おがわの音♪ 第1116版の配信★


「頭のいい人」とそうでもない人の決定的な差

いきなり考えても決してうまくいかない理由

柳川 範之 : 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授

2021年04月03日

  誰もが大量の情報を簡単に手に入れられる今、オリジナリティーのある発想力がより強く求められています。その中において「『頭のよさ』とは習慣である」と主張するのは『東大教授が教える知的に考える練習』の著者、柳川範之・東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。本書より自らの体験を交えた発想の生み出し方について解説します。



* いい考えを引き出すには土台が必要

考えるためには、まず材料が必要です。考えるための材料になるのが情報です。

しかし、情報を単純に集めるだけでは、すぐにいい考えが生まれるわけではありません。

いい考えを引き出すには、そのための土台を頭の中につくっておくことが大切になります。

よく誤解されているのですが、「情報収集→それをもとに考える」というだけではうまく考えられないのです。

実は、情報を見て、そこから初めて考えるのではなく、情報を頭に入れる前に、少し手間暇をかけて、「考えるための土台」をつくっておくことが大切だからです。

これは、「考えること」を「調理をする」ことに例えるならば、「考えるための土台を作る」ことは、「調理道具をそろえておく」ことに相当します。

どれだけおいしそうな肉のかたまりがたくさん届いたとしても、それを切る包丁も焼くコンロもなければ、おいしい料理をつくることはできないでしょう。

当たり前のことですが、適切な調理道具をそろえておくことは、料理をするうえでの最低条件です。

ところが、「考える」という作業については、この最低限の条件がほとんど考慮されていないのは不思議なことです。

あたかも素材をたくさん集めさえすれば料理ができるかのように誤解をして、情報を集めている人が多いのです。

しかし、調理道具、つまり「考えるための土台」がそろっていないために、ほとんど調理ができず、きちんと考えることができないのは、もったいないことです。

残念ながら、この「考えるための土台」づくりについては、学校等でも、意識して教えられることがほとんどない気がします。もし、いくら考えることに時間を費やしても、上滑りしてしまうと悩んでいる人がいたら、それは、頭の中に土台がないことが原因の可能性が高いのです。言い換えれば、土台さえしっかりしていれば、成果がどんどんあがるはずです。

それでは、どんな調理道具をそろえればいいのでしょうか。

頭の中に「考えるための土台」をつくるというのは、具体的に何をすればいいのでしょうか。

まず必要なことは、発想を変えることです。

「情報はそのままでは役に立たない」「調理しなければ使えないんだ」という発想を持つこと。

簡単ではありますが、これがいちばん大事な道具です。

どんな情報もどんな知識も、そのまま丸のみするのではなく、それを頭の中で加工して初めて、力になってくれる。

そういう発想で情報に接することが大切です。

発想を変えるというのは、心のクセを変えるということでもあります。

つまり、考えるための土台をつくるというのは、発想のクセを変えていくことです。

簡単なことではありますが、実際に実行しようとするとなかなかできなかったりします。

しかし、けっして難しいことではないので、続けていけば、きっとできるようになります。

次に必要な「考えるための土台」は、具体的なものを抽象化して捉えるクセをつけることです。

情報を抽象化して理解するというのは、考えるプロセスの中においてとても大切です。

なぜなら多くの場合、求められるのは、かなり個別的で今までに見たこともない問題の解決策なので、どこかで得た情報をそのまま使えるわけではないからです。

 

* ものごとを抽象化して、構造を捉えるクセをつける

たくさんの情報を得ていても、それをそのまま解決策にできないとすれば、その情報や知識を応用する形で、解決策を考えていく必要があります。

この応用をするためには、得られた情報を抽象化して理解しておくクセをつけるのが有効なのです。 

例えば、小学校の算数を考えてみましょう。

最初は、みかんの数を数えさせたり、りんごの数を数えさせたりします。

次に、みかんとりんごを果物という抽象化された分類に変えて果物は何個あるでしょう? という質問になります。さらには、みかん3個にりんご5個を足して、全部で8個という具体的な計算から、3+5=8という抽象的な形での理解に進んでいきます。

