きつける。

これは「できればあったほうがよい」という、いわゆる「ナイス・トゥ・ハブ(Nice-to-have)」 な選択肢ではない。組織図を越えなければ、従業員が不幸になり、ストレスや罹病が増え、離職が増えるのである。データによってこれが証明された今となっては、組織図やレポートラインを守る発想での職場運営は、マネジメントとして失格である。

この要求に応えるためには、マネジャーは組織図上のポジションやレポートライン上の統制権限を越えた、1人の人間として独立した判断力、機動力、人的ネットワークが必要である。そして、何よりも、人間として魅力と誠実さ、人への敬意と共感が必要である。単に「立場が人をつくる」に頼ってはいけないということだ。


☆彡 幸せな組織をつくれる人々と不幸にする人々の差

メンバーが周囲に対してどんな影響を与えるか

矢野 和男 : 日立製作所フェロー

2021年07月16日

「幸せ」をスマートフォンのアプリで測定する――。

しかもその測定データから、「まわりを不幸にして自分だけ幸せになっている人」と「まわりを幸せにすることで自分も幸せになる人」がいることが明らかになったという。

幸せの測定に関する最新研究などを論じた『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』の一部を抜粋、再編集してお届けする。

 

無意識の身体の運動から「幸せ」かどうかがわかる

幸せな組織をつくれる人と不幸にする人の決定(前稿)では、幸せな人が多い組織ほど生産性や、1株当たり利益が高く、状況の変化にすばやく対応できることが、最新のポジティブ心理学や組織行動の研究から明らかになったことを紹介した。

また、ウェアラブルセンサーを使った筆者らの研究により、幸せな人が多い組織には「人と人のつながりが均等で、いろいろな人どうしがつながり合っている」などの共通する特徴があると明らかになったことも述べた。

本稿では、幸せで生産的な組織には無意識の身体運動にも共通して現れる特徴があること、このことを発見したおかげで幸せをスマートフォンのアプリで計測できるようになったことを紹介しよう。

幸せを計測するうえで、われわれが注目したのは、時系列で見た身体の動きの特徴である。

スマートフォンにもついているような3次元の加速度センサーを使えば、ある時刻に身体が動いているか、止まっているかを検出できる。この動いていることを「1」止まっていることを「0」で表すと、人の生活や人生を、「1」と「0」が、時々刻々、生成される営みとしてみることができる。

たとえば、10秒ごとに動いているか止まっているかを計測し、これによって1分間の動きを表現すると「110011」や「000111」のような、「1」と「0」が6個続くシークエンス(配列)になる。

1時間の動きは、この「1」と「0」が360回続くシークエンスに、さらに24時間は「1」と「0」が8640回も続くシークエンスになる。

われわれは大量の3次元の動きのデータを収集し、人の行動をこのように「1」と「0」の巨大なシークエンスのデータとして表現して、データベースに蓄積した。あわせて、幸せや不幸せを数値化する質問紙の尺度を人ごとに収集した。

「今週、幸せだった日が何日ぐらいありましたか」とか「今週、孤独だった日が何日ぐらいありましたか」というような質問により個人の主観的な幸福度を数値化するアンケート結果である。

そして、人工知能技術(機械学習)を使って、幸せな人や集団、幸せでない人や集団に特徴的な「1」と「0」のシークエンス(身体運動の配列)がないかを調べたのである。

その結果、幸せな集団に普遍的に見られるシークエンスの特徴や、逆に幸せでない集団に普遍的に見られるシークエンスを発見することができた。いわば「幸せの配列」や「不幸せの配列」があることを発見したのである。

 

* 身体運動から幸せを9割以上の精度で推定

まず、データを解析すると、人間の無意識の動きのシークエンスに、普遍的特徴があることがわかった。

それは「身体の動きは、動き続けるほどに止まりにくくなる」という普遍性である。

動きを表す「1」が続くほどに、止まることを示す「0」に転じにくくなるのである(これについては以前に寄稿した記事でも紹介した「会わないでいるとますます会いにくくなる理由」2019年10月9日配信)。

