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「全社一斉リモートワーク」1カ月で見えた極意


クラウド会計「freee」佐々木大輔CEOが語る
中川 雅博 : 東洋経済 記者
2020年04月15日
政府は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言を発令、不要不急の外出自粛が強く要請されている。
その結果、多くの企業はリモートワーク(在宅勤務)の必要性に迫られている。在宅でも会社と同じように仕事を進められるのか。セキュリティをどう確保するのか。また、自宅のネット環境はリモートワークを進めるうえで十分なのか、など課題は山積みだ。
そんな中、3月2日からいち早く全社員を在宅勤務としたのが、2019年末に東証マザーズ市場に上場したクラウド会計ソフトを手がけるfreee(フリー)だ。同社では社員500人以上が一気にリモートワークに移行1カ月が経過した。
同社の佐々木大輔CEOに、リモートワークに移行して蓄積したノウハウや、見えてきた課題を聞いた。

リモート移行の障害をどう乗り越えたか

――全社でリモートワークに移行するまでにどのような検討を進めたのですか。
もともとは BCP事業継続計画)として、例えば地震で本社ビルが倒壊するとか、水没するなどしてオフィスが使えなくても、自社のサービスを継続できる体制を考えていた。
リモートワークは一部で導入していたが、(会社としては)チームワークでイノベーションを生み出していくことを重視し、
一体感を大事にしていたので、基本的には会社に来て仕事をしていた。
ただ新型コロナの感染拡大を受けて、1月から(本格的な)リモートワークの検討を始めた。
ウイルス感染の懸念の強い人が家族にいる社員など、まずは一部で始めた。
2月の学校休校要請のタイミングで、会社として人の接触を減らすことに協力すべきと考えた。
当初は原則在宅と言っていたが、3月2日から本社全体を閉鎖し、出社は許可制としたので、これは「出社禁止だと後から気づいた。
検討を進めて感じたのが、今回の事態はBCPで想定していたものとは大きく異なるということ。
災害時は需要も細り、ビジネスもフル稼働ではない。
一方でこの2月、3月はfreeeのユーザーの多くを占める個人事業主の確定申告のまっただ中。
リモート体制でサービスを継続していくことは非常に重要だった。

リモートに移行する上での障害は何だったのですか。
まず調査を始めたのが、全員がリモートになったときにVPN仮想専用線、社員のみがアクセス可能なネットワーク)などの
セキュリティの収容能力があるのかということ。
社員だけでなく、業務委託などの人たちも含めて耐えられるのかどうか。
これは別の用途に使われていた機材を活用することで、特段投資を増やさずに対応できた。
そもそも自宅にインターネット環境がない人もいる。家にパソコン用のモニターがないと生産性が下がるという懸念もあった。そこでモニターヘッドセット、ポケットWi-Fiのレンタル費用を会社で負担することにした。
当社に派遣をお願いしている会社との契約も、勤務地を変えるのが難しく最初は苦労した。
ただ今は世の中全体が動いているので、むしろ派遣会社が派遣先に勤務地変更の交渉をするようになっていようだ。
契約書の押印はいまだに課題になっている。社内稟議は電子化されているので問題ない
社外との契約も電子契約ツールを導入しているが、電子化できているのは先方から同意をもらったときのみだ。
契約先が押印がないと契約として認めないというルールになっていると成立しない。
そのため、週に1回、押印日を設けて、担当者が出社せざるを得ない状況だ。
一部にはメールなどで同意していれば、契約のための押印は後日で構わないという企業も出てきている。
緊急事態だからこそそうした動きが広がってほしい。

意外とわからないビデオ会議のコツ

――もともと業務上行っていた取り組みで強みとなったことは?

