なぜ公的機関のアンケート調査はデジタル化されず手作業のままなのか?


2021.03.31

 政府はデジタル庁を創設し、さまざまな業務の効率化に向けて動いているようですが、行政や公的機関の仕事の多くは、デジタル化とは程遠いところにあります。その中の一つ、公的機関のアンケート調査は今でも一部を除き手集計、手入力のままです。その呆れた理由を解き明かすのは、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは、デジタルな投票システムには大きな可能性があると見ていて、アパレル販売員のモチベーションアップへの活用法やニッチな民間短観などを提案しています。


 * なぜ、アンケートを手作業で行うのか?

1.効率化、経費削減のニーズがない

コロナ禍で、保健所が未だにFAXを使っていることが分かり、世間は驚いた。

なぜ、もっと効率的なシステムを使っていないのか。民間企業なら、業務の合理化は経費削減に貢献し、利益を増やすことにつながる。どの会社も無駄の削減に一生懸命だ。

しかし、公的機関はそうではない。経費削減や効率化をしても、職員の給料が上がるわけではない。

むしろ、これまで認められてきた多重入力を合理化すれば、人員と予算を減らされるかもしれない。

役所の予算は、予定通りに支出することが大切であり、経費削減は評価されない。

同様の理由で、アンケートも手作業が残っている。

アンケートをデジタル化すれば、アンケートの回収、分析、グラフ化まで自動化することが可能だ。

アンケート業務を外注していても、外注先は安定した仕事を確保したいので、新たな仕組みを導入することは期待できない。

発注する側の役所も、新たなシステム構築の予算を申請するのは面倒だし、合理化により、予算や人員が削られては困る。

かくして、旧態依然とした非効率的なアナログ手法は生き続けるのである。

 

2.アンケートのデジタル化

実は、アンケートのデジタル化は難しくない。しかし、アンケート調査の費用は高止まりしている。

その理由は、公的な仕事は合理化する必要がなく、最も頻繁にアンケート調査を実施しているのは公的機関なのだ。

民間のアンケート調査も、多くの場合は公的機関と同様の結果となる。

既存の業者は既存の手法を守ろうとし、発注する側も予算化している事業を継続しようとする。

前例を踏襲するのが、最もリスクがないのだ。

単発でアンケート調査をする場合には、安価なデジタルアンケートシステムが使われている。

例えば、ミスコンの投票や、アイドルイベントなど。QRコードでアンケートのWEBページに誘導し、そこで投票してもらう。

短時間のレンタルが可能で、即座に集計することができる。

使ってみれば、とても便利だが、ビジネスに活用するという発想はない。

手作業が当たり前のアンケート調査と、キャンペーンで使われる投票システムが同じとは思わないからだ。

 

私は、デジタルな投票システムを活用して、業務改善や売上改善につなげられないか、を考えてみたい。

 

3.販売員の双方向メディア

私がアパレルでMDをしていた頃、売れ筋を予測する上で、最も頼りにしていたのは「販売員の声」だった。

「店頭の様子は売上数字を見れば分かる」という人もいるが、私はそうは思わない。

販売員は最高のセンサーであり、販売員の頭の中には数字以上の情報が詰まっているのだ。

 

例えば、商品を手にとって、迷ってから棚に戻した人がいたとする。何を迷ったのか、なぜ買ってもらえなかったのか。

それが分かれば、次の商品企画の役に立つかもしれない。あるいは、競合店で良く売れているアイテムが、自分の店にもあったら売れたのに、と思っていたとする。そんな情報も重要だ。

商品が色欠けしていて、売上を逃していることが分かれば、次回から色の数の配分を変えることができるだろう。

こうした細かい改善の蓄積が売れる店に変えていくのである。

また、販売員のモチベーションを上げると、店の売上は伸びる。

販売員はキャリアアップのための勉強をしたいと思っても時間がない。「

結局、自分は使い捨ての存在だ」と思うようでは、モチベーションも下がる一方である。

 

例えば、販売員全員に週1回、一つだけ販売のポイントを伝え、一つだけ質問する。

販売員は、その日のうちに、質問に回答し、自由コメントを書く。

翌日か翌々日に、販売員から集めた回答やコメントをフィードバックする。

内容にもよるが、これを続けることにより、少なくとも販売員は孤独感から脱し、仕事にリズムが生れるのではないだろうか。販売員は常にノルマを与えられるだけで、誰にも自分たちの声を届けられない。

その閉鎖的な環境を改善できるかもしれない。

 

4.アンケートによる民間短観

日銀短観という調査がある。これもアンケート調査であり、オンライン、FAX等で回答を回収している。

日銀のサイトによると、

「統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としています。全国の約1万社の企業を対象に、四半期ごとに実施しています。

短観では、企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどうみているか、といった項目に加え、売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値など、企業活動全般にわたる項目について調査しています」

とのこと。

日銀ほど大規模かつ正確な調査はできないが、民間短観があってもいい。

最近と先行きの動向を予測するという意味では、アパレル短観があってもいいし、テキスタイル短観があってもいい。

売上、利益、価格、需給バランス、雇用、設備投資、資金繰りの最近の状況はどうか、そして、先行きはどうなりそうか。

 

商店街短観、伝統工芸短観、観光短観はどうだろうか。

地域ごとの短観も良いかもしれない。都内でも墨田区短観、荒川区短観など、23区の短観があれば、地域特性が明らかになる。

高校生短観、中学生短観で、学校内の雰囲気の先行きが分かるかもしれない。子育て短観、介護短観はどうだろうか。

現場の人の予測が共有できれば、政治家や行政も動かせるかもしれない。

民間短観ではコメントも募集したい。大手マスコミの情報が信用できないなら、自分たちが発信すればいいのだ。 


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