おがわの音♪ 第1015版の配信★


ベトナムが日本の重要パートナーとなりうるワケ

 チャイナ・プラスワンで増す存在感

ベトナムは国民の平均年齢が31歳と若く、労働人口も多いことから、経済成長が期待されている国の1つです。

安価で豊富な労働力を背景に、輸出志向型製造業の生産拠点として外資企業の進出が活発で、今後は消費市場としても大いに期待されているほか、「チャイナ・プラスワン」の担い手としても期待されています。

一方で、ベトナムは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中の後発国とされ、第4次産業革命に伴って甚大な影響を受けることが予想されます。このベトナムの経済発展と第4次産業革命の取り組み、日本との連携の動きについて取り上げます。 


*ベトナムは2020年、ASEAN議長国の大任を預かる

 2020年は、ベトナムにとって非常に重要な年です。1995年に東南アジア諸国連合(ASEAN)7番目の加盟国となってから四半世紀となる節目の年であり、10年ぶり2度目のASEAN議長国を務めることになっています。

前回議長国を務めた2010年、ベトナムは多大な成果を残しました。

東アジア首脳会議への米国とロシアの正式参加を決定し現在の18カ国体制を確立したほか、日本などASEAN域外8カ国を招いて初のASEAN拡大国防相会議も主催したのです。

 2020年のASEANにおいて注目すべきは、同連合が提案・推進している東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉です。

RCEPは日本を含む6カ国を含めた計16カ国でのFTAを進める構想で、今年こそ合意が必達とされています。

 なお、ベトナムは、2020年4月8~9日にダナンで開く予定だった首脳会議を6月末へ延期すると各国に通知しまし

た。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延を踏まえた異例の対応です。COVID-19の影響で今回の議長国の務めはより一層重いものになり、自国の産業発展にも大きな影響を受けることが予想されます。

 

*ベトナムの経済成長の背景には「ドイモイ政策」

 2019年12月、ベトナム統計総局は2019年の実質GDP成長率を前年比7.0% と発表しました。

過去10年間で最も高い成長率を記録した前年の7.1%に続き、7%台の高成長を維持しており、政府の目標値6.6~6.8%を上回っています。

ベトナム税関総局の発表によると、2019年のベトナムの輸出額は約2,642億ドル(前年比8.4%増)、輸入額は約2,531億ドル(6.8%増)。そして貿易収支は約111億ドルと、4年連続の黒字になるとともに過去最高の黒字幅を記録しています。

また、2018年の海外直接投資(FDI : Foreign Direct Investment)は前年比9.1%増の191億ドルであり、6年連続で過去最高額を更新しました。

 近年のベトナム経済成長の発端となったのは、1980年代から始まった「ドイモイ政策」です。

ドイモイ」とは、直訳すれば「新しい物に換える」という意味で、日本語では「刷新」と訳されています。

 1986年のベトナム共産党第6回党大会で、当時の支援国だったソ連・東欧諸国からの援助額の削減や国際連合からの制裁を背景に、主に経済・社会思想面においてそれまでの社会主義から新方向への転換を目指すスローガンとして制定されました。

具体的政策としては、企業の自主的裁量権の拡大、農家請負制の導入、海外資本の投資受け入れなどの経済開放政策のほか、政治面では共産党内民主化の推進、外交面では全方位外交政策などがとられるようになりました。

 1990年代後半のアジア通貨危機の際は通貨の流出制限で直接的な被害を回避し、2009年のリーマンショックによる世界的な不況でもその被害は最小限にとどまっています。ベトナムでは現在でもドイモイ政策が継続されています。

 

*TPPと「チャイナ・プラスワン」の恩恵を受けるベトナム

 2019年度の国際協力銀行のアンケート調査によれば、ベトナムは「中期的有望事業展開先国」として中国、インドに次ぐ

第3位にランクインしており、前年より順位を上げています 

中期的な有望事業展開先国・地域(今後3年程度)

(出典:国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告 -2019年度海外直接投資アンケート調査結果(第31回)-」

 この背景には、ベトナムがその安価豊富な労働力により、輸出志向型工業の生産拠点として外資系製造業の誘致を進めてきたことがあります。 

 2018年にベトナムは環太平洋経済連携協定(TPPにも加入しました。

世界銀行が2015年に公表したレポートでは、米国を含む12カ国でのTPP発効によるベトナムの国内総生産(GDP)の押し上げ効果は2030年までに10%と試算され、加盟国で最大の恩恵を受けるとされています。 

 ベトナムの労働者の賃金が低く、関税コストの低下で特に労働集約的アパレル産業などで輸出に追い風が吹くことがその理由です。

TPPから米国が抜けたものの、最も恩恵を受ける国の1つであることに変わりはないと思われます。 

  また、タイなどと同様にベトナムでは、人件費の上昇が続く中国から周辺国に新たな製造拠点を求める「チャイナ・プラスワン」の動きが活発になっています。米中貿易摩擦の長期化の兆しも、企業のリスク分散の観点からその流れをさらに後押しする可能性があります。


