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北京に住む日本人が見た中国政府のコロナ対応「未知の事態」への対応は遅すぎるものだった

宮崎 紀秀 : ジャーナリスト

2020年10月05日

2019年末、武漢ではすでに奇妙な肺炎の存在が確認されていた。

しかし、警鐘を鳴らした医師たち、現場で真相をルポしたジャーナリストたちは、共産党によって沈黙させられる。

猛烈な危機の拡大とその封じ込めの過程で、何が犠牲になったのか。

北京在住のジャーナリスト、宮崎紀秀著『インサイドレポートー中国コロナの真相』を一部抜粋、再構成しお届けする。

 

赤い提灯や切り絵で飾られた部屋。

白いクロスのかかった長いテーブルには、料理の皿が重ならんばかりに並び、野菜や果物を削って作った中国らしい鳳凰や龍が彩りを添えていた。

そのテーブルとテーブルの隙間は、朝の駅のような混雑ぶりで、部屋には笑声とおしゃべりが満ちていた。

地元テレビ局の女性記者が、その様子を満面の笑みで実況する。中国政府は、貧困からの脱却を目指している。

そんな政治宣伝の文句をデコレーションした料理も紹介された。

時は2020年1月18日。湖北省武漢市の百歩亭という住民区で開かれた万家宴の様子。

万家宴とは各家庭が料理を持ち寄る大規模な宴会で、旧暦の新年を迎える際のこの地区の伝統行事。

この百歩亭の宴には4万戸が参加したという。完全なお祭りムード。

まさかこの5日後に、武漢が都市封鎖されるとは想像できない。

 

*共産党を呪縛した2つの初期判断

この時、市民が未知のウイルスによる肺炎の発生を知らなかったわけではない。

前年末の12月31日、武漢市の衛生当局である衛生健康委員会が、「我が市における肺炎感染症の状況通報」をホームページ上に発表した。

これが全世界を恐怖と混乱に陥れた新型コロナウイルス──この時点ではまだ"原因不明の肺炎"だったが──に関する中国当局の、そして、もちろん世界でも最初の「正式な発表」だった。

「正式な発表」と言ったのには訳がある。実は前日の12月30日に同委員会は、この原因不明の肺炎に関する内部通知を医療機関宛に出している。

確認できたのは「原因不明の肺炎治療を遂行するための緊急通知」と「原因不明の肺炎治療状況の申告に関する緊急通知」の2種類。

前者は、病院の上層部への意識強化、院内感染の予防など治療手続きの確認、治療状況などの集計の同委員会への申告などを指示していた。

後者は同日午後4時までに最近1週間の類似した症例の統計の報告を求めるものだった。

前者の通知の文面の最後には、「無断で関連の情報を外に出してはいけない」と釘を刺す口止めの一文があった。

この2つは、あくまでも内部通知である。一般的な庶民が最初に知った内容は、31日の発表が全てだった。概要は以下のとおりである。

「最近、一部の医療機関で、華南海鮮城に関係をもつ肺炎が多数見つかった。これまでのところ27人の患者が見つかっており、うち7人の症状が重いが、他は安定している。2人は退院した」華南海鮮城とは、総面積5万平方メートルに及ぶ武漢市内の水産物の卸売市場。患者の症状と扱いについてこう説明していた。

主な症状は発熱、少数の患者には呼吸困難、両肺にびまん性浸潤影が見られる。患者は全て隔離治療し、濃厚接触者の追跡と医学観察を進めている」

びまん性浸潤影とは、レントゲン写真に病巣が白く濃い影で写る状態。肺胞からの出血などを示している可能性がある。

更に最初の発表には、後に禍根を残す2つの判断が示されていた。

 

*「人から人への感染はない」との判断

上記の症例はウイルス性の肺炎である。目下のところ明確な人から人への感染現象は見つかっておらず、医療従事者の感染も見つかっていない

初期的な検査などの状況による分析と前提をつけていたものの、「人から人への感染はない」と判断した。

これが1つ。もう1つは、ウイルス性の肺炎は冬や春にはよく見られ、爆発的に流行する可能性もあるなどと説明した上で示した次の見解だ。

「この病気は予防抑制できる。予防策としては、部屋の換気をよくし、密室や換気の悪い公共の場所や人が多い場所を避け、外出の際にはマスクをする」

「人から人への感染はない」「予防抑制できる」という過信。

この2つの判断は、刺さったまま抜けない毒矢のように武漢を内から蝕んだ。

翌1月1日、武漢市はその海鮮市場を営業停止にした。その翌週1月9日には、この病原体が新型コロナウイルスと特定される。

国営メディアが一斉に報じたが、そのニュースが持つ意味を理解できた市民がどれだけいただろうか。

少なくとも、世界の感染拡大の震源地となった武漢では、未知なる感染症の脅威よりも春節の祝賀ムードが勝っていた。

中国中部、長江の中流域に広がる湖北省は6000万近い人口を擁する。武漢はその省都、日本風に言えば県庁所在地である。

省都・武漢では、新型コロナウイルスの感染が徐々に広がり、すでに最初の死者が出ていたが、湖北省の人民代表大会、日本風に言えば地方議会が1月12日に開幕した。

市内中心部にあり、会場となった洪山礼堂の内部には、前よりも後ろが高くなるように設置された固定式の座席が扇型に広がっている。

大学の講堂のような造りだ。その階段状の座席に省内から集まった代表たちが隙間なく「密」な状態で座り、一番前のステージ上に座る省のトップたちに向き合った。

予定通り6日間の日程を17日に終えると、一堂に会した約700人の代表たちは、感染の"震源地"となるこの都市から、省内各地の地元へ散って行ったのだった。

 