大量のデータを集めると、この1から0に転じる確率は、1が持続した時間の関数として、きれいな数式に従うのだ。

驚くべきことに、この現象はヒトだけでなく、マウスの身体運動でも見られ、まったく同じ数式に従う。

動物が健全な状態にあれば、この「1」が「0」に転じるタイミングは、無意識のうちにこのような普遍的な法則に支配されるのだ。

われわれは自分の身体の動きは、自分の意志でコントロールしていると思いがちだが、データが示す事実から、無意識レベルでは動物としての基本的な法則性に強く支配されていることがわかる。

膨大な人間行動のデータから、この法則が普遍的に成り立つことが見出されたのだ。

ところが、不幸でストレスの多い集団では、1から0に転じる確率が、この普遍法則からわずかに短めにずれてくるのである(詳しくいえば、「各メンバーの動きのシークエンスが法則から乖離している程度を表す指標を、集団内で平均した値」が大きくなると、「各メンバーの主観的幸福度を質問紙により定量化したものを、集団内で平均した値」が、統計的に低くなる)

マウスにも見られる身体運動の普遍的な分布に沿うことが「幸せで生産的な組織に普遍的に現れる無意識の身体運動の特徴」になっていたのである。

これを多様な業種・業務の組織データで検証してみると、この無意識の身体の動きの特徴だけで、幸せに関する質問紙による組織レベルの数値(メンバーの幸せの数値の平均値)を極めて精度よく予測できることがわかった。

定量的にも、相関係数R0.94という高い数値であった。

相関係数がこれほど高いということは、組織あるいは職場ごとの平均的な幸せは、職場を構成するメンバーの身体運動に関するこの配列の特徴を捉えることで、9割以上推定可能という意味を持つ。

まさに「幸せの配列」であり、高低を逆に解釈すれば「不幸せの配列」ともいえる。

これには当初とても驚いた。

なぜなら、一方は、人が主観的に回答した数値を集計したもので、他方は、センサーによって計測した人の動きを表すシークエンスの特徴だからである。

しかし、データはとても偶然とは考えられない強い相関を示していた。

おそらく、幸福感という生化学現象が、無意識の身体の動きと、人体内で強く結びついているからだと考えられる。

われわれは、無意識の身体運動に表れるこの指標を「ハピネス関係度」と呼ぶこととした。

これだけの高い相関があれば、アンケートに頼らずとも、身体の動きをセンサーによって計測するだけで、幸せで生産的な組織かどうかが定量化できる。

スマートフォンには、身体の動きを計測できる加速度センサーが搭載されている。

従って、この身体運動の特徴を計測するアプリをインストールするだけで、非常に多くの組織の主観的幸福を計測する道が拓ける。

 

* まわりを不幸にし、自分だけ幸せになる「悪い幸せ」

もう1つ、ここで特に重要なのは、「集団としての幸せ」に注目している点であり、「個人の幸せ」ではないということだ(「集団としての幸せ」はメンバーの幸せを質問紙で定量化したものの平均値)。

というのも、素朴に「個人の幸せ」あるいは「自分の幸せ」に注目して、それを高めることをよいこととすると、他の誰かを犠牲にして自分だけ幸せになろうとする場合が含まれるからだ。

実際、大量の実データの解析から、注目したその人自身は幸せなのに、その人が関わっているまわりの人が、おしなべて幸せではない場合がかなりの頻度で見られる。

とても偶然ではない頻度でそのようなことがあることを、われわれは確認している。

このような幸せをここでは「悪い幸せ」と呼ぶ。

幸福度の低い組織(質問紙で定量化した幸福度を組織内で平均した値が低い組織)では、実は、このような「悪い幸せ」が多いのである。これは一緒に仕事をしている会話の相手との間に幸せの格差が生じているともいえる。

