おがわの音♪ 第1074版の配信★


2021年は「AIに仕事を奪われる」最初の年になる

新型コロナウイルスの世界的大流行に揺れた年が終わり、2021年の幕が開きました。
まもなく米国ではバイデン氏が大統領に就任し、トランプ政権からの軌道修正が始まります。国際協調路線への復帰で、中国との対立も部分的には緩和されるでしょう。しかし、中国が米国への警戒を解くことはありません。世界はこれからも2つの超大国の動向に振り回されることになります。
国内に目を転じてみても新型コロナの感染が収束する気配はなく、7月に予定される東京オリンピック・パラリンピックがどのようなかたちで開催されるかもわかりません

これだけ不透明な状況下にもかかわらず、グローバルなカネ余りの結果として株価は歴史的な高水準にあります。世界には不確実性があふれています。

AIが持つ "人間超えのすごい実力" とは  =中島聡

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“人間超え”を達成、人工知能の目覚ましい進歩

2021年を迎えるにあたり、人工知能の進化が社会にあたえるインパクトについて、私なりの見方・懸念をまとめて書いてみたいと思います。
人工知能に関する研究は、50年以上の歴史を持ちますが、実際にビジネスに使えるほどにまで進歩したのはごく最近のことです。
大きな転機となったのは、2021年にソフトウェアによる物体の認識率を競うILSVRCというコンテストにおいて、トロント大学のチームが、深層学習という手法を使って、従来の物体の認識率を劇的に(エラー率を26%から17%に)改善することに成功したことからです。
そこからわずか8年しか経っていませんが、その間に、

物体の認識率が人間よりも高くなる
・映像や画像から個人を特定することが可能になる
コンピューターゲームを人間よりも上手にプレー出来るようになる
・囲碁のような複雑なゲームで人間よりも強くなる
塩基配列からタンパク質の3次元構造を予想することが可能になる
翻訳精度が飛躍的に上昇する
文章の生成能力が格段に上昇する
・音声認識・音声合成の能力が格段に上昇する
データ分析に人工知能が応用出来るようになる
無人コンビニが実用化される

などが実現され、その進化のスピードは、ソフトウェア業界の専門家たちをも驚かせています。

 

10年前は不可能だった車の自動運転も実用レベル

特に進歩が著しいのが、画像認識・物体認識の分野です。

世界中の研究者たちの間で、さまざまなテクニックが研究・開発・共有された結果、顔・表情・体の動きなどをリアルタイムで把握する、走っている自動車のカメラで捉えた画像から、他の自動車・歩行者・自転車・車線・ガードレールなどの位置を正確に認識する、などが十分に実用的なレベルにまで達しています。
私自身、mmhmm という会社で、カメラで取り込んだ映像に映る人の手の動きを認識する機能を活用した「ビッグハンド」の実装を担当していますが、こんなことは10年前まではどんなコンピューターを使っても不可能だったことを考えると、近年の進歩のスピードがいかに早いかが分かります。
最近になって、Teslaが全自動運転機能のベータ版をリリースしましたが、これはTesla車に搭載された複数のカメラから取り込んだ映像だけを使って、人や物を認識し、安全な走行を可能にしています。
少し前までは、LIDARという高価なセンサーを搭載していなければ自動運転は実現できないと考えられてきましたが、人工知能を活用した物体認識機能の著しい向上により、LIDARが不要であることを証明してしまったのです。


LIDARLight Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging、「光検出と測距」ないし「レーザー画像検出と測距」)は、光を用いたリモートセンシング技術の一つで、パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析するものである。日本語ではライダーライダとカタカナ書きされることも多い。軍事領域ではしばしばアクロニム LADAR (Laser Detection and Ranging) が用いられる。

この技法はレーダーに類似しており、レーダーの電波を光に置き換えたものである。対象までの距離は、発光後反射光を受光するまでの時間の差で求まる。そのため、レーザーレーダー (Laser radar) の語が用いられることもある。 出典: ウィキペディア(Wikipedia)



