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トヨタ決算で見えた中国躍進という大きな果実


コロナ禍でも中国は8.6%増の販売計画を保持

木皮 透庸 : 東洋経済 記者

2020年08月09日

*2019年の上海モーターショー。トヨタ幹部はTNGA((トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)による新型車投入をアピールした(記者撮影)

コロナ禍からの回復局面でトヨタ自動車の力強さが目立っている。

8月6日に発表した2020年4~6月期決算はグループの世界販売台数が約3割減少したものの、1588億円(前期比74%減)の最終黒字を確保した。

日本のメーカーで4~6月期に最終黒字を確保できたのはトヨタとスズキだけ経営再建中の日産自動車は2858億円の赤字に沈んだほか、ホンダは808億円の最終赤字と4~6月期では初の最終赤字となった。

欧米勢も厳しく、ドイツのフォルクスワーゲンは16億700万ユーロ(約2000億円)、アメリカのGMは7億5800万ドル(約800億円)の最終赤字に沈んだ。トヨタの世界販売(トヨタ・レクサスブランド)は4~6月期が前年同期比約31%減と、5月の決算会見で示していた販売見通しの約40%減よりも早いペースで回復している。6月単月では前年比16%減まで回復した。第1四半期に販売を下支えしたのは中国で、4~6月期の販売は48万2000台と前年同期に比べ約14%増となった。中国事業のうち合弁会社の利益(持ち分利益)は前年同期比30%増の412億円、中国にある連結子会社の営業利益は同57%増の558億円といずれも黒字維持に貢献した。


コロナでも中国の拡販目標を維持

そして今回の決算で、トヨタは2020年の中国の販売目標を176万台(前年比8.6%増)とするとした。実はこの176万台は、新型コロナウイルスが拡大する前の2020年の初めに掲げた数字と同じだ。

2月の決算会見でディディエ・ルロワ副社長(当時)は「新型肺炎という新しい問題が出てきて、そのインパクトは本当にわからない」と述べ、強い危機感を示していた。にもかかわらず、コロナの第一波を経ても当初目標を維持するところに、中国におけるトヨタの勢いが見て取れる。

コロナ禍以前からトヨタは新型車を積極的に投入してきた。2019年5月に新型「カローラ」と「レビン」、10月には新型「RAV4」、2020年2月にはRAV4の姉妹車の「ワイルドランダー」を発売している。

新型コロナの感染拡大で2月は工場が休止し、大部分の販売店が休業を余儀なくされたが、3月末には販売店がほぼ再開し、4月から販売は4カ月連続で前年を上回る。トヨタによると、地方でのモーターショーやオンラインイベントが顧客の来店につながっているという。

また、トヨタ幹部は「中国でコツコツやってきた成果が出ている。故障しないいい車と評価されており、リセールバリューが高いことが消費者に浸透してきた」と自信を示す。2019年は中国市場全体が8%減となる中、162万台(前年比9%増)を売り、日本の販売台数(161万台)を初めて上回った。トヨタの世界販売台数の約17%を占め、アメリカに次ぐ2位だ。トヨタは中国で快走を続ける見通しだが、イギリスの調査会社のLMCオートモーティブは中国の2020年の新車販売台数は前年比10.7%減の2276万台と予想する。

世界全体では前年比20%前後の落ち込みが予想される中、中国の傷が浅いのは、新型コロナの第一波の収束時期が早かっただけではない。中央政府による電気自動車など新エネルギー車に対する補助金政策の延長に加え、一部の地方政府によるナンバープレートの発給規制緩和など消費喚起策が取られているからだ。

入れ替わる日系メーカーの順位

こうした消費喚起策が追い風となり、トヨタとホンダの7月の販売台数は過去最高を記録。ホンダの倉石誠司副社長は「新型車の投入をテコに暦年では前年同等、年度では前年度を超える販売を目指したい」と話す。