 ここまでくれば、足し算の計算は、みかんやりんご、あるいは果物に限ったことではなく、ほかの足し算の応用問題も解けるようになります。

それは、果物の数を数えるという行為を、足し算という抽象的な形で理解できているからです。

応用力をつけるカギは、抽象化なのです。 

そうはいっても、抽象化して理解するのは、容易なことではありません。

もしかすると、ここまで読んで、どうしたら抽象化できるのだろう、と途方にくれている読者の方もいるかもしれません。

 誤解しないでいただきたいのは、抽象化して理解できるようになることが、考える土台ではないということです。

調理器具としてそろえておく必要があるのは、あくまでも、抽象化して理解しようとするクセだけです。

日頃から、「ああ、抽象化っていうのは、大事なんだなあ」「単に情報をそのまま受け取るのではだめで、抽象化の工夫が必要なんだなあ」と思うことがポイントなのです。 

では、どうやって抽象化するクセを身につけたらいいでしょうか。

また、発想の仕方、工夫の仕方は、どうしたらレベルアップしていけるでしょうか。

以下では、どのようなスタンスで情報に接すれば、抽象化のクセがつきやすいのかについて、次の3つのステップを踏んで説明していくことにしましょう。それは、

(1)幹をつかむ

(2)共通点を探す

(3)相違点を探す

の3つです。

 

* 「本質的なところは何か」を探す

〈考える土台をつくる頭の使い方①〉幹をつかむ

情報を抽象化する、第1の方法は、その情報の大事なところ、本質的なところは何かを探してみることです。

情報の枝葉を外して幹の部分をつかまえるといってもいいかもしれません。

それには、「一言で簡単に表現してみる」ことが有効です。

あるいは「人に簡単に伝えるとしたら、何といえばいいだろう」と工夫してみるといいでしょう。

情報の本質を理解するには、一言でその情報を表現してみることがとても役に立つと思います。

例えば、政治のニュースを見て、大事だなと思ったとしましょう。あるいは誰かのブログを見ておもしろいなと思ったとしましょう。

そうしたら、それがどんな点で大事だと思ったのか、どんなところがおもしろいと思ったのかを、友人や知人に一言で伝えるようにするのです。

もちろん、本当に伝えなくてもかまいません。伝えるつもりになって考えてみる、あるいは書き出してみる

それが、情報の幹をつかむことであり、抽象化の大きな一歩になります。

このように書くと、「どこが重要か、自分にはよくわからないのです」「間違ったところを、大事だととらえてしまわないか心配です」という声がよく返ってきます。

しかし、これは正解を見つけないといけないという考え方に縛られている発想です。

自分が大事だと感じることに、正しいも間違っているもないのです。正解などありません。

その人自身が、大事だ、興味深いと思うことをピックアップすればいいのです。

それによって、その人ならではの思考法が育ってくるのですから。

言い換えると、そこはむしろ、独自性があったほうがいいのです。

また、重要だと感じるポイントも、さまざまな側面が考えられます。

例えば、ある会社の不祥事がニュースで報道されたとしましょう。

その際に、不祥事が生じた原因が重要だと感じる人もいれば、不祥事が明らかになったプロセスが大事だと感じる人もいるかもしれません。あるいは、不祥事の結果生じるリストラや業績悪化の可能性を気にする人がいてもおかしくありません。

このように、1つのニュースや情報に接したときに、どの側面に着目するかは、人によってそれぞれですし、これにも、どの側面が正解というものはありません。

ただし、多様な側面に注目するクセをつけることは、よりいい考え方を身につけていくうえで重要なことでしょう。

人とは違う考え方をして、新しい方向性を打ち出すには、やはり人とは違う着眼点を持つことは大事なことだからです。

 

* 一見異なるように見えるものでも

 〈考える土台をつくる頭の使い方②〉共通点を探す

情報を抽象化していく、次の大切なステップは、一見異なるように見えるものから、共通点を探し出すクセをつけることです。ベストは、幹の部分について、どこか共通な点がないか探し出せるようになることでしょう。