離島でリモートワークしている社員がいて、リモートワーク自体をスキルとして持っていた(https://developers.freee.co.jp/entry/remote-work-simple-guide)。
全社でリモートワークに移行した際も彼が中心になり、ビデオ会議で心得ておくことなどを社内外に共有した。
例えば、PCのマイクとスピーカーではなくヘッドセットを使う声だけだと集中できなかったり聞こえなかったりするので
ビデオ会議ツールの画面共有機能で資料を映すいつもよりリアクションを大きく取る、といったことだ。
また、従来からペーパーレスを進めていた。
会議資料はオンラインで共有する。取引先からもらった紙の資料は電子化し、今後はメールで送ってくださいとお願いするなど、紙を受け渡ししない運用になっていた。
営業活動も、画面共有機能を使って実際に営業先に訪問しない方法を進めてきた
客先から「在宅での営業が上手ですね」「マイクは何を使っているんですか」と聞かれることも増えた。
ビデオ会議だと対面よりもついつい事務的になりがちで、相手の集中も切れやすい。
アイスブレイクの雑談を入れたり、一方通行のプレゼンテーションにならないよう、説明していることを資料で示したり、理解しているか確認を取りながら進めている。

――リモート環境下で、社内のチームワークをどのようにとっているのですか。
確かにリモートワークは信頼関係をすり減らしていく面もある。
いつも以上にチームビルディング(チーム内の信頼関係構築)を意識してやらないと社員は不安になる。
そのため、各チームで必ず定期的に雑談だけをするビデオ会議を設けることをルールにしている。
こうしないと、どうしても用件だけを話してしまいがちだ。
会社にいればエレベーターや廊下などでちょこっとした会話をしている。それをリモート環境でも担保する。
チームによっては常にビデオ会議でつながっているというところもある。

朝会」「夕会」で情報共有

定期的に社内のイベントスペースで、全社員を集めた「全社ミーティング」を実施していた。
全員が在宅になったからこそ継続が大事だと思い、コンテンツを充実させるよう指示を出した。
グーグルのビデオ会議システム「Hangouts Meet(ハングアウト・ミート)」やフェイスブックの社内SNS用サービス「Workplace(ワークプレース)」を活用し、担当社員が自宅でテレビ番組のように映像を編集してコンテンツを発信できるようにした。
任意の場所に複数名の顔をリアルタイムに表示させたり、映像にスライドを重ね合わせたりなど、クリエイティビティの高い映像が可能になった。
全社ミーティングではもともとヒーローインタビューのような形で活躍した社員に話を聞いたり、プロジェクトのドキュメンタリー動画を作ったりしていた。これをオンライン用に「ハック」(巧みに解決)するのもfreeeの文化だと思っている。

社員同士が同じ空間にいないと、業務管理上の課題はありませんか。
これも、リモートになったことでチームごとに「朝会」をやるようにしている。
雑談をしたり、昨日これをしました、今日何をします、今こういうことで困っていますということを共有している。
チームによっては業務終わりに「夕会」もやっている。
営業面では「Salesforce(セールスフォース)」をもともと使っているので、すべてクラウド上で管理できている
エンジニアもビジネスチャットの「Slackスラック)」で進捗を連絡し合っている。
もともと何でも共有することが当たり前という文化があることも大きい。属人的ではいけない。
全社レベルでいえば、この月、この四半期で達成したいこと、それに対する進捗を月次でスプレッドシートで共有している。


リアルオフィスへの出社は“カルチャー”次第

――リモートワークがもっと進むと、オフィスはいらないのではないですか。
業種によっては物理的に対面しないとできないこともある。マッサージのようなサービスや工事現場、工場などだ。
ただ、ほとんどすべての仕事は理論的にはリモートが可能だ。
あとは文化の問題になる。
チームとしての一体感を大事にするのであれば、オフィスで来て一緒にやろう、そのほうが楽しいよね、という考えもある。
一方で独立性やプロフェッショナリズムの高い組織であれば、全員リモートということもありうる。
業務自体はリモートで回るはずなので、「カルチャーとしてのリアル出社という世界観が生まれるかもしれない。
また、採用面でのリモート活用もある。優秀なエンジニアだが、東京では働きたくないという人もいる
リモートを許可することで採用できる対象が広がる。
「コロナ後の世界」が語られ始めているが、BCPとしてリモートを可能にしておくことは重要だ。
どんな災害にも共通している。
今回は地震が起きた場合よりも影響が広範囲で、今後の働き方を変えるきっかけになっていくだろう。


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