一方、日産は2020年の中国販売は前年比4.6%減を見込む。中国市場全体から見れば健闘していると言えるが、新型車が少ないことや廉価帯の中国専用ブランド「ヴェヌーシア」の販売低迷が響いている。日産は近年、中国市場で伸び悩んでおり、2018年まで中国の日系メーカー首位だったが、2019年にはトヨタとホンダに抜かれて、3位にまで転落した。

トヨタの躍進について中国の自動車産業に詳しいみずほ銀行法人推進部の湯進(タンジン)・主任研究員は複数の要因を挙げる。

1つは前述した新型車の積極投入だ。

2つ目が中国でのハイブリッド車(HV)人気の高まりだ。湯氏は、「トヨタは中国のHV市場で75%のシェアを持つ。伸び盛りのHV市場で品ぞろえが一番豊富なだけに、他社に比べて競争力が高い」と話す。 中国のHV市場は2019年で約35万台とまだ小さいが、中国政府は2021年からHVを「低燃費車」と位置付けて優遇する政策を導入する予定で、HVに強みのあるトヨタには追い風となる。

3つ目が競合他社からの顧客獲得。米中摩擦の影響でアメリカのGMやフォードは台数を減らしているほか、フランスのグループPSAは販売不振から中国の長安汽車との合弁解消を決めるなど、「他ブランドを購入しようとしていた人たちの受け皿になっている」(湯氏)と分析する。

湯氏によれば中国の現在の乗用車販売は半分が車を初めて買う人による「ファーストカー」需要、残りの半分が車をすでに保有している人の買い替えによるものだという。

コロナ禍でファーストカーを買おうとしていた人の収入が減り、そこをメイン顧客にする地場系の乗用車販売は大苦戦。2020年1~6月の販売は前年を3割近く割り込んでいる。一方、トヨタなどの日本車は中間層以上が主に買い替えを目的に購入するため、ブランド力が物を言う。トヨタは廉価帯をほとんど手がけておらず、高級車のレクサスの販売が好調だ。さらにHVという優位性も手伝い、逆風下でも販売拡大を実現できているといえる。

トヨタは今回、2021年3月期の連結販売台数目標を20万台上積みして720万台(前期比約20%減)とした。連結販売台数には好調な中国の販売台数が含まれないが、欧州や米国、日本など中国以外の地域でも当初の想定を上回るペースで回復しているからだ。

一方で通期の営業利益予想5000億円(前期比79%減)は据え置いた。夏以降、台数が順調に回復すれば業績が上振れる可能性は高い。

着実に進んだ損益分岐台数の低下

もっとも、4~6月期決算で最終黒字を確保できたことについて、トヨタ幹部は「損益分岐台数(収支が均衡する販売台数)を下げてきた結果が出た」と強調する。リーマンショック後の2009年3月期にトヨタの連結販売台数は756万台(前期比15%減)となり、営業利益は4610億円の大赤字に転落した(2008年3月期は2兆2703億円)。収益構造が当時と一緒ならば、2021年3月期も巨額の営業赤字に転落しかねないが、10年以上かけて取り組んできた体質強化で営業利益で5000億円の黒字確保を見込む。

部品メーカーと一体となった原価低減の効果は毎年2000~3000億円規模に及び、「リーマンショック時に比べ200万台以上、損益分岐台数を下げることができた」(豊田章男社長)。ただ、「まだまだ無駄な工程は減らせる」(トヨタ幹部)と生産効率化の手は緩めない考えだ。  

トヨタグループ2019年の世界シェアは11.7%でフォルクスワーゲングループに次ぐ2位。世界2位のアメリカ市場で14%のシェアを持つ一方、最大の中国市場では6.3%と見劣りする。 コロナ禍でも自動運転や電動化など次世代技術の開発競争は止まることはない。成長投資を継続するためにも「稼ぐ力」は不可欠だ。コロナ禍を跳ね返し、中国市場で一段とシェアを高められるのか。176万台(前年比8.6%増)という今年の販売目標達成は、トヨタにとって重要な意味を持つ。 

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