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日経平均株価の「化けの皮」がはがれそうだ


「短期の株価下落局面」はまだ始まったばかり

馬渕 治好 : ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

2021年03月01日

先週(2月22~26日)の主要国の株価は、大きく荒れた。

その要因として、アメリカの10年国債利回りの急激な上昇(債券価格の急落)が指摘されている。

 

金利上昇が「高PER銘柄」の株価を押し下げた

10年国債の利回りは、1月初まで1.0%を下回る低水準で推移していた。

だが、その後は徐々に上昇気味で推移し、2月12日には1.20%に達した。

筆者は、そうした強含み推移を先んじて懸念する声をアメリカの機関投資家たちから聞いてはいたのだが、まだ市場が波乱を起こすには至っていなかった。

ところが2月15日のプレジデント・デーの祝日休場明けとなった16日火曜日以降、上昇が加速。25日木曜日には一時1.55%にまで上振れした(利回りはファクトセット調べ。

債券は株式ほど市場に集中して取引されていない。特に相場が波乱になった際は、同時に複数の異なる利回りで取引されることがある。そのため10年国債利回りの最高値が1.61%であった、との報道もみられる)。

こうした債券利回りの急上昇が株価の波乱要因となったことは、理解できる。

まずアメリカの債券市場、特に国債市場は、規模が大きく多くの投資家が売買を行っている。

そうした巨大市場における市況の波乱は、投資家の損益に影響するため、株式市場や為替市場などの他の証券金融市場にも影響を与えうる。

またアメリカなどの株式市場では、高PER(株価収益率)銘柄の株価調整がきつくなった。

先々週(2月15~19日)で見ると、ナスダック総合指数は週間で1.57%下落。小型株指数のラッセル2000も0.99%下落した(ニューヨークダウは0.11%上昇、S&P500は0.71%下落)。

さらに先週は、ナスダック総合は4.92%、ラッセル2000も2.90%の下落率だ(NYダウは1.78%下落、S&P500は2.45%下落)。

これは、ナスダック総合やラッセル2000に多く含まれている成長(グロース)株(利益成長期待が高いことが株価を支え、PERが高くなっている銘柄)に、金利上昇の悪影響が大きかったためだ。

 

では、なぜ金利上昇が高PER銘柄の株価を特に押し下げるのだろうか。

これは以下のような説明が一般的だ。

現在の株価は、将来の企業の利益や配当を現在価値に割り引いたものだと解釈される。

利益や配当のように、将来の支払額が確定していない(リスクがある)ものについては、割引率は金利に上乗せ分(リスクを冒すことに見合うだけの「ごほうび」であり、「リスクプレミアム」と呼ばれる)を加えたものとなるが、金利全般が上がれば、この割引率も上がる。

成長株の場合、足元の利益というよりも「将来の利益が大きくなるとの期待」がもっぱら株価を支えている。

そのため、金利上昇が先行きの利益の現在価値を押し下げるように強く働き、株価調整が大きくなるわけだ。

個別銘柄で見ても、代表的なGAFAについては、年初来の株価騰落率をみると、アルファベット(グーグルの親会社)こそ15.4%の上昇となっているものの、アップルが8.6%下落、フェイスブックが5.7%下落、アマゾン・ドット・コムが5.0%の下落と、結果として昨年末を下回ってしまった。

 

長期金利の上昇が株価下落の「本質」なのか?

では、足元の主要国の株価反落は、アメリカの長期金利上昇によってもたらされたものだろうか。

筆者は、金利上昇は株価下落の単なる「きっかけ」であって、下落要因の「本質」ではない、と考えている。

10年国債利回りが上昇したと言っても、昨年までの0.9%台の推移が、せいぜい1.5%近辺まで上がっただけだ。

過去の同国の長期金利水準と比べて依然低いことは変わらない。

しかもその利回り上昇は、景気回復期待により製品やサービス、原材料などの需給が逼迫して物価が上がる、との期待が大きく働いているようだ。

「景気が良くなり、その実力で金利が上がる」ということであれば、特に悪質な金利上昇とは言いがたい。

このため、足元の長期金利上昇によって「回復基調にあるアメリカの景気や企業収益がいきなり後退方向に折れ曲がる」「金利負担が企業や家計を追い詰める」「住宅や高額の耐久消費財販売が一気に悪化する」などといった展開は、まったく見込みにくい。

加えて、2月22~23日に行われたジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の議会証言に示されているように、連銀は景気の先行きを極めて慎重にみており、現在の金融緩和はかなり長い間維持されそうだ。

