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頭のいい人が「図を使って考える」3つの理由

AI時代に差が出る「抽象化思考」とは何か

平井 孝志 : 筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授 

2020年07月20日


図で考えると考えが整理されて、いいアイデアが思い浮かぶのはなぜでしょうか? (写真:tkc-taka/PIXTA)

優秀なプロジェクトリーダーやコンサルタントが、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を、ホワイトボード上で図を描いて整理し、鮮やかな解決策を導き出していく。

ビジネスパーソンなら、こうした光景に一度は遭遇したことがあるはずだ。

なぜ頭のいい人は、図を描いて考えるのか。

外資系の事業会社やコンサルティングファームを経て、いまはビジネススクールで教鞭をとり、『武器としての図で考える習慣:「抽象化思考」のレッスン』を上梓した筆者が、なぜ図で考えると考えが整理されて、いいアイデアが思い浮かぶのかを解説する。


 *考える武器としての「図」

誰でも、せっかく何かを「考える」のであれば、よりすばらしいアイデアを出したり、より効果的な問題解決策を導き出したいと思うはずですよね。

本質的な解に、できれば短時間でたどり着きたい。そのために、「よく考えよう」「深く考えよう」とするはずです。

でも「よく考える」「深く考える」とは、具体的にどうすればいいのでしょうか。

この問いに答えることは、意外に難しいものです。

どうすれば「よく考える」「深く考える」ことができるのか。

そのヒントは、「よく考えている人」「深く考えている人」の習慣の共通点にあります。

私はコンサルティングファームで、たくさんの優秀なコンサルタントに接してきました。

また、若い頃にはアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)にMBA留学したこともあり、そこには私なんかより何倍も頭のいい人たちがたくさんいました。 

そして、私から見て「あの人はよく考えている」「思考がシャープだ」と思うような人、つまり、頭のいい人たちは、よくホワイトボードの前に立ち、「図」を描いていました。

そして、「図」を使って大事なことをうまく表現し、巧みに議論を整理しながら本質的な答えを導き出していました。

ホワイトボード全体を思考のキャンバスにしていたのです。

図で考えることは、ビジネスで大きな武器を手に入れることにもなります。

頭のいい人たち、仕事のできる人たちの多くが、図を使って考え、決断しているのです。

実際、何億、何十億円のビジネスジャッジが、図で整理された考えに基づいてなされた現場を、私は何度も見てきました。

ところで、なぜ図を使うと、より深く、正しく考えることができるのでしょうか。

 

①枝葉末節がそぎ落とされ本質がクリアになる

まずは情報の渦に溺れることがなくなります。図を描くのはホワイトボードの範囲内、あるいは紙1枚の中です。

しかも、文章も基本使わないので情報量はかなり限られます。

実は情報が多すぎると、思考の低下を引き起こすものです。情報を整理するだけで手いっぱいになるからです。

確かに最初のうちは、新しい情報を得るたびに問題の理解は深まっていくものです。

新たな情報が新しい視点を提供し、思考を刺激してくれるからです。

しかし、ある時点を境に情報量と思考量は反比例し始めます。

 

*航空写真では目的地にたどり着けない

図にすると本当に大事なものが見えてきます。枝葉末節が削られ、本当に大事なものだけが浮き彫りになるのです。

例えば、航空写真。確かに現実であり、正確ですよね。

でもそこから何かを読み取ることはとても難しいと言わざるをえません。情報量が多すぎるのです。

あなたが、あるお店に行きたいとき、その店の写った航空写真を渡されても困るはずです(笑)。

航空写真では、店への道順もわかりません。

グーグルの地図か、目印となる何かが書かれた案内図があって初めてそのお店にたどり着けます。

理由は明白。地図や案内図には、大事なことだけが書かれているからです。

だから、街の構造がすんなり頭に入ってきて、そのお店に行けるのです。

情報は多ければ多いほどよいというものではありません。

大切なことは、本当に大事なものだけがハッキリ見えている、ということなのです。

その点「図」は、大事なものをハッキリさせてくれます。

 

②ビッグ・ピクチャーを得られる

1枚の紙の上で考えることのもう1つのメリットは「鳥の目」になれること。

1枚の紙に大事なことを描こうとすると、おのずと視座が上がり、その紙1枚がヌケモレのない全体像、

つまりビッグ・ピクチャーになるからです。

ちゃんと考えるためには、今考えていることに対して影響を及ぼすすべての要素を、視野を広げて大きく

捉えることが重要です。

もし視野が狭いと、その視野の外にある何かが影響し、「しまった! 想定外だった……」ということにも

なりかねません。

「考える範囲」=「影響が及ぶ範囲」であるべきなのです。

ビッグ・ピクチャーを持てると、答えの精度は上がり、「しまった!」の数を減らせます。

 

③思考の「見える化」ができる

図を描くと、思考の「見える化」もできます。

思考の「見える化」は、思考のモレや矛盾、弱点を明らかにしてくれます。

大体の場合、頭で「わかった!」と思っても、その論理は「ゆるい」ことが多く、図にするとそのゆるさが白日のもとにさらされます。そして、えっ、これしか考えられてなかったのか……と自己嫌悪。

思った以上に論理はタイトでないことが多いものです 。

「見える化」のメリットはほかにもあります。それは記録として残せることです。

頭の中の記憶が消えても、図にしておくと、そこまで考えたことは消えません。

そうすると、いつでもその図を取り出し、続きから考え、思考のビルディングブロックを積み上げていくことができます。

その図が手元になくても、一旦、大事なことを図に「見える化」した分、イメージがハッキリするので、いつでもどこでも考え続けることができます。

 

*AIに勝つための抽象化思考

AI時代がやってくると、この「図で考える力」はますます重要になるはずです。

AIは、あるものの組み合わせを試すこと、つまり数え上げることは得意です。

しかし、ゼロから考えることは苦手です。

おそらくAIに、「紙1枚の上に、何を考えるべきかも含めて考えて、何か描いてみて」と言っても何も描けないでしょう。

しかし、人間にはそれができます。

図で考えることは、AIにはない人間特有の頭の使い方に関係しています。それは「ヒューリスティック」です。

ヒューリスティックとは、過去の経験や学んだことなどから、暗黙裡にポーンと正解に近い答えに飛ぶ能力です。

つまりここでは、図を描くことによってハッと気づく、に例えられます。

図を描くことは現実を抽象化することでもあります(すべてを描けませんから)。

図を使ってものごとを抽象化し、その抽象化されたイメージから構造や関係性を読み解く。

そこから解決のヒントにハッと気づく。このアプローチは人間にしかできません。

だから「図で考える力」は、これからの時代にますます求められる「人間ならではの力」のような気がするのです。

AIには「知識」ではかないません。なので、AIには「知恵」で勝つしかありません。

それゆえAI時代になっても、逆にAI時代になるからこそ、「図で考える力」を鍛えることは得策だと言えるでしょう。

 

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