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トランプ再選にとどめ刺せなかったボルトン暴露本


「何をいまさら」「カネ儲けか」と米国民は冷ややか

2020.6.19(金)

高濱 賛

*「再選のため大豆、小麦を買ってくれ」

 6月23日に発売予定だったジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)のドナルド・トランプ政権暴露本の内容が17日、事前に漏れた*1(https://www.wsj.com/articles/john-bolton-the-scandal-of-trumps-china-policy-11592419564)

(https://www.nytimes.com/2020/06/17/us/politics/bolton-book-trump-impeached.html)

 ボルトン氏は、本の中で、トランプ大統領が中国の習近平国家主席に2020年秋の大統領選で再選できるように援護してくれるように要請していた新事実を明らかにした。

 具体的には米国の農民が生産する大豆や小麦をもっと買ってくれというものだ。農民票は再選には極めて重要だと習近平氏に切々と説いていた。

*1=司法省は「公表されれば安全保障を脅かす機密情報が含まれている」として出版差し止めを求めて6月16日、提訴。

出版社とボルトン氏側は提訴の寸前、保守派のウォールストリート・ジャーナルとリベラル派ニューヨーク・タイムズ両紙に本の抜粋を提供したのだ。(https://www.latimes.com/politics/story/2020-06-17/federal-prosecutors-are-mulling-criminal-charges-against-john-bolton)

 トランプ氏が習近平主席に頼み込んだ時期は、2019年6月20日。

 場所は日本国内の大阪のホテル。主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)の会場、インテックス大阪(大阪国際見本市会場)だった。

 ボルトン氏はこの会談に同席していた。その模様を生々しく記している。

「習近平主席は、トランプ大統領に向かってこう切り出した。『米国内には中国との新たな冷戦を始めようとする政治家たちがいる』」

「トランプ氏は即座に習近平氏が民主党の連中を指していると感じ取った」

「トランプ氏は習近平氏の発言に同意するかのように、民主党の中には中国に対して戦闘意識を抱いている者がいると応じた」

「そしてトランプ氏は、話題を2020年の大統領選に変えて、中国の経済力が2020年の米大統領選にいかに影響を及ぼすかをほのめかしながら、自分が選挙で勝つことを確かなものにできるように援護してほしいと述べた」

「トランプ氏は(大統領選に勝つには)農民票が極めて重要だ。もし中国が米国産の大豆や小麦をもっと買ってくれれば、自分の選挙には大いに助かると強調した」

(これに対して習近平主席が何と答えたかについての記述はない。また、その見返りにトランプ氏が習近平氏に何をするかについての記述もない)

 当時の報道によると、トランプ氏は新たに準備した3000億ドル分の追加関税「第4弾」の発動や中国通信大手「ファーウェイ」への輸出制限の緩和などをカードに知的財産権侵害などのアジェンダで習近平主席に譲歩を迫ったとされる。

 これに対して習近平主席は、鉱物資源レアアースの輸出管理強化を交渉材料にすべての追加関税の取り消しを求めたとされる。

 だが、ボルトン氏によれば、差しの会談ではトランプ氏は終始一貫、再選のことしか頭になく、米国憲法違反の疑いを持たれるような外国首脳への選挙応援を習近平氏にまで働きかけていたのだ。

 その手法は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に政敵ジョー・バイデン前副大統領の息子のウクライナでの経済活動について捜査するよう要請した一件とあまりにも似通った話ではある。

 

*日本といえば「真珠湾」のトランプ氏

 ボルトン本について6月18日夜のCNNなどは大々的に報じている。

だがこれがトランプ氏の再選の可能性にとどめを刺したかと断定するには至っていない。

 新型コロナウイルス禍への対応をはじめ白人警官による黒人男性殺害事件を発端に燃え上がった「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命も大切だ)抗議デモや警察改革などでももたつきが目立つ。