そのため金融環境が引き締められた状態に向かうことも、すぐには予想できない。

このように、長期金利上昇が株価下落の「本質」ではない、ということは、「本質」は別のところにあるわけだ。

真の株価下落要因が変わらなければ、長期金利が上げ止まったり多少低下したりしたところで、株価下落基調は続く、と見込まれる。

実際、先週末(2月26日)には10年国債利回りは1.40%台で落ち着いて推移し、これまで下落がきつかったナスダック総合指数は前日比で反発した。だがNYダウやS&P500の下落は止まっていない。

 

行きすぎた株価上昇の「ツケ」を払っているだけ

では、何が先週までの株価反落の真の要因なのだろうか。

筆者は、これまで当コラムで主張してきたように、最近の主要国の株価上昇が、足元の景気のもたつきと比べて行きすぎであり、その株価の行きすぎた上振れの「ツケ」が生じ「始めた」ことが、株価反落の本質であると、引き続き考えている。

前述のように、金利上昇が高PER銘柄の株価を大きく押し下げたという「形式」とはなっているが、もともと最近までの株価上昇は、GAFAなどを中心とした高成長銘柄に偏ったものとなっていた。

どうして偏ったのか。

それは、成長期待銘柄が「実力相応」で上がったというよりは特定の銘柄の株価上振れが続いたため、「上がるから買う、買うから上がる」といった「勝ち馬に乗る」投資家のなだれ込みが起き、株式市場全体でも銘柄別の物色でも、行きすぎてきたと解釈している。

その行きすぎの「歪み」の修正が、たまたま長期金利上昇を単なる「口実」として、顕著になったのではないだろうか。

株価反落の本質が、行きすぎた株価上昇の「正常化」であるとすれば、どうなると株価下落が止まるかと言えば、十分に株価が下落すれば止まる、ということになる。

筆者はまだ株価の下落基調は始まったばかりだと解釈しており、この先十分な株価の下押しなしに、上昇基調が無傷で復活するとは考えていない。

日本でも日経平均株価が2月26日には前日比1202.26円も下落したため、下げ幅は「4年8カ月ぶり」「歴代10位」などと騒がれている。しかし前日比の下落率(3.99%)は、歴代20位(6.53%)に遠く及ばず、軽微な下落でしかない。

そもそもNYダウは昨年末の終値が3万0606.48ドルだ。近づいたとはいうものの、現値はまだ上にあり、今年に入っての上昇幅は消えていない。

日経平均株価に至っては、昨年末は2万7444.17円だ。

そこから2月16日のザラ場高値3万0714.52円まで、2カ月足らずで3000円以上の幅も上がったこと自体が驚きである。

1日に1200円程度下落しても、まだ下落が十分だとは言いがたい。

 

脆弱な日経平均株価

前回のコラム「日経平均3万円到達でも米国株より割高な理由」(2月15日付)で述べたが、日本の企業収益見通しは上方修正されて来てはいるのだが、修正の度合いはアメリカに劣後している。

そのため、アメリカはともかく日本の株価は急上昇を正当化できる根拠が薄い。

にもかかわらず、ドルに換算した日経平均株価をNYダウで割った比率は大きく上昇してしまっている、と解説した。

こうした日経平均株価の「化けの皮」は、これから一段とはがれていくだろう。

日経平均をTOPIX(東証株価指数)で割ったNT倍率も、高水準にある。

国内外の長期投資家が、東証1部の幅広い銘柄の企業収益実態などを個々にじっくりと分析すると、どんどん買い上げていくには値しない、と判断した結果が、投資家の考えの総体として「TOPIXの劣後」に表れているのだろう。

それに対して日経平均株価ばかりがこれまで上がってきた、ということは、海外筋の日経平均先物の吊り上げなどの要因が、大きかったのではないだろうか。

一部では、日経平均株価の上昇に「出遅れた」TOPIXが追い付いていく、との議論もある。

だが以上を踏まえると、これからアメリカ株が調整する局面においては、上昇の根拠が相対的に薄弱だった日本株の下落率のほうがきつく、さらにTOPIXよりも日経平均株価の下落が大きくなると懸念している。

つまり、下向きの方向で、TOPIXに日経平均株価が追い付いていくのだろう。

それでも、これも繰り返し過去の当コラムで述べてきたように、「十分な」株価下落が済めばそれ以上に株価が落ち続ける理由は消える。

その後は年末に向けて、長い流れでの世界経済の持ち直しを反映して、日本株を含めた世界株の上昇基調が復活すると予想している。

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