ルルレモン、「商品を売らない」異色の成長戦略


カナダ発「衣料品ブランド」が六本木に旗艦店

真城 愛弓 : 東洋経済 記者

2020年06月23日

 東京都港区にある六本木ヒルズ1階に6月10日、新たなアパレル店舗がオープンした。

高機能なヨガウェアなどを扱う、カナダ・バンクーバー発の衣料品ブランド「lululemon(ルルレモン)」だ。

 

六本木ヒルズ店はルルレモンがアジアに展開する店舗の中で最大の売り場面積を誇る(写真:ルルレモン・アスレティカ日本法人)

六本木店は買い物客やオフィスワーカーが行き交う大通り沿いに位置し、アジアで最大規模の売り場面積を誇る旗艦店となる。 

 

運営するルルレモン・アスレティカは1998年に創業。現在は北米を中心に世界で約490店舗を展開する。

日本には2016年に再上陸して以降、東京と大阪に直営店を出店。六本木店は国内9店舗目となる。



時価総額はギャップの約10倍に

2層構造の店内は、1階がレギンスパンツやTシャツが並ぶ売り場スペース。2階は、ヨガレッスンなどが行える多目的スタジオと同社の日本法人のオフィスを併設する。

「男性向けも含めて多くのカテゴリの商品を並べられ、スタジオも設置できる大きな場所(店舗)を探していた。

店舗起点でのコミュニティ作りを進め、日本でより多くの顧客とつながっていきたい」。

ルルレモン・アスレティカのアジア・太平洋地域を担当する、シニアバイスプレジデントのケン・リー氏は、六本木店出店の狙いをそう語る。

 

主力商品はレギンスパンツ。
写真のメンズのパンツは通勤着としても利用できる(写真:ルルレモン・アスレティカ日本法人)

ルルレモンは日本国内ではまだ広く知られていないが、アメリカとカナダではヨガやランニングなどのスポーツ用だけでなく普段着としても愛用され、認知度が非常に高いブランドだ。

価格帯は主力のレギンスパンツで1万円台半ばと安くないが、着心地の良さや機能性の高さが特徴で、大半の商品には吸汗性と縦横に伸びるストレッチ性が備わっている。ここ数年は海外展開やEC(ネット通販)にも注力し、業績は好調だ。

ルルレモン・アスレティカの2020年1月期の売上高は前期比21%増の39.7億ドル(約4260億円)、営業利益は同25.9%増の8.8億ドル(約951億円)と2ケタの増収増益を記録した。

株式市場の評価も高まっている。アメリカ・ナスダック市場に上場するルルレモン・アスレティカの株価は2019年末時点で1年前のおよそ2倍をつけ、時価総額は約4兆円に拡大している

新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月の株価は急落したが、その後は急速に回復。5月下旬~6月上旬にかけては最高値を更新し、時価総額はアメリカの衣料品大手・ギャップの約10倍に達する。

国内の小売関係者も「ルルレモンは独自のブランディングで他社と差別化できていて学ぶことが多い」(アパレル大手幹部)と一目を置く。

日本には2006年にデサントと合弁会社を立ち上げ進出したが、わずか2年で撤退。

その後ルルレモン・アスレティカの単独出資で日本法人を設立し、2016年に再上陸を果たした。一度撤退した経緯について、リー氏は次のように振り返る。

 


 

 

重視するのは「コトの体験」

「ルルレモンで重視するのは、モノを売るより(店舗で)コトを体験してもらう点。

自分たちが運営する店で顧客と直に接し、顧客からのフィードバックを次の商品作りに生かすことは、JV(共同企業体)だとなかなか自由に出来なかったため、仕切り直しをした」

この体験ができる店舗こそ、他のブランドにないルルレモンの最大の特徴だ。

ルルレモンはどの店舗でも定期的にヨガレッスンやランニングなどのイベントを開催し、顧客と密接な関係を構築する。

ルルレモンは創業当初から店舗でヨガスタジオを運営し、地元の人が集う場所となっていた。

店舗はただ単にウェアを売る場ではなく、顧客の集まるコミュニティの場になっている。

イベントの開催頻度や内容は、新宿や原宿など店舗ごとに異なるが多くは無料で参加できる。

イベントの予定は、店内に掲示された「コミュニティボード」や同社の公式ホームページ上で確認できる。

売り場をイベント会場として利用できるよう、どの店舗も原則として床は段差のない仕様で、陳列棚などの什器もすべて可動式となっている。

日本法人のスチュアート・テューダー社長は、「(イベント開催の)目的は強固な人間関係を築き、ルルレモンとつながったコミュニティを作ること」と強調する。

接客方針も独特だ。社内では販売員のことをスタッフではなく、「エデュケーター(商品のことを教える人)」と呼ぶ。

「基本は商品を売ってはいけない」(リー氏)という方針の下、販売員は日常会話をしながら商品の特徴やおすすめの運動を教えたり、顧客から個別の商品に対する要望や意見を聞いたりすることを重視している。