 *産業高度化に遅れ、人件費も高騰で変化が求められる

 一方で、ベトナムはASEANの中の後発国として産業高度化の遅れ課題とされています。

国営企業の民営化が遅れており、その経済発展の成否を握るのは国外企業です。

その国外企業を誘引するベトナムの労働力に目を向けると、非熟練労働者を多く抱えており、さらに安価と言われていた人件費も昨今の「チャイナ・プラスワン」により高騰しています。 

 人件費の高騰の影響を避けるため、第4次産業革命の技術を用いたスマートファクトリー化の取り組みも徐々に進みつつあります。特に中心産業であるアパレル産業を中心に、AIやロボットの導入による生産自動化、効率化が進むことが予想されます 

 今後10~20年のうちに、ベトナムの7割もの雇用が生産自動化によって失われる可能性が高いとのレポートもあります。

今後、産業高度化に対応した人材の高度化、生産性向上、成長産業への労働者のシフトなどが必要となると思われます。

 

*今後の産業高度化のカギとなるIT産業

 このようなベトナムの経済・雇用環境変化の中で、重要な分野と位置付けられるのが IT産業です。

ベトナムは国家の強化すべき産業の1つとしてIT産業の育成方針を打ち出しています。

ベトナムのIT産業は、ベトナム戦争時の難民が米国のシリコンバレーでIT技術者として技術を習得し、ベトナム本国で起業したことが契機と言われています。インターネット利用が始まった1990年代後半にIT産業が立ち上がり、2000年代に入ってソフトウェアが輸出されるようになりました。

 ベトナム人は日本人同様、勤勉と言われています。

IT分野の技術者には、次々に生み出される技術を習得したり他分野の知識を習得したりすることが求められます。

日常的に向学心を持ってスキルアップに励むベトナムのエンジニアは、低コストで高品質のシステムを開発するにあたり人気を集めているのです。

 また、ベトナムでは優秀な学生がIT分野への就職を希望することが多く、国内の優秀な頭脳がIT分野へ結集しているという事情もあります。ベトナムでは、コンピュータサイエンスや情報技術系の学部が大変人気であり、エンジニアの大半はこれらの理系学部を卒業しています。

 たとえば2019年には、ハノイ科学技術大学が、少数精鋭の学生のみが入学できるようなAI学校を新たに開設しており、こういった技術者がベトナムの第4次産業革命を支えていくことが期待されます。

 また、民間部門による高度人材の育成プログラムがいくつか立ち上がっています。

ベトナムのIT大手であるFPTソフトウェアは、自社が運営する大学で専門知識を学ばせ、自前でIT人材を育成しています。

FPTソフトウェアの最大顧客は日本企業で、そのため日本語教育も推進しています。

 また、ドイツのシーメンスなどとも提携し、研修プログラムの構築にも取り組んでいます。

国外企業では、トヨタ自動車やサムスン電子が職業訓練プログラムを提供し、ITをはじめとする専門知識の習得支援を行い、優秀な現地学生の囲い込みをはかっています。

 

*発展するベトナムは日本の重要なパートナーの1つに

 今回のCOVID-19の影響により、中国を中心に製造業のグローバルサプライチェーンが分断され、部品がそろわないため最終製品が製造できないという事態が発生しました。

最終製品を製造できなくなれば、部品メーカー全体の供給を止めなければならなくなり、サプライチェーン全体に大きな影響を及ぼすことになります。

 このような中、2019年ごろから顕著になった「チャイナ・プラスワン」の動きがさらに広がっており、その恩恵を最も受けると思われるのがベトナムです。

 日本は、2009年にベトナムとのEPA(経済連携協定)を締結し、ベトナムの輸出入先として存在感を示しています。

2017年にはベトナムへの直接投資額が首位となるなど、投資国としても存在感を高めています。

 ベトナム政府も日本の投資を歓迎しており、日本の技術力の移転を通じて国内産業の高度化をはかりたいと考えています。

ベトナムは日本のODA(政府開発援助)の最大の受け入れ国であり、アジアでは最も親日度の高い国のひとつです。

今後は日本による開発援助をいかに地方に行き渡らせるかが、ベトナムの未来を左右するとも言われています。

 ベトナムは、日本と共に第4次産業革命を進める計画も明らかにしています。

ベトナム情報通信省と日本の総務省は、サイバーセキュリティ、電波監視、郵便、IT人材の育成などの分野で協力を進めることで合意しています。ベトナムが今、最も力を注いでいるIT分野では、多くのベトナム企業が日本企業からアウトソーシング業務を受託し、売り上げを伸ばしています。 

 日本にとってベトナムは、急成長を遂げるアジア市場のダイナミズムを取り入れる上でも欠かせない国になっていくのではないでしょうか。 




メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。