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「Windows 11」が挑むグーグルとの真っ向勝負


ンラインでの発表会見に登壇したパノス・パネイ最高製品責任者。コロナ禍でPC端末の重要性が高まっていることを強調した(写真:マイクロソフト)

6年ぶり大刷新、アプリストアはアマゾンと提携

中川 雅博 : 東洋経済 記者

2021年07月02日

「Windows(ウィンドウズ) 10」は最後のウィンドウズではなかった。

アメリカのマイクロソフトは6月24日、6年ぶりに大幅刷新したパソコン(PC)向けOS(基本ソフト)「ウィンドウズ11」を発表した。今年後半から対応するPCで無料アップデートが行われる。

2015年のウィンドウズ10発表当時、同社は「これがウィンドウズの最後のバージョンとなる」と述べていた。数年に1回の大幅刷新ではなく、ウィンドウズ10という名称のまま、開発のサイクルを早めて年2回の機能更新を行う方針としていた。

だが今回、マイクロソフトは前言を撤回し、新たなバージョンを打ち出した。

それだけウィンドウズが変化したことを世界中に印象づける必要があった。


時価総額は一時2兆ドルを突破

 背景にはコロナ禍でテレワークが浸透し、PC市場での競争が再び過熱したことがある。

アメリカの調査会社・ガートナーによれば、2020年の世界のPC出荷台数は前年比4.8%増の2億7500万台となり、過去10年で最大の伸び幅だった。

 「(コロナ禍の)過去1年半でPCは仕事や勉強、人とのつながりを強める重要な役割を果たした」。

マイクロソフトのパノス・パネイ最高製品責任者は発表会見でそう語った。

ウィンドウズ11への期待から、同社の株価も大きく値を上げ、発表当日の6月24日には終値ベースで初めて時価総額が2兆ドルを突破した。アメリカのアップルに続く快挙となる。 

 ウィンドウズ11ではテレワークを意識した機能の刷新が目立つ。

まずビデオ会議・チャットソフトの「チームズ」はOSの基本機能となり、ユーザー自らインストールをする必要がなく、タスクバーのアイコンをクリックするだけですぐ起動できるようになった。

従来タスクバーの左端に位置していた「スタートメニュー」はバーの中心に移動した。

ここからスマートフォンなど別の端末で直前に編集した「ワード」や「エクセル」などのファイルを表示でき、PCだけでなくクラウド上にあるファイルも簡単に扱えるようにした。

ウィンドウズはクラウドへの入り口としての色を強めたといえる。

 マイクロソフトにおけるウィンドウズの売上高(2020年6月期)は約223億ドルと全社の約16%を占める。

一方でクラウドインフラのアジュールやオフィスソフトなどをまとめたコマーシャルクラウド部門の売上高(同)は約517億ドルとウィンドウズの2倍以上。もはやウィンドウズの会社ではなく、クラウドの会社だ。

クラウドビジネスの成長のためにも、ウィンドウズの牙城は重要だ。だがアメリカのIDCによれば、10年前に94%だった世界のPC市場でのシェアは、2020年に81%まで下がった。

ウィンドウズの背中を追いかけるのが、11%を占めるアメリカのグーグルの「クロームOS」と、8%を占めるアップルの「マックOS」だ。

グーグル、アップルに突きつけた「アンチテーゼ」

  クロームOSを搭載したノートPC「クロームブック」は大半のアプリがクラウド経由で提供される。

3万~4万円程度という端末の安さや大規模な管理のしやすさから、学校現場での躍進が目立つ。ここ日本でも小中学校で1人1台の導入を目指し国が補助金を支給する「GIGAスクール構想」の後押しもあり、全国の半数以上の自治体に導入された。

一般消費者向けではアップルのマックOSも健闘する。10年前は世界シェアが4%だったが、直近はその倍だ。

新型「マックブック」はイギリスのアームの設計を採用した自社開発のCPU(中央演算処理装置)を搭載し、処理速度や電池の持ちが従来機に比べ大きく改善したとして評価が高い。

PC市場に詳しいIDCジャパンの市川和子アナリストは、「クロームOSのシェアが上がった要因のほとんどは学校向けでの伸びだ。最近は一般消費者向けのマーケティングにも力を入れている。だがマイクロソフトが最も脅威と見ているのはマックOSだろう。若い世代を中心に支持は厚く、最新のマックブックやiMacは性能と価格のバランスもよい」と分析する。

市場での存在感を維持したいマイクロソフト。

今回のウィンドウズ11ではグーグルやアップルに対する「アンチテーゼ」と取れる新機能も備えた。

それが「根底から作り直した」(パネイ最高製品責任者)という、ウィンドウズ向けのアプリを取りそろえる「マイクロソフトストア」だ。

アップルがiPhoneやiPad向けに「アップストア」、グーグルがアンドロイドスマホ向けに「グーグルプレイストア」を展開するように、スマホの普及とともにアプリをストアからダウンロードする習慣が根付いた。

アップストアやグーグルプレイでは、アプリ内課金について開発者から30%の決済手数料を取る(年間売上高100万ドル以下の場合は15%)。だが以前からマイクロソフトストアの手数料は低く、一般のアプリで15%、ゲームアプリでは12%だ。

さらに今回、アプリ開発業者が自前の課金システムを持っているなら、マイクロソフトは手数料を取らない方針を明らかにした。

「世界はもっとオープンなプラットフォームを必要としている」。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは発表会見でそう語った。

アプリストアをめぐっては、人気ゲーム『フォートナイト』を手がけるアメリカのエピック・ゲームズが、アップストアの課金システムを強要し高い手数料を取っているとしてアップルを提訴した。

各国の独占禁止法当局も目を光らせる。

ウィンドウズ11ではさらに、アンドロイドアプリが利用可能となった。

だがマイクロソフトはグーグルではなくアマゾンと提携し、主にアマゾン製タブレット向けだった「アマゾンアップストア」経由でアンドロイドアプリをダウンロードできるようにした。OSで競合するグーグルへの牽制にも見える動きだ。

 

*「自社製品の押しつけ」からは完全転換

 マイクロソフトは2012年からアプリストアを展開しているが、歴史的に開発者が利用していたプログラム形式がサポートされなかったため、これまで開発者の支持を得られなかった。

アプリの品ぞろえは広がらず、ユーザーの認知度もかなり低かった。

そこで今回、サポートする形式を大きく広げ、ストアへのアプリ公開を容易にした。

発表会見では、アメリカのアドビが写真編集ソフト「フォトショップ」などを含む「クリエイティブクラウド」をマイクロソフトストアに提供することが公表された。

アマゾンのストアでダウンロードした動画投稿アプリ「TikTok」がウィンドウズ上で動く映像も見せた。

2014年のナデラCEOの就任以来、マイクロソフトは「オープン」であることを強調してきた。

自社製品を押しつけるようなかつての姿は今のマイクロソフトにはない。

端末でのユーザーの利便性を高めれば、基幹事業となったクラウドの成長にもつながる。

ウィンドウズ11の使命もそこにあるだろう。 

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