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武漢型でも欧米型でもない。日本中に蔓延する新型コロナの正体


2020.07.17

連日多数の陽性者が報告され、次々とクラスターも発生している新型コロナウイルスによる感染症。

そんな現状を尻目に政権は、日程を早めてまで「Go To トラベルキャンペーン」を開始する姿勢を崩しません。

このような動きに対して批判的な論を展開するのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。

 

いま「東京型」コロナが全国に蔓延中

どうやら、東京を中心に再び猛威をふるっている新型コロナウィルスは、武漢型でも、欧米型でもなく、

東京型とでも呼べる遺伝子配列に変異し、全国に広がっているようだ。

東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授によると、RNAウィルスであるコロナウィルスは、

増殖するたびに、遺伝子配列を変異させ、人の免疫の仕組みから逃れて進化してきた。

ゲノタイプ(遺伝子型)を追ってみたら、武漢型、欧米型はいつの間にか日本では見られなくなっていた。

今や、日本で変異したウィルスのエピセンター(震源地)東京、大阪などの大都市がなっているという。

そんなさなか、安倍政権は、旅行代金の半額補助をうたって、「Go Toトラベル」の“前倒し大号令”を発した。

かつてない危機に瀕する観光業界を救おうという意図は痛いほどわかるのだが、いくら値段が安くなるといっても、

不安をかかえて旅行を楽しめるものだろうか。東京の旅行客がウイルスの運び屋にならないともかぎらない。

かたや小池都知事は「不要不急の他県への移動は控えていただきたい」と政府方針との違いをちらつかせるが、つまるところは「新しい日常」の名のもと、個々人の心がけに責任を押しつける。行政の役割はどうした、と言いたい。

要するに、政府も東京都も、いま優先してやるべきことをやっていない。

経済活動を安心して進めるには、なによりも検査、検査。まわりに感染者はほぼいないという安心感がとにかく必要だ。

とりわけ重要なのは無症状の感染者を見つけ、ホテル等に一定期間、こもってもらうこと。

たとえば武漢では、1,000万人近い市民全員のPCR検査を短期間で実施したが、東京でも、その気になればできるはずだ。

7月3日、日本記者クラブで講演した児玉教授は、「中国の990万人一斉調査のようなことをやるべきだ」と強調し、大学の研究機関を新型コロナウイルスの検査や研究に活用しようとしない国の姿勢に憤りの声をあげた。

「コロナ禍が起こったとき、文科省の指示によって東大をはじめ全部閉じてしまった。

われわれが研究を続けようとしたら、あらゆる妨害の渦です。閉じているんだから人を来させてはいけない。

外部の検体を入れてはいけない。日本の科学技術がこれだけ衰退しているのは空前絶後です。

本来、科学者はこういう危機の時、真っ先に立ち上がって道筋を考えるべきなのに

児玉龍彦教授といえば、2011年7月27日の衆議院厚生労働委員会で、「私は満身の怒りを表明します」と、福島第一原発事故の放射能汚染をめぐる国の対策を批判したことが思い出される。その正義感あふれる姿勢は今も健在だった。

 

厚労省は、感染研と地方の衛生研、保健所のネットワークばかりにこだわって門戸の狭いPCR検査を実施し、オールジャパンを結集して検査能力を飛躍的に拡充させる努力をしてこなかった。

一方、文科省クラスターを避けるため大学を閉鎖し、その結果、大学の研究所は宝の持ち腐れになった。

なにも、医学関係の研究機関まで巻き込むことはなかったのだ。

京都大iPS細胞研究所の山中伸弥教授がこう語っていたのを思い出す。

iPS研には新型コロナのPCR検査をできる機器が30台くらいある。

その機器を使って普段からPCRをしている研究員たちが何十人かいるが、自粛で多くの人が実験せずに在宅になっている。

大学の研究所などの力をうまく利用すればPCRの検査能力は2万をこえて、10万くらいいける可能性がある。

研究者として検査能力の向上に貢献したい」

研究者はコロナ対策に貢献したくてもできない状況が続いた。これは単に縦割り行政の弊害」ではすまされない

国家の損失そのものである。

児玉教授は言う。

「たとえば東大の先端研だけでもフルにやれば1日数千件いや数万件まで検査できるかもしれない。

山中先生のiPS細胞研究所も数万件くらい簡単にできるはず。東大全体なら1日10万件くらいは簡単です。技術者もいます。生物学的安全施設もあります。だけど病院以外、大学は閉じられてしまった。これがいちばん問題です

 

全国の大学のPCR検査可能な研究機関に、厚労省が協力を依頼すればすむことではないか。

加藤厚労相と萩生田文科相がそれをまだ話し合っていないとすれば、この内閣は機能不全に陥っていると言うほかない。

東京都の感染者数が急速に増えている現状について、安倍首相は7月9日の会見でこう語った。

「4月と比べれば、重症者は大きく減っており、感染者の多くは20代、30代で、医療提供体制はひっ迫した状況ではない。

政府としては自治体としっかりと連携しながら、検査体制の拡充、そして保健所の体制強化など、クラスター対策を一層強化してまいります」

無症状者、軽症者の比率が多いことを安心材料にしたいようだが、「Go Toキャンペーン」の怖さは、まさにその無症状感染者が、体内にウイルスを抱え込んでいるのを知らないまま各地を飛び回るところにある。

