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第一三共、アストラゼネカと提携深化の可否


がん治療薬を強化、開発のスピードアップも

石阪 友貴 : 東洋経済 記者

2020年08月01日

第一三共はイギリスの製薬大手アストラゼネカと提携した(記者撮影)

国内製薬大手の第一三共は7月27日、同社が開発を進めるがん治療薬候補「DS-1062」の開発と販売で、イギリスの製薬大手アストラゼネカと提携することを発表した。

第一三共がアストラゼネカから最大60億ドル(約6300億円)を受け取る大型の契約だ。まずは契約一時金で10億ドル。さらに開発の進捗に応じて10億ドルを受け取り、製品が発売された後、一定の売上高を達成するごとに最大で40億ドルを受け取る内容だ。


* 時価総額は製薬2位に

第一三共にとってこの提携の意義は大きい。

1つは、契約金の60億ドルとは別に、今後の開発費を両社で折半できることだ。

DS-1062はまだ開発の初期段階にある。開発が進むほどに開発費は膨らむが、その負担を軽減できる。

加えて発売後には、複数の大型がん治療薬を海外で展開しているアストラゼネカの営業網を活用して海外販売できる。

提携発表翌日、第一三共の株価は10%急騰し、時価総額は6兆7000億円を超えた。

それまで6兆円前後で競っていた武田薬品工業を引き離し、製薬業界では2位に躍り出た(トップは中外製薬の約8兆円)。

 

 

第一三共とアストラゼネカは2019年3月、がん治療薬「エンハーツ」で提携を結んでいる。

今回提携に至ったDS-1062と同じ技術を活用して開発された薬剤で、提携のスキームもエンハーツとほぼ同じだ。 

エンハーツは当局への申請前のタイミングでの提携だったのに対し、今回はそれより早い臨床試験の初期段階で提携にこぎ着けた。モルガン・スタンレーMUFG証券の村岡真一郎アナリストは「まだ第1フェーズにもかかわらず、薬剤候補としての質の高さがアストラゼネカから評価されたことは大きい」と語る。 

エンハーツは2020年1月にアメリカで、5月には日本で乳がん治療薬として発売された

臨床試験の段階から成績が良好だったことから、発売初年度となる2021年3月期から285億円の売上高を見込むなど、初速は好調だ。売上高1000億円超えが大型薬の目安である業界にあって、2025年には売上高が6000億円を超えるともいわれており、大きな期待がかかっている。 

今回提携に至ったDS-1062も、エンハーツと同じく「抗体薬物複合体ADC)」と呼ばれるタイプのがん治療薬だ。

従来型の抗がん剤とセットで搭載されている抗体が、がん細胞そのものに結合することによって、がん細胞をピンポイントで攻撃することができる 

ADCは従来型の抗がん剤よりも副作用が少ないうえ、高い治療効果が期待されている。

大型薬化の可能性について問われた第一三共の眞鍋淳CEOは、「DS-1062にもエンハーツと同様の期待をしている」と話した。

 

* がん治療薬のトップメーカー目指す

がん治療薬市場は最も競争の激しい領域だ。生活習慣病などの治療薬は開発され尽くしたといわれているが、がん領域はまだ多くの治療ニーズが残っている。薬価も高額で、高い収益性が見込めるため、世界の大手製薬企業が開発を競っている。

第一三共は、2025年までに「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」への転換を目指している。

国内では売上高トップだが、海外展開は武田薬品などに見劣りし、がん領域での存在感も薄かった。 

海外展開やがん領域強化の足がかり役を担うのがエンハーツであり、同じ技術を活用して開発を進めるDS-1062なのだ。

眞鍋CEOは「当初は自社開発・販売を考えていたが、内外の環境変化によって(アストラゼネカとの)提携を選択した」と説明した。 

外部環境の変化とは、4月にアメリカの製薬企業・イミュノメディクス社が同じADCのがん治療薬を発売したことだ。

がん種の違いはあるとはいえ、ADCの競争は激しくなっており、第一三共としては提携によって開発スピードを上げる必要があった。

 また、眞鍋CEOは「ほかの薬剤候補が充実してきた」とも述べた。第一三共の薬剤候補は開発の初期段階が多いが、契約一時金で得られる多額のキャッシュや開発費の折半で浮いた費用を使い、こうした候補品の開発を進めたいという事情もある。

 ただし、医薬品アナリストの間では、第一三共とアストラゼネカとの提携強化について、懸念の声も聞かれる。

提携発表の電話会議では「アストラゼネカとの関係が深くなりすぎているのでは」との質問が出た。

大型化が期待される2つのがん治療薬でともにアストラゼネカとの提携を選んだことで、将来的に第一三共は収益の大部分をアストラゼネカ1社に依存することになりかねない。

 とはいえ、今回の提携は第一三共にとってポジティブであることに変わりはない。

まだ初期段階にあるDS-1062の開発を成功させ、提携によってできた余裕で、続くほかの候補をどれだけ育てられるかが問われている。

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