汎用的な能力を持つ人工知能が人間を駆逐する

2016年に、囲碁の世界チャンピオンを破るほどの人工知能 AlphaGo を開発したのは、DeepMind という会社です(2014年にGoogleが買収)。

その後、DeepMind はAlphaGo をはるかに上回る能力を持つ AlphaZero を発表(2018年)していますが、これは人工知能が一度人間の能力を越えてしまえば、あとは差がつく一方であることを示しています。
DeepMind は2020年になって、塩基配列からタンパク質の三次元構造を予測することに成功しましたが、これは医学の進歩にとって非常に画期的なことで、ノーベル医学賞を受賞して当然の発明です。今後、これを活用した、さまざまな新薬や治療法が作られることになるでしょう。
自然言語の認識に関しても、ここ数年で著しい進歩がありました。この分野ではGoogleやMicrosoftが最先端の研究をして業界をリードしてきましたが、2017年になって、DeepLというベンチャー企業が、Googleより自然な翻訳ができるサービスを公開し、注目されています。

これはこの分野の伸び代がまだまだあり、ベンチャー企業が活躍できる余地があることを示しています。
そして、自然言語処理に関して、「相転移」と呼べるほどの画期的な進歩をもたらしたのは、OpenAI という会社です。

OpenAI が2020年になって公開した GTP-3 は、インターネット上にあるさまざまな文章を教科書として、言葉を学んだ人工知能ですが、これまでの人工知能にない一つの特徴を持っています。
その特徴は、言語で表現できるあらゆる質問に答えることができる、という特徴です。

・文章を要約する
・途中まで書かれた文章を完成する
・アマゾンで販売されている商品に対するフィードバックを書く
・指定したトピックの記事を書く
・ウェブサイトの生成に必要なプログラム(HTML)を書く
・難しい法律用語で書かれた文章を普通の文章に変換する
・数式を生成する

大量の文章を教育データとして与えただけで、これほどの汎用な能力を持つ人工知能が作れてしまうことは多くの人を驚かせました。

GPT-3を「汎用人工知能」への第一歩だと考える人も多数います。
これまで作られて来た人工知能は、特定の作業をするために設計された「専用人工知能」で、人間のようにさまざまな問題を解決することはできません。
「汎用人工知能」とは、人間のような汎用的な能力を持った人工知能のことで、それが開発されれば、人間の知能を本当の意味で超えることが可能になると考えられています。


今後10年で、人間の仕事の大半を人工知能が奪う

この勢いで進歩が続けば、20年代の終わりごろには、少なくとも(創造性を必要としない)定型的な労働・作業は、人工知能の方が、より正確に、かつ、安価にこなすようになります。具体的な例としては、

・自動車の運転
・会計処理
・(銀行の)与信作業
・スーパーやコンビニのレジ業務
・弁護士事務における判例検索
・データ入力
・翻訳
・議事録作成
・受付業務
・窓口業務

などが挙げられますが、それらに限った話ではありません。
今後、あらゆる業界で、経営者は「人を使い続けるのか、人工知能で置き換えるのか」という選択を迫られるようになります。

人工知能は毎年のように改善されていくので、コスト面、安全性、確実性などで、人工知能の方が人間よりも魅力的になるのは時間の問題でしかなく、その流れに乗れない企業は、競争力を失い、淘汰されていきます。
最近、日本ではデジタル・トランスフォーメーションという言葉が流行していますが、デジタル・トランスフォーメーションの仕上げは「人工知能やロボットによる人の置き換え」なのです。その究極の姿は、経営者と一部のエリートだけが創造的な仕事をし、全ての定型業務を人工知能やロボットに任せることにより、「従業員一人当たりの生産性」を極端にまで高めた企業体です。

 

確実にやってくる大失業時代。格差拡大にどう対応?

この手の議論になると、「人工知能が奪うのは一部の単純作業だけだ」とか「人工知能を導入したとしても人を解雇する必要はない」などの主張をする人がいますが、それは人工知能の進化のスピードや、資本主義の原則を無視し、現実から目を背けた発言で、時間の無駄です。
ひとたび人工知能の方が人よりも正確に、安く仕事をするようになれば、人から職を奪うのは必然です。

その結果、従業員一人当たりの生産性は上昇し、それがさらに貧富の差を広げるのです。
そろそろ現実を見据え、これまで人間がやっていた作業を人工知能やロボットに任せるということが、人間社会にとってどんな意味があるかを、真正面から捉えて議論し、来るべき世界(=人工知能より、大半の人が失業してしまう世界)に備える時期がきているのです—




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