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アップル発売「AirTag」何がそれほど凄いのか


AirTagとアップル純正アクセサリー。持ち物に取り付ける、直径約3cmの丸いボタンのようなデバイスだ(筆者撮影)

探し物のエコシステムを構築しようとしている

松村 太郎 : ジャーナリスト

2021年04月22日

アップルはアメリカ時間4月20日に行ったイベント「春の祭典」で、7つの製品・サービスを発表した。この中で完全に新しい製品として登場するのが、「AirTag」だ。4月23日予約開始、4月30日に発売され、1つ3800円、4つセット1万2800円だ(価格はいずれも税込)。

「見つける天才。」と日本語のコピーが付けられたボタンサイズのこのデバイスをカバンやキーホルダーなどに付けておけば、なくしたときにもiPhoneを使って見つけ出すことができるようになる。 

しかしAirTagにはモバイル通信機能は入っていない。入る余地もないほど小さく、また電池も汎用品で動作する。では、自分のiPhoneの電波が届かない場所にあるなくした物を、いかに見つけることができるのだろうか?

 今回は特に「問題解決と実装」に着目しながら、この新しいデバイスを通じたアップル流の問題解決に迫っていきたい。


* AirTagとは?

直径31.9mm、厚さ8mm、重さ11gのボタンのようなデバイス「AirTag」。

表面は白いプラスティックが弧を描いており、AirPodsでおなじみの文字や絵文字の刻印サービスをオンラインストアで利用することができ、パーソナライズに対応する。

背面はステンレススチールの鏡面仕上げとなっている。近年のアップルデバイスには珍しく、電池交換式。コンビニでも手に入る一般的なボタン電池CR2032で1年以上動作するため、アップルストアに持ち込むまでもない。

スピーカーも内蔵されているが、プラスティックのパーツを振動させてクリアな音を出して存在を知らせる不思議なギミックも用意されている。

デバイスに開口部はなく、おかげで、IP67の防塵防水性能を発揮する。軽さもあって、比較的丈夫なデバイスだ。

AirPodsさながらに、iPhoneに近づけるとすぐにペアリングが完了する。

この際、AirTagを自分のどんな持ち物と組み合わせるのかを選択する仕組みだ。

こうして、「AirTagの在りか=自分の持ち物の在りか」として、iPhoneで持ち物の場所を管理することができる。 

iPhoneを近づけるだけで設定が完了し、自分のApple IDと紐付けられ、「探す」アプリで管理できるようになる(筆者撮影)

あとは、カバンなどであればそのまま放り込んでおけばいいし、アップルが用意するシリコンやレザーのストラップ、キーホルダーと組み合わせて活用すればよい。

パッケージを開けてから1分で使い始められる簡単さは、さすがの一言だ。

AirTag発表で、子どもの安全のために持たせる用途を考える人も少なくない。

ただ、アップルの説明やサポート文書を見ると、子どもやペットに身につけさせる用途は想定しておらず、あくまで「iPhoneを持っている自分」の「持ち物」のトラッキングが前提となっている。そのため、持ち物に取り付けるためのアクセサリーがいくつか用意された。

カバンなどに結びつけるAirTagループ、レザーループ、そしてキーホルダーになるレザーキーリングの3種類。Apple Watchでコラボレーションしているエルメスからも、同様のレザーアクセサリーが登場した。


* 探し物の「ラスト1メートル」問題

直径3cmちょっとのこのデバイスには、前述の通り、モバイル通信機能は入っていない

基本的に自分のiPhoneとペアリングし、通信しながら持ち物の場所を見つけることができる。 

メインとなる通信手段はBluetooth。しかもアップルは通信を暗号化し、動的に識別子を変えることで、AirTagを追跡によって第三者がその人や持ち物を追いかけることができないよう工夫している。 

もし探し物が手元にない場合、iPhoneを操作してAirTagの音を発することで、それがどこにあるのかを見つけることができる。探し物トラッカーの基本的な機能だ。   

iPhone 11以降では、U1チップを用いて、正確な方向と距離を知ることができるようになる。着実に探しているモノにたどり着くことができる(筆者撮影)

確かに音だけでも、大まかに部屋の「このあたり」までは特定できるものの、そこから先が問題だった。ソファのクッションのすきま、ベッドのふとんの中、下駄箱の下など、見つけにくいところに落ちてしまったものを探すには、やはり時間をかける必要がある。 