試着室には、顧客とスタッフが立ち話できるスタンドが設置されている。

コミュニケーションが自然と生まれるようなサービスと売り場作りが徹底されているのだ。

 

営業利益率22%を支える顧客基盤

店舗ごとに顧客との強いつながりがあるため、ルルレモンでは顧客の来店頻度やリピート購買率が非常に高い。

営業利益率22%という小売り企業では突出した高収益を誇る背景には、こうした強固な顧客基盤と、値引き販売を最低限に抑える在庫管理の緻密さがある。

一部の主力商品を除いて多くの商品は小ロット生産が基本で、店舗には毎週1回新商品が入荷される。

新商品の投入枚数などを決めるに当たり、スタッフが日頃のやりとりの中で聞いた顧客からの声を積極的に反映させている。

「サイズやカラー別の商品数量を当てずっぽうで決めるのではなく、リアルな顧客の声や数字(顧客データ)を基に投入するとヒット率が高くなる。プロパー(定価販売)での消化率は他ブランドと比べて相当高い」(リー氏)。

コロナ禍で店舗でのイベントはほとんど中止となったが、代わりにオンライン上でのレッスンを開催した。

販売面でも、顧客のロイヤルティの高さを土台にECで一定の売り上げをカバーできる点が強みだ。

6月11日に発表された2020年2~4月期の業績は、実店舗の売り上げが前年同期比48%減と大幅に落ち込んだ一方、従来売り上げの3割程度を占めていたECが同67%伸びた。全社売上高は6.52億ドル(約697億円)と同17%減にとどまった。

地域に根を張って顧客とのコミュニティ形成を重視する戦略は、事前準備に相応の時間と苦労を伴う難しさもある。

新たに進出した地域ではすぐに出店拡大をせず、2~3年は顧客の反応を見ながら現地の需要に合った商品構成やイベントのあり方を吟味する。

日本でも再上陸した直後は小規模なショールームを設けて顧客の反応を探る日々だった。

「正直、最初は少し苦労した」とリー氏は打ち明ける。

イベント開催を呼びかけても、「入りづらさ」から初回は1人での参加を躊躇する傾向が海外の顧客より強かった。

そのため「友人と2人で参加してください」「お子さんを連れてきてください」などとアプローチを工夫して、複数人での参加を促すヨガレッスンも開催。大々的な広告は行わず、イベント参加者からの口コミで顧客層を広げていった。

 

日本は海外戦略の中心市場の1つ

品ぞろえの面ではスポーツ専用商品よりも、軽い運動や通勤など多用途で利用できる商品を中心に構成したという。

ルルレモンは中国や韓国、シンガポールにも店舗を展開するが、アジア最大の旗艦店を六本木に開業したのは、日本市場をとりわけ重視していることの表れでもある。日本ではユニクロを筆頭に、高機能をウリとする衣料品の市場は競争が激しい。

だが、ルルレモン・アスレティカの創業者は常々日本の接客サービスや商品の品質の高さを引き合いに出し、「日本で売れないなら世界に通用しない」と社内で語っていたという。

リー氏は「2019年に海外部門のビジネスを4倍に拡大する目標を出したが、日本は(海外強化の)中心となる市場の1つ」と力を込める。

 

 

大型路面店となるルルレモンの六本木ヒルズ店(記者撮影)

とはいえ、世界でも日本でも具体的な店舗数の目標はないようだ。

出店地域はやみくもに拡大せず、特に今後は実店舗とデジタルの垣根を越えて活動できるコミュニティの構築に注力する方針だ。当面は新型コロナの影響で実店舗への来店が減っても、オンラインレッスンなどデジタルも駆使しながら顧客とのつながりを深めていく。

 


「極端に言えば、ある地域では3店舗しかなくても多くの顧客とつながるだけつながれば(事業として成り立つ)、という側面はある。拡大戦略よりも集中戦略で、ブランドをしっかり、ゆっくりと理解していただきながら長く顧客とお付き合いしていきたい」(リー氏)。

大量出店や売り上げ重視の販売といった従来の小売り企業の正攻法とは真逆を貫くのがルルレモンの戦略だ。

アフターコロナの日本でも受け入れられるか、その挑戦の行方に大きな注目が集まっている。

 

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