コロナ禍ものともせず!儲かる半導体関連業界
テレワークやゲーム需要が回り回って恩恵
高橋 玲央 : 東洋経済 記者
2020年07月02日
半導体製造装置業界は実は密かに恩恵を受けている(写真:マイクロン・テクノロジー)
新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、世界経済の減速が続く中、実は勢いを維持しているのが半導体製造装置業界である。
2019年度に業界を悩ませたメモリ市況低迷が一段落し、主要各社は増収増益見込みだ。
米中貿易摩擦など不確定材料への不安は残るものの、2018年度に記録した過去最高益に迫る企業も多い。
「年前半は顧客の投資がすでに見えているため確度は高い。
後半も、前半からの遅延の反動とICT(情報通信技術)向けの半導体需要の増加から、顧客の投資に大きな影響はないと見ている」。
半導体製造装置で国内最大手の東京エレクトロンは6月18日、これまで「未定」としてきた今2021年3月期の業績予想を発表した。説明会での河合利樹社長の発言は自信に満ちており、売上高は過去最高の1兆2800億円を見込む。
牽引役になっているのはDRAMやNANDフラッシュといったメモリ投資の回復だ。
パソコンやスマートフォンに大量に使用されるこれらの半導体は、定期的に好不況のサイクルを繰り返す市況品。2018年に空前の活況に沸いたメモリ市況は、2019年に激しく落ち込み、韓国のサムスン電子やSKハイニックスなどの大手各社が投資を絞らざるをえなくなった。東芝から切り離され、早期の上場を目指しているキオクシア(旧東芝メモリ)も2019年4~12月期は赤字に落ち込み、40%の株を持つ東芝の前2020年3月期の業績を下押しした。
*過去最高売上高を見込む東京エレクトロン
確かにメモリ企業の不調は東京エレクトロンなどの半導体製造装置メーカーを直撃した。
半導体製造装置の売上高のうち約7割を占めていたメモリ向けが半減。
5G (第5世代移動通信システム) の本格開始を前にロジック向けが伸長して下支えしたが、最大顧客の投資減速が痛手となって、前期は大幅減収減益に終わった。
こうした傾向はアドバンテストやディスコといった他社に関しても同様だ。
両社とも新型コロナによる景気先行きが不透明だとし、今期の業績予想は発表していないが、前期比では増収増益となりそうだ。アドバンテストの吉田芳明社長は「最高売上高を狙う年にしたいと考えていたが、当面は外部環境の変化に機動的に対応することを最優先課題にする」と控えめな発言。が、足元での減速の兆候はあまり見られず、あくまで下押し不安にとどまっているのが現状だ。
中長期の先行きとなると、見通しはさらに楽観的である。
5Gをはじめとする情報通信技術の発展に加え、テレワークの進展によって、半導体の需要はさらに増加すると考えられるからだ。実際に世界中でやりとりされるデータ量は増えており、動画配信サイト「YouTube」が画質を抑えるなどの対応を取った。ソニーもゲームのダウンロード速度が遅くなるとの注意喚起をしたほどだった。
こうした問題を解決するためには、データセンターの増設などのインフラ整備が必要になる。
そこにはメモリが大量に使われるため、それらを作る半導体製造装置メーカーも潤うという図式なのである。
さらに消費者向けのビジネスでも一層のIT化が進むのではないかという期待が大きい。
たとえば飲食店での注文でスマホを使ったり、配送などで遠隔ロボットを使ったりすれば、半導体需要に直結する。
テレワーク拡大に伴うパソコン需要の拡大も現に起こっている。
こうした生活様式の変化がコロナ収束後も続くと見る向きは強い。
ディスコの関家一馬社長は「一度便利なものを体験してしまえば、一気に広がっていく」と期待を示す。
半導体を作るには基板となるシリコンウエハの形成からチップの切り出しまで400~600もの膨大な工程がある。
それらに対応する装置を、複数の企業が役割分担していることから、各社のシェアが高いのが特徴だ。
たとえばディスコはチップの切断装置でシェア7割超を誇る。事実上、世界中の半導体メーカーが顧客になるため、半導体市場の勢力図の変遷にかかわらず安定した経営ができることが特徴だ。
これは半導体製造装置にとどまらない。材料であるシリコンウエハや半導体レジストも同様だ。
シリコンウエハを提供する信越化学工業やSUMCOにも追い風が吹く。