しかし、最初はなかなか難しいので、共通点は何でもかまいません。

例えば、今食べている料理と今使っているカバン、どちらも赤色が使われている、というように何でもいいから共通点を探すクセをつける。そうすることによって、やがて重要なことについても、共通点を取り出せるようになってきます。

これが情報を抽象化してまとめておく大切な一歩になります。

これがある程度できてくると、みかんとりんごは違ったものに見えるけれど、果物という点では共通していると整理できるように、そもそもまったく違うように見える情報でも、この点では共通点があると整理できるようになります。

これは、情報を抽象化する大きな一歩です。

そして、共通点でつなげられるようになると、異なったジャンルの情報から解決策を得たり、違う分野の情報を例え話に使って説明できるようになったりします。

さきほど「考える」というプロセスを「調理」に例えて説明しましたが、これは両者に共通点を見つけているからです。

この能力は頭の良しあしと関係がありません。

この頭の使い方がうまい人で、よく見かけるのが、すべての問題を自分の身近な話に置き換えてしゃべる人です。

世の中のニュースを見て、すべて自分の近所の話に置き換えてしゃべるような人が、どなたの身近にも1人くらいはいることでしょう。逆にこうしたことを常日頃から意識してみるのも、いいトレーニングになります。

逆にそのような例えを考えること自体が、共通点を探すトレーニングになるという面もあります。

料理の話をビジネスに例えたり、人間関係の話に例えてみたりすることで、違うように見えるものに、思わぬ共通点が見つけ出せる場合もあります。

普段から、まったく別に見えるような2つの話題をもとにして、さまざまな共通点を探す練習をしていくと、例えば、芸能の話題から金融のアイデアが出てきたり、逆に金融の話から料理のアイデアが出てきたり、意外な意見や斬新なアイデアを思いつけるようになってくるでしょう。

共通点は、ざっくりとした、場合によっては多少こじつけになってもかまいません。

厳密にいうと違うということがあるかもしれませんが、そこは正確さを求めずにトレーニングをすることのほうが大切です。

こじつけでもいいから違う話題について共通点を見出せることのほうが、能力として、頭のクセとしては重要ではないかと思います。

 

* 似たものに違う点を見つけ出す

 〈考える土台をつくる頭の使い方③〉相違点を探す

情報を抽象化して理解するステップとしては、逆の頭の使い方もあります。

それは、似たものに違う点を見つけ出すことです。

つまり、似ているように見えるけれども本質は違っているのではないか同じ現象のはずなのに、このあたりで違うのはなぜだろうと、思考をめぐらすことで、抽象化のクセをつけていくやり方です。

例えば、同じような不祥事のニュースが相次いだとしましょう。

通常だと、「ああ、また同じような不祥事か」と流してしまいがちです。

しかし、そこであえて、少しこだわってみる。どこか違う点がないだろうか、違う点はどのあたりにあるだろうかと、もう少し詳細にニュースを検討してみるのです。

違う会社で起きた出来事ならば、詳細に見ていくと違う点がいろいろ出てくるでしょう。

そうしたら次に、そのような違う点があるのに、なぜ同じような不祥事が起きたのかを想像してみます。

そのように思考を広げていくことによって、抽象化して考えるクセがついていきます。

大切なのは、同じような情報に接したときに、「ああ似ているな」と思うだけで流さないことです。

あえて違いを見つけ出すことがポイントです。

このように抽象化していくにあたっては、比べるという作業がとても有効になります。

ただし、現代はさまざまな情報が洪水のように流れてくる時代です。

すべての情報について、このように丁寧に対応していたのでは時間がいくらあっても足りないことも事実でしょう。

 

ここで説明したのは、あくまでも抽象化するクセを身につけるにあたっての、発想の仕方、工夫の仕方にすぎません。

これをきちんと実行できるようにする必要はありません。

準備段階としては、そのような方向性を意識するだけで十分です。

そのあとで少しずつ、自分が大事な情報だと思うものに、時間をかけて抽象化のクセをつけていけばいいのです。

 

Copyright©Toyo Keizai Inc.All Rights Reserved.




メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。