デキる人ほど「何も考えない時間」を大事にする


効率的に成果を出し続けるための、科学的に正しい働き方を紹介します(写真:Chinnapong/PIXTA)

「思考の酸欠」を防ぐ脳科学的に正しい働き方

ジム・クウィック : ブレインコーチ

2021年03月25日

 集中してバリバリ働きたいと願うビジネスパーソンは多いが、ガムシャラに「集中しよう」と思うだけでは仕事の効率は上がらないし、そもそも集中力は四六時中続くわけではない。むしろ効率的に成果を出し続けるためには、頭の中を鎮め、何も考えない時間を設けるほうが効果的だ。Googleやナイキ、ハーバード大学を法人顧客に持ち、『LIMITLESS 超加速学習――人生を変える「学び方」の授業』の著者でもある脳トレーナー、ジム・クウイック氏の、科学的に正しい働き方を紹介する。


* 多忙とストレスが思考に与える影響

集中して仕事をするためには、どうすればいいのか。

目の前のタスクにただ取り組むだけでは足りない。

集中するためには、それを妨げるものを排除し、持てる注意をすべて注ぎ込む能力が求められる。

だが、それが現代社会では難しい。

多くの人は同時に複数のデバイスで、たいていそれぞれ複数のアプリを立ち上げて作業している。

そのうえ会議に出席し、メールやテキストに返信し、SNSに書き込みと、いくつものことをしている。

だからこそわれわれには、頭を鎮める方法を見つけることが前にもまして重要なのだ。

気づいていないかもしれないが、あなたが日々接している情報は、総じてあなたに多大なストレスを与えている

しかしあなたは、それを「いいこと」だとすら思っているかもしれない。

ストレスが多いのは忙しい証しだし、多忙な自分は世界に意味のある貢献を果たしている、というわけだ。

確かにそうかもしれない。ただそのために不安になっていたら、というより、不安があるのに忙しさを肯定していたら、気をつけたほうがいい。

「不安で心が弱ると、正常な判断をしたり、問題解決のために行動したりするのが難しくなる」と、『The Stress-Proof Brain(ストレスに強い脳)』の著者で精神科医のメラニー・グリーンバーグ博士は論じる。

「不安は考えすぎも生む。考えすぎると不安が増し、それがさらなる考えすぎを呼び込み……と延々続く。

この悪循環から抜け出すにはどうしたらいいのか。

不安を抑え込むだけでは解決しない。また現れるだけだし、悪くすればもっとひどくなる。

 

ホワイトスペース・アット・ワーク社のCEO、ジュリエット・フントは、空白(ホワイトスペース)時間を「忙しさの合間の考える時間、戦略的に立ち止まる時間」だと説く。

ジュリエットが僕のポッドキャストで語ったところによると、空白時間は「ほかのすべてを発火させるための酸素」なのだという。グリーンバーグ博士もジュリエットも、現代人はもっと頭を空っぽにする時間を持つべきだと主張する。

そうすることがメンタルにいい効果をもたらすのは明らかだ。

一方であまり知られていないのは、忙しさからくる注意散漫の、集中力や生産性への大きな影響だろう。

神経科学のいくつかの興味深い研究がそのことをあぶり出し、「注意散漫は実際に脳を変化させる」と証明している。

研究の1つを主導したユニバーシティ・カレッジ・オブ・ロンドンは、メディアのマルチタスク(テレビを見ながらスマホも見るなど)を頻繁にする脳とあまりしない脳を比較し、前者のほうが、集中力に関わる前帯状皮質(ACC)が小さいことを発見した。

ドイツのマックス・プランク研究所は、注意力を高める練習をした被験者のACCの厚みが増したことを突き止めている。

さらに注意散漫は、時間の浪費にもつながる。カリフォルニア大学アーバイン校の研究は、注意散漫になると1日の能率が下がることを示している。

「頭を切り替える必要がありますから。没入するのにしばらくかかるし、どこまでやったかを思い出すのにも時間を取られます」と筆頭執筆者のグロリア・マークは言う。

「中断された作業の約82%はその日のうちに再開されるとわかりました。ところが困ったことに、頭が中断前の状態に戻るまで、平均で23分15秒かかるのです」。つまり、集中が途切れると、そのたびに20分以上を浪費するわけだ。

 

あなたは毎日、何度集中をそがれているだろう?

 

* せわしない頭を鎮める3つの方法

デジタル環境に囲まれ、多忙な日々を送る現代人が、それらからストレスを受けたり、注意散漫になったりすることを避けるためには、意図して頭を鎮める必要がある。その方法にはどんなものがあるだろうか。

瞑想、ヨガ、ある種の武術などは、せわしない頭を鎮めるのにすばらしい効果を上げる。

とはいえ、昼間に数分以上仕事を抜けるのが難しい場合はあるだろう。

そんなときにもできることはある。試してほしいのは次の3つだ。

 

1  深呼吸する

自分の軸を取り戻したいときに呼吸はいつでも役立つ。

統合医療のエキスパート、アンドリュー・ワイル博士は、「4-7-8呼吸法」と呼ばれる方法を考案した。

それはこんな具合だ。

・口からフーッと音を出しながら、息を吐き切る。

・口を閉じ、鼻から静かに息を吸いながら、頭の中で4つ数える

息を止めて7つ数える。

8つ数えながら、口からフーッと息を吐き切る。

 

これで1呼吸。また息を吸い、このサイクルをあと3回、4呼吸まで繰り返す。

 

* 集中しなくていい時間を具体的に決める

2  ストレスの原因に対処する

気になることがあると、それは対処するまで心を圧迫し続ける。

あなたがなかなか集中できず、同時に10個以上のことを頭の中で考えているなら、すべきことを避けているせいでそうなっている可能性が高い。思い当たるふしがあれば、4-7-8呼吸法を試すか、ストレスのもとになっているタスクを片づけよう。そうして集中力を取り戻してから、ほかのことにまたかかるといい。

 

3  「集中しなくていい時間」を組み込む

集中すべきときに電話やメールをオフにするのは難しそうだが、できればすばらしいし、その気になれば案外できる。

それよりもずっと難しいのは、心配事や義務感にタスクの邪魔をさせないことだ。

「心配」で「やらなければならない」と感じるから電話に出るわけだし、そのせいでなかなか集中できないのだから。

2のようにストレス源に対処するのも1つの手だが、それができない場合もある。

だとすればいっそ、集中しなくていい時間をスケジュールに組み入れ、不安や義務感をひとまず頭の隅に追いやるのはどうだろう? ただし「あとで心配しよう」と言うだけでは、20分後にまた考えていたりする。

「これについては4時15分に心配しよう」と具体的に決めれば、そうできる確率は高くなる。

 

日々の忙しさに忙殺されて目が回っているビジネスパーソンは、ぜひ今から、次の「集中しなくていい時間」をスケジュールに組み込もう。

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