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やる気を削がれる人と奮起する人の決定的な差

脳科学的にはお金や成果が目標だと挫折する

岩崎 一郎 : 脳科学者、医学博士

2021年01月02日

新年を迎えて、気持ちを新たに1年の目標を設定する人も多いだろう。

ただし、目標はただ立てればいいものではなく、立て方・振り返り方にポイントがある。

『科学的に幸せになれる脳磨き』を著した脳科学者が、脳科学的に正しい目標設定法を解説する。

 

*心の豊かさを第一に目標を立てると幸福感が上がる

アメリカ・ノックス大学のカイザー博士らの研究では、被験者118?251人に、それぞれ「6カ月後」「2年後」「12年後」の自分のゴールを決めてもらいました。

すると目標の立て方に、大きく分けてふたつのタイプがあることがわかったのです。

ひとつのタイプは、たとえば「6カ月後までに◯◯円の売り上げを達成する」というように、「物質主義的な事柄を目標にする」というもの。

もうひとつのタイプは、たとえば「地域の人5000人を笑顔にしたい!」とまずは決めます。それが実現したら「◯◯円の売り上げが達成できる」と考えるのです。

どちらのタイプも最終的には「売り上げ」に繋がっているのですが、一方は自分の物欲を満たすためで、もう一方は人に貢献して喜ばれたい、それによって心の豊かさを満たしたいという違いがあります。

そして、「6カ月後」「2年後」「12年後」に、被験者たちの幸福感はどのようになっているかを調べました。

すると「物質主義的な目標」を設定した人たちは、目標を達成している・していないにかかわらず、時間が経つにつれて幸福感が次第に下がる傾向にありました。

それに対して「心の豊かさ」を目標にする人たちは、こちらも目標を達成している・していないにかかわらず、時間が経つにつれて前向きで、幸福感・充実感が次第に高まる傾向にあることがわかったのです。

「お金を第一」に考えた人たちは、結果的にお金が得られても得られなくても幸福感が下がっていき、「心の豊かさを第一」に考えた人たちは結果的にお金が得られても得られなくても幸福感は上がっていったわけです。

この結果を見ると、人は誰かに貢献して喜んでもらえることで幸せになれる、そしてその貢献に対して、お金という形で自分にペイフォワードされると同じように幸せになれるということがわかります。

それでは、目標に向かってやる気を出して邁進ために必要な考え方とは、どのようなものでしょうか。

これについても研究で有効な方法が見つかっています。

一般的に「やる気があるから→できるようになる」と考えられています。

たとえば「勉強をやる気があるから→勉強ができるようになる」「仕事のやる気があるから→仕事ができるようになる」というように。

しかし、脳科学的にはじつは逆で、人は「できるようになるから→やる気になる」のです。

そして、できたことを続けるから、うまくできるようになり、さらにやる気が起こるのです。

「やる気が起きる」とき、脳の中では、大脳基底核という大脳の一番内側で中心にあたるところの脳回路の活動が高くなるということがわかっています。

 

*ネガティブなフィードバックはやる気を削ぐ

オランダ・アムステルダム大学のバーガーズ博士らは、次のような研究を発表しています。

157人の被験者に、オンラインの脳トレプログラムに参加してもらいます。

プログラムの出来不出来にかかわらず、「良い点やできている点を見つけて、ポジティブなフィードバック」をする場合と、「悪い点を見つけて、ネガティブなフィードバック」をする場合で、やる気にどのような違いが現れるかを調査します。

その結果、ネガティブなフィードバックばかりが続くと「やる気」が減少していくことがわかりました。

ついつい、「ダメ出し」をしたほうが、成長をすると思いがちですが、じつは「ダメ出し」ばかりが続くと、気持ちが後ろ向きになり、やる気を削いで「成長」どころではなくなってしまうのです。

また、フィードバックのタイミングとしては、すぐのタイミングが「やる気」を高めるために非常に有効であることがわかってきました。

アメリカ・コーネル大学のウーリー博士らは、「やる気」を最大限に引き出す興味深い発見をしました。

223人の被験者に協力をしてもらい、簡単なタスクをするように指示します。そのとき、被験者を3つのグループに分けました。

ひとつ目のグループには、タスクが終わり次第、「すぐにポジティブなフィードバック」をします。

2つ目のグループには、「時間を置いてポジティブなフィードバック」をします。そして、3つ目のグループには、フィードバックはありません。

それぞれのグループで、どのくらい「やる気」が高まるかを調べます。

フィードバックなしのグループを基準に、すぐのフィードバックでは、1.6倍にやる気が高まるのに対して、時間を置いてのポジティブ・フィードバックでは微増でした。

 

*ポジティブなフィードバックは早い段階に

さらに、タスクを始めた初期に「すぐにポジティブなフィードバック」をたくさんすると、その効果は、後にフィードバックがなくなっても継続しやすいことがわかったのです。

つまり何か新しいことを始めるときには、できるだけ早い段階に小さくてもいいので、「良い点」「できている点」「成長している点」を探して、ポジティブなフィードバックをたくさんすることが「やる気」を高め、維持することになるのです。

それは、早くに小さな成功体験を積むのと同じ意味を持ちます。

逆に、初期段階で、ポジティブなフィードバックがないと、いくら後で大きな見返りが得られるとしても「やる気」はそれほど高まらないのです。

目標に向けて進む中で壁にぶつかったり、失敗してしまったりしたときにはどうしたらいいのでしょうか?

そんなときこそ、「成果」よりも「成長」に目を向けることです。それが気持ちを前向きにするエネルギーを作り出すのです。

アメリカ・コロンビア大学のグラント博士らの研究は、このことを明らかにしています。

グラント博士らは、まず92人の協力者に対して、次のように伝えます。

「あなたが大学で、卒業のためにとても重要なクラスを取ったとします。そのクラスでは、宿題のエッセイをみんなの前で大きな声で読み上げなければいけません。一学期中に何度もそのチャレンジがあります。その発表の一場面のことを思い浮かべてください。自分の番が来るまでに、多くの学生は優れたエッセイを発表して、とても良い評価をもらっています。あなたが発表したときに教授も他の学生もあまりいい顔をしませんでした。そしてあなたは、C(失敗)の評価になりました」

それぞれの被験者が、成長に目を向けている「成長ゴール」、結果だけを重視する「成果ゴール」のどちらを自分に活用しているかを調べました。

また、C評価の後の挽回しようという意気込み、そのための計画設計や時間確保の努力との相関関係も調べました。

 

*「成長」を意識することが「やる気」を継続させる

「成長ゴール」に意識を向けている人たちでは、意気込みは強く維持できており、そのための計画を立てる気持ちや時間確保の努力が高まることがわかりました。

それに対して、「成果ゴール」を使っている人たちでは、モチベーションは下がり、計画設計もしない、時間も確保しない傾向が出ました。

つまり、「成長」を意識することが「やる気」を継続させるということです。

ちなみに、これは「成果」や「目標達成」を軽視するということではありません。

うまくいっているときには、「成果ゴール」でも次のモチベーションへと繋がります。

ただ、これらばかりに意識を向けてしまうと、うまくできないときにモチベーションが下がってしまいます。

それよりも、自分がコントロールできるところにベストを尽くす。

その結果として、「成果」や「目標達成」が現れると捉えることで、前向きな気持ちになりやすいのです。

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