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地質学者が捉えた、東北沖と伊豆諸島周辺で大地震発生の「兆候」と「法則」

2021.03.11

日本史上最大のM9.0という巨大な地震が東北地方を襲った、あの「東日本大震災」の発生から本日で丸10年の節目を迎えました。

しかし、巨大地震が発生する可能性が消えたわけではありません。現在、日本列島周辺の各地で巨大地震の「兆候」と思われる宏観異常現象などが出始めています。

MAG2 NEWS編集部では今回、公共機関の発表したデータから見えた「前兆」をもとに、東北沖の日本海溝周辺および伊豆・小笠原諸島周辺における地震発生の可能性について、地質学の専門家に最新の分析結果をお伺いしました。 



*福島沖M7.3震度6強の地震は「前震」か?

今年2月13日午後11時7分に発生した、福島沖を震源とするM7.3(最大震度6強)の地震。

誰しも10年前の東日本大震災のことが頭をよぎったに違いない。

現に、気象庁はその後の会見で、「東日本大震災の余震」との見解を公表している。 

この時は津波の発生もなく、被害は最小限にとどまったが、これ以降に周辺の地震発生回数が急激に増えている。

 同じく気象庁の震央分布データの2021年3月10日から11日までの24時間以内に発生した地震を見ると、2月に発生した福島沖を中心に、宮城沖、岩手沖、そして三重沖でも地震が頻発している様子がわかる(下の右図参照)。  

赤に近い色で示されているものは震源が浅く、青に近づくに連れて震源が深いことを示している。 

東北沖では中間(20-50km)あたりの深さで地震が発生していることがわかるが、地震発生の「前兆」と言える現象は何か発生していないのだろうか。 

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2月13日深夜に発生した地震の震度分布図 image by: 気象庁 震度データベース検索

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気象庁が公表している24時間以内の震央分布データ。直近の1日だけでもこれだけの地震が発生している。 image by: 気象庁


*衛星ひまわりの画像に映った「大気重力波」

大きな地震が発生する前に、その周辺の上空に波状の雲が出現する現象が確認されている。これが「大気重力波」だ。

大気重力波とは、大気の密度差によって生じる空気塊の上下振動から発生する大気中の波で、地震の発生直前に電磁気的な異常が見られるという研究は、地震の研究者の間でも議論されている。

学術論文には、地震前に大気重力波が地表から電離圏に伝達しているのではないかという観測結果やモデルが存在していることが紹介されている。

この「大気重力波」の法則は、懐疑的な見方を示す研究者も多く、公式に認められている前兆ではない。

だが、2月の福島沖M7.3地震発生前に、震源近くで「大気重力波」が発生していることが分かっている。

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が公開している、ひまわりリアルタイムWebの画像を見てみよう。 

2月13日の地震発生の3日前、2月10日の東北沖周辺に波状の大気が広がっている様子がわかる。 

そして今回、2021年3月6日の同画像には、同じように東北周辺を覆う「大気重力波」が確認できる。

図を見ると、北海道の南部から東北沖周辺に同様の波が出ており、2月と同等クラスの地震が発生する可能性は否定できない。 

 この他、同じくNICT「宇宙天気予報センター」のGPSによる「日本上空の全電子密度」の異常、地震前に見られる「彩雲(さいうん)」の目撃情報、東北地方を中心にカラスの大群発生など、地震前に見られる宏観現象はいくつも報告されている。 

 image by: ひまわりリアルタイムWeb@NICT

image by: ひまわりリアルタイムWeb@NICT


 

 *地質学者・新妻信明名誉教授に聞く、東北の日本海溝周辺と伊豆・小笠原周辺の兆候

これらの前兆現象とは別に、地質学的に見た地震発生の前兆はあるのだろうか。

実は、東北沖の日本海溝周辺や、伊豆・小笠原諸島周辺のプレート動きに異変を感じている専門家がいる。

過去に駿河トラフおよび日本海溝で「しんかい2000・6500」による潜航調査などを実施してきた、地質学研究者で理学博士の静岡大学理学部地球科学教室 名誉教授・新妻信明(にいつま・のぶあき)氏だ。

新妻名誉教授は昨年8月、弊サイトにて、太平洋プレート周辺の動きから「マリアナ沈没」が今後起きる可能性を唱えている。

新妻氏が作成した「2015年1月-2021年1月伊豆・小笠原・海溝域の深発CMT解」。2015年5月以降も伊豆諸島の周辺で深発地震が発生していることが分かる。(出典:新妻地質学研究所HP)