重症者を生まないためにも、検査の拡充による、無症状感染者の実態把握が必要なのだ。

児玉教授無症状感染者や軽症者の免疫を徹底的に調べることが重要だと指摘する。

どのように免疫が働いて、ウイルスを撃退しているのかがわかれば、治療法やワクチン開発のキーポイントになるからだ。

実は、児玉教授日本記者クラブで講演した理由は、東大先端研など6つの大学・研究機関による定量抗体検査の分析結果を発表するためだった。

抗体の有無だけではなく、抗体の量を測る精密な検査だ。

その結果わかったことの一つが、無症状感染者のなかに、抗体陰性のままの人が一定数いるという事実だ。

こういう人は、抗体以外の免疫によって、ウイルスを撃退したということになる。

 

もっと詳しく言うなら、上気道の粘膜で自然免疫や細胞性免疫しっかり働いたため、肺にまでウイルスが至らず

抗体液性免疫を産生しないですんでいると考えられるのだ。

 

  参考>  *自然免疫

生体防御の最前線に位置し、侵入してきた病原体をいち早く感知し排除する仕組み。

主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といった食細胞が活躍している。

  *細胞性免疫

ヘルパーT細胞が抗原を認識して産生したサイトカインによって、マクロファージ、細胞傷害性T細胞(CTL)などの

細胞が活性化され、病原体に感染した細胞を攻撃・排除する。

  *液性免疫

ヘルパーT細胞の産生するサイトカインにより、B細胞が刺激されると、大量の抗体を産生し、抗体は体液をめぐって

全身に広がる。

刺激されたB細胞の一部は、抗原の情報を記憶し、再感染のさいには、迅速に抗体を大量に産生することができる。

 

抗体には、病原体に結合し、食細胞による貪食を助けたり、感染力や毒性を失わせる能力(中和作用)がある。

 

免疫学の宮坂昌之・阪大免疫学フロンティア研究センター招へい教授も、新型コロナに関して「抗体は免疫機構の中でそんなに大きな役割を担っていないかもしれません」(7月2日朝日新聞デジタル)と指摘している。

そうなると、抗体保有率60%以上で流行が止まるという集団免疫論が成り立つかどうか、大いに疑問だ。

一方、重症化する人の多くが、サイトカインストームと呼ばれる免疫の暴走や、抗体依存性の憎悪に見舞われていることもわかっている。変異するコロナウイルスに免疫システムが欺かれている児玉教授は言う。

さて、東京の市中感染はかなり深刻なレベルになりつつある。

とりわけ問題なのは若者を中心とした無症状、軽症の感染者が多いことだろう。

無症状者にはほとんど感染性はないが、一部に感染力を持つ人がいて「突然、嵐のような蔓延が繰り返し起こる」(児玉教授)という。流行エリアで全数的な検査を行わなければならない理由はそこにある。

「Go Toキャンペーン」は予算総額 1兆6,794億円の巨大プロジェクトである。

実務にあたる業者への事務委託費は上限 3,095億2,651万円にものぼる見込みだ。

変わり身が早い新型コロナは思ったよりはるかに手ごわい。

秋から冬の第2波到来を想定していた政府としては、7月の感染拡大は計算外のことで、迷路にさまよいこんだ気分だろう。

8月にズレ込む見通しだった「Go Toトラベル」の開始日を、7月22日にあわてて前倒したのも、グズグズしているとさらに感染が広がってタイミングを逸する恐れが出てきたからに違いない。

予算を組んだら必ず実行するというのは役所の勝手な論理だ。不要になったら、やめればよい。

何度も言うが、こんなキャンペーンよりも、検査の徹底で「安心感」を社会全体にもたらすのが政府の仕事である。

「安心」があれば、放っておいても、経済活動は活発になり、人々は旅行に癒しや楽しみを求めるだろう。

そう考えれば、国の費用負担で1日数十万人レベルの検査に乗り出したほうが、

財政面でも得策ではないか。「Go Toキャンペーン」の 1兆6,794億円を投じたら、1人3万円かかるとして、5,500万人分の検査費用はまかなえるのだ。

 


新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ

高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化

2020年07月17日

国際医療福祉大学の高橋泰教授は、新型コロナの臨床に関わる論文から仮説を立て、公表データを使って「感染7段階モデル」を作成した。

新型コロナは、全国民の関心事ながら「木を見て森を見ず」の状態で全体像が見えてこない。

そこで、ファクト(事実)を基に、全体像が見通せ、かつ数値化できるモデルを作ろうと思った。それが「感染7段階モデル」だ。

新型コロナの感染ステージをStage0からStage6までの7段階に分けて、それぞれに至る確率やそれに関わる要因を見える化したものだ。

新型コロナウイルスは、初期から中盤までは、暴露力(体内に入り込む力)は強いが、伝染力と毒性は弱く、かかっても多くの場合は無症状か風邪の症状程度で終わるおとなしいウイルスである。しかし、1万~2.5万人に1人程度という非常に低い確率ではあるが、サイトカイン・ストームや血栓形成という状況を引き起こし、肺を中心に多臓器の重篤な障害により、高齢者を中心に罹患者を死に至らせてしまう。

このウイルスの性質の特徴は、自身が繁殖するために人体に発見されないように毒性が弱くなっていることだ。

したがって、一定量増殖しないと人体の側に対抗するための抗体ができない。そしてまれに宿主となる人体の免疫を狂わせ殺してしまうこともある。


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