 支持率でもジョー・バイデン前副大統領に大きく水をあけられている。

 こうしたもろもろのネガティブ要因でトランプ再選にはすでに赤信号が点滅し始めている。

 そこにボルトン爆弾が炸裂した。

ネガティブ要因がまた一つ増えたには違いないのだが、ボルトン爆弾一発で再選が吹っ飛んだというわけではなさそうだ。

 ボルトン本に出てくるのは、むろんトランプ氏と習近平氏とのやりとりだけではない。日本に関する記述もある。

 2018年、フロリダ州のトランプ氏の別荘、マー・ア・ラゴで行われた日米首脳会談の時のことのようだ。

「少人数での会合の冒頭、両国の政府高官が日米同盟や貿易について非公式なやりとりをしていた時のことだ。すでにトランプ氏は着席していた」

「米高官の一人が日本ほど重要な同盟国は西太平洋にはないと大統領に話かけるや、トランプ氏は苛立ちを露わにし、旧日本軍による真珠湾攻撃の話をし出した」

「遅れて安倍晋三首相がやって来るや、トランプ氏は話すのをやめた」

 安倍首相との親密な関係を謳歌するかのように振舞ってきたトランプ氏だが、日本といえば直ちに「真珠湾奇襲」を連想する思考回路はそう簡単には治りそうにない。一生変わらないのではないだろうか。

 ボルトン氏が明かすトランプ大統領の言動は以下のようなものだった。

一、トランプ氏は米中間の懸案となっていた通信機器大手「ファーウェイ」(華為)をめぐる安全保障上の重要性については

軽視していた。ただ「ファーウェイ」問題を米中貿易交渉での一つの取引材料として考えていたに過ぎない。

一、トランプ氏は習近平氏に面と向かって「あなたは300年の歴史の中で最も偉大な中国指導者だ」と褒めた。

トランプ氏は権威主義的な指導者が好きだった。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がお気に入りの一人だった。

一、トランプ氏は香港の民主化運動中国政府のウイグル族抑圧政策などについては「関わりたくない」と側近に言っていた。

「米国にも人権問題はある」というのがその理由だった。

一、トランプ氏は米中、米台関係については「これは中国」「これは台湾」と使い分ければ問題はないという考えだった。

まさに「抜け目のない詐欺師」(Sharpies)だった。

 

一、トランプ氏が在任中に下す決定のうち、大統領選での再選と無関係な事案を探すのは極めて難しい。

一、トランプ氏の外交的無知さには驚かざる得なかった。トランプ氏は英国が核武装国だとは知らなかったし、

フィンランドはロシアの一部だと信じていた。

一、大阪での米中首脳会談ではウイグル族問題が出たが、習近平氏が反政府的動きをするウイグル族を収容する施設を

建設中であることを説明した。これに対しトランプ氏は「収容所建設は続けるべきだ。あなたのやっていることは正しい」

と指摘した、2017年の訪中の際にも同趣旨の発言をしていたことと大統領側近から聞いている。

 

*証言を避けたボルトンは愛国者にあらず

 米メディア、世論の反応は複雑だ。

よくぞ思い切って内幕を暴露したとボルトン氏を評価する向きもあれば、カネ儲け目当て(印税は300万ドルと言われている)の「いかさま右翼」と手厳しい批判をする向きもある。

 いずれにしても「証文の出し遅れ」に世間の目は厳しい。

「トランプ氏は再選のためには国益も何も考えない。外交でも国家安全保障よりも自分の私利私欲を優先している」

 ボルトン氏が声を荒げても、米国民の大半はそれほど驚いてはいない。

 トランプ氏はそういう大統領だと先刻承知なのだ。それを批判することすらあきらめ気味になっている。

 トランプ氏が公私の分別がつかないことも、米国憲法の精神などについて全く頓着していないことも、耳にタコができるほど聞かされてきたからだ。

 暴露本ということで、ボルトン氏は本の中でトランプ氏の無知無能ぶりに開いた口が塞がらないことをそれとなく書いている。

 だが、トランプ氏が正常でないことはこれまで、側で仕えてきたレックス・テラーソン元国務長官、ジョン・ケリー元首席補佐官、元顧問弁護士のジョン・ダウド氏が異口同音に言っていることは、これまでに出た内幕本に出ている。

 元政府高官たちは「どうしようもない軽愚者」(Fucking moron)、「酷い嘘つき」(Fucking liar)、「まぬけ」(Idiot)と言いたい放題だった。