新妻氏は、自身のホームページ「新妻地質学研究所」に今年2月27日、MAG2 NEWS編集部からの「近く大きめの地震が日本近海で発生する可能性はないか?」との質問に答える形で「月刊地震予報137)伊豆・小笠原・Mariana海溝域の地震活動,日本海溝域前弧沖震源帯の地震活動」を公表した。 

 

新妻氏によると、昨年11月7日に小笠原諸島沖で発生したM5.9深さ100kmの地震により、太平洋プレートの沈み込みが起きていることを観測。 


そして、気象庁が公開した「海外CMT解」(海外で発生したM5.0以上の地震の位置と時刻、規模及び発震機構(メカニズム)を同時に決定する解析法)の速報解(精査前のメカニズム解析)が、2020年から2021年1月までに35個もあることを紹介した。

直近に発生した半年分の地震を見ると、ある法則が見えてくるという(最新順)。 

 

2021年1月12日モンゴル M6.8

2021年1月7日スラウェシ島 M6.3

2021年1月7日ソロモン諸島 M5.9

2020年12月29日 M5.2(和歌山県南方沖)

2020年12月29日クロアチア M6.4

2020年12月25日フィリピン M6.5

2020年12月24日フィリピン M6.3

2020年12月20日チリ M6.8

2020年12月16日フィリピン M6.3

2020年12月2日アリューシャン列島 M6.4

2020年11月7日 M5.9(硫黄島近海)

2020年10月1日トンガ M6.7

2020年9月11日チリ M6.2

2020年9月7日バヌアツ M6.6

2020年9月7日ミンダナオ島 M6.6

2020年9月1日チリ M6.8

2020年8月21日モルッカ諸島 M6.9

2020年8月18日フィリピン M6.9

2020年8月5日バヌアツ M6.1

2020年7月17日 M5.1(太平洋沖)

2020年7月17日ニューギニア M7.3

2020年7月7日グアム M6.2

2020年7月6日ニューヘブリディーズ諸島 M6.0 

 

海外で発生したM5.0以上の地震が途絶える節目のときに、赤色で示した日本付近で地震が発生していることがわかる。

これについて新妻氏は以下のように語っている。 

地球表面はプレートで敷き詰められているので、いずれのプレートやプレート境界で歪みを開放する地震が起れば全てのプレートに影響を及ぼす。地球上最大の太平洋プレートについては特に影響が大きいであろう。

ここで取り上げた伊豆海溝域の太平洋プレートの沈み込みの増強が、「海外CMT速報解」が途絶えた時に起っていることは、地球表面を敷き詰めるプレート全ての歪みの連鎖を解析するための出発点となるであろう。 

つまり、フィリピンやニュージーランド、バヌアツなど海外で地震が頻発している時、それが途絶える節目に日本の伊豆海溝の太平洋プレート周辺で地震が発生する可能性を示している。

伊豆・小笠原諸島周辺の具体的な地震発生時期については、今後の新妻氏の調査・解析を待ちたい。

*新妻氏が語る、東北沖「日本海溝域」で地震発生の可能性

では、M7.3が2月13日に発生した福島沖など、東北や日本海溝域周辺はどうなっているのだろうか。

新妻氏は周辺のプレートを動きを分析し、以下のように述べている。 

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新妻氏が作成した「2020年1月-2021年1月の前弧沖震源帯のIS解」。ここ1年間の東日本周辺のプレートの動きを詳細に分析し、地震発生の可能性を調査している(出典:新妻地質学研究所HP)

 2021年1月はプレート運動による歪みの1割以下しか地震活動がなく、2011年3月11日東日本大震災による歪み開放後の歪み蓄積が着実に進行している。 

つまり、今年の1月はプレート運動による歪みに比例した地震活動が極端に少なく、そのため10年前の東日本大震災で開放された以後に蓄積された歪みがどんどん溜まってきている状態だということだ。

と考えると、2月に発生した福島沖M7.3地震も、こうして蓄積した歪みの一部が開放された地震活動の一つだった可能性がある。

しかし、この歪みの蓄積があのたった1回の地震だけで開放されたとは考えにくい。 

新妻氏の解析を総合すると、今後は、日本周辺の地震発生の「前兆」として、太平洋を中心とした海外でのM5.0以上の頻発する地震、そして地震活動が一時的に静穏化した時期を注視していく必要があるだろう。


*備えあれば憂いなし 

気象庁などの公的機関の情報を参考にするのはもちろん、地震の予知に関する研究を続けている機関の発行するメールマガジンを購読することも、防災に繋がる準備の一つ。

避難経路の確認、防災グッズの準備、そして地震メルマガの購読などで事前に情報を得ておくことは、来るべき巨大地震への備えになるだろう。今一度、改めて身の回りの「防災準備」をチェックしてみることをオススメしたい。

日本の地殻変動はまだ始まったばかりだ。


 参考



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