*大会開催期間中は増えなかった

武漢市の衛生健康委員会の発表を手繰ると、人民代表大会が開幕する前日の11日から15日まで新たな感染者は増えていない。

16日に新たに4人、閉幕日の17日には一気に17人が感染確認され、トータルの感染者数が62人に上っていたが、その事実が明かされたのは閉幕後だった。

つまり、大会の開催期間中、武漢で感染者は"増えなかった"。

なぜ、開幕前日から前半までは感染者が出ない幸運に恵まれたり、後半に増加した感染者の公表に日を要したりしたのか。

それは、おそらく偶然ではないからだ。湖北省など地方の人民代表大会での決定事項は、北京で開催される全国人民代表大会(全人代)で報告される。

全人代とは、日本で言えば国会だ。2020年の全人代は新型コロナウイルスの影響で異例の開催延期となるのだが、この時点では例年通り3月初頭の開幕予定だった。

湖北省としては中国の1年で最大の政治イベントである全人代の前に、地方議会を終えておく必要がある。

この間の感染者数が増えなかったのは、議事進行への影響を恐れ、あえて公表しなかったからではないだろうか。

歌を雄壮に斉唱し、「勝利の閉幕を迎えた」と地元の機関紙が持ち上げた閉幕式で、省のトップ蒋超良党委書記は、美辞麗句を駆使し演説したが、新型コロナウイルスについては一言も触れなかった。人民代表大会が閉幕すると、まるでそれを待っていたかのように新型コロナウイルスが牙を剥く。

18日に3人目の死者、19日に4人目の死者、20日は新たに2人が死亡した。

20日の午後には、国家衛生健康委員会の高級専門家グループのリーダー鐘南山氏が、記者会見で 「人から人への感染があることがすでに確認された」と明かした。

その様子が中国メディアで流れ、国内では新型コロナウイルスが人から人へ感染する事実が初めて広く共有されるようになった。

20日はさらに国内では武漢以外で初めて、首都北京や広東省でも感染が確認された。

ここまで来て、習近平国家主席がやっと"重要指示"を出す。

「絶対に感染症の蔓延の勢いを食い止めなくてはならない」と発破をかけた。

これを受け武漢市では、医療態勢や交通、宣伝など関係部門を統一的に指示するために、周先旺市長をリーダーとする防疫指揮部を立ち上げた。

だが時すでに遅し。武漢では20日の24時までに死者はすでに6人、感染者は258人にまで膨れ上がっていた。

武漢は習近平主席の重要指示から3日後、封鎖された。

 

*未知の事態でも対応は遅かった

このように、未知の事態に直面した中国は当初、何もしなかった。

いや、正確に言えば、春節(旧暦の新年。今年は1月25日)の浮かれ気分に包まれており、進行する深刻な事態に敢えて目を向けようとしなかったのだ。

毎年の大晦日、国営の中国中央テレビは、習近平国家主席が執務室に座って国民に向けて述べる新年の祝辞を放送する。

武漢市が「原因不明の肺炎の発生」を発表したのは、2019年のその大晦日だった。

しかし、習主席の祝辞の中には、未知の病の危険に晒された武漢市民への気遣いも、すでに確認されていた感染者に対する見舞いの言葉もなかった。

国営メディアを通じて示された最高指導者の無関心は、国民に「ああ、大したことはないのだ」と思わせるのに十分すぎる効果があった。

それから3週間後、新型コロナウイルスの脅威に覚醒した中国が見せたのは、パニックだった。

官僚が記者会見で失態を演じたり、地方官僚が中央を批判するかのような発言を公然としたり。非合理に思える対策も、朝令暮改もあった。

中国は、ウイルスを抑え込むために人を抑え込んだ。

外国人の私でさえ例外ではない。自宅を出入りするのにも通行証の提示を求められる。人の家に行けないし、自宅に人も呼べない。

行きたい場所が見えていても、検問で止められてその先に進めない。国内では人を閉じ込めているのに、国外には大量に人を送り出した。

おりしも春節、中国人が心待ちにしている大型連休の時期である。

日常から解放され、前々から楽しみにしていた海外旅行に大挙して出かける国民の気持ちは、理解できる。

だが、どこかの国が中国人に対する入国制限でも匂わせようものなら、「過剰なパニックを撒き散らしている」などと騒ぎ立てる政府の態度は、まったく理不尽である。

 

