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新型コロナ「武漢より前に世界拡散」の衝撃事実

インフルエンザの感染者にまぎれていた可能性

石 弘之 : ジャーナリスト

2021年03月04日

 

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。

その「震源地」を探る研究では、武漢で感染がわかる以前に、中国だけでなく、ヨーロッパや南アメリカでも人が感染していた痕跡が見つかりました。

また、感染者が多い地域と少ない地域の偏りに、古代のネアンデルタール人の遺伝子が関係しているという研究も発表されました。

新著『図解 感染症の世界史』を上梓したジャーナリストの石弘之氏が解説します。



*新型コロナはどこからやってきたのか

新型コロナウイルスが新種のウイルスであることを突き止めたのは、「武漢ウイルス研究所」です。

では、このウイルスはいったいどこから武漢にやってきたのでしょうか。

2019年暮れ、武漢市内の病院に入院した重症の肺炎患者41人のうち、27人までが同市内の「華南(かなん)海鮮市場」を訪れていたことが判明しました。

この市場の一角で、タヌキ、ハクビシン、ジャコウネコ、ヘビなど野生の生きた動物が食用として売られていました。

在では販売が禁止されましたが、中国では市場で野生動物を買って料理するのは普通の習慣です。

もともとはキクガシラコウモリが持つコロナウイルスが変異して、センザンコウなどの野生動物を介し、ヒトに移ったと考えられています。とはいえ、武漢市の流行以前に、新型コロナウイルスは本当に広がっていなかったのでしょうか。

感染症流行の先行指標として下水の分析があります。地域の排泄物が集まるからです。

スペインのバルセロナでは、2019年3月に採取した下水のサンプル、ブラジルのフロリアノポリスでも11月採取の下水サンプル、イタリアでは12月にミラノとトリノの下水から、それぞれ新型コロナウイルスやウイルスの痕跡が検出されました。

 

新型コロナウイルスの痕跡は、武漢の感染爆発の公式発表よりも数カ月前までたどれるのです。

初期症状がインフルエンザとまぎらわしいので、そうした感染者や死者にまぎれていた可能性もあります。

さらに中国の奥地では、5年前に健康診断のため住民から採取した血液にコロナ感染の証拠がありました。

 

今回の流行の数年前には、すでに中国奥地で広まっていたことを物語っています。


 

 

*強毒性の「コロナ3兄弟」

コロナウイルスの仲間はかぜを引き起こすこともあり、ありふれたウイルスでしたが、恐ろしさを知らしめたのは、強毒性の「コロナ3兄弟」の相次ぐ流行でした。

まず、2002年11月に「長男」の重症急性呼吸器症候群(SARS)が爆発的に感染を広げます。

5大陸の33カ国・地域で8439人の感染者と812人の死者を出し、2003年7月に収束しました。

10年後の2012年9月、今度はサウジアラビアなどの中東地域に居住、または渡航歴のある人の間で、「次男」の中東呼吸器症候群(MERS)による集団感染が報告されました。

ヒトコブラクダから人に感染し、これまでに中東諸国を含む27カ国で2494人の感染者が報告され、そのうち858人が死亡しました。この2つのウイルスは、日本では感染者は出ませんでした。

そして「3男」が今回の新型コロナウイルスです。

ほぼ10年の間隔で、3回の強毒コロナウイルスの大流行が起きました

10年というのは、ウイルスがヒトに感染できるように変異するのに要する時間かもしれず、近い将来に「新々型コロナウイルス」が出現する可能性も否定できません。

この3種は、いずれもコウモリがもともとの自然宿主です。

ハクビシン、ヒトコブラクダ、センザンコウ、ジャコウネコなどが中間宿主になって人に感染を広げたと考えられます。

これだけコロナが流行している最大の原因は都市の急拡大による過密化です。

世界の各国に比べ、日本や韓国、台湾など東アジア地域では、新型コロナウイルスの死亡者がかなり抑えられています

一方で、重症化する人が多い地域もあります。

 

 

その1つの可能性として浮上したのが、絶滅したネアンデルタール人です。

約50万年前から4万年前までヨーロッパ大陸などに住んでいました。

ネアンデルタール人と現生人類とは無関係で、両者は交雑できないとされてきました。

しかし、PCR検査の発達により、彼らのDNAが現生人類に受け継がれていたことがわかり、近い関係にあったことが明らかになりました。私たちが多くの感染症から逃れて存続できたのは、先祖から受け継いだ遺伝子によってウイルスに打ち勝ってきたから、という可能性もでてきました。

*ありがたくない遺伝子も受け継いでいる

しかし、いいことずくめではありません。ありがたくない遺伝子も受け継いだこともわかってきました。

2020年9月30日、英科学誌『ネイチャー』電子版に、マックス・プランク進化人類学研究所の研究者によるこんな発表がありました。「約6万年前に交雑によって現生人類が受け継いだネアンデルタール人のある遺伝子が、新型コロナウイルスの重症化リスクを高めている」

つまり、ネアンデルタール人からこの遺伝子を受け継いだ人が新型コロナに感染すると、人工呼吸器が必要となる可能性が3倍高くなるというのです。

 

イギリスではバングラデシュ出身者の重症者・死者の割合が、そうではないイギリス人と比較して2倍も高いことが話題になりました。

マックス・プランク進化人類学研究所の遺伝学研究部門トップのスバンテ・ペーボは、「ネアンデルタール人の遺伝的遺産が、現在のコロナ・パンデミックの中でこのような悲劇的な結果をもたらしているのは衝撃的だ」と述べています。

ネアンデルタール人から継承したある遺伝子の保有者は、ヨーロッパでは約に16%に対し、南アジアでは地域によって約50%に達し、東アジアではわずか4%です。これが東アジア諸国・地域で重症者が少ない理由とも考えられます。

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