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日米“景気回復格差”の犯人は誰だ?

米国の影さえ踏めぬ日本のマイナス成長

斎藤満

2021年4月13日

米国が経済急回復を遂げる一方、日本のGDPは再びマイナス成長に落ち込むことがほぼ確定的です。

 なぜコロナ感染者数では優位にあるはずの日本が、GDP成長率では米国に大きく水をあけられているのでしょうか?


 

なぜ経済危機のたび、世界で日本の回復だけが遅れるのか

テレワーク実施率で比較すると...

日本企業の多くは時代に合わない低付加価値なビジネスモデルになっており、これが危機に対する脆弱性の元凶になっている。

例えば、テレワークの必要性はコロナ前からずっと指摘されてきたことだが、日本企業ではほとんど導入されなかった。

コロナ後においても日本テレワーク実施率は約31%と、アメリカ(61%)、中国(75%)、イギリス(55%)、ドイツ(50%)と比較するとかなり低い(野村総合研究所調べ)。

デジタル化の遅れはあらゆる分野に影響するので、当然のことながら今後の成長率にも関係してくる。

 ビジネスモデルの転換はどの国にとっても簡単なことではなく、諸外国は地道な努力を積み重ねてビジネスのITシフトを進めてきた。感染が少なく推移しているにもかかわらず、経済への影響が深刻という日本の現状は、危機対応というものが日常的な活動の延長線上にあるという、当たり前の現実をあらためて私たちに知らしめている。



 * 米国に水をあけられた日本の景気

日本は「経済は一流、政治は三流」と言われてきました。

しかし、東日本大震災や新型コロナ禍などの危機に直面すると、「三流政治」が経済にも大きな負担となり、「経済は一流」の地位を失いつつあります。

現在の日本経済はこれを象徴しています。コロナ対応のマズさが、景気に余計な負担を強いています。

IMF(国際通貨基金)はこの4月に世界経済見通しの改定を行いました。

これによると、2021年の世界のGDP(国内総生産)成長率は6.0%成長と、3か月前の予想5.5%から上方修正しました。

米国など、主要国で積極的なコロナ支援策を打っていることを織り込んだためと言います。

しかし、国別の内訳をみると愕然とするものがあります。

コロナ感染者が世界一の米国が、昨年のマイナス3.5%から今年は6.4%に急回復する予想で、しかも1.9兆ドルの追加コロナ支援策を織り込んで前回1月の予想5.1%から大幅に上方修正しています。

これに対して、主要国の中ではもっとも感染者が少ない国の1つである日本は、昨年のマイナス4.8%から今年は3.3%の成長にとどまります。これは中国の8.4%予想はもとより、ユーロ圏の4.4%成長をも下回るものです。

コロナ感染者数では優位にあるはずの日本が、GDP成長率では米国に大きく水をあけられています。

これは足元の景気にもよく表れています。

今年1-3月のGDP予想では、日本が再びマイナス成長に落ち込むことがほぼ確定的なのに対して、米国はアトランタ連銀のGDP短期予測「GDPナウ」によると、1-3月のGDPは年率6.2%成長予想となっています。

これは2月に米国全土を襲った大寒波の影響で大きく落ち込んだ2月の指標を多く織り込んだもので、これから3月の指標が出るにしたがって、さらに上方修正されると見られ、エコノミストの予想では年率10%近い数字になるともいわれています。

日米の景気でここまで大きな差がついてしまったのは、何が原因なのでしょうか。

 

* 個人消費に天と地の差

現象面でみると、個人消費の元気度合いがまさに天と地の差があります。

米国の1-3月のGDPを支えているのは個人消費です。

アトランタ連銀の「GDPナウ」によると、1-3月の個人消費は2月の弱い数字を入れても年率7.2%増と好調で、景気をしっかり支えています。

これに対して、日本では総務省の「家計調査」がを見ると、1-2月の消費水準は昨年10-12月の水準を6.6%も下回っています。

日銀の「消費活動指数」でも1-2月平均は10-12月を3%下回っています。

日本はこの消費の落ち込みがGDPのマイナス成長をもたらそうとしています。

コロナの感染者数では圧倒的に日本が少ないのに、なぜこれほど消費やGDP成長に差が出るのでしょうか。

 

* 積極景気支援策では負けないが

IMFは、米国の成長率を引き上げたのはバイデン政権が打ち出した1.9兆ドル規模の追加コロナ支援策を織り込んだためで、これが日本やユーロ圏にも貿易を通じてプラスの波及効果を持つと言っています。

米国はその前にトランプ政権が3兆ドルのコロナ支援策を打っているので、合わせると約5兆ドル(500兆円強)の追加経済対策を打ったことになります。

しかし、経済対策という点では、日本も昨年から3次にわたる補正予算を組んで、総事業規模にして約300兆円もの追加策を打っています。

経済規模からすれば決してトランプ、バイデン政権に負けてないはずですが、結果に結び付きません。

その原因は、300兆円規模と言いながら、これは見せかけの数字で、実需としての財政支出規模はずっと小さいか、内容に無駄が多いか、ということになります。

このからくりを解く1つのカギが、日銀の「資金循環勘定」に見られます。

昨年1年間の一般政府の資金不足額は48.4兆円で、19年の13.5兆円から約35兆円拡大しただけとなっています。

これには第3次補正分が入っていないとしても、「真水」として財政需要を追加した分は35兆円程度しかなかったことになります。見せかけと実態が大きく乖離していたことになります。

 

* コロナ対応の差

特に個人向け支援策に大きな差が見られます。

日本では昨年1人当たり10万円の特別給付金が支給されましたが、財務大臣はその多くが貯蓄に回り、消費効果は限られたとして、以降、追加支給には消極的です。

失業者に対しても支援がなされるわけではなく、むしろ企業に雇用調整助成金を支給し、雇用維持を図りました。

これに対して米国ではトランプ政権が1人あたり1200ドルの給付金を出した後、議会がさらに600ドル、バイデン政権が1,400ドル(富裕層は除外)を給付、ほとんどの国民は1人3,200ドル(約35万円)の給付金をもらい、さらに失業保険は一時週に600ドル、最近でも週に300ドル上乗せされ、給付期間も延長されました。

これで個人所得は大幅に増えています。

つまり、コロナ支援策として日本は主に企業に助成金、給付金が支払われ、中には不正受給も指摘されますが、個人は1回の給付金以外、直接支援の対象にはなっていません。

一方、米国では1.9兆ドルの追加支援策のうち1兆ドルが個人向けに支払われています。

 

* 個人を助けぬ日本に未来はない

支援の対象が企業の日本に対して、個人の米国の差が、そのまま個人消費の差に表れ、さらにそれがGDPの差につながっています。

企業に支払われた助成金は、雇用を維持した報酬としてもらうだけで、これが生産や投資を刺激したわけではありません。

雇用を維持したとしても、労働者は雇用不安、感染不安で消費を抑制し、これを補う策が打たれていないのが日本です。

また、米国ではすでに国民の約半分がワクチン接種を受けているのに対し、日本ではまだ接種件数がやっと100万件に達し、100人当たり0.8回と、大幅に遅れています。

そして飲食店に時短要請し、補助金を出すくらいしか手が打てない日本では、すでに感染の第4波が押し寄せ、経済を圧迫しようとしています。

コロナ対応の巧拙がそのまま景気の好不調に表れています。政府の体たらくを悲観しても始まりません。

選挙でまともな人間を政界に送り込むのが国民の義務であり責任でもあります。

 




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