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日本企業がGAFAよりリシュモンに学ぶべき理由

日本企業にも取り入れられる、ラグジュアリーブランドの経営戦略とは(写真:sidelniikov/PIXTA)

 

コロナ禍でも売れ続けるブランドの強さの秘密

杉本 香七 : 株式会社メントール代表取締役社長

2021年03月29日 

一般企業、時に日本の中小企業で働く人や経営者にとっては謎が多く、遠い存在に思えるラグジュアリーブランド。不況でも長期的に勝ち続けているブランドは一見、華やかに見えて別世界のことのように感じるが、その経営戦略には意外にも日本の地場老舗企業の堅実な姿に通じるものがある。元は山奥の小さな工房からスタートしたものづくり企業が、どんなブランディングをし、価値を普遍化させ、時代や環境変化を克服し、世界的なラグジュアリーブランドになったのか。

『カルティエ 最強のブランド創造経営』の著者が解説する。 



* 不況時にも強いラグジュアリーブランド

リーマンショックから13年、東日本大震災から10年、コロナショックから1年。

大きな災いが起こるたびに、消費が冷え込み、「もうダメだ」と言われ、多くの企業が倒産したり縮小や買収の憂き目に遭うなど、今も暗いニュースが続いている。

不況になると一般的に消費マインドは落ち込み、真っ先に、生活必需品でないものや、高級品が売れなくなると思われがちだ。しかし事実は、そうではない。 

実は、エルメス、ルイ・ヴィトン、シャネルといった欧州ラグジュアリーブランドは、そうした災いに直面すると、一時的には売り上げを落としても、不死鳥のごとくよみがえり、地道に売れ続けるどころか、かえって業績を伸ばすことすらある。

 全事業分野が劇的な回復をしているとは言えないものの、2020年7~9月期に、エルメスは4.1%増収を達成、LVMHは好調な業績回復を受けて、2021年4月15日に開催される株主総会で増配を決定するなど、確実に強さを見せている。

 リーマンショック、東日本大震災による不況時と同様に、今回のコロナ禍でも、価格も高く、不要品だらけのラグジュアリーブランドは、世の中の不況からは例外と言わんばかりに、「高くても売れ続ける」ブランドとして君臨しているのだ。

 ところで、コロナ禍でも好業績な企業の代表としてまず思い浮かぶのがGoogle、Amazon、Facebook、AppleなどアメリカのIT企業だ。これら企業の戦略やビジネスモデルの本、記事は日本でも大人気だ。

 しかし、ほとんどの日本企業にとって、これらGAFAのやり方を参考にすることは難しいと思われる。

これらの企業は、大規模なマーケットを席巻することが前提のモデルで、いくら戦略やビジネスモデルが優れていても、日本企業が参考にして取り入れるのは困難な部分が多いからだ。

 では、どうすればいいのか。答えはラグジュアリーにある。

ここ数年目立って台頭してきたGAFAよりも昔から存在し、日本企業に似た体質の企業群がある。

それが、時計や宝飾品など職人技術に根差した価値を創出しているラグジュアリーブランドだ。

 これらのブランドが持っている経営資源は、地道なものづくりを続け、技術開発を続けてきた日本の中小企業と多くの共通点がある。明白な違いは、ブランディングとグローバル戦略だけだ。 

カルティエやピアジェなど、今でこそセレブ御用達でグローバルに知られる時計、宝飾ブランドも、もともとスイスの山奥や、フランスの職人階級出身のファミリー発祥の小さな名もないものづくり屋だった。

 彼らは、誕生からの歴史、発祥地の特性、創業者や職人など縁深い人物、ものづくりの技術など、日本のものづくり企業ならどこでも有している経営資源を地道に磨いてブランド価値に転換することで、現在の世界最高峰の地位を確立してきたのだ。

 

* 日本のものづくり企業に通じるリシュモン

ティファニーの買収(2021年に決着)で最近も話題になっていたルイ・ヴィトンを傘下に持つLVMHやエルメスなど、世界的なラグジュアリーブランドはいくつかある。 

だがあえて私は、「リシュモンに学べ」と言いたい。

日本ではあまり知られていない企業グループ「リシュモン」はカルティエやモンブランを傘下に持つラグジュアリーコングロマリットだ。

 LVMHのような知名度や派手さはないが、リシュモングループやその傘下ブランドのやり方にこそ、ブランディングとグローバル化戦略がうまくない日本企業が現状を打破するヒントが多く隠されている。 

多くの日本の企業が、「旧ビジネスモデルから脱却しなければ明日はない」とばかりにGAFAを仰ぎ見る雰囲気になっているが、今まで地道にものづくりや技術開発に心血を注いできた企業には現実味に欠ける。

可及的速やかにできる価値作りに効く処方箋は、ものに高い付加価値をつけてアピールするのが得意なラグジュアリーブランドに隠されている。中でも技術経営色が強いブランドを多くマネジメントしているリシュモンが参考になる

 リシュモングループの会長、ヨハン・ルパートも、職人技術や価値が長く続く商品の価値と重要性を熱く語り、その思いを自社戦略にも反映させている。その姿や信念はまるで日本の町工場の熱い親方を思い起こさせる。

 

* ルパート会長のアフターコロナ観

同氏は、リシュモンの2020年3月通期の決算発表会において、コロナ禍における消費傾向について、下記のように述べている。

 「外出制限中は食器類など家で過ごす時間をより楽しくするためのものがよく売れた。今後もその傾向は続くと思う。

これみよがしに富をひけらかすような行為は品がないと眉をひそめられるようになる一方で、職人技が光る、高品質だが控えめな住まいの商品の需要が高まるのではないか」

「社会の分断が進んだ結果、富をひけらかすことは今後さらにひんしゅくを買うと思う」 

そして、自社傘下にあるカルティエやヴァン クリーフ&アーペルなどのブランドが持つデザイン性の高さやクラフツマンシップが顧客から評価され、高価でも納得して購入されるとの見通しを述べている。

彼らの、派手なマーケティング戦略によるブランド価値創出よりも、地道で堅実な「中身の充実」を実行する姿は、日本企業に似ていると言えないだろうか。 

こだわりの高品質なものや技術を創出してきた日本企業は、性質が似ていてやり方がうまいヨーロッパのラグジュアリーブランドを多く傘下に持つ「リシュモン」から学んで価値を高め、世界に羽ばたく余地が大いにある。

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