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パナソニックとソニー、10年で大差ついた稼ぎ方

何かと比較されがちなパナソニックとソニー。過去の経営戦略とその結果を比較する意味は大きいが、直接的なライバル関係は希薄となった。

かつてのライバルが辿った道から見えること

 

佐々木 亮祐 劉 彦甫 : 東洋経済 記者

2021年07月06日

 6月25日に大阪城ホールで行われたパナソニックの株主総会では株主から批判の声が上がった。「ソニーは過去最高益を出しているのに、パナソニックは売り上げが30年前と変わっていない」。



  ソニーグループとパナソニックの時価総額を比較すると、2015年以前はほぼ同規模だったにもかかわらず、その後は徐々にソニーがパナソニックを引き離し、今や4倍以上の開きがある。

  メディアも「業績低迷に苦しむパナソニックに対し、競合のソニーは復活をとげた」などと報じる。

憤懣やるかたない気持ちがパナソニックの株主にあるのは間違いない。

 

* ほかに類を見ないソニーのポートフォリオ

日本を代表する大手電機メーカーとしてソニーとパナソニックはたびたび比較対象とされ、時にはライバル関係と扱われる。ただ、このような見方には記者自身、「業態や稼ぎ方が異なる企業同士を比較することに意味があるのか」と取材先や読者から批判の声をもらうことがある。

確かに両社の収益柱や事業・製品群を比較すると、競合関係とは言いづらい。まず事業別売上高をみると、ソニーはゲーム分野のほか音楽と映画などコンテンツ面が半分近く、利益では過半を占める。



  一方でパナソニックは家電や住宅設備、車載機器などハードウェアが事業柱だ。

ソニーと異なり、利益の半分近くを家電で稼いでいる。


実際に製品やサービスを詳細に比べても違いは大きい。

 ソニーは音楽、アニメ、映画、モバイルゲームとコンテンツ製品・サービスを多数手掛けている。 

ハードウェアは家庭用ゲーム機「プレイステーション」や「Bravia」ブランドのテレビ、スマートフォン「Xperia」など黒物・娯楽家電やICT製品が中心だ。

 一方のパナソニックは、コンテンツ関連の事業は皆無に等しい。

家電では黒物家電だけでなく冷蔵庫や洗濯機、エアコンなど白物家電の製造販売を行っている。

さらに照明やキッチン、浴室・トイレなど水回り、配線器具と住宅設備も手掛ける。

製造現場や物流現場向けの機器やシステムを扱っている点もソニーと異なる。


両社が重なっている製品群はテレビやカメラなどだが、これらの製品は両社とも売り上げ全体からみて大きな割合を占めていない。強いて言えば、ソニーはスマホカメラなどに使用されるイメージセンサー(CMOS)とよばれる半導体で世界シェアトップであり、パナソニックはコンデンサーなどの電子部品で世界トップクラスの総合メーカーでもあるなど、部品分野で強みがある点は類似している。

* 過去は収益構造や戦略が似ていた                       では、これほどまでに業態や収益構造が異なるのに、なぜソニーとパナソニックは比較されるのか。           それは過去に収益構造や戦略が似ていた時期があったからだ。両社の過去10年の事業別業績推移をみると、ソニーもかつてはコンテンツ関連事業よりも、テレビなどハードウェアが軸のエレキ事業が売り上げの主軸だったことがわかる。リーマンショック後の事業不振の元凶がテレビ事業だったことも共通する。


ハードウェア中心の収益構造から転換を進めて成功したソニーに対し、パナソニックは車載機器やシステム事業などBtoB事業の拡大を過去10年に掲げてきたものの、家電への収益依存が続き、事業構造の転換に成功できていない。

さらに歴史を遡ると、ソニーは1989年にコロンビアピクチャーズ(現ソニー・ピクチャーズ)を買収し、映画事業に参入したのに対し、パナソニックも1991年にMCA(現NBCユニバーサル)を買収するなど似通った戦略をとっていた。

当初ソニーは映画事業で巨額赤字を出したものの、今では主力事業に成長させている。一方で、パナソニックはわずか4年でMCAの8割の株式を手放して、身を引いてしまった。両社の事業の競合相手を比較しても、両社が並ぶのはAV機器など限られた領域で、大部分はそれぞれ異なる企業と競争している。ソニーは「感動」を経営の柱に掲げるのに対し、パナソニックは「くらしアップデート」や「地球環境問題解決」を訴えるように目指す企業像の方向性も異なる。



 かつては事業規模や収益構造、戦略面などで類似点があり比較されやすい両社。

経営の決定やスピード、事業転換への評価など比較することで学べる点も多いが、今や直接的なライバル関係ではないことを理解しておく必要もあるだろう。

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