言うなれば、探し物の「ラスト1メートル」問題だ。 

そこでAirTagでは、超広帯域無線通信(UWB)を利用できるU1チップも内蔵して問題解決を図った。同じU1チップ搭載のiPhone 11以降を用いることで、正確な方向と距離を表示してくれる。

こうしてピンポイントでモノの位置を発見することができるようになる。 

しかも、探索中の画面から、iPhoneのカメラ用ライトを点灯させるボタンも用意されており、夜の捜索や暗い隙間を探すときに気が利いている。  

アップルは近日配信予定のiOS 14.5で、「Find My」(探す)アプリを刷新する。

AirTagを含む持ち物を探す機能を追加し、アップルデバイスや友人・家族などの人に加え、モノの場所を見つける機能を実現する。

すでにサードパーティーからは、電気自転車、ワイヤレスヘッドフォン、探し物タグなどの対応製品がアナウンスされており、「MFiライセンス」を通じて仕様を公開することで、AirTagアクセサリーも含めた探し物のエコシステムを構築しようとしている。 


 確かに自分の持ち物が、自分の近く、すなわち自分のiPhoneとの間でBluetooth通信ができる範囲内にあれば、自分のiPhoneの位置情報を用いた場所の特定ができる。あるいは自分のiPhoneとの通信が途絶えた場合、その途絶えた場所が最終地点だと解釈すれば、そこを探すと見つかる確率が高い。ただし日常生活で日々探し物をしていれば、それだけでは不十分であることがおわかりになるはずだ。今現在の正確な場所がわからなければ、見つからないということだ。 

そこでアップルは、全世界に10億台を超える稼働中のiPhone、iPad、Macを用いた「Find My Network」を構築した。

自分のiPhoneとの接続が途切れても、他人のiPhoneやiPadがAirTagのBluetooth電波を捉えれば、AirTagにモバイル通信機能やGPSを持たせなくても、AirTagの現在の位置情報を特定できる。 

言うなれば、他力本願で、位置情報と通信手段を確保しようというのが、AirTagとFind My Netowrkの活用だ。

こうして、AirTagは電池を多く消費するLTEやGPSを搭載しなくて済むため1年間ボタン電池で稼動でき、ユーザーは世界中のデバイスを大捜索網として活用する、ミライ感あふれるアイデアを利用できるようにした。 

また紛失モードにすると、AirTagに内蔵されるもう1つの無線技術、NFCの動作も変わる。

誰かが落ちているAirTagを見つけて、スマートフォンを近づけると、ウェブサイトが開いて紛失したことを知らせるメッセージや連絡先を見ることができる。同時に、なくした人には、そのAirTagが誰かに見つけてもらえたことが知らされる。 

 

対応するスマートフォンはiPhoneだけでなくAndroidも含まれており、アップルデバイスのみならず、世界で85%以上の普及率を誇るAndroidユーザーをも巻き込もうとしているのだ。

 

* アップルが蓄積するエコシステムの価値化と実装力

AirTagのような持ち物トラッカーはTileなどすでにさまざまな製品がリリースされており、アップルの参入に先進感を感じることはない。ただ、小さなボタンのようなデバイスに、Bluetooth、UWB、NFC、加速度センサーを閉じ込め、開口部なしで音を鳴らす新しいスピーカー技術まで用いるその高い実装力は、なかなかマネできない芸当だ。 

さらにiPhone・iPad・Macを用いて世界中のデバイスを探索網、Find My Networkに仕立て上げ、しかも近年主張を強めているプライバシー保護と探し物の問題解決の両立という難しい課題をクリアしている点も評価すべきだ。 

アップルはBluetoothデバイスを作るメーカーやアクセサリメーカーを巻き込みながら、エコシステムを構築しようとしている。同様の製品の登場を歓迎する姿勢で、「世の中からなくし物をなくす」という壮大な目標実現のために行動している点で、問題解決を主軸に置いている姿勢が透けてくる。 

日本ではセブン-イレブンで、アンカーの充電器などと共に、アップル純正アクセサリーが販売されるようになった。

AirTagもコンビニで手軽に購入できるようになると、ユーザーの裾野が広がるのではないだろうか。  

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