 この点についても米国民の大半は聞き飽きている。

トランプ大統領が自らを「非常に安定した天才」(A Very Stable Genius)と自画自賛しているのをせせら笑っている。

 自分の国の政治情勢を踏み台にしてまで自分の再選を考え、再選のためならたとえ相手が独裁政権であろうと、取引(ディール)しようとするトランプ氏。

 そうした政治に対しては米国は一度、罰そうとした。米議会でのロシアゲート疑惑、ウクライナゲート疑惑追及だった。

 民主党は下院は弾劾にまで追い込み、共和党が多数を占める上院で挫折した。

 その民主党がボルトン氏が明かした新たな中国疑惑を材料にことを構えるのか――。

 党内にはボルトン氏を議会に呼んで証言を求めるべきだとの声も出ているが、どうも勢いがない。

大統領選(そして上下両院議員選)を5か月後に控え、各議員ともそれどころではないというのが実情だ。

 下院情報委員会の委員長としてトランプ氏を弾劾にまで追い込んだアダム・シェフ下院議員(民主、カリフォルリア州選出)はボルトン氏について一言。

「ボルトン氏は立派な作家かもしれないが、愛国者ではない

 同委員会がさんざんボルトン氏を証人として召喚したが、トランプ大統領の「拒否権」の前にボルトン証言は実現しなかった。(同氏は上院での証言は受諾したが、共和党が証言をブロックした)

 シェフ氏としては、「何をいまさら」といった心境だろう。

 一方、共和党はどうか。議会における「最強のトランプ弁護人」と言われているジム・ジョーダン下院議員(オハイオ州選出)はボルトン氏についてこう批判した。

「あの男は元々腹に一物ある人物。常に自分の利己的な目的を抱いてきた」

 トランプ氏再選委員会の顧問を務めるジェイソン・ミラー氏はボルトン氏を一刀両断にした。

「ボルトン氏は本をできるだけ多く売ることしか考えていない。外交に精通した保守派の重鎮とか言われているが、国家安全保障よりも本を売ることにしか興味がないようだ」

 

*7月のメアリー・トランプ暴露本に要注意

 トランプ・習近平関係について北京の米大使館に勤務したこともある元外交官のD氏は、筆者がコメントを求めると、こうメールしてきた。

「トランプのクールエイド(飲料水)を飲まない者(トランプ氏はクールエイドを愛飲している。そこからトランプ氏を骨の髄まで支持するハードコアではない米国民を指す)は一切関心を示さないと思う」

「ここに出てくる新事実とやらも米国民の大半は知っているからだ」

「一つだけ言えることはトランプという人物は言っていることとやっていることが一致しないこと。ついさっきまで言っていたことを180度転換しても平気だということ」

「日本の安倍晋三首相はトランプ氏に最も近い指導者とされているらしいが、ボルトン本を読んでトランプがどんな男が少し学んだ方がいいと思う。もっとも、こんなことは百も承知で面従腹背に徹しているのかもしれないが・・・」

「いずれにせよ、トランプ氏とボルトン氏には共通項がある。2人とも自分が誰よりも頭が良くて、強くて、断固とした決定ができると錯覚していることだ」

 ボルトン本が再選に与える影響力について数人の識者に聞いてみた。

 答えは「あまりない」だった。

「すでにトランプ再選が危ぶまれているネガティブ要因がありすぎる。今頃出たボルトン本にそれほどインパクトがあるとは思えない」というのがその理由だ。

 大学で政治学を教えるB氏はさらに続けてこう答えてくれた。

「ボルトン本よりももっとインパクトがあるのは、7月に出るトランプ大統領の姪っ子、メアリー・トランプさんの暴露本ではないか」


ボルトン氏のトランプ暴露本でバレた安倍首相の「体たらく外交」

2020.06.29

 

アメリカの前大統領補佐官ボルトン氏によるトランプ大統領の「暴露本」が23日に発売され、早くも話題となっています。

発売前にもかかわらず株価が左右されるなど、大きな影響が出たと指摘したコンサルタントの今市太郎さん。

ボルトン氏の本がトランプ大統領の暴露本であると同時に、なぜか安倍首相の「体たらく外交」の暴露本でもあるという見方を解説しています。



*ボルトン氏の暴露本でわかる、安倍首相の驚くべき低レベル外交の真実

ボルトン前大統領補佐官の暴露本がとうとう予定通りに発売となりました。

事前のトランプ政権の差し止め請求からどんなに凄い内容なのかと思って、さっそくアマゾンで購入して電子書籍で読み始めているのですが、内容はたしかにトランプがいかに大統領の器から程遠い存在で、倫理観などみじんも持ち合わせていないということを延々とボルトンの視点で、事実ベースでありながらもボルトン流のきつい味付けで書かれたものであるということなのでしょう。