そのような幸せの格差を生む会話や人間関係こそが、不幸な人を生んでいると解釈すべきであろう。

これは、人の幸せを犠牲にして、自分だけ幸せになっている人が相当数いるということである。

具体的には、ストレスの多い仕事は部下やまわりに押しつけて、自分だけストレスから逃れている人が考えられる。

その結果、部下やまわりをうつ病にして、自分だけストレスなしでいい気分かもしれない。

あるいは、人を圧迫する態度により、まわりに命令や要求を通すことで本人は主観的な幸せを得ている場合も考えられる。

これが行きすぎるとパワーハラスメントになる。逆に、まわりを犠牲にしないで実現した人の幸せを「よい幸せ」と呼ぶ。

「まわりの幸せを犠牲にして得た幸せ」は確かに存在することがわかった。

しかし、そのような「幸せ」はわれわれが求めるべきものではないので、幸せを計測するのなら、そのような幸せはカウントに含まれないようにしなければならない。

そうでなければ、「幸せの測定値」を頼りにして幸せを増やす努力をしたとき、「悪い幸せ」も同時に増えてしまう可能性がある。

 

* 従来の解析方法の決定的な問題

従来、幸せに関する学術的な解析では、この「よい幸せ」と「悪い幸せ」の区別をしていないし、区別する方法がなかった。

幸せの研究では、幸せに関する質問紙調査を個人単位で多くの人々に対して行い、そのデータを集計し、統計学を使って解析してきた。

この方法には決定的な問題がある。仮にデータから、幸せな人の特徴が見出されたとしても、それは、人の幸せを犠牲にして、自分だけ幸せになっている人の特徴かもしれないということだ。

「悪い幸せ」が無造作に含まれてしまうのだ。

パワハラは極端な場合であるが、そこまでいかなくとも、まわりを直接・間接に犠牲にして、自分だけ幸せになることはいくらでもありうる。個人単位でのデータ解析では、このような悪い幸せを排除できない。

本来は、「まわりの人の幸せを犠牲にした悪い幸せ」はカウントせず、まわりの人の幸せを犠牲にしない「よい幸せ」だけを定量化するのが望ましい。

この「よい幸せ」の実態を捉えるには、個人のデータに加えて、その人が関わっているまわりの人のデータも取る必要がある。その上で、個人単位と集団単位をあわせて解析する必要がある。

これによって初めて「幸せの総量を増やすよい幸せの要因」「まわりの幸せを犠牲にした悪い幸せの要因」を区別することが可能になる。

実は、この「よい幸せ」を定量化しているのが、前記の「ハピネス関係度」なのだ。

「ハピネス関係度」は、個人ごとにも算出でき、これを集団で集計する(1人あたりの値に平均する)と集団としての「ハピネス関係度」になる。

そしてこの個人と集団のハピネス関係度の関係を細かく見ていくと、人どうしのやり取りが、全体の幸せの総量を左右していることがわかる。

 

* 職場の幸せは何で決まってくるか

われわれはデータによって、この無意識のよいシークエンスの身体運動がよく見られる人(すなわち個人のハピネス関係度の高い人)の周囲には、幸福度(質問紙への回答から算出したもの)の高い人が多いことを確認した。

一方、この個人のハピネス関係度の低い人(よくないシークエンスが見られる人)の周囲には、幸福度(質問紙への回答から算出したもの)が低い人が多いことも確認した。

このために、「ハピネス関係度」の高い組織・集団に属している人は、個人としても幸せになりやすい。

「ハピネス関係度」という特徴は、まさに「よい幸せ」のものさしである。だ

から、職場全体の幸せ(の総量)が、このハピネス関係度によって、9割以上決まるのだ。

これは組織や社会に大きな意味を持つ結果である。

職場の幸せは、職場を構成するメンバーのそれぞれが、周囲の人たちを元気にし、幸せを生んでいるかにより決まるということだからだ。関わる人たちを元気にし、幸せを生むことで自分も幸せになる。

ハピネス関係度は周囲の人たちと自身を幸せにしている度合いを表しており、これを組織全体で集計することで、組織の幸せの総量がわかるのである。これをシンプルにいうと、

組織の幸せは、メンバーが周囲を元気に明るくしているかで決まる

となる。人が周囲を元気に明るくするというのが、集団の幸せの最も基本的な構成要素である。

「情けは人のためならず」「汝の隣人を愛せ」など、周囲を幸せにすることの大切さを説く古今東西の金言が、データにより確認されたともいえるだろう。

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