*目まぐるしく変化する中国

コロナ禍の中国では、ウイルスへの認識、その対策、人の行動、街の様子が目まぐるしく変わった。

言っていることもコロコロ変わった。

1週間前に起きた出来事を、思い出せないのではないかと感じるほどの激しい変化だった。

コロナ禍は現在進行形である。後に事実誤認が明らかになることもあるだろう。

だが、新型コロナウイルスが全世界の人の命を危険に晒し、人類の行動さえ変えた事実は疑いようがない。

だから、その流行の発生源となった中国で何が起き、中国が何をしたかをあいまいなままにしておくことはできない。

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☞ 元国税が暴くパソナの闇。持続化給付金の不正受給を防げぬ当然の理由

2020.10.06

新型コロナウイルス感染症の流行により経営が悪化した中小企業や個人事業主に、給付金が支給される「持続化給付金事業」ですが、続々とその不正受給が発覚し問題となっています。なぜこのような事態が起きてしまうのでしょうか。

以前掲載の「元国税が暴露。電通『中抜き』問題と官僚天下り問題との深い関係」でも給付金事業について痛烈な批判を展開した元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、「現行のシステムでは不正受給が生じるのは当たり前」としてその理由を解説。

 

*コロナ給付金は「不正受給されて当然」だった

昨今、持続化給付金の不正受給(つまり詐欺)の事件がよく報じられますね。元国税調査官の目から見れば、不正受給が生じるのは当たり前です。

持続化給付金のシステム自体が非常にいい加減にできており、これで「国の給付事業ができるはずはない」というような状態だったのです。

持続化給付金の問題については、6月16日号(「元国税が暴露。電通『中抜き』問題と官僚天下り問題との深い関係」)でも取り上げました。

持続化給付金は、まず「中抜き問題」が大きくクローズアップされました。

持続化給付金というのは、新型コロナにより経営が悪化した中小企業に、悪化状況に応じて現金を給付するという事業です。

中小法人で最高200万円、個人事業者で最高100万円が支給されるものです。

経営悪化している事業者は多いので給付の総額は膨大になると見込まれ、事務委託費だけで769億円もの予算が組まれていました。

しかしこの持続化給付金の事業が、「サービスデザイン推進協議会」という団体に769億円という巨額な費用で事務委託され、その委託費は20億円抜かれた後さらに電通などに再委託されていのです。それが発覚し問題となったのです。

しかも、「サービスデザイン推進協議会」が受注した国の事業は今回が初めてではありません。

2016年の発足から2020年までのわずか5年間で、経済産業省の事業を1,546億円も受注していたのです。

 

*サービスデザイン推進協議会と“政商”パソナ

6月16日号では、このサービスデザイン推進協議会の中心企業は電通とパソナであり、両者とも「天下りを大量に受け入れている企業」だということをご説明しました。それについて、今回もう少し掘り下げたいと思います。

 

*叩けば埃が出るパソナの「仁風林問題」とは?

サービスデザイン推進協議会の中心企業であるパソナは人材派遣企業の最大手の企業です。

このパソナは創業以来、大々的に官僚の天下りを受け入れており、典型的な政官癒着型の企業なのです。

そしてパソナという企業は、今までさんざんスキャンダラスなことが報じられてきた企業でもあります。

特に有名なのが、「仁風林問題」です。

パソナは東京・元麻布に仁風林という厚生施設をつくり、そこに政治家、官僚、有名人などを招いてパーティーを開くなどしていたのです。

この「仁風林」には、喜び組のような女性の接待係もおり、怪しい事件の舞台ともなったのです。

覚せい剤で逮捕されたミュージシャンのASKAもこの仁風林の常連だったことが知られています。

それどころかASKAの逮捕現場にいて一緒に逮捕された栩内香澄美という女性は、パソナの元社員で、仁風林の接待役だったのです。

この辺の事情は、週刊誌等でかなり暴かれているのでご存じの方も多いでしょう。

しかもパソナの仁風林には、与党だけじゃなく野党の大物議員も多数招かれていたというから始末に負えません。

このようにパソナとは、叩かずとも埃がたつような企業なのです。

 

*パソナのビジネスモデルは「天下り→利権獲得」

これほど怪しい企業であるのに、パソナは国の重要な事業を受注し続けました。

パソナが受注したのは、持続化給付金などサービスデザイン推進協議会関係の事業ばかりではありません。

たとえば、第一次安倍内閣の時代に「国家公務員人材バンク」という事業が行われました。

これは国家公務員の天下りをなくすという名目で、国家公務員の再就職を政府が一元的に管理するという事業でした。そして求職、あっせんなどの業務は民間企業に委託されることになりました。

この業務をほぼ独占的に受注したのが、パソナなのです。

この「国家公務員人材バンク」はまったく成果を挙げられなかったのですぐに廃止になりましたが、その後もパソナは様々な国の事業を受注することになります。 

昨今では、パソナは自衛隊の福利厚生事業などを全面的に受注しています。

そしてパソナは自衛隊の幹部の天下りを大量に受け入れています。

非常にわかりやすい、天下り→利権獲得のビジネスモデルを持つ企業なのです。

 



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