ボルトン氏はイエール大学法学部の首席卒業で、スフィンクスのある国の大学を首席卒業したとかいう真偽不明のどこかの都市の都知事とはくらべものにならないぐらい頭脳明晰であり、しかも異常なメモ魔でも知られていますから、まったくもって捏造された内容であると考えるのはかなり無理がありそうです。

しかしこの本、我々日本人が読み進めていきますと、異常とも思えるほど安倍晋三首相に関する記述が多いことに改めて驚かされます。完全に勘定したわけではありませんが、正の字をつけて読み進めていくと簡単に100件以上安倍総理のことが記されており、たった1年半程度のボルトンの在任期間から考えれば、驚くほとトランプ・安倍の接点が多かったことに驚かされます。ただその内容の多くは決して安倍首相の卓越した外交能力を示したものではなく、あえて誤解を恐れずに言えば、太鼓持ちのような体たらくなものが一貫していることに気づかされます。

見方によってはこの本はトランプよりも、むしろ安倍首相の体たらく外交の暴露本なのではないかとさえ思われるものがあるわけです。

 

*どうして「外交の安倍」と言われるのか不思議なほどのレベルの低さ

この本に登場する安倍首相の行状をかたっぱしから逐語訳してご紹介することはさすがにできませんが、全部読み終えてはいないもののざっと目を通しますと、外交の安倍などと言われた愁傷の外交実態が詳らかになっており、ボルトンも安倍氏がトランプともっとも個人的な関係を築いていると一応の評価はしているものの、トランプ~安倍の決して対等なものではなく、ほぼ太鼓持ちのような発言でトランプのご機嫌を損じないように最大限の配慮をしてきたことがよくわかります。

とにかく反論や口答えされるのが大嫌いなトランプのことですから、あらかじめなんでも差し出し一切口答えしない安倍首相の存在がお気に入りなのは間違いないようですが、それはこの本を読む限りまったく対等なレベルではなく、あたかも属国の朝貢外交を露わにしてしまっています。

 

*安倍首相が息巻いた「イラン訪問」の裏側

この本の中でまず目についたのが、2019年トランプは安倍首相に緊張感の続くイランとの橋渡しを依頼したという話しです。

これはボルトンも後になってから知ったことだと書いていますが、恐らくトランプの依頼ということで、外務省の官僚を総動員して調整を務めたのでしょう。

同年の5月27日東京で行われた日米首脳会談で、安倍首相は正式に6月イラン訪問を告げたそうですが、ボルトンによれば当のトランプはうたた寝中でろくにその話を聴いていなかったとのことです。

5月に国賓として訪日する前に安倍首相と会ったボルトンはそのタイミングで、安倍首相がトランプの頼みでイランに行くことにした、自分には役に立てる見込みがあると聞かされたそうですが、当時は失敗するのが目に見えている役割をトランプが安倍首相に押し付けたのは明白に見えたものの、これは酷いアイデアであると安倍首相に口にすることはできなかったと振り返っています。

イラン訪問の結果は皆さまご存知の通りで、41年ぶりの日本の首相の訪問という触れ込みでしたが、最高指導者のハメネイ師はトランプは意見交換するにふさわしい相手ではないと頭から突っぱねる発言をし、ちょうどその会談の最中にイラン沖で日本などの海運会社が運航するタンカーが攻撃される始末で、この首脳会談は完璧な形で失敗に終わります、トランプの依頼でどうみてもガキの使いにしかならないイラン訪問を実現させた安倍首相は、帰国後さっそくトランプとの電話会談を実施しましたが、トランプ自身はすでに自分が依頼したことさえすっかり忘れ、協力には感謝するが個人的には日本に米国の農産物をもっと買ってもらう方が重要だと返答して、一か月もたたないうちにその興味はイランよりも自分の大統領選挙の再選に有利に働く材料に移っていたといいます。

ボルトンは、トランプはとにかく個人的利益と国家の利益というものの違いが全く判らないと酷評していますが、まさにこのエピソードはその所以ともいえるものだと言えそうです。

 

*なんでも言うことを聞いてしまう典型的な抱きつき外交の所産

安倍首相の対米外交姿勢は本当に今のままで大丈夫なのか?  どうも私が危惧したことはほぼ事実のようで、この本を読み進めれば進むほどそのやり方の稚拙でろくでもない、いわゆる抱きつき外交である点が呆れる状況です。


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