コロナで雇用も脱日本型 欧米流「ジョブ型」急増 解雇容易の懸念も


2020年9月28日 

新型コロナウイルス感染拡大で、社員の雇い方を従来の日本型から職務を明確にして採用する欧米流の「ジョブ(職務)型」に切り替える企業が急増している。テレワークでも管理しやすく専門人材を採用しやすいとの触れ込みだが、社員が解雇されやすくなる懸念もある。

職務内容明らかにして雇用

日立製作所や資生堂が管理職に続き一般社員に導入予定。KDDIは来年度採用の新卒者から導入する。

従来、日本企業は職業知識がない新卒学生を採用し、多様な仕事を経験させ育成してきた。

 

これに対し「ジョブ型雇用」は、採用後にさせる職務の内容を当初から明示する。必要な資格、勤務地などを細かく指定。例えば「企業向け通信機器の販売業務、年間売り上げ目標1億円、通信の専門知識が必須、報酬1000万円…」といった具合だ。


テレワークの管理しやすく

 社員の生産性を高める手段として経団連が必要性を呼びかけてきたが、最近の導入加速には新型コロナの影響がある。

企業が拡大させているテレワークでは、上司は自宅で働く部下の仕事ぶりを把握しにくい。

やるべき仕事内容を具体的に決めているジョブ型なら、細かく監督しなくていい。

 

「社員の仕事ぶりを『見える化』できる」。日立製作所の担当者は言う。



ジョブ型雇用、経団連は導入前向きだが人材育成仕組み不十分

2020年9月28日

 

 ジョブ型雇用の導入、すなわち日本型雇用の見直しは、経団連にとって4半世紀来の「悲願」といえる。

年功賃金や終身雇用が柱の日本型雇用が、バブル崩壊後から続く経済の長期停滞の主因とみているからだ。

だが雇用制度さえ変えれば経済成長が実現するはずもない。

「従業員の再教育の仕組みなど経団連は改革のための環境をもっと整えるべきだ」との指摘は多い。

 急速に高まったかのようなジョブ型導入論だが、実は4半世紀前の「リストラマニュアル」と呼ばれる報告書に源流がある。

 1995年に日経連(2002年から日本経団連に改組)が発表した「新時代の『日本型経営』―挑戦すべき方向とその具体策」。

要点は、従業員を 

 ①企業の中枢を占める従来型正社員 

 ②いつでも雇用を打ち切れる非正規 

 ③同じく雇用保障が弱い高度専門職―の3グループに分け、人件費抑制が急務だと指南した。

 これを受け、多くの企業が一斉に派遣労働を拡大させたため、リストラマニュアルの異名がついたが、この③こそが「まさにジョブ型雇用だった」と、日本総研の山田久副理事長は指摘する。

 

 以来、報告書の雇用改革案は財界で脈々と受け継がれてきた。

 だが非正規労働が瞬く間に雇用者の4割までに広まった一方で、③のジョブ型雇用の導入はなかなか進まなかった

 山田氏は「この間、経団連は労働界などと協議して、従業員の再教育システムや学生向けの職業教育など人材育成の仕組みを進めるべきだった。時間はたっぷりあったはずだ」と手厳しい。日本労働弁護団の水野英樹弁護士は「ジョブ型雇用には『時間でなく成果で評価する』などと誤った解釈が横行している。人件費を削減したいがための導入と感じられ、かつての成果主義ブームのように失敗に終わるのでは」と予想した。

 ◆担当職務なくなると解雇…

 しかし東京管理職ユニオンの鈴木剛・執行委員長は「社員が解雇されやすくなる懸念がある」とみる。

日本では裁判所の判例の積み重ねで解雇は事実上規制され、正社員の雇用は比較的守られてきた。だが、ジョブ型は特定職務の遂行を前提に採用しており、リストラでその職務自体なくなると、解雇の理由にされてしまう。実際、欧米では担当職務がなくなると解雇される例が多い。

 日本でも靴の修理と合鍵の作成の専門職だった人が不採算店を閉鎖する会社の方針で勤務する店がなくなり、解雇された例がある。

岡山地裁は2001年5月「就労すべき店舗がなくなったことなど、不合理な点はない」と解雇を認める判決を出した。

 政府の規制改革会議も13年6月、ジョブ型雇用推進を答申。「職務がなくなった場合は解雇理由になることを明確化すべきだ」として、企業が解雇しやすい環境を後押しした。

 

「働く人は『部品』に」

 既にジョブ型を取り入れている外資系IT企業の社員は「職務が細分化され、個人成績が見えやすくなる分、成果を理由に退職勧奨が行われることもある」と厳しい実態を語る。

 雇用問題に詳しい常見陽平・千葉商科大准教授は「ジョブ型は働く人を取り換え可能な『部品』のようにしてしまう懸念がある。労働組合は警戒を強めるべきだ」と警告する。

 


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