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投資で外貨を持つことがほとんど無意味な理由


多くの人が誤解している「シンプルな事実」

大江 英樹 : 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表 

2020年07月28日

「日本経済は将来危ない。だから外貨を持つべき」などと言われるが、筆者はあまり意味がないという

 最近は、「外貨建て」での資産運用を勧められる機会が少なくないように思います。 

「人口減の日本経済や円は厳しい」などの理由がつけられるようですが、ごくシンプルな外貨預金から始まって、外貨建ての個人年金保険や、新興国の高金利の海外債券といった商品が盛んに宣伝されています。


第1章 お金を増やすために知っておくべき7つのこと

第2章 貯める
第3章 増やす1   株式投資編
第4章 増やす2   投資信託編
第5章 増やす3   その他
第6章 備える
第7章 使う



 *「外貨を持つこと」と「外国資産を持つこと」は違う

結論から言えば、これらに投資をするのはほとんど意味がないと言ってもいいと思います。

外貨建て資産で投資してもいいのは一部の外国株式や海外不動産ぐらいのものでしょう。

私自身、海外不動産はほとんど知識もないし投資経験もないので保有していませんが、外国株式はいくつか持っています。

多くの人は、どうやら「外貨を持つこと」と「外国資産を持つこと」の意味を混同しているような気がします。

私は外国資産を持つことの意味はあると思いますが、外貨を持つことについての意味はそれほどあると思えません

ところが、冒頭でも触れたように、一般的によく言われるのが、「今後の日本の経済情勢を考えた場合、日本円だけしか持っていないというのは、大きなリスク」ということです。でも本当にそうでしょうか?

考えてみてください。いくらドルやユーロを持っていても、それを日本国内で使うことはほとんどできません。

日常生活においては日本円を使っているのですから、いくら外貨をたくさん持っていてもそれを円に換えなければ使うことはできないからです。

したがって、年に何度も海外旅行に出かけるとか、海外に家族や親族がいて送金することがたびたびあるとか、あるいは海外に移住する計画を持っているということであれば外貨は必要でしょうが、そうでなければ外貨を保有し続けることには、あまり意味はないのです。

ところが、中にはこう言う人もいるでしょう。

「だけどかつて1ドル=70円や80円という円高の頃にドルを買っておけば儲かったのではないか? だから意味がないことはないでしょう」と。もちろんそれはそのとおりです。でもそれは、はっきり言って“たまたま”儲かっただけではないでしょうか。

外国為替取引というのは、「通貨同士の交換比率の変動に賭ける行為」が主体ですから、投資というよりもむしろ投機に近いものです。したがって、安定的に資産を増やすやり方としてはあまりいい方法とは言えません。

それに、日本が将来大変なインフレになって通貨の価値が下がると言いますが、仮に、例えば、日本が現在のベネズエラのようになったとしても、たっぷりとドルを持って海外に移住するなどということが簡単にできるでしょうか。

日本経済が破滅的になるのであれば、恐らく海外に行くことすらできなくなるかもしれません。

したがって、単に通貨としてドルやユーロを持っているだけでは、ほとんど意味はないのです。

だからと言って、外国資産に投資したり保有したりすることには意味がないわけではありません。

とくに株式に関して言えば、国内株式のみに投資をするほうがむしろリスクであって、広くグローバルに分散投資をすることが必要だと思います。

例えば日本の株式だけ見ていると1990年代以降、全体としてはなおバブル崩壊の後遺症が残っていますが、同じ期間のアメリカや中国の株式市場はその間、何倍にもなっています。

また、海外には日本にはないようなタイプの成長企業がたくさんあります。

とくにIT分野などでは「プラットフォーム」を構築している企業や電子商取引などではわが国に比べてはるかに進んでおり、かつ業績が好調である魅力的な企業もあるのです。こういうものに投資しない手はありません。

一方で海外の株式投資については情報を集めたり投資判断をしたりするのが難しいのもまた事実です。

したがって、自分で銘柄を選ぶのが面倒であれば、海外のETF(上場投資信託)などを購入するという方法もあります。

また今後世界のどの地域や国が発展するのかを正確に予測するのは困難ですから、世界中の市場の時価総額やGDPなどの経済規模に合わせた資産配分でインデックス運用を行う投資信託でもいいでしょう。

今の時代なら1万円や千円といった少額からでも、そういうグローバルに分散投資できる投資信託を購入することができるからです。

 

* 高金利の外国債券は高インフレと「隣り合わせ」

ただ、外国資産であれば何でもいいのかというと決してそうではありません。

保有していることで、それ自体が毎年確実に新たなお金を生み出す株式や不動産であれば、投資する対象先を間違わない限り、リターンはある程度得られるでしょうし、それらに投資する投資信託も同様です。

しかしながら、「高金利の外国債券」などはあまり意味がないと思います。

なぜなら金利が高いということはその国の物価が上昇傾向にあるということでもあり、もし長期にわたってインフレ率が高いようなら、その通貨の購買力は低下します。為替レートは長期的には2国間の通貨の購買力によって決まると言われています。

したがって、長い期間で見れば金利の差というものは通貨の変動によって調整されることが多く、見かけ上高金利だと思っていても結局は為替差損で日本の金利とほとんど変わらないか、場合によってはマイナスになる可能性もあるからです。

事実、今までもこうした海外高金利債券に投資はしたものの、大幅な通貨安で調整され、結局は円換算では大きなマイナスになってしまった例はたくさんあります。

このように、外貨を持つことと外国資産を持つことを混同しないようにすることが大切です。

為替の変動があっても、それを上回る利益成長が見込めるような外国資産であれば、投資をする価値があるといっていいでしょう。

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