半導体レジストの場合、最先端プロセスであるEUV(極端紫外線)露光向け製品が2019年、日韓関係の悪化で輸出できなくなると心配された。これに対抗し韓国が自国企業による生産に乗り出す動きも見られたが、各製品・装置に応じた微妙なすり合わせが必要な最先端品を代替するのは容易でなく、日本勢は他社の追い上げを許していない。
*自動車向けが厳しいルネサスは減産へ
むろんすべてがバラ色なわけではない。懸念材料は米中貿易摩擦だ。
アメリカ政府は中国のファーウェイに対する締め付けを強めており、ファーウェイの主要取引先である台湾TSMCに対して、取引しないように求めている。
この問題が長引けば、半導体業界全体への影響は必至で、製造装置や材料のメーカーにも悪影響を与える可能性がある。
今年11月にはアメリカ大統領選があり、焦ったトランプ大統領によって、その前に「どんなことが起きてもおかしくない」との警戒感も広がる。
また、半導体製造装置・材料とは裏腹に、激しい競争にさらされているのが半導体そのものを作るメーカーだ。
特に、自動車向けに「走る・止まる・曲がる」といった基本的な挙動を制御する半導体で強みを持つルネサスエレクトロニクスは、自動車業界の急失速のあおりを受けている。
「オートモーティブは非常に見通しがしづらい。4~6月期を底に上がっていくとは受け止められず、底を這っていくか、場合によってはちょっと弱含む」。ルネサスの柴田英利社長は5月29日、投資家向けの説明会でそう発言した。
同社にとって車載用は売上高の約半数を占める主力製品。電動化や先進運転支援システム (ADAS) は半導体の搭載数増が期待されるものの、足元では「そもそも自動車の台数自体が減っているのだから販売増など望めない」(ルネサスの取引業者幹部)状態だ。同じく車載比率の高いロームなども同様に今期は苦しい業績となりそう。
苦境を受けてルネサスは工場の一時停止を含めた生産調整に踏み切る予定。
これは在庫管理に失敗、調整のために生産を止めた2019年に続いて、2年連続になる。
ルネサスは特定市場の波による影響を軽減するための施策で、2017年と2019年には、あわせて1兆円もの巨費をかけた大型買収で事業を拡大させた。
データセンター向けの製品が多いこれらの事業は、比較的堅調に推移しており、改革の取り組みが功を奏したといえる。
ただ自動車産業を含めた競争環境は決して楽観できない。
強固な関係を築いていた日系自動車メーカーも、最近ではルネサス以外からの調達を増やしている。
一方で攻勢に回るはずの欧米の自動車メーカー向けも、他社の地盤を崩せないでいる。
ルネサスの車載用マイコンのシェアは低下を続けており、巨額の研究開発費用が必要な半導体業界の中で競争力を維持していけるのか、正念場が続く。
実のところ、目下、日本で勢いのある半導体メーカーはソニーである。
そのソニーも、スマホのカメラ向けCMOS(相補性酸化膜半導体)イメージセンサーで過半のシェアを握るが、スマホ端末の販売がコロナの影響もあって陰っている。
スマホカメラは年々高度化が進み、多眼化や大判化を背景に搭載されるイメージセンサーも増えているが、2019年投入の新製品が2年目を迎え単価が下がっている最中。伸び続けてきたソニーの半導体事業は今期足踏みするとみられる。
*時価総額数兆円の大型銘柄が誕生?
そして今期、最も注目される日本の半導体メーカーといえば、キオクシアだろう。
キオクシアはNAND型フラッシュメモリの専業メーカーである。
前期はメモリ価格の下落によって通期で1731億円もの巨額の営業赤字を計上した。
だが市況反転を背景に、業績は急速に持ち直している。赤字の前期も最終の2020年1~3月期は121億円とわずかながら営業黒字を達成。今期もこれまで順調に業績を伸ばしているもよう。
そうすると気になるのは株式上場の行方だ。
キオクシアは、前身の東芝メモリの発足当初(2018年6月)、「3年以内の上場を目指す」としていた。
順調にいけば、今期中に上場の手続きが進むはずであり、そのためのお膳立てが進みつつある。
大株主の東芝も今年6月、株の上場時には、保有するキオクシア株を売却する方針を発表した。
上場すれば、時価総額で数兆円にもなる大型銘柄となり、その行方には注目が集まらざるをえない。
コロナ禍で世界経済が縮む中、半導体関連業界の好調は突出している。
総悲観にとらわれることなく、株式市場は「勝ち組」を冷静に選